色々なことの準備をしよう。
「おはよう!九十九!」
山下の笑顔がいつにも増して輝いている。
でも九十九も同じようにテンションが上がっていたので、ひるむことなく笑顔で返す。
「おはよう。土曜日休みが取れてよかったね!」
「うん。昨日休みもらってたからダメかと思った!しかも1番お客さんが多い土曜だし!」
「そうだよね。オサムさん怒ってなかった?」
「ううん。事の次第を1から説明してたら途中で『もうわかったから帰ってくれ』って言われた。」
「……………そう。」
(そ、それは…仕事を邪魔して無理に了承を得たのでは…?)
恐ろしい仮説が浮上したが心の安寧のため、気のせいだと思うことにした。
「あとで出かける時間を決めようね。あと水族館のスケジュールを確認して行きたいショーをチェックしとこう。」
「ふふ。うん。」
山下が子どものようにはしゃぐ姿が愛おしくてしかたがない。昨日に引き続き顔がニヤニヤしてしまう。
そんな九十九を見て山下はニッコリ笑い、手を繋ぎ歩き出す。
「九十九。楽しみだね。」
「うん。…あ、でも行けなかったらゴメンね。」
「俺は九十九と2人なら水族館じゃなくても全然いいよ。ずっとこの辺りを散歩でもいいし。」
「それは私が嫌だよ。だから頑張る!あ、でも手は繋いでてね。」
「うん。ずっと繋いでる。大丈夫。」
「………今は人がいないとこまでね。」
「……うん。」
流れるように手を繋いでいたので、今の話題がなければうっかり気づかず学校まで行くところだ。
(ってか、山下くんはあと5日で終わる罰ゲーム彼女と変な噂になってもいいのだろうか。あ、いや。何も考えてない線が濃厚だ。もしくは「俺たち仲良しなんだよ!」と意味不明な友達自慢かもしれない。)
不可解でやっかいな人を好きになってしまったなぁと思いながらも笑いがこみ上げてくるのだった。
「九十九さん、おはよう。これ提出するプリントなんだけど確認いい?」
教室に入ると鈴木が話しかけてくる。
フードデザインの授業が明後日にあるため、作る内容と過程と材料を今日中に提出しなければならない。
九十九はお菓子のレシピを。鈴木は作る過程をプリントに記入して合わせて提出する話をしていた。
鈴木から差し出されたプリントをもらい、代わりに九十九が書いたプリントを確認してもらう。
鈴木は真面目な性格が出ており、とても細かい動きまで作業過程に記入している。
良い出来に九十九は鈴木に尊敬の眼差しを向け何度も頷いた。
「よかった。九十九さんのも大丈夫そうだね。後で材料と一緒に提出しよっか。」
そう言って鈴木はニコリと笑った。
「つーか。フードデザインって結構、面倒くさいな。俺、選ばなくてよかったかも。」
そう隣の津々見が話しかけてくる。
「そうだね。結構、手間かも。でも好きなことだから楽しいよ。ね、九十九さん。」
鈴木の言葉に大きく頷く。
明後日が楽しみだ。
そういえば、こんなに楽しみが連続していることなんてあっただろうか、とふと九十九は思う。
いや、以前の九十九ならフードデザインの授業も山下と出かける行為も嫌でしかたがなかったはずだ。
そう思うと心の持ちようで世界は180度変わるのだと思い知らされる。
それを教えてくれたのは山下だ。
彼がどんなに無意識だろうと九十九の世界を変えてくれたことに違いなかった。
そんな思いで山下の方を向くと彼と目が合う。
なぜかぎこちない笑顔を返され、ぎこちなく目をそらされた。
「あれだよな。九十九と話してるといつも刺すような目で見てるくるよな。お前いつか殺されるんじゃね?」
「…や、やだな。怖い冗談言わないで。」
津々見と鈴木がボソボソ話しているが、内容がよくわからず九十九は首を傾けるのだった。
お昼休みになり、弁当を食べ終わった山下と九十九は目当ての水族館をケータイで検索していた。
「水族館の開演は9時からだね。何時から行こうか。ちなみに最初のショーが10時からみたい。」
「本当だ。結構早いね。あ、ラッコの餌やり見たい。」
「え、そこ食いつくんだ。それは午後からだね。行けたら絶対見ようね。」
「ショーに間に合うように朝、早くてもいい?」
「俺は全然いいよ。長く遊べるから早い方が嬉しい。」
「本当?じゃー9時頃に向かえに行くね。」
「う、…うん?…いや。俺が行くよ。9時な。」
「ううん。朝、用事があって少し遅くなるかもしれないから私が行くよ。」
「え、…や、遅くなってもいいよ。ゲートで待ってるし。九十九に向かえ来させるとか無理だから。」
「ううん。ダメなの。もう私の中でスケジュールが決まってるから変えられないの。向かえ来たら絶対ダメだから。」
「……え、絶対ダメなの?」
「うん。絶対ダメ。来たら中止だからね。」
「ちゅ!…中止!?」
「うん。中止。絶対に向かえ来ないでね。」
「行かない!」
まぁ中止とはお出かけのことではなく、九十九がしかけるサプライズが中止なのだが、そこはあえて訂正しない方がいいだろうと、口をつぐんだ。
九十九は『デート』と意識するとパニックを起こすため、『山下の誕生会』と置き換えて考えている。
そのおかげで、こんなサプライズをしたい、ならこれをしておかなければならない等、次々と頭の中で計画と準備が順序立てられていく。
今のところとても順調だ。
「山下くんは何かしてほしいことある?」
「…してほしいこと?」
「うん。誕生日だもん。何かない?」
「…何でもいいの?」
「うん。私が出来ることなら。」
次第に山下の顔が驚きの顔に変わっていく。
「…やべぇ。誕生日すげぇ。」
ボソリと呟いた山下の言葉が聞き取れず「え?」と九十九は聞き直すも、山下は首を振る。
「えっと、ちゃんと考えてから後で言ってもいい?」
「うん。あ、でも時間かかることとか用意しなきゃーダメなこととかは早めに言ってね。」
「うん。大丈夫。そんなんじゃない。」
そう言って彼はニコニコと笑った。
その日の夜は母と計画を練り直した。
「りんちゃん、これなんかどう?」とアドバイスを沢山してくれる。購入しなければいけない物も結構あり申し訳なく思うが、母は気にせず楽しげに勧めてくれるので九十九はとても頼もしく思った。
ちなみに父は少し離れたところで拗ねている。
そっとしておくのがいいと母に言われたので、従っておいた。
「当日はちょっと早起きしなきゃー間に合わないわね。前日に作れるものは作っておきましょ。」
「うん。本当にありがとう。あと、しなきゃーいけないことは電話と…。」
「りんちゃん。サプライズのことだけじゃなくて当日の服装とか髪型とかも考えなきゃ!」
「えぇっ!…あー。時間がない!」
「ふふ、とても楽しいわね。」
頭を抱える九十九に母はキャッキャと少女のように笑う。
そんな母に救われながらも、出来る準備を1つ1つこなして行くのだった。
そんな頃。
「ねぇねぇオサムさん。九十九に『誕生日にしてほしいことある?』って聞かれたんだけど、どこまでお願いしていいと思う?」
「………お前…エロいこと頼んだら嫌われるぞ。」
と、残念な会話が交わされていた。
「エロいってどこまで?…キスまで?」
「恋人でもねーのにキスはアウトだろ。」
「恋人だし!」
「いや、罰ゲームのだろ!…ああ、頭いてぇ。」
オサムは額に手を置き「なぜ俺がこんな相談を…」と唸る。
機嫌の良すぎる山下は面倒くさい。いっそ九十九に少し嫌われるくらいがちょうどいいかもしれない。とオサムは考え、すぐにいや、と否定した。
ここ1ヶ月の間に何度とあった2人のケンカ。その最中の山下について思い出す。
それこそ1週間ほど前にもケンカをしていた時(本人はケンカではないと言い張ってたが)の山下のことだ。
ホールに出て接客している時はまだいい。
貼り付けた笑顔を崩すことなく、無駄もなく動いてくれる。
問題は客がいなくなった時や休憩に入った時だ。
一切の感情を排除させた無表情になるのだ。
整った顔と切れ長の目がわざわいして迫力がすごい。しかも、いつも爽やかな王子スマイルを振りまいているのでギャップがひどい。
どのスタッフも山下の無表情を見るとオサムに怯えたように「彼どうしたの?」と訴えてくるのだ。
スタッフの精神衛生上よくないと、仕方なくオサムは頭痛とイラつきを抑え考え発言する。
「お前の前にも九十九ちゃんには罰ゲームの彼氏がいたんだろ。いくら仲が良くてもお前の立場はそいつらと一緒だ。お前はそいつらが九十九ちゃんに『恋人だからキスくらいいいよな』ってせまってもいいのか?」
「よ、よくない!!」
「だろ。だからお前はそいつらがやって許される範囲のことをお願いしろ。」
すると山下は少し考え、真剣な表情でオサムを見た。
「それじゃーハグも膝枕もお願いできないじゃん。無理!」
「よし、お前はひとまず嫌われろ。」
これ以上の会話はオサム自身の負担が大きいためシャットアウトされた。
読んでいただきありがとうございます。
鈴木さまとオサムさんが好きだ。
(いじめるのが、っていう意味ではない、ようなそうでもないような)
ちなみにオサムさんは山下の色んなことを知っています。




