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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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0時までが誕生日。


『パーティちゃんと行ってる?』


九十九はメールを送った直後に後悔をした。


(わー。何でこんなメール送ったんだろう!もうすでに彼女気取りかよ!って思われたらどうしよう。これ削除できないのかな。)


意味もなくソワソワと部屋を歩く。


山下の彼女になったことへの羞恥と本当にこれは現実なのかという猜疑心と、今後やっていけるのかという未来への不安とふとした瞬間に思い出してしまう彼の言動への幸福感。

家に帰り着いてから、全ての感情がぐちゃぐちゃと九十九の中で入り混じり、頭の中がパンクしそうになる。


すると気づいたらいつのまにか時間が過ぎていて、いつもならすでに何通か来ているはずの彼からのメールが来ておらず、九十九は心がソワリとした。そしてメールを出してしまったのだ。


(もしかしてパーティ行ってないとか?いやいやまさかね。それか、もしかしてパーティで私のことが好きだなんて勘違いだって気づいたとか…)


あまりにも現実にあり得そうな妄想に息が苦しくなる。何度も何度も深呼吸をする。


だって、当然だ。

彼が九十九を選ぶなんておかしいに決まっている。

先程は嬉しくて思考が追いつかず、勢いのまま彼の恋人への承諾したが、俯瞰してその場を冷静に見れていれたのなら「いや、それ絶対おかしいし、絶対後悔するよ。」と両者に言っていただろう。


だいたい彼には好きな人がいたはずだ。


『女神』


彼女のことはもういいのか。

いや、元々『女神』とは彼の理想の女性像であって、現実に存在するかわからない。

しかし、何度思い返しても、あのとき彼は「いる」と言いかけていた。

多分、いるのだろう。

でもなぜ彼は彼女を選ばないのか。

もしかして、その人からすでに振られてるとか?それとも誰かの恋人、または既婚者とか?実は日本にいないとか?あ、もうこの世にいないとか?


九十九は必死で彼が『女神』を選ばない理由を探していた。


結局、以前同様、結果の出ないまま悶々と考えるはめになる。


ピコン


メールの着信音がなり、ハッと現実世界に引き戻された。慌ててケータイを確認する。


『つまんないです。やっぱり九十九と過ごせば良かった。帰りたいです。』


(なぜ敬語。)


絵文字もスタンプもない文章で哀愁を感じた。

その後、再度メールが送られて来たのですぐに見ると、オモチャの王冠とタスキをかけた山下の拗ねた表情の写真が送られて来た。周りにいる男子達はとても楽しそうに笑っている。


「あは!可愛い!」


この表情を可愛いと思ってしまう自分は重症だと思うが、思ってしまうので仕方ない。


『よかった。ちゃんと行ってるんだね。画像ありがとう。みんな楽しそうだね。』


九十九はニヤける頬をさすりながら返信するとすぐに返事が返ってきた。


『俺は楽しくない。』


(だいぶ不貞腐れてるな。)


どう返事を書こうか迷っていると、ポスンとメールが送られてくる。


「え?」


『九十九に会いたい。』


顔がボボッと熱くなり、ニヤケてしまうのを手で隠した。メールを返そうとケータイのテンキーに指を滑らせると、再度ポスンとメールが届く。


「え、え、」


ポスンポスンポスンポスンポスン…


『今から帰って九十九の家まで会いに行ってもいい?』

『あ、でも遅いから則文さんに怒られるかな。』

『じゃーコッソリ会える?』

『あ、でもバレて出禁になったら嫌だな。』

『せめて声が聞きたいな。帰って電話してもいい?』

『でもそれも遅くなるかぁ〜。』


あまりにも早いメールの連投に九十九は追いつけず、メールを打とうとする手をケータイの上でさまよわせることしか出来ない。


『あ、じゃー今から電話してもいい?』


「え!!」


最後のメールに驚き、慌ててメールを返そうとするもアッサリ着信音流れ、メール画面がサッと消えてしまう。


「ちょ!」


手をいまだにケータイの上ださまよわせた後、諦め通話ボタンを押した。


『九十九!会いたいよ!』

「……や、山下くん……」

『九十九の声だ。可愛い。もっと喋って。』


顔がどんどん赤くなる。


彼の声の後ろからザワザワと人の声がする。つまりまだクラスの皆と一緒にいるのだろう。

堂々とそんな発言をされ、九十九は恥ずかしさと、彼の隠す気がない気持ちが嬉しいのと、クラスの女子の反応が怖いのとが入り混じった複雑な気持ちになる。


「山下くん。まだパーティにいるんだね。」

『うん。土間が帰してくれねーの。その割には黙っとけって言うし、意味わかんない。』

「ふふ、王冠、似合ってたよ。」

『あ〜〜。その笑い声好き。会いたい。やっぱり今から会いに行くから。』

『おいこら。帰さねーからな。つーか、九十九喋ってんの?どんな?』


土間の声が後ろの方で聞こえて来る。


『………………。』

「………………。」

『いや、喋んねーじゃん。お前、独り言してんの?』

『違うし!土間とは話さないだけだし。』

『いや、絶対お前の独り言だろ。これ本当に九十九につながってんのか?つーか、本当に付き合うことになったのか?何かいまだに信じられねーんだけど。』

『はぁ?はぁ?は〜ぁ!?何、言ってんの!ちゃんと夢じゃないの確認したし!』

『いや、おめーも信じてねーのかよ。』


2人のコントのような言い合いが遠くで聞こえる。

通話を切ってしまおうかと思ったときに『まぁまぁ2人とも。』と穏やかな声が聞こえてきた。


(鈴木さま!)


『2人が言い合いしてると九十九さんも困るでしょ?電話まだつながってるんじゃないの?』

『あ!そうだ!ゴメンね。九十九。』

「ううん。もう電話切るよ。」

『え、やだよ。もっと話そう。声聞いていたい。』

「う〜ん。でも私と電話してたら皆といる意味がないでしょ?」

『いっそ、皆といる意味がある?』


キッパリ言った山下の言葉に遠くで『このやろ!』『まぁまぁ落ち着いて。』と聞こえてきた。


『あ、じゃー九十九もパーティ参加すればいいじゃん!皆で話せばいいよ。スピーカーにするよ。』

「え!!」


多分、すぐにハンズフリーモードにされたのだろう。九十九の「え!!」はその場に響いたようだ。


『あ、マジ九十九につながってんじゃん。』

『だから言ってんじゃん!』


そんな声が遠くからではなく普通に聞こえて来る。


(山下くん!自由過ぎだから!)


とにかく自由な彼に振り回されている。今のところ山下から選択権は1つももらっていない。

そんなことに若干のムカつきを覚えて九十九は口を結ぶ。


『九十九さん?』


鈴木のオズオズとした言葉が聞こえてきた。山下と土間の言い合いが少しだけ静まる。


『よかったね。おめでとう。』


本当に優しい声でそう言われた。山下と付き合うことを学校の誰かに祝われるなんて思ってもみなかった。

女子はもちろん、男子からも「どうしてアレを選んだんだ?」と陰口を叩かれると思っていたから。

だから鈴木の言葉がジワジワと染みるように心に暖かさをくれた。


「ありがとう。嬉しい。」


山下と九十九を本心から祝ってくれる人は少ないだろう。だから鈴木の言葉が本当に嬉しかった。

その嬉しい気持ちをそのまま言葉にした。


のに、


『どぉして、九十九は鈴木にそんな可愛い言葉言うの!?』

「え?」

『どぉして鈴木ばっかり優しいし、怒んないし、特別扱いすんの!?俺が彼氏なのに!鈴木はただのクラスメイトなのに!』


(うーんと。…ん?)


『…え?鈴木はもしかして九十九が好きなの?』

『ええ!?や、好きじゃないよ!いや、好きじゃないわけじゃなくて!友達として好きだよ!』

『好きなんじゃん!!』

『いや、落ち着いけ。お前。すげーバカなこと言ってんぞ。』

『土間は黙ってて!土間は九十九に嫌われてるから関係ないから!』

『…あぁ!?』


多分パーティ会場はカオスでしかないのだろう。

それをどうにか収めるように声をかけた方がいいのだろうが、九十九はそれより自身の中で膨らんだイラつきを抑えることができなかった。


(あれ?私達って今日からちゃんと付き合うようになったんだよね?好きって言われて私もって答えて。なのにすでに私の気持ちが疑われてるのはなんでだろう。)


九十九が山下を大切に思っているのはどうやら伝わっていないらしい。今日あんなに頑張ったのに。あんなに必死の思いで家族以外の人の大切な日を祝ったのに。


(山下くんと私が釣り合っていないことは皆が知っているのに、それでもおめでとうって言ってくれた鈴木さまを浮気相手と疑ったの?付き合い始めた今日に!?)


