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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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山下くんの誕生日。〜バースデーソングとお別れの言葉〜


今日のサプライズには山下のバイト先の協力が不可欠だった。


山下にケーキを渡したい。でも彼の家には冷蔵庫がない。じゃー仕方がない、水族館の帰りに九十九の家で渡そう。

でもそれではあまりにサプライズ感がないし、両親がいる前ではいつもの彼のはじけっぷりが半減してしまう気がした。

それに母からも「デートの終わりがうちだなんて、それじゃーつまんないわ。」と言われた。

父は不満そうだったが。


だったら山下のバイト先にお願いしてみれば?という案が出た。

了承してくれるかはわからなかったが、恐る恐る電話をしてみるとオサムはアッサリと承諾してくれた。

震えながら電話をした甲斐があった。


朝にケーキとクラッカーをオサムに渡し、3時頃に店に来ることを伝えるとオサムは「楽しんでおいで」と言ってくれた。少しバイト先での山下のことについて教えてもらい、九十九は頭を下げてオサムと別れ山下の部屋に向かった。


本当はオサムの店でケーキを食べて時間になってお別れする予定だったのだが、まさかの展開でなぜか山下部屋ナウだ。


「……うわぁ〜。ホールケーキとか。手作りとか。マジやばーい。」


フワフワした笑顔で山下がケーキを穴が空くほど見ている。

デコレーションがうまくいかず何度もホイップを塗っては取り塗っては取りして、時間がなくなって妥協した作品だ。あまり見ないで欲しかった。


「俺、誕生日ケーキとかあんま食べたことないからすげー感動!」

「え?」

「あ、俺のいた施設って結構でかいとこでさ。学校みたいに何棟も建物があって、そこで何十人も一緒に暮らしてんだけど、流石に1人ずつ誕生日なんか祝ってたら毎日が誕生会みたいになるじゃん。だから季節がらのイベントはあっても誕生会はなかったんだよな。だから、俺も他のやつらも誕生日って特別な日じゃなくて、ただ歳が増える日って認識なんだ。あ、もちろん親のいる奴とかは外出して祝われたりしてたりするけど。」

「そう……なんだ。」


あまりにも自分とかけ離れた世界で九十九は想像がつかない。


「俺、誕生日を祝われるの好きじゃなくて。だって俺にとっては普通の日なのに、周りからおめでとうって言われるのが意味わかんなくて、みじめな気持ちになるから。」


九十九はヒュッと息をのんだ。


「ごめん。嫌だった?」

「そんなわけないじゃん。誕生日すげえって何度も思った。こんな幸せな日は初めてだ。」


山下がはにかんだようにニカリと笑った。

その笑顔が無性に不安を駆り立て、九十九は山下の近くに寄る。

すると、彼が手を少し広げたのでそこに飛び込むように彼を抱きしめた。


「本当だよ?本当に幸せ。九十九ありがとう。」


九十九は頭を振り、山下をギュウと抱きしめるとクスクス笑い声が聞こえた。


「九十九、俺のためにいっぱい頑張ってくれたんでしょ?お弁当も、ケーキも、電車のるのも、水族館…は結構楽しんでたかな。」


クスクスと笑う山下の言葉に、九十九は赤くなり少し恨めしそうに山下を見上げる。


「あはは。…あと、オサムさんとの連絡。よく出来たね。オサムさんのこと苦手だと思ってた。」

「……見た目は苦手だけど…快く手伝ってくれたよ。オサムさん優しいね。」

「……うん。まぁ結構、辛辣なんだけど嘘つかないし、根がいい人だよ。」

「山下くんの周りはいい人が集まるね。」

「そうかな?あ、でも、そうかも。いろんな人に支えられてる自信がある。」


山下を支えている人…そう思うと少し胸がズキンと痛む。

九十九は山下のことを全然知らない。

山下を支えている人とはどんな人なのか。

九十九の中で山下は何でもできるパーフェクトヒューマンだが、彼を支えられるのは彼よりもっとすごい人達で、九十九には想像すら出来ない。

山下に少しでも近づきたい、そう思ってもそんなスキルを持ち合わせていない自分のレベルの低さに虚しくなる。


「九十九はその中の筆頭だよ。」

「え、」

「こんなに楽しいのも幸せなのも九十九のおかげだ。」


何を言ってるんだ。そんなわけあるか。と、ついムッとした顔をしてしまう。

だって、九十九は彼から貰うばかりで彼に何もしてあげれていない。あげれていた物といえばお弁当くらいだ。

彼から腕をグイグイ引っ張られていたのを必死について行っただけの1ヶ月だった。


そんな九十九の想いが伝わったようで、彼はまたあはは!と声を出して笑った。


「本当だから。そんな顔しないで。」


今の山下の笑顔に少しだけホッとする。


「みじめじゃない?」

「みじめじゃない。いっそ世界一幸せかも。」


抱きしめていた腕をほどき、彼の顔をジッと見つめる。


「今日のために私、結構がんばった。」


突然の九十九の言葉に少し目を大きくした後、山下はクスリと笑う。


「…うん。」


「どうしたら喜んでくれるかなって、どうしたら驚いてくれるかなって、いっぱい考えて、いっぱい気合い入れて、いっぱい頑張った。」


まぁ他の人なら簡単に出来ることだけども。


「うん。」


「…山下くんは本当に幸せ?」


「うん!」


山下は先程とは違うはにかんだ笑いをした。

その笑顔を見た九十九も同じように笑う。


「だったら私も幸せ。世界二幸せかも。」


2人で笑い合って、もう一度ギュッと抱きしめ合った。


「お祝いしてもいい?嫌じゃない?」

「嫌じゃない。すごく嬉しい。九十九の作ったケーキ食べたい。食べよう。」

「うん……あ、ライターない。」

「ライター?何に使うの?…あ、紙袋に入ってたけど使う?」

「わぁ!オサムさん用意がいい!」


ケーキにクッキープレートとロウソクをさす。

ロウソクに火を付け……


九十九はハッと気づいてしまった。


本当はお店でスタッフの皆さんと祝うはずが2人だけになってしまった。つまり、バースデーソングを歌うのは九十九1人だ。

あまりのショックに固まっていると山下がキョトンとした顔で九十九の顔を見ている。

ロウソクが溶けてケーキに落ちそうになったので九十九は気合いを入れ直した。

少し震えながら、小さい声で歌い始める。

山下がビックリして固まり唖然とそれを見ていた。


「〜happy birthday to you〜♩…おめでとう山下くん。」

「…あ、ありがとう。」

「…………。」

「…………。」

「………消して。」

「…え?」

「火、消して!吹き消して!」

「え!?あ、うん!」


どうやら本当に慣れていないようで、山下は慌ててロウソクの火を消す。


2つのロウソクが無事に消えて九十九が拍手して「おめでとう!」と言うと、彼は顔を真っ赤にしていた。


(大丈夫。私も恥ずかしいから。)


その後はケーキを切り、クッキープレート付きの大きめのケーキを山下へ渡す。

ニコニコしながら山下がケーキを食べた。


「〜〜〜っ!レアチーズ!!」

「ふふ、山下くん好きって言ってたから。」

「わぁ!おいしい!」


以前、九十九の家に来た時、お土産にとケーキ屋に寄った。その時にレアチーズケーキを選んでいた。

今回のケーキは見た目を豪華ににしたかったので、ショートケーキのホイップにクリームチーズを入れた、レアチーズケーキ風だ。


山下はケーキをパクパクと食べ、お皿のケーキを食べ終えると残りのケーキをジッと見つめた。


「まだ食べる?あ、でもお昼もあんなに食べたし無理しない方が。」

「ううん。まだ食べたい。…けど一度に食べるのもったいない。」

「ふふ、あ、でもスポンジは昨日の夜に作ったやつだから早めに食べてほしいかも。明日中に食べて。」

「うん。わかった。じゃーあと少し食べて残りは店に預けよう。」

「………うん。」


バイト先の冷蔵庫をそんな使い方してもいいのだろうか。と少し考えるも、自分も同じようなことをしたので何も言えなかった。


「山下くん。お皿とフォーク洗いたいんだけど、スポンジと洗剤ある?」

「ない。置いといていいよ。後で店で洗うから。」


いよいよ大丈夫なのか不安になった。


ピピピピピ…


ケータイからセットしていたアラームが鳴り出し、九十九は慌ててそれを止める。


「電話?」

「ううん。4時にセットしてたの。山下くん、クラスの皆のパーティ行かなきゃでしょ?」

「あー………」


4時のアラーム。それは罰ゲームの終わりの時間だ。

急に現実に戻されたように2人の空気が張り詰めたものに変わる。


「…………。」

「…………あのね。1番最初の罰ゲームの相手は土間くんだったんだけど、最後の日、別れる時に絶対言えって言われてるセリフがあってね。言っていい?」

「……土間が?…………何?」


九十九はスゥと息を吸い込み、決意した表情で口を開いた。


「『あなたみたいなつまんない男、役不足よ。自分を磨いて出直してきて。さようなら。』」

「…………。」


その場がシンと静まり返る。


「…………。………あいつ何、考えてんの?」

「こっちが聞きたいよ。」


唖然としていた山下がクックッと笑いだす。

それを見て、九十九もふふ、っと笑った。


空気が少しだけなごみ、九十九は初めてこのセリフに感謝したのだった。






読んでいただきありがとうございます。


さぁどんどん急展開しますよー!

サブタイトルは変わるけどまだまだ1日は終わりません!

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