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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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最終日のお約束をしよう。



「九十九。今日すごく楽しみだね。」


朝の挨拶をした後すぐにそう言われる。

山下は本当にとてもご機嫌で笑みがこぼれ落ちそうだ。

朝からテンションの高い彼は無意識に九十九の手を繋いで歩き出した。いや、無意識かは不明だが、あまりにも山下が、遠足でテンションが上がり隣の子と繋いだ手を振り回している小学生のように見えて、九十九は離すのをためらった。


「人がいないとこだけだからね!」


そう言うと、山下は少し考えた後「うん。」と笑顔で答えた。



「おい。もうすぐで1ヶ月たつから、罰ゲームの話するぞ。ちょっと集まれ。」


1日中、ずっとご機嫌な山下だったが、午後の休憩時間にそう土間に言われ、初めて笑顔が消えた。


「えーっと。罰ゲームが始まったのがこの日で、31日だから……この日だな。あ。」


罰ゲームで付き合い始めた月が30日間しかなかろうが、28日間だろうが、ゲーム期間は31日間という決まりがなぜか最初から決まっている。

土間はカレンダーを指差しながら日付の確認をし、最後の日を指差して変な声を出した。


九十九は今までの罰ゲームでは終盤近くになると自分で日付を確認し「あと3日、頑張れ私!」と指おり数えていたのだが、山下との罰ゲームでは終わりが来るのが怖く、日付の確認をしていなかった。なんとなくこの週で終わりだな、くらいの感覚で過ごしていた。


「なんだよ。土曜日じゃん。つまんねーな。」


土間の声に九十九が顔を上げる。

彼の指が差した日付は今週の土曜日だった。

ということは、山下と過ごせる時間が1日減るということだ。九十九は地味にショックを受けていた。


「あ、」


そんな中、山下がそう声を出し、そのまま黙る。


……………。


彼からの次の言葉を待って、九十九と土間は黙り山下を見るも彼は喋る様子がない。


「………何だよ。」

「…え?」

「いや『あ、』って何だよ。言いたいことあるなら言えよ。」


土間が山下に詰め寄るが山下はキョトンとした顔をしていた。


「…いや、別に。ただ、誕生日だなぁと思っただけ。」

「はぁ?誕生日って誰のだよ。」

「え、俺の。」

「はぁあぁぁあ?」

「…!!」


九十九と土間は目を丸くする。


(わーーー!そういえば、以前まで個人情報をあまり聞かれたくないのかな?と思ってたから聞いたことなかった!すごい重大なこと!)


「え?!勇也もうすぐ誕生日なの?」

「えー!そんなんだ!」


話を盗み聞きしていた周りの女子が集まってくる。


「誕生日なのに、罰ゲーム最終日とかウケる!ついでに土曜日でも誕生日でも、罰ゲーム中は彼女作る行為はダメだからな!…ぷぷっ」


土間が嬉しそうにそう言うと周りの女子が「あんたねー!本当に馬鹿じゃないの?」「だいたい勇也がこんなゲームやる自体おかしいんだから!」と責められだした。

学習しないやつだ、と思い見ていると、山下がそれこそキョトンとした顔で喋る。


「別に。その日はバイトだし。」


教室が静まりかえった。

そのすぐあとに大勢の大声が飛び交う。


「はぁあぁぁあ?誕生日になんでバイト入れてんだよ!あ、お前もしかしてバイト先に好きな女がいるんだろう!」

「なんでバイトなんか入れるの!?それより、うちらがお祝いしてあげるから遊びに行こうよ!」

「それいい!皆で出かけようよ!」

「クラス全員でお祝いするよ!大きいお店予約しとくし!」


九十九は唖然とその光景を見る。


まず、誕生日なのにバイトを入れている山下に驚き固まっていた。

九十九家では誕生日は一大イベントだ。

プレゼントやらケーキやらを1ヶ月くらい前から準備してその日はその人の存在を感謝して祝う。

それが家では当たり前で、他の家でもそれが普通と思っていた。


そして、周囲の反応にも驚いた。

誕生日をとても大切な日として祝うのは周りの反応からして一緒なのだろうが、家族でもない人と過ごすイメージを九十九は持っていなかった。


九十九が対人恐怖症気味になったのは中学生の頃だ。その頃は周りは誕生日を家族と過ごしていた。

今、高校生になって誕生日は恋人や友達と過ごす、という選択があることに改めて気づいた。


(そっか。山下くんの家族はお姉さん家族だけだったよね。そっちに行かないのならバイトしてた方が気がまぎれるのかもしれない。)


誕生日に1人でいると寂しくなるはずだ。

それなら何か予定を入れて忙しくしている方がいいと彼は思いバイトを入れたのかもしれない。

彼は「誕生日だから皆に祝って欲しい!」なんて言うタイプではないし、言ったら言ったで女子生徒全員から大変な接待をされるに決まっている。

九十九はそう考え、先程の山下のキョトン顔に納得した。


「いやいや、仕事あるし。」

「誕生日だろ?言ったら休みくれるよ。」

「いやいや、たかが誕生日じゃーくれないよ。あ、まかないにケーキくらいは付くかも。」

「何言ってんの!勇也の誕生日を皆で祝いたいんだよ!休んでうちらとパーティしよ!楽しい日にしようよ。」

「いやいや、バイト先に迷惑かけて自分は遊ぶとかないよ。無理無理。」

「誕生日だろ!その日くらいは許されるっつーの。まだ日にちあるし、バイト先にまず言ってみろ!」

「いやいや、別にパーティとか得意じゃないし。バイト結構楽しいし。」

「あー!!もー!!あーいえば、こーいう!九十九!お前からも言ってやれ!」


オロオロと会話を聞いていた九十九は土間からの突然のパスに「え!!」と驚いた。


「お前からも『その日はバイト休んで、誕生日を一緒に過ごそう』って言ってやれ!」

「えっえっ」

「いやいや、九十九に何言わそうとしてんの。だいたいそんなこと言わないし…」


「そ、その日はバイト休んで、誕生日一緒に過ごそう?」

「休む!!過ごす!!」


あたりは一瞬にして静まりかえった。

九十九の言葉に鬼気せまる勢いで返事をした山下は次第に少しずつ頬を赤くしていく。


(あ、それ以上はダメだよ。18禁顔になっちゃうよ!)


そう思い焦りだすと、土間が「はぁあぁぁあ?お前からふざけんなよ!!」と怒りだしたