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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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大切に時間を過ごそう。


九十九は自分の右手をジッと見た。


ジワリと顔が熱くなり、多分顔は赤くなっているのでだろう。


今日の昼から自分がおかしいのは自覚している。

だって右手の感覚を思い出すたび、恥ずかしくて叫び出したい気持ちになるのだから。


事の発端は昼休み。

彼が九十九の持っていた鈴木のパウンドケーキを一口で食べてしまったことから始まった。

その時、右手に柔らかいものに触れたのだ。

それが何か知った時に九十九は壊れた。


(山下くんに右手をハムられたーーーーー!!)


あまりの衝撃と羞恥にパニックをおこし、何かをツラツラ叫んでいた。そのあと彼が「俺がもらったの食べていいから…全部あげるから、」との言葉に我に返った。


(はぁ?いらないし。)


山下のために女の子達が想いを込めて作ったお菓子をなぜ食べなきゃいけない、とカチンとくる。

自分には権利がないから言わないが、彼が他の女の子からソレを受け取っていることに対していい気持ちは当然、持っていない。

そんな気持ちを必死で隠していたのに、なぜそこでソレを出してきた。

そう思うと声が低くなっていた。


すると彼はさらに慌てた様子で謝りながら詰め寄ってきた。ズイッと彼の顔が近付く。


(口ーーーーー!!!)


さっきまでムッと怒っていたのに、すぐに真っ赤に照れるわけにはいかない!と必死に心を無にしてみた。

するとすぐに放課後になって、帰りには山下より鈴木のパウンドケーキをもらえた。家に着いた瞬間「乗り切ったー!」と安堵したが、よくよく考えると山下と過ごせる大切な時間を無の時間にしてしまったことに気づいて沈没した。


(明日はちゃんと山下くんとの時間を大切にする!絶対に逃げない!)


そう固く誓い、眠りについた。





「……おはよう。九十九。」


朝、いつもの場所で山下が気遣わしげに九十九の表情をチラチラと見ながら挨拶をしてきた。


「山下くん、おはよう。」


あ、怖がってんのかな、と思いながら九十九はいつも通りの表情と声で返事をする。

彼は恐る恐る近づいてきて恐る恐る手を繋ごうとしてくる。


(いや、私は『番犬ガ◯ガオ』か。)


少し悔しくなってきたので山下の顔をバッと見ると繋ごうとしていたサッと手を下げてしまった。


(いや、本当に『番犬ガオ◯オ』じゃん。実は度胸試しをしてるとかじゃないよね?)


山下の顔をジッと見ると彼は目を泳がせている。


(今日は絶対、山下くんとの時間を大切にするって決めてるんだから!度胸試しでも何でも関係ありません!)


九十九はそう自分に勢いづけ、彼の手を自分から繋いだ。そして「行こう」と言うと、彼は目も口も大きく開けて固まっていた。歩き出すとカチコチと彼も歩き出す。


「山下くん。明日、楽しみだね。」

「う、うん。」

「迎え来ちゃーダメだよ?」

「う、うん。」


その後、少し沈黙が流れるが山下の「ぅわぁあぁぁぁ〜。やばぁ〜ぃ!」という変な声でそれは終わった。

彼を見ると顔が真っ赤だ。

本当に彼の赤面ポイントがわからない。手なら最近は当たり前のように繋いでいたのに。

でも、照れてるってことは嫌じゃないってことと解釈していいのだろうか。

そう思うと少し嬉しく思った。



教室に入るとクラスメイト全員がジッとこちらを伺ってきた。そして仲良く手を繋いでいる2人を見てホッとしたような表情をした。


(なぜ?)


このクラスのメンバーは不思議だ。

普通、山下と九十九がケンカをすれば女子は喜ぶのではないのか?それなのに2人がケンカをするたび、クラス全員でテンションを下げ、仲直りすれば先程のようにホッとした様子をみせる。

謎で仕方がないと九十九は頭を傾けた。


まぁ実際はケンカをすると意外と存在感を現し、クラス全体を負の雰囲気にしてしまう九十九が怖いのと、あまりにも不器用に焦って困って嫌われることを怖がっている山下に同情と共鳴をしてしまいツラいからなのだが、本人達は気付いていない。

学校での罰ゲームカップル最終日なのでギスギスした雰囲気で終わるのはやめてほしかった、というのが本音だった。



「山下くん。してほしいこと決まった?」

「え?」

「明日、してほしいこと。」


昼休みにふと思い出した九十九がそう山下に聞いてみた。


「……………明日、お願いする。」

「…?…何も準備いらない?」

「何もいらない。九十九さえいれば大丈夫。」

「……ふ〜ん。」


もったいぶった山下の言い回しに、その願いを自分が叶えてあげることが出来るのか不安になる。


「こんなワクワクすることいつぶりだろう。すごく楽しみ。でももったいない気もする。」

「ふふ。もったいない?」

「うん。明日が早く来ればいいのにと思うけど、楽しみを引き伸ばしたいって気持ちもある。複雑だ。」

「あ、なるほど。今、ムズムズする気持ちはそういう理由かぁ。じゃー同じ気持ちだね。」


九十九がそう笑うと、山下もはにかんだように笑い返してくれた。


(とても幸せだ。でももう返ってこない時間が過ぎてくのが悲しい。うん。本当に複雑だね。)


