山下くんの誕生日。〜気合いを入れて〜
今日は山下の誕生日だ。
昨日の夜から母と気合いを入れて下準備をし、朝は早起きしてサプライズを仕上げていく。
途中、母も手伝ってくれ、ギリギリ予定内に終わることが出来た。
「りんちゃん!早く着替えてらっしゃい。」
そう言われ、慌てて自分の準備にかかる。
着ていく服は、前日から母と相談して決めてあったのでそれを素早く着る。
あとは髪を丁寧にブローしてサラサラツヤツヤにする。仕上げに爽やかな香りのオイルを付けた。
「お母さん、いい?」
「ええ。前に座って。」
髪型も決めていたので、母は迷うことなく髪を編み込みハーフアップにしていく。最後に細い青のリボンを飾って終了だ。
「りんちゃん、こっち向いて。目を閉じて。」
「え?」
「特別な日だもん。ちょっだけお化粧しましょう。」
そう言って母がチークとアイラインを引いてくれた。ビューラーでまつ毛を上げ、色付きのリップを塗る。
「わぁ!すごい。」
鏡に映る自分がいつもの倍、女の子らしい。
といっても、日頃から女子力が低いので倍にしても側から見たらわからないレベルだ。
それでも気分が上がっており、つい姿見の前で一回りしてしまった。
「うん。りんちゃん、すごく可愛い!」
「お母さんありがとう。ね、お父さんどう?」
「…凛花は世界一可愛いと思う。」
そんな風に思っているようには見えない父が不貞腐れたような声で言ってきた。。
「もう!則文さん!」
「その世界一可愛い格好が山下くんのためだと思うと素直に喜べない。」
九十九は楽しくて嬉しくて声を出して笑った。
「あ、大変。もう行かなきゃ。」
九十九は必要な荷物を全て持って玄関へ向かう。
「凛花。やっぱりそこまで車を出そうか?」
「ううん。大丈夫だと思う。もし無理だったら連絡するね。その時はゴメン。」
「大丈夫よ。いつでも動けるから。気をつけてね。」
そんな風に見送られ、九十九は玄関を出た。
山下のアパートは歩いて10分程だ。この道を進むのは4度目になる。
あまり通らない道を1人で歩くことも緊張するが、それより今は今日のサプライズがうまく行くかという方が不安だ。歩きながら緊張をほぐすため何度も何度も深呼吸をした。
目の前に山下のアパートが見えた。山下に会う前にサプライズの準備をしなければならない。
九十九は「うっす!」と気合いを入れて前に進んだ。
そして、
(あ、何かすでに大仕事した気になった…まだ山下くんに会ってもないのにHPが…)
サプライズの準備を終えて、九十九はフラフラと山下のアパートのエントランスを抜け、エレベーターのボタンを押す。ちなみにレトロなアパートなのでオートロックなどではない。
時間を確認すると9時前10分だ。
チンとエレベーターがフロントに付き扉が開くと山下が出てきた。
「「え!」」
2人で驚き、同時に声を出した。
「わぁ!九十九、早かったね。もっと遅くなると思ってた。」
「うん。用事が早く終わったから。山下くんはどこか行こうとしてたの?」
「ううん。九十九を迎えに…」
「え?迎えに?」
そこでハッとした山下は急に首を横に高速で振りはじめた。どうやら「迎えに来たら中止」の一言を思い出したらしい。
「違う違う違う違う。違うから。熊が出たら大変だからちょっと様子を見に来ただけだから。」
(いや、どんだけ熊いんのよココ。)
じとーっと彼を見るが、小刻みに首を振り続けている。まぁサプライズ準備も無事終わっていたので、別にいいのだが。
それより、
「山下くん、すごくかっこいいね。」
言わずにはいれない。
(やばいほんとかっこいい。)
シンプルにTシャツとGパン、大きめの上着を着ているだけなのだが、スタイルがいいからすごく似合っていてかっこいい。
昨日はバイトのはずだったのに、何故か髪を切っていて染めてある。しかも、いつもは無造作な髪型なのに今日は前髪を分けているのがとても大人っぽい。
「本当?ありがとう。九十九もすごく可愛い。…やばい。本当に可愛い。」
今日の九十九は春用ニットにロングのプリーツスカート姿だ。少し歩くとフワフワと綺麗な動きをするスカートがとても気に入っていた。本当はヒールを履いて来たかったが、もしかして電車に乗れず歩く羽目になることも考えて、履き慣れたレースアップのブーツを選んだ。
「ありがとう。嬉しい。」
ほんのりと頬を赤くした山下の顔がお世話ではないことを教えてくれる。
「山下くん。誕生日おめでとう。」
「うん。ありがとう。昨日もメールすごく嬉しかった。」
「よかった。寝てたらどうしようって思ってて。」
山下からスルリと手を繋がれて歩き出す。
「寝てないよ。美容室で髪染めてた。」
「………0時に?」
「うん。知り合いの美容師に無理言ってバイト終わりに髪を切ってもらったんだけど。後はアパート帰って市販のやつで髪染めるって言ったら『はぁ?俺の作品をテキトーな染め粉で壊す気か!そこに座れ』って言って強制的に。」
「そ、そうなんだ。すごいね。グラデーションが綺麗だもん。執念ってカンジがする。」
山下の髪をサラリと触る。
「だよね。これ学校で怒られないかな。」
「うーん。微妙なところかな。」
九十九の通う学校は奇抜な格好や風紀を著しく乱す格好以外はさほど注意はされない。
しかし、山下の髪は生え際が明るい茶色で毛先が白に近い金色のグラデーションだ。
とても似合うが、どちらかといえば学校的にはアウトのような気がする。
「その時は染めなおせばいいか。」
「もったいないね。すごく似合ってるのに。」
「別にいいよ。九十九からかっこいいって言われたから。もともとデート用だし。」
「え?今日のために美容室行ったの?」
「え!当たり前じゃん。九十九とデートだもん。カッコつけなきゃ。」
(……デート…)
今まで心の安寧のために今日のことは『山下のサプライズ誕生会』と思っていたが、本人からデートと言われると羞恥と緊張が込み上げてくる。
(…でも嬉しい。この日の為にオシャレしてくれたのも。この日をデートって言ってくれるのも。すごく嬉しい。)
顔がジワジワと熱くなっていく。
(今日はいっぱいいっぱい楽しもう。絶対サプライズを成功させて、大切な思い出として永久保存しよう!)
そう心に誓う。
……が、
初っ端の試練ですでに小刻みに震えていた。
「九十九。大丈夫?震えてるよ?」
「……………うん。」
彼にそれ以上の返事をする余裕がない。
駅に着いてホームに出た瞬間、嫌な日のことを思い出してしまった。あの日も電車に乗って街まで行ったのだから。
平日より人が少ないのだろうが、それでも九十九からすれば知らない人が大勢いる。もしかしてその中に『アイツ』がいるかもしれないと想像してしまった。
(こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい)
とにかく何もできず棒立ちしていると山下からフワリと抱きしめられる。必死でそれに縋り付いた。
「九十九。無理しなくていいよ。帰ろ?」
その言葉に頭を振る。
すると山下が頭や背中を撫ぜてくれる。九十九は山下の心臓の音だけ耳を傾け、何度も何度も深呼吸をした。
そのうちに電車が着いて、目の前で扉が開く。
「九十九、行ける?次のにする?」
「…い………行く。」
必死の覚悟で足を進め、電車に乗る。扉が閉まった瞬間に震えが大きくなる。
(閉まった。やばい。これでもう降りられない。『アイツ』がもし乗っていても逃げられない。どうしよう。こわい。こわい。こわい。こわい。)
「九十九。大丈夫だよ。ほらこっち向いて。」
今にも扉を無理矢理あけそうな九十九の手を取り、山下は自分の方を向かせる。彼と目があって、顔を両手で挟まれて、顔が近寄ってきて、
(……え、)
彼の唇が目の前に来て、驚き目を閉じると、フワリと左目に柔らかい感触がした。
ほんの一瞬、触れたというより、かすった程度の感触だった。
「………可愛い。」
そうポソリと呟いた彼が先程の0距離から少しだけ離れる。
九十九は唖然と山下を見るが彼は飄々としたいつもの表情だ。
(………ひゃあぁぁぁああぁぁあああぁぁぁぁあああぁああぁあぁああぁああぁああぁあ!!)
ひとまず、心の中で絶叫してみた。
(何いまの何いまの何いまの!!!やばい!死ぬ!キュン死する!え?今生きてる?もしかして死んでる?やばいやばいやばい!)
顔が一気に熱くなる。
多分、真っ赤な顔でワナワナしているのだろう。山下がそれを見てクスクス笑い出した。
(昨日は手を繋いだだけで真っ赤になってたのに、何よそれーーーー!!)
九十九は必死で萌え死とキュン死に対抗していると2駅なんてすぐに着いてしまった。
(山下くん。すごい。)
山下パワーで永遠の地獄が一瞬のパニックで終わってしまった。
彼は平然とした顔で手を繋ぎ「よかったね。着いたね。九十九よく頑張ったね。」と褒めてくれた。
さすがは天然成長加速機と九十九は呟いた。
読んでいただきありがとうございます。
罰ゲーム最終ですよー!
だけども、だけど!
この1日は長〜〜〜い1日になる予定です。
どこまでも甘〜くウフフアハハな日にしよう!
と、思っています。




