新情報を知ろう!〜いや、聞かなきゃよかった〜
「ねぇ九十九。水族館には電車で行くんだよね?」
朝の挨拶をするとスルリと流れるように手を繋がれ、なんの迷いもなくそのまま歩き出した山下からそう聞かれた。
もしかして、山下は土曜日の練習とでも思っているのだろうか…ふと九十九はそう思った。
「うん。一応その予定だよ。…電車乗るのなんて何年ぶりだろう。…緊張する。」
「土曜日の早い時間だから人も少ないだろうし大丈夫だと思うよ。絶対、手を離さないし。」
「うん。ありがとう。」
「でも、そうしたら九十九の家からの方が駅は近くない?」
「そうかな。山下くんのアパートを真横にまっすぐ進んだらそんなに変わらないはずだけど。」
「……。でも小道だし、少し裏道っぽいし。」
「山下くんが手を離さないでいてくれるから大丈夫だよ。…だよね?」
「………。……うん。」
どうやら山下は九十九が自分を向かえに来るのが嫌らしい。心配性の彼だ。道中なにかあったら…と不安なのかもしれない。
しかし、今回はサプライズが絡んでいるため、どうしても譲ることができない。
なので、九十九は山下の気持ちを気づきつつも気づかないフリで通した。
「………向かえに来たらダメだよ?」
一応、念を押しておこうと九十九は山下の顔を覗き見る。
「…わかってる。」
「よかった。来たら中止だもんね。」
「…!」
山下が少し緊張したように体が強張るのがわかった。もしかしてコッソリ来る気だったのかもしれない。これは前日にも脅しを入れとかないといけない、と九十九は予定の中に組み込んだ。
「明日は選択授業だね。ビジネス実務は講堂でするんだっけ?」
「うん。人数が結構増えて講堂に変更したみたい。」
その理由が自分だとは気づいていない山下がケロリとした顔で答えた。
「接客とか日頃からしてるから、山下くんにはちょうどいいよね。」
「うん。授業内容が直接いかされるってすごいよな。」
「そうだね。授業内容、教えてね。」
「うん。もちろん。」
山下がニコリと笑う。
それにしても今日はとても視線を感じる。
校門前からトゲトゲしたものがいつもよりキツめだ。
チラリとそちらの方を見ると女子生徒が強い眼差しで九十九を睨んでいる。
(最近は結構、山下くんと普通に話しながら登下校しているのになぁ……あ!)
目線を彼の方にやると彼はご機嫌そうに笑っている。そんな彼の手にはしっかり九十九の手が繋がれていた。
慌てて九十九が手を離すと、山下が驚いた顔でこちらを見た。
「手、人がいないとこまでだって言ったのに。」
「…?…今日は言われてないよ。」
(そういう問題じゃなーい!!)
そう叫びそうになって止める。
そんなこと自分がしっかり気にしてなかったのがいけない。何でも不利なことは彼のせいにするのはやめよう、と心を落ち着かせるように息をついた。
「や、山下くんは私と変な噂が広まってもいいの?」
「…?…変なって?九十九と俺は恋人同士でしょ?手を繋いでもおかしくないよね?」
「罰ゲームの恋人でしょ?しかもあと4日間だよ?」
「罰ゲームでもあと4日間でも九十九は俺の彼女でしょ?」
(ダメだ。話が通じない。)
こういう時に彼との価値観の違いに気づかされる。
九十九は2人の関係と常識と今後のことを全て考えて行動しているつもりだ。
2人は罰ゲームの恋人であって本当の恋人ではない。だから常識の範囲で側にいるのが正解だ、と。
まぁよく考えると常識の範囲でハグや膝枕はしないし、家にも呼ばない。しかし、九十九の中では、それは2人きりの時だし、学校の生徒には知られていないからセーフだろうと自己弁護していた。
山下の考え方は多分、とても実直。
罰ゲームだろうが何だろうが彼女は彼女。
彼女を彼女として対応してなぜ悪いのだろう。
だからどんな場所でも九十九を彼女として扱うし、誰にも隠そうとしない。
九十九は、はぁ〜と息を吐いた。
(もともと罰ゲーム自体が常識じゃないし、私の考えがおかしいのかな?というかバレなきゃいいなんてズルイ考えなのかもしれない。)
と、少し諦めた。
「……ちゃんと山下くんが守ってくれるんだよね?」
「……え?」
「はい。」
そう言って九十九は手を彼に差し出した。
女子生徒から嫉妬でどんなイジメに合おうとも、山下に守ってもらうしかない。
でも山下が特定の女子と仲良くする行為に対するツラさを九十九も知っているし、今後、同じく味わうつもりなので、彼女達がどんなイジメをしてきてもつい同情してして庇ってしまうのだろうとも思う。
(ゴメンね。あと4日間だけ。彼の彼女でいさせて下さい。)
そう願い、手を彼にさらに突き出した。
山下は顔を少し赤くさせてフヨフヨと表情を緩め出した。そして差し出された九十九の手を繋ぐ。
「…ちゃんと守る。」
ボソリと小さく呟いた山下の言葉に心が満たされながらも、あえてそこには返事はしないでおいた。
「おはよー!」
ご機嫌な挨拶と共に山下が教室のドアを開ける。
クラスメイトは振り向き、2人の繋いでる手に注目した。
一瞬、しん…となった教室だったが、すぐにいつも通りの雰囲気になり「おはよう!」と女子生徒から挨拶をされていた。
クラスメイトは今まで何度も山下が九十九の腕を引っ張っていく姿を見ているのと、あきらかに疲れた九十九の表情を見て何かを察してくれた様子だった。
少し同情が入っている視線も混じっている。
教室に入り、山下の手を離そうとするとギュッとにぎられ、不思議に思い彼を見るとニコリと笑った彼は九十九を席に座るまでエスコートして、ようやく手を離してくれた。
(貴族かっ!!)
