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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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最終日の予定を決めよう。


「九十九。土曜日どこ行く?…うわぁーなんかヤバイこの会話ー!」


山下のテンションが朝以上に上がっている。

皆せっせと教室を掃除をしているのに、山下の周りだけ空気がお花畑のようだ。


「でも、九十九。前に行けないところが多いって言ってたもんね。あ、じゃーウチくる?」


あ、こら。そんなこと大声で言うんじゃない。と思い九十九は人差し指をスッと口元へやる。

山下の「ウチくる?」の一言で多くの女子がギョッとした顔をこっちへ向けているのだ。

バイト先、住んでるアパート非公開の山下の発言とは思えないだろう。


「掃除、ちゃんとして。」

「うん。」


そんなこんなでHRが終わり、いつも通り帰ろうとすると、今朝は持っていなかった紙袋を山下が大事そうに持っていた。


「…?」


不思議に思い山下の顔を見ると、それに気づいた彼が「実は、九十九としたいことがあって。」と笑顔で言い出した。


九十九の家に帰宅し、山下は紙袋の中にある箱を丁寧に机に広げていく。

それを九十九と母の恵美子が楽しそうに見つめる。


「じゃーん!!お茶セット!」


そう言って山下が手を広げて見せたのは、茶道部から借りてきた茶碗や茶せんなどの茶道具だ。


「この前のお茶会で正客したお礼に余った抹茶もらったんだけど、道具ないし飲めないって断ったら茶道具を貸すっていってくれたんだ。お茶会で九十九と抹茶飲めなかったから今度こそ一緒に飲みたいなって思って借りてきた!」

「うわぁ〜!うれしい!」


九十九は満面の笑みで山下を見る。


(一緒に飲みたい、とか嬉しすぎる!てか、可愛い過ぎる!)


ニヤニヤが止まらないのは、目の前の彼が可愛い過ぎるからだ、と九十九は自分の顔の緩みを彼のせいにする。


「ちょっとだけ、お茶の点てかた教わってきたんだ。俺が九十九の点てるから九十九は俺の点てて。」

「ふふ。できるかな?」

「大丈夫!上手く点てれるまで飲むから!」


決心した様子の山下を見て九十九は「あはは!」と声を出して笑った。

その後は二服ずつお茶を点てて飲み合い「美味しいね」と言い合ったあとに、2人の様子をニコニコと見ていた母、恵美子にも一服飲んでもらった。


「お加減いかがですか?」

「大変美味しゅうございます。」

「ふふ。」


山下とお茶会の復習のように作法を思い出しながら飲んでいたので、母も便乗してくれたことに笑いがでる。

少しした後に帰ってきた父、則文にも一服点てて飲んでもらった。父も嬉しそうに笑って「とても美味しい。」と言ってくれた。


「抹茶、使い過ぎちゃった。ゴメン。」

「ううん。あまっても捨てるだけだから、もし何か使うんだったら残りもらってほしいんだけど。」

「本当?じゃー抹茶アイスにして食べていい?」

「あは。いいよ!」


そんな会話をしなが茶道具を洗い、片付ける。

その後は宿題と山下がお茶会で受けられなかった授業内容をザッと説明をし終わった頃に夕飯となった。


今日の夕飯は手巻き寿司とトンカツだ。


「なぜトンカツ。」


ボソリと呟く則文と九十九に恵美子が「やっぱり変だったかしら。」と首を傾げる。


「年頃の男の子は手巻き寿司じゃー満腹にならないかなって思って。とにかく揚げ物を追加してみたの。」

「すごく嬉しいです。ありがとうございます!」


そう笑う山下を見るとやはり揚げ物は必須なのかもしれない。


手巻き寿司を作ったことがないと言っていた山下に作り方をレクチャーすると山下はキラキラした笑顔でおいしそうに食べていた。

先週での食事のおかげで両親も山下の食べっぷりには慣れたようだが、食後、空になったお皿を見て無意識に拍手をしていた。ついでに便乗して九十九も拍手をしてみた。


「あ、すみません。また遠慮もなく……」

「本当に作り甲斐があって嬉しいわぁー!」


と恵美子の楽しそうな声にどちらかといえば少食な則文と九十九が黙るのだった。



「デート?」

「はい!」

「凛花とデート?」

「はい!!」


なぜか2回聞いてきた則文に山下が笑顔で答える。


「え…っと、か、係が最後の日で。偶然にも山下くんの誕生日でね。お出かけすることになったんだ。」

「学校の係が何で土曜まであるんだ?」

「それについては置いといて。」

「俺が誕生日にバイト入れてたんで、不憫に思ったクラスの皆が祝ってくれることになって。」

「ああ。クラスの皆でか。」

「いえ。4時まで九十九と2人です。その後クラスの皆とパーティーだそうです。」

「…………。」


話について行けず、則文は黙る。


「どこに行こうかなって話してて。九十九があまり外出できないんならウチで過ごそうかなって。」

「いやいやいやいやいやいやいやいや。何言ってるんだ山下くん。」


則文の言葉に山下はキョトンとしている。


なぜ拒否されるのかわからないという表情から山下が九十九に対する感情が伺えるのに。

そう九十九は思い、小さくため息をつく。


「デートだもん!お出かけしなきゃー!ね、りんちゃん!」


恵美子は恵美子でとても嬉しそうに九十九の恋を応援しようとしてくれている。それには笑顔で返してみるが上手く笑えた感じがしない。


「じゃーどこか出かけてみよっか。無理だったらすぐ引き返せばいいし。」

「うん。」

「九十九はどこ行きたい?…買い物、カフェ、映画館、遊園地、動物園、水族館、あ、アウトドア系もあるかな、ツーリングとかデイキャンプ?は、ちょっと時間的に厳しいかな。」


ツラツラと並べられた山下の言葉に九十九は軽くパニックになる。全て行ける気がしない。


「……山下くんは?誕生日なのは山下くんだし。行きたいとこはないの?」

「俺?俺はどこでもいいよ。九十九と2人っきりでゆっくり過ごしたい。」


(あれ、私、口説かれてんのかな。)


そう普通だったら思ってしまうだろう。ってか、今のは普通に口説き文句だろう。

でも、これを本気にしてしまうと、さっきのようにキョトンとした顔で奈落に落とされるのだから。


両親が山下の発言を聞いて複雑そうに九十九を見たが「これ、いつものことだから。」という風に苦笑いして返した。


罰ゲームで山下の名目上の彼女になったが、彼は本当の彼女のように接してくれている。

それを学校でも九十九の家でも隠す気は全くないようで、堂々とノロケ発言してしまうからやっかいだ。

学校の生徒も、親も、九十九ですら、山下は九十九のことが本当に好きなのでは…と、勘違いしてしまいそうになる。

唯一、そう思わずに済んでいる理由が彼が次元の違うイケメンだからだろう。

「まさか山下は九十九が…いやいや、あのイケメンであれは選ばないだろう。」と。


それに、山下は九十九のことを女性としては見てないのではないだろうか。でなければ「ウチにくる?」なんて簡単に言えるわけがない。則文の拒否に、キョトンとした顔をする訳がないのだ。


(少し長く一緒にいたせいで妹のように思われてるのかな?)


そう思うと少し納得がいった。

妹を溺愛する兄。まさしくピッタリな感じだ。


山下を一人の男性として好きな九十九にとっては複雑でしかないが『ただのクラスの女子生徒』よりずっと距離が近いような気がする。


「あまり人が多くないとこがいいな。」

「あ、じゃー水族館はどう?隣町の水族館なら大き過ぎないし、まだ時期的にそんなに大勢のお客さんが来るイメージじゃないし。」

「そうだな。電車で二駅だし、いざとなったら歩いて帰れる距離だ。電車が無理なら車で送ってもいいし。」


両親のアドバイスが九十九の今までの経緯を取り入れた実にリアルな内容だ。

しかし、少しでも九十九を安心・安全に外に出させてあげようとしている真剣な提案が嬉しい。


「ふふ。そこなら行けるかも。…山下くんはどうかな?水族館。」

「うん。いいと思う。すごく楽しみ。」

「私も。」


ニコリと笑い合った。


その後、9時頃に彼は「今からバイト先に行ってオサムさんに土曜のことお願いしてくる。」と帰って行った。

10時頃にメールが届き『土曜日、休んでいいって!』とメールが来た。

九十九は嬉しくなりすぐに『すごくすごく嬉しい!楽しみだね』とメールを返した。


その日の夜、九十九は満足気に布団に入った。

今日1日で色んなことがあったと振り返る。


(山下くんの誕生日かぁ……あ、プレゼントを自然な形で渡せるかも。)


よかったと、ホクホクとした気持ちになる。


(罰ゲームが終わるけど、山下くんとのデートは楽しみだなぁ…)


寂しいような嬉しいような複雑な気持ちだ。


(山下くんとデートか……)


ふと、その言葉に違和感を感じた。


(ややや、山下くんとデート!?)


ハッと今までなあなあにしていたことに気づいた。

九十九にとって生まれて初めてのデートだ。

しかも相手は極上イケメンの上、九十九の好きな人。

そんな人と一緒に苦手な場所へ出かけて失敗しない訳がない。

急に緊張してくる。

微妙に手が震え出してきた。

ソワソワした気持ちが治らず、ベットから抜け出して台所にいる母の元へ行く。


「あら、りんちゃんどうしたの?」

「…お母さん。私…デート……無理かも。」


母、恵美子は「あら、気づいちゃったの」と飄々とした顔で言った。


「りんちゃん。その日はデートっていうより山下くんの誕生日を頑張って祝いましょう。」

「え、」

「山下くんが1日笑顔でいてくれて、りんちゃんは彼が生まれてきたことを精一杯お祝いして、それでりんちゃんも楽しかったなら大成功よ。」

「……そっか。」

「そうよ。もう時間がないけど彼の誕生日まで色んなプランを考えましょう!お母さんも協力するから。」

「うん。ありがとう!」


九十九はやっと手の震えがおさまった。

そして再度、布団に入り目を閉じる。

少しの緊張は残っているが、それは「よし、頑張ろう!」という気合いにすり替えた。


(山下くんの誕生日…心からお祝いしたい。)


そんな風に思いをはせ、眠りについた。




読んでいただきありがとうございます。

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