ゾワゾワと心が荒んでいくのがわかる。


そんな中でもケータイの先では山下や鈴木、土間の声が聞こえ続けている。


「……山下くん。」


少し低めの九十九の声に、ケータイの向こう側が少し静かになるのがわかった。


『…つ、』

「もう遅いから電話切るね。おやすみ。さよなら。」


ヒュッと息をのむ音が聞こえた気がしたが、九十九は気にせず電話を切った。


その後すぐに電話がかかってきたが、ケータイはベッドの上に放置して部屋を出た。


その後、今日が終わろうとする時間に部屋に戻るとケータイには30を超える着信と20を超えるメールが送られて来ていた。


時計を見ると彼の誕生日が終わるまで残り5分を切っていた。

九十九はため息をつき、迷いながらも彼に電話をかけた。

こんな時間に誰かに電話などかけたことない。メールにしようか迷ったがその前に彼の誕生日が終わってしまっては意味がないので仕方がない。


プルル…プ!

あまりにも早い反応に九十九は驚いてしまう。


『九十九!九十九!ごめん!九十九!ゴメンね!』

「…山下くん。」

『さ、さよならって…別れるってことじゃないよね?もうしない!あんなこともう言わないから!ゴメンね!…俺、絶対、別れないから!』

「山下くん。」

『俺、九十九が好きだよ。俺から離れないで。』

「山下くん。」

『好きなんだ。本当に。』

「山下くん。……私もだよ。」

『………っ』

「あと少しで誕生日が終わるね。…あのね。山下くんはこういうこと言われると嫌かもしれないけど、思ってしまってるから言っちゃうね。」

『…つ、九十九…』


彼の声が震える。何を想像したのか、少し絶望的な声だ。


「山下くんが今ここにいることが嬉しいです。生まれて来てくれてありがとう。どんな人でもどんな環境だったとしても山下くんをこの世に産んでくれた方に感謝します。あと、山下くんを育ててくれた皆さんに。山下くんに関わってくれた全ての人に感謝します。あと、私の前に現れて来てくれた山下くんに。私が幸せなのは山下くんのおかげです。ありがとう。」


似たような言葉を九十九は誕生日の時に両親に言われる。いつもは当たり前のように聞いていたが、自分がそれを初めて言ってみると、両親の膨大な愛を感じた。

九十九は山下にも伝わればいいと思った。


『………っ………っ』


山下が何かを言おうとして何度も言葉を詰まらせている。そうして、最後にポツリと小さな声が聞こえて来た。


『……俺、………九十九が本当に好きだ。』


時計を見ると0時を過ぎていた。


彼が誕生日を幸せに過ごせたなら良かったと九十九はホッと息をついた。




読んでいただきありがとうございます。


《あの後》

『おやすみ。さよなら。』

プツリとケータイの通話が切られる。山下は慌てて電話をかけなおすが何度かけても九十九は電話を出ない。

ケータイを持つ手が震える。息が苦しい。心臓がひどく大きな音を出して鳴っている。

「あれだな。お前らしょっ中ケンカするから、どんな感じでしてんのかと思ったけど、こんな感じなんだな。秒?」

山下の絶望的な状況とは打って変わりケロリとした声で話しかけて来た土間を見る。

目が合うや土間は黙り、目を泳がした。

その後はいつまでその場にいたか覚えていない。いつのまにか自分の部屋に戻っており、何度、電話とメールをしても反応のないケータイを前に死体のように倒れていた。


どうしようどうしようどうしよう。さよならってどういう意味?ケータイ切るよって意味?またねって意味?そうであって下さい。そうでなければどうしよう。どうすればいい。


同じことをずっとループするように唱え続ける。


救いを求めるようにケータイに手を伸ばす。

もう一度電話をしようか、いや、もう時間が遅い。さらに嫌われたらイヤだ。

山下は祈るようにすがるようにケータイを額に当てた。


山下の誕生日が終わる6分前のこと。


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