フードデザインを頑張ろう!〜鈴木信者の逆鱗〜
今日は選択授業の日だ。
気合を入れるため、入念にブローした髪を高めの位置でポニーテールにする。
料理をするので髪にオイルは塗らないでおいた。
しかしそうなると少し不安だ。
時々、彼は急に近くに寄ってくる。
そう思っていると、母が「じゃー特別。」といって、和紙にトワレを1プッシュ吹いて、それを制服の胸ポケットに入れてくれ、調理実習が始まる前に取ればいいと言われた。
父にも「髪型似合うな。凛花は本当に可愛いと思う。」と言われた。
両親ともにとても優しい。
多分、昨日じみ〜に落ち込んでいたのに気づいていたのだろう。
一応、一晩考えて、スッキリとまではいかないが納得のいく結果までたどり着いた。
そう、彼の想い人についてだ。
山下には好きな人がいるみたいだ。
それも女神のような人。
それについて悶々と考えた。
山下ほどのハイスペックがなぜその子と付き合えていないのか。その子は他校の子なのか。罰ゲームが終わったらその子と付き合うのか。なぜ好きな子がいるのに罰ゲームに参加したのか。
思考があっちに行ったりこっちに行ったりと結論にたどり着かないので考え方を変えてみた。
罰ゲーム彼女が終わったからといって、九十九自身が山下に告白する勇気などない。もし告白できたとしても学校一の美少女をふる彼のことだ。OKされることはない。つまり今後、山下と付き合えることなどない。
ということは、だ。
彼に想い人がいようがいまいが、彼に新しい恋人が出来ると悲しいことに変わりはなく、じゃー何に悩んでるんだ?という気になって考察は終わった。
ネガティブな思考もたまにはいい作用に働くことがあるようだ。
「よし!今日も頑張るぞ!」
と、気合いを入れる。
九十九自身も今の気合いが、山下への対応についての気合いなのか、フードデザインについての気合いなのかわからないが、深く考えないようにした。
「おはよう。九十九。あ、今日はポニーテールなんだ。可愛い。」
(はいはい。あなたの可愛いは挨拶なみの軽さだね。大丈夫。真に受けたりしませんよ。)
なんて頭では考えつつも、頬が勝手に緩むから困る。一応、「ありがとう」と返した。
「今日はフードデザインあるから?」
そう聞きながら、山下はスルリと九十九の手を繋いでくる。
(………好きな人がいながら、その他の子の手を繋ぐのはなんでなんだろう。あ、彼女だからか。…じゃーなんで…)
「九十九?」
山下の言葉にハッと我に返る。
いかんいかん。また昨日のように悶々とした渦にはまるとかだった。どうせ結果は出ないのに。
そう思い直し、深く考えないように心掛けた。
「じゃーまたね。」
「うん。頑張ってね。」
そう言って2限の終わりに山下と別れる。
選択授業は3、4限目なので九十九と鈴木は調理実習室、山下たちは講堂へ分かれた。
最初の30分ほどは栄養素について説明をうけた。すごく勉強になって、もっと早く知りたかったし、もっと深く知りたいと思った。山下のお弁当を作れる機会はあとわずかなのが残念でならない。
勉強の後は鈴木とお菓子作りだ。
今日、作るお菓子は3つ。
チョコマーブルパウンドケーキと3種のパイとオランジェットだ。
結構、時間ギリギリになりそうだが、少し遅くなっても昼休みに入ってしまうくらいで、授業には響かない。しかし、九十九も鈴木も時間内に終わるように気合いを入れて調理を始めた。
「九十九?終わった?」
山下の声にハッ我に返り顔を上げる。
洗い物が終わったのが授業が終わって5分経った時だった。
「あ、ゴメンね。待った?」
「ううん。まだそんなに経ってないよ。俺も講堂から直接来たから大丈夫だよ。」
そう言った山下がニコニコと微笑み、両手を差し出してくる。
九十九は差し出された手を見た後、山下の顔を見た。満面の笑みだ。
「………♫」
「………。」
(お菓子をちょうだいってことかな?…まぁあげる予定だったけど。)
ニコニコした顔なのになぜか圧がかかってくるので早々に作ったお菓子をそっと彼の手に乗せた。
「わぁ!ありがとう!」
パァ!とその場が明るく輝く。
(まぁ喜んでくれたならよかったよ。てか、お菓子なら他の子からももらうだろうに。)
今にもお菓子を差し出そうとしている女の子が山下の周りに少しずつ集まってきている。
そしてひとりの女の子が「あの!」と声をかけたのをきっかけに多くの女の子が山下を囲む。
(おっと。しばらく時間がかかりそうだな。じゃーその間に片付けを終わらせよう。)
鈴木と頷き合い、洗い終わった器具を定位置にしまったり、シンクの掃除を終わらせる。
「お疲れ様。九十九さん。時間少し過ぎちゃったね。でも調理自体はいい時間配分だったよね?しかも大成功だし。」
出来上がったお菓子をホクホクとした顔で鈴木が見る。九十九も同じ気持ちで大きく頷いた。
「ラッピングが。」
「はは、だね。ちょっとラッピングに時間かけ過ぎちゃったよね。でもすごく可愛く出来たから仕方ないかな。」
つい、2人でラッピングに気合いを入れ過ぎてしまい、気付くと時間がだいぶ過ぎてしまっていた。でもその分、手作りならではの可愛い見た目になったので大大大満足だ。
「じゃー僕は教室に戻ろうかな。九十九さんは山下くんを待ってから?」
その言葉に九十九は頷いた。それを見て「じゃーまた後で」と教室に戻ろうとした鈴木を止める。
「交換。」
「あ、いいね。交換しよ。」
鈴木とは同じお菓子を作ったがお互い別々に作ってある。材料も作った過程も一緒だが、やっぱり作り手が違うと味も変わるかもしれない。
(多分、鈴木さまが作ったお菓子は優しい味がするんだろうなぁ〜)
交換した同じ形のお菓子を九十九は大切にカバンに入れた。
その後、大量のお菓子を持った山下とお弁当を持っていつもの場所でお昼ご飯を食べる。
「九十九。お菓子食べていい?」
「うん。食べて!」
そう言うと山下はラッピングした袋を取り出し、パイをサクリと食べる。
「パイ!おいしい!クッキーと思ってた。……あれ、パイって作れるの?」
「ふふ、作れるの。おいしいならよかった。」
3種類あるパイをニコニコと頬張り、それを食べ終わるとパウンドケーキをパクリと食べた。
「わ、既製品と味が全然違う。うんま!」
フヨフヨと山下の頬が緩んだのを見て嬉しくなる。「嬉しい。ありがとう。」と言って九十九も鈴木のお菓子を取り出す。
「それ、ラッピングが違う。自分用?」
「ううん。鈴木くんと交換したの。」
「…………。」
「わぁ。やっぱり鈴木くんのパウンドケーキはマーブルがキレイに出てるなぁ!」
九十九のパウンドケーキは少しチョコが混ざりすぎて上手くマーブル柄がでていない。最後の1混ぜをしなければ良かったと断面図を見たときに思った。
次に作るならこんな風にキレイな柄ができるように作りたい、と鈴木の作ったパウンドケーキをじっくり見た。
「あっ!!」
突然、山下が声を出したので九十九は「え、」と山下の目線の方を見る。
「…え?何?」
そこには特に何もなく頭を傾けると、手に何か柔らかいものが触れる。
バクッ!
「え?」
九十九は何かが触れた自分の手元を見ると、持っていたパウンドケーキを山下が大きな1口で食べてしまっていた。
「ーーーーっ!!」
「うん。おいしいけど味は九十九の方がおいしい!」
満面の笑みを浮かべる山下だが九十九は自分の手元から目が離さない。残っているパウンドケーキは持っていた端っこの部分だけだ。手がフルリと震える。
「す、」
「九十九?」
「鈴木さまのパウンドケーキ!!!」
今までにないほど大きい声が出た。
だからなのか、それ以外のせいなのか、山下が目を丸くして驚いている。
「何で?何で食べたの?鈴木さまのパウンドケーキ!1つしかないパウンドケーキ!鈴木さまの作ったパウンドケーキ!!」
「つ、九十九。ちょっ…えぇ?…あの、ゴメン。あの!」
「楽しみにしてたのに!山下くんいっぱいお菓子もらってたのに!私が大切にしてたのに!」
「ご…ごめんね。九十九、俺がもらったの食べていいから…全部あげるから、」
さっきまでヒステリックに叫んでいた九十九が急に黙る。そして、信じられない物を見るような目で山下を見つめ、今まで聞いたことない低い声がボソリと響く。
「……え?今、もしかして鈴木さまを馬鹿にしたの?他の子が作ったもので代用できるって言ったの?」
その言葉に山下は心臓がヒョンと縮まるのがわかる。
「ばっ!してないしてないしてないしてないよ!絶対してないよ!本当にしてないから!」
「………………………………。」
それから九十九は喋らなくなった。
必死に謝るも、無の世界に行ってしまった九十九に反応してもらえず心が折れながら教室に戻ると、クラスメイトに「またケンカしたのかよー。」とばかりにため息をつかれた。
本当はすごく嫌だったが、絶対にしたくなかったが、どうしても仕方なく断腸の思いで山下は鈴木に「作ったお菓子ちょうだい。」とふてくされながら頼んだ。
下校の時に「ごめんなさい。許して下さい。」と渡すと、やっと九十九はこちらの世界に帰ってきたのだった。
《その時の鈴木さま》
えーっと。え?今、山下くんが「お菓子ちょうだい」って言ったよね?
あれ?九十九さんにもらったんじゃー…あ、いや、今の山下くんの表情を見る限り、そういう話ではなさそうだよね。
まぁ全然お菓子くらいあげるけど、なぜ僕のお菓子?…………………もしかして、僕のお菓子がケンカのキッカケ?えぇ?どういう流れで?
とにかくどうぞ!こんなお菓子で申し訳ありませんがお納めください!!
…う、…胃が痛い……
鈴木さまをいじめるのはやめてー!!w
あ、読んでいただきありがとうございます。