そうツッコミたかったがグッとこらえ、心を無にしていると、全てを見ていた津々見が山下に話しかけて来た。
「…………なぁ。お前のタイプってどんなの?」
「……………………はぁ?」
津々見に対する山下の声は日頃から低めだが、今日の声はさらにもっと低く感じる。
「…お前の女の好みだよ。…どんな?」
「だから何でいきなりそんなこと聞くんだよ。」
「結構、知りたがってるやつ多いじゃん。…で、どんな?」
クラスの全員が聞き耳を立てているのがわかる。
だって雑談がサッとなくなり静かになった。
「…お前に関係な……。」
お前に関係ない。と言い切る前に九十九の興味深そうな瞳と目が合ってしまった。少したじろぐ山下に促すようにまばたきをパチパチとする。
「…す、…好きになった子がタイプだよ。」
「それじゃーわかんねーよ。ほら。あんだろ。今まで付き合った女の共通点みたいな。……あ、じゃー可愛い子とキレイな子はどっちがタイプだ?」
「………キ、レイな子…」
「へぇ。あとは?……守ってあげたくなるような子か、対等に歩いていける子か。」
その言葉に山下は目線を上にあげ考えはじめる。
と、いうか津々見の言葉を聞いて「もしかしてそれは私のことを言ってるの?」と無性にザワザワした気持ちになり、九十九は彼を睨んだ。
津々見はそれに気づいたようで一瞬、目を合わせてすぐにそらす。
「………俺が立ち止まってたら、手をグイグイ引っ張って行ってくれる子…かな。」
「…え、」
「…うん。俺が出来ないこととか、考えつかないことをポンってしてしまって、俺の世界を変えてくれる……女神みたいな子がいい。」
クラスの女子が唖然とし、少しの絶望を感じる。
九十九はさらに大きな絶望が大きな衝撃とともに襲って来ていた。
「…へぇ、意外。お前は女からグイグイ来られるの嫌いに見えてたから。」
「…その子になら別にいいよ。」
(ああ…なるほど。)
九十九はそう思った。多分、察しの良い女子は同じように思っただろう。
(これは彼の好みの話しではなく、彼の好きな人の話だ。)
誰かのことを思い、その人について話している。そんな風にしか見えないし、聞こえない。
ハイスペックな彼が出来なかったことというのが気になるが、それより彼を引っ張っていける『その子』はどんな高いスキルがあるのか想像も出来ない。
誰もが憧れる山下が『女神』というのだ。
もうそれは人ではなく本当に女神なのでは?と思ってしまう。
彼から世界を変えてもらった九十九が、彼の世界を変えたという『その子』に勝てるわけもない。
「つーか女神って……そんな女いるか?」
「い、……ど、うだろう?…タイプの話だろ?」
(今とっさに「いるよ!」って言いそうになってたよね?どんだけ素直なんだろう。)
その素直さに心臓をえぐられているこっちの気も知らずに…と九十九はため息をつく。
「つ、九十九はどんな人が好み?」
(お前だよ!)
心の中で大声で言ってみた。
そして周りからは「男性嫌いな九十九になぜ聞いた」と雰囲気が漂っている。
「………え…と。…実直で素直で嘘がつけない人?」
まったくの補正なし、プラス先程の会話から誰にも気づかれない皮肉込みで発言すると、山下は少し顔色を悪くする。
(あ、何か嘘をついているな?)
そう思うもそれを問いただす気力が湧いてこない。
ああ…あと4日…何でそんな情報を知ってしまったんだろう……と、九十九は落ち込まずにはいられないのであった。
読んでいただきありがとうございます。
〈九十九の金曜日の予定〉
土曜の準備、山下くんへ脅し
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