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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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2日目の恋人



ピコン


九十九はメール着信音で目が覚めた。

寝ぼけたままベットから身を乗り出すようにし、机の上のケータイを取ってボンヤリとした頭で確認をする。


『おはよう。九十九。好きだよ。』


一気に目が覚めた。


(やめて……心臓に悪いから……)


まるで水を突然かけられたような衝撃が九十九に襲ってくる。寝起きには良くない心拍数だ。


(…このメールに何と返せばいいのか……)


そう悩んでいるとさらにポスンとメールが来た。


『九十九。バイトの前に少しだけ顔を見に行っていい?予約してないからダメ?』


九十九は少し悩み、時間を確認する。

9時だ。少し寝すぎたと感じベッドから体を起こし、山下へメールを返した。


『予約してないからダメ。』

『やっぱりダメか。じゃー仕事終わりに九十九に会いに行っていい?』

『ダメだよ!バイト終わるの夜の10時過ぎでしょ?』

『そうだけど。会いたいから。じゃー休憩中に会いに行っていい?』

『休憩はちゃんと休んで!』

『九十九、どれか選んで。じゃないと無理だから。会えないとか無理。今日中に絶対1回は会うから。これ、俺の中の決定事項だから。』


(いや、勝手に決定すな!)


彼は本当にわがままだと思う。九十九が怒ると、もうしない!と言って謝ってくるが、根本的なわがままで奔放な性格は変わらない。

でも「九十九に会いたい」と言ってくれる彼に嬉しい半分、恥ずかしい1/4、困る1/4でイコール照れ笑いだ。


「ふふ、可愛い。困る。」


九十九はデレデレした顔でメールの返信を返した。


『じゃー今回だけ特別に、バイト前ね。』

『やった!今から行くから!』


九十九はギョッとする。


『今から?ちょっと待って。準備しなきゃ!9時半!9時半に来て!』

『うん。わかった!9時半ね!』


そして九十九は慌てて準備に走るのだった。



9:30 ピンポーン


(ええ、ええ、そうでしょうね。多分9時半になった瞬間に来ると思ったよ。)


急いで身支度を整えた九十九は、短距離走を走った後のような呼吸をしていた。


「いらっしゃい。」


一応、念のためにドアスコープを確認し、山下のニコニコ顔が見えたので玄関ドアを開ける。

すると突然、山下から顔を両手で掴まれた。


「……!!」

「あー。九十九だ。会いたかった。可愛い。」


来てすぐ山下の18禁顔に九十九は全身を固まらせた。


「昨日は1日ありがとう。九十九を怒らせたのに夜に電話をくれてありがとう。すごい幸せな日だった。誕生日すごい。」

「ふふ、じゃー来年も楽しみにしててね。」

「………!!」


山下が目を丸くした後、顔を真っ赤にさせる。

少し泳いだ目が次第に伏せていく。

頬にあった両手がそのままゆっくりと九十九の背中に回ってフワリと抱きしめられた。


「…山下くん?」

「来年も…九十九といたい…」

「……山下くん?」


その声は惚気ているわけでも照れているわけでもなく懇願するような、祈るような声に聞こえた。

九十九は山下の声に不安になる。


「山下くん死ぬの?」

「……………え、」

「病院の先生に余命宣告されたとかなの?」

「え、いや、病院なんてずっと行ってないよ。」

「山下くんが生きてて私も生きてるんなら、あとは1年後の自分たち次第でしょ?来年も一緒にいたいなって気持ちを持ってれば一緒にいられるよね?」

「で、でももし九十九と大ゲンカして俺が九十九に嫌われたら?」


(なぜ私が嫌う前提なんだ。てか、なぜ誕生日にケンカする前提なんだ。)


山下を半目で睨むも、昨日は山下の誕生日なのに微妙に怒ってしまった手前、そう切り出せない。


「山下くんが本気で私と一緒いたくて、私も山下くんといたいって思ったんなら大丈夫でしょ?2人で謝り合うしかないよね?」

「つ、九十九が俺を許す気がなかったら?」


(あくまで私がブチ切れる設定は崩さない気だな。)


山下の発言に呆れるも、すぐ怒る自分が悪いのでそのことは頭の隅に置いて、山下の発言について考える。


「そのときは……………謝って。」

「謝ってもダメなときは?」

「私が怒ってる原因が100%山下くんのせいだったらひたすら謝って。山下くんが一緒にいたいと思うんだったら。」


まぁ100%彼が原因なんてそんなことはない。どこかで九十九の態度や判断がケンカの起因となっているはずだ。そう思い九十九は今までのケンカを思い出す。


(その時はしっかり私も反省して謝ります。)


九十九はそんな風に思っていたが、目の前にいる山下は少し考えてた後、決意したように頷いた。


「………うん。」



「あらあら。2人ともそんなところにいないで入ったら?」


恵美子の声に九十九は慌てる。

またもや山下と抱き合っているところを見られてしまったことに顔が真っ赤になる。


「あ、はーい。お邪魔します。」


逆に山下はケロリとした顔で返事をして九十九の手を繋いで家に入っていく。


(あれ?おかしいの私?恋人同士なら抱き合った姿とか手を繋いだ姿とか親に見られても大丈夫なの?え?誰かと付き合ったことないからわからない。え?)


九十九は混乱したままリビングに入り、ソファに座り山下からギューと抱きしめられながら考えていた。


「山下くん、紅茶がいい?コーヒーがいい?」

「あ、おかまいなく!」


その状態で平気で恵美子と会話している。

九十九は本気で首を傾げた。


「おいコラ、君は何をしている。」


洗車に出ていた則文が低い声を発しながら戻って来た。


「……………九十九に癒されてます。」

「人の娘で勝手に癒されるんじゃない!離れなさい!」


(だよね!だよね!この状況って普通じゃないよね!よかったー。ついニコニコと当たり前のように抱きついてくる山下くんとニコニコとそれを見守るお母さんに騙されるとこだったー!!)


自分の考えが普通だと安心して山下から少し離れると、彼が「……あ、」と悲しそうな声を出した。


「則文さんは出かけないんですか?」

「いや、追い出そうとするな。」


山下は少し不満そうな顔をして目をそらすも、こっそりと九十九の手を握る。


「全然、隠れてないぞ。手を繋ぐんじゃない。」

「何で則文さんがそんなこと決めるんですか?俺、今日も仕事なのに少しくらい癒されてもいいじゃないですか。俺と九十九の邪魔をしないで下さい。」

「君は何を言ってるんだ。」


山下のよくわからない主張に則文は呆れた。つい先日バイト先で見た彼とは雰囲気や言動が違い過ぎて混乱する。


「まぁまぁ、手ぐらい許してあげて。せっかくバイト前にりんちゃんに会いに来てくれたんだから。」


そういって2人の間に恵美子が飲み物とお菓子を持って来た。


「だよね。恵美子さん。」

「ふふ。ね、山下くん。」


ニコニコと笑い合う山下と恵美子を複雑な表情で九十九と則文は見つめるのだった。



「山下くん、お昼は何が食べたい?」

「…え、……いえ、お昼前に帰ります。」


恵美子の言葉に山下は驚き、慌てて言葉を続ける。


「あら。そんな寂しいこと言わないで。バイトはお昼からでしょ?少し早めだけど一緒に食べましょう。」

「や、……でも。」

「君は変なところを遠慮するんだな。ご飯くらい食べていきなさい。そしてそろそろ離れなさい。」

「嫌です。」

「そこは遠慮しなさい。」


安定しだした2人の会話に九十九は笑う。


「山下くん。バイト前に予定がないなら食べていって。」

「うん。…あの。すみません。お願いします。」


そうして彼は大量に作られた生姜焼きをペロリと3人前ほど食べた。

恵美子は満面の笑みを浮かべていた。



「もうダメ!もう行って!」

「大丈夫!走ったら5分で着くし、あと5分だけ!」

「ダメだから!10分前には到着して!」

「そんな早く着いてもオサムさんにイラッとするだけだから。あと5分だけ!」


11:45

玄関で押し問答をしている九十九と山下を呆れながら則文と恵美子は見ているのだった。





読んでいただきありがとうございます。


ここに来て2人が全く動かなくなりましたー!

2人が脳内で動いてくれないと書けないよ〜。と悶々とした1週間でした。笑


いや、ちゃんと考えて書けよ!と思ったでしょ。

私もそう思います!!

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