ただただ、山下が同じ気持ちでいてくれるのが嬉しかった。





「そういや明日お前らどこ行くんだ?」


午後の休憩時間に土間からそう聞かれ、山下がスッと低い声を出した。


「………それを聞いてどうすんの?邪魔すんの?」

「しねーよ。んなことしてもお前のマジギレしてるとこしか想像できねーわ。」

「よく俺を理解してるよね。」

「…………。」


土間が九十九に何かを訴えるように目線をやるが、それがどういう意味かわからず頭を傾げた。


「…まぁ明日お前らがどこに行こうが勝手だが一応、確認な。えーっと、罰ゲームの期限は明日の4時までだ。それまでに九十九を家まで送って行くこと。あと、俺らの会は5時半に街の駅集合な。一応、九十九以外のクラス全員参加するからテメーはバイトに行ったりするなよ?」


九十九はその話を聞いて考える。

電車で出かけて水族館に行き、電車で帰る。サプライズの関係上、一度、山下のアパートへ行かなければならない。その後に九十九を家まで送り届け、街まで行くのに駅に…


(山下くん!すごい行ったり来たりすることになるのでは!?)


少し驚き、サプライズを実行してもいいのか不安になっていると、それに気づいた山下がポンと九十九の肩に手をのせてきた。


「九十九。大丈夫。俺の誕生日は九十九を家に送るまでだから。」

「いや、俺らに祝われるまでだろーが。」


キョトンとした顔をする山下に土間があきれる。


「あぁ。もういい。お前はそう思っとけ。絶対、最後は楽しかったって言わせてやるから。……あ、あと九十九。一応、今回の罰ゲームは終わるからこいつにも最後の…」

「土間くん。」

「あ?………は?」


九十九は土間の言葉を途中で遮り、彼の名前を呼んだ。土間は驚きポカンとした顔をしている。


(そういえば今まで土間くんの名前を呼んだことがあったっけ?)


記憶を辿るも思い出せない。もしかしてないのかもしれない。彼がこんなに驚くほどだ。あったとしてもだいぶ前のことだろう。


土間にずっと言いたかったことがあった。怖くて言えなかった言葉だ。でもなぜだろう。今はあまり怖いと思わない。どうして今まで怖いなんて思ってたんだろうと感じてしまうほどだ。


「私、もう罰ゲームしない。」


九十九はハッキリとした口調でそう言った。


(言えた。やっと言えた。言ってやった。)


今まで何度、彼にそのことを言おうとしたのか。何度も「今回は言ってやる!」と自分に勢いづけ彼の前に立った。しかし、言葉を発しようとするも緊張と恐怖で声が出ず口をパクパクさせて終わっていた。家に帰り自分や土間、家族以外の人間全てを呪ってた。いつしか、そんなことどうせ出来ないと諦め、チャレンジすらしなくなった。そんな鬱々とした日々が嘘のようだ。


土間を怖いなんて思わず、あっさりと自分の思いを伝えることが出来た。


土間は驚いた顔をしたまましばらく固まり、その後、ギュッと眉間にシワを寄せた。


「…………そうかよ。」


それだけ言って教室を出て行ってしまった。


九十九は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

すると、先程まで肩に置かれていた山下の手が九十九の頭を撫でる。

彼の顔をみると、安心したように眉を下げて笑っていた。九十九も笑い返す。

多分、彼と同じような顔をしているのだろう。


(山下くん。ありがとう。山下くんのおかげです。ありがとう。)


こんな風に土間に気持ちを言えるようになったのは多分、山下のおかげ。

何がきっかけとかじゃない。彼がいてくれて、彼が笑ってくれただけで勇気がでる。自信がつく。


罰ゲームが終わったら、もしかしたらまた振り出しに戻るのかもしれない。でもそうでないような気がしている。


だって九十九が彼に寄せる想いは変わらないのだから。

彼が好きだと言った女神さまにはなれなくても、彼に守られるだけじゃない女になりたい。

そう思うから。


(…山下くん。大好きだよ。)






読んでいただきありがとうございます。


ハム事件から始まり、イチャイチャを通り、土間との決別(?)とごちゃ混ぜな回になってしまった。ま、いいか。


あ、せっかくなんで。

本編で書けないストーリーを。


《今から誕生日》


0:00 ピコン


メッサージの着信音が聞こえ、山下はケータイを覗く。最近はこんな時間にメールが届くことがあまりないので不思議に思った。


「え、九十九?」


彼女とは10時過ぎに『また明日ね』とメールのやり取りを終わらせていた。何かあったのかと慌てて内容を確認する。


すると、


『山下くん。誕生日おめでとう!!17歳の1年が山下くんにとって素敵な1年でありますように。』


ケータイを持ったまま唖然としてしまった。

ハッと我に返ったのはどれほど経ってからなのか。

とにかく顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。


「誕生日すげぇ。」


恥ずかしくて顔を両手で覆いながら、山下はその一言しか言えなかった。


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