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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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白昼夢かもしれない!



山下のバイト先に寄り、オサムやスタッフの方々にご挨拶をした。少し忙しくなってきた時間帯だったので、軽く皆さんに挨拶した後、山下が厨房奥に行ってケーキと洗い物を置いてくる。


「いいから、早く送ってこい。」

「ありがとう。」


そんな声が聞こえて、山下が戻ってきた。


「行こう。九十九。」


そう言って手を繋がれ歩き出した。九十九は忙しそうに動く皆さんに小さく頭を下げて店を出た。




店から九十九の家までの帰り道、2人は黙ったままだった。

あまりにも衝撃的な展開で、九十九はフワフワした頭で必死で今の状況を整理しようとしていた。


(えーっと。えーっと。ん?山下くんと罰ゲームカップルが終わって?でも告白されて?正式に付き合うことになって?え?付き合う!?山下くんと付き合う!?そんな夢見たいな展開、夢でも見てないよ!あれ?もしかしてこれって夢なのかな?白昼夢?え?いつから?サプライズあたり?もしかして今日1日中?は!もしかして山下くんとの罰ゲームから?それ長くない?)


アワアワと九十九が百面相をしながら歩いていると隣からブツブツと何か声が聞こえてきた。


山下が真剣な表情で手を口元にやり何かを呟いている。絵になる光景だが、内容が気になりそっと耳を傾けてみた。


「あれ?もしかして俺、夢見てる?」


どうやら同じく白昼夢だと気づいた様子だ。


ふと彼がこちらを見た。繋いでない方の手が九十九の頬をサラリと撫でる。


「……感覚がない。夢なのかも。」


(え、そ、そうかな?私はけっこう感覚あったけど。しかも触られたとこが熱いんだけど。)


「夢なら、言ってもいいかな?」

「え?」

「俺、九十九に言わないといけないことがある。」


山下がすごく色気のある雰囲気で寄ってくる。繋いだ手を離し、住宅街の塀に両手をつき九十九を逃がさないよう囲んでくる。


「九十九…ごめん。俺、実は…九十九の…」


ペチン!


つい、色気全開で近づいてくる山下の顔に耐えきれず、彼の頬を軽く両手で叩いてしまった。


「……………。」

「……………。」


2人で目を大きく開げ、しばらく黙っていたが、ふと山下が「あれ、痛い。」と正気になった。


「痛かった?ごめんね。大丈夫?」

「あれ、夢じゃない?どこから夢じゃない?」

「えーっと……朝から?…あの山下くん。手をどけて。」

「わ、わ、ごめん。……えっと……俺たちは本当の恋人同士であってる?」

「あってる。」


山下の顔が再度、赤くなって「夢じゃない。夢じゃない。」と呟いている。


「ごめんって何?」

「え、」

「『実は九十九の』……何?」


山下はヒュッと息を吸い込み、高速で首を振り出した。


「何でもない!何でもない!また夢で言う!」


何だろう。と九十九は首をかしげるも、彼女も頭が半分フワフワしているので、深くは聞くことをしなかった。


住宅街のゲートに着くが、山下はそれを通り過ぎても九十九の手を離さなかった。


「俺もう本当の恋人だし。これからはちゃんと家まで送ってくから。」


彼はそう言って真っ赤になって繋いだ手に力を入れる。ゲートから家まではそんなに距離はないのですぐに着いてしまった。


「山下くん、今日はありがとう。すごく楽しかったです。皆のパーティもちゃんと行ってね。」


そう言って彼から手を離そうとすると、再度ギュッと山下から繋いだ手に力を入れられる。


「山下くん?」

「あの、九十九。あの……俺、罰ゲームが終わって寂しいから、だから九十九との関係を続けたいって言ったけど、本当は違うから。」

「え、」

「寂しかったのは本当だけど。………好きだから。……九十九が頑張り屋で、優しくて、可愛いくて……だから好きで。友達に戻るなんて考えられなくて。これからも一緒にいたいって思ったから、だから告白した。」


もしかして彼は九十九の心の奥の気持ちを少し読んだのかもしれない。そう思った。


山下がこんな自分になぜ告白してきたのか、フワフワした頭で少し考えたとき、一緒にいて意外と居心地が良かった九十九との関係を壊したくなかったからなのでは、と思ってしまった。

でも、それは友達との関係を壊したくない気持ちと一緒で、本当の『好き』ではない。とても寂しい結果だと。そうだったら悲しいと思い、目を背けていた。


「九十九のことが好きだよ。」


彼の言葉が不安だった心にジワジワとしみてくる。


「つ、九十九?」


彼が驚き九十九の頬を撫ぜた。その手が濡れていて、初めて自分が泣いているのに気がついた。


「…違う。嬉しいの。……うれしっ…」


ポロポロ涙がこぼれる。そんな九十九の頭を覆うように山下が抱きしめてくれる。


「…九十九。可愛い。本当に好き。絶対、大切にする。絶対、守る。誓うから。」

「…ふぅっ……ち、……ちかわ…くて…いぃ。」


どのくらいそうしてたのだろう。涙が後から後から流れるから仕方ないんだと言い訳しながら彼にしがみついていた。



「おいこら。人の家の前で、人の子に何やってんだ。」



地を這うような低い声に、2人で我に返り、声の方を向くと激怒した則文と驚きながらも嬉しそうな顔をしている恵美子が立っていた。


「わっ!2人とも!」


九十九は山下と慌てて離れ、抱擁シーンを見られていたことに顔を真っ赤にした。


「あ!則文さん、恵美子さん!聞いてください!俺たち付き合うことになりました。今日から恋人同士なのでよろしくお願いします!」


まさかの山下が報告という名の爆弾をケロリとした表情で投下してきた。九十九始め、則文と恵美子が目を剥いて驚く。


「な!付き合う!?凛花と君が?凛花と君が!?」

「まーー!そうなの?りんちゃん!おめでとう!よかったわね!」

「はい!ありがとうございます。大切にします!」

「いやいやいや、待て待て待て!ちょっと待て!凛花と君が付き合う!?」


もうカオスでしかない。

九十九は恵美子に抱きしめられ、そのまま皆で大騒ぎをしながら家に入ろうとして、ふと気付いた。


「山下くん!家に入っちゃーだめ!パーティ忘れちゃーダメだよ!行って!」


振り返り、靴を脱ごうとしていた山下にそう言うと、小さく舌打ちしたのが見えた。


(コイツ!確信犯だ!なんて油断のならない男なんだ!)


則文が何か叫んでいたが、そこは恵美子が止めてくれ、彼を玄関から外に押し出した。


「ちゃんと約束守って。パーティに行って。」

「九十九といる方が幸せ。俺、今日、誕生日なのに。」


(コイツ!さっきまで誕生日は普通の日って言ってたくせに!使い方が姑息!)


どうにかしなければと九十九は考えていると、山下からジリジリと詰め寄られる。


「皆には今から連絡したらきっと大丈夫だよ。だって誕生日だし。俺の願いは九十九と一緒にいることだよ。ね、願い叶えて。」


ジリジリと後ずさる九十九を追い詰めた山下は色気全開に九十九を誘惑しにかかる。


「…っ……っ………パーティの写真……くれるって約束は……守ってくれない?」

「……っ!」

「……守って…くれないんだ。…ならいい。」


九十九の声が少しだけ低くなって、山下は即答した。


「守ります。写真送ります。パーティ行きます。」

「……本当に?」

「本当に。九十九の約束は守ります。」

「わぁ!山下くん、ありがとう!」


満面の笑みを浮かべ、九十九は心の中でガッツポーズを取っていた。


(よっしゃー!!セーフセーフ!山下くんの色気に負けるかと思いましたー!やりましたー!)


山下が側にいたいって言ってくれるのはとても嬉しい。だけども、だ。

現実、彼と付き合うことになって、今後、周りがどんな反応をするかわからないこの状況で、クラス全員が準備したパーティに出席させない彼女は最悪だと言わるに決まっている。

まだ彼が皆の前で「九十九といたいから出席しない!」と言ったのなら諦められたが、今この状態では「九十九がモテる彼氏をパーティに出席させなかった」と捉えられて当然だ。

なので、彼にはちゃんとパーティに出てもらわなければならない。


(強かに生きます!)


彼と付き合うなら、それなりの覚悟が必要だ。

女子に距離を置かれるのも、いじめられるのも、周りから後ろ指刺されるのも、もしかして『あの事件』を掘り出されるのも、覚悟の上だ。


(でもそれがどうしたんだろう。)


今まで人と距離を取ってきた九十九だ。

人から強く当たられるのにも慣れている。

それよりも、九十九にとって山下が大事だ。

彼が側にいてくれて、笑ってくれるのが何より大事。

ただ、九十九がいじめられることや守れていないと感じ彼が悲しむことがとても嫌だ。


だから今回のようなことで、少しでも女子の怒りに触れるような行為は防ぎたかった。


(私は強かに生きます。彼の側にいたいから。守られるだけの女にはならない。)


そう強く思う。


「九十九。」

「ん?」


ふと我に返ると、山下からジッと見つめられていた。


「パーティ行くし、写真送るからご褒美ちょうだい。」

「ご褒美?」

「うん。そう。ほっぺにチューして。」

「ほっ!」


固まる九十九に山下がニコニコと笑う。

彼の笑顔が黒く見えるのは九十九に後ろめたさがあるからなのだろうか。


「チュー。こんな風に。」


そう言うと山下は九十九の左頬にチュッとキスをする。彼の柔らかい唇の感触と耳元で聞こえたリップ音が九十九の全身を真っ赤にさせた。


「〜〜〜〜〜〜っ!!!」


声も出ずに驚いて真っ赤になる九十九を見て、山下はニコリと笑い、顔を近づける。


「はい。して。」

「………………。」


震える手を彼の両肩に置く。

九十九は決心して、目をギュッとつむり彼の頬に口を近づけた。

チョンとほんの少しだけ触れ、慌てて山下から離れた。


「ふふふふ、」


九十九と違い、余裕そうに笑う山下が憎らしい。


「…………。いってらっしゃい。」


真っ赤になり、ふてくされたような言葉と表情の九十九に山下があはは!と笑う。


「いってきます!」


そう言って彼は爽やかに手を振って行った。




読んでいただきありがとうございます。


いい感じのニヤニヤニヨニヨ場面ですねー。w


あんなに山下のことが大好きなのに

時々言ってしまう(コイツ!)が意外とツボ。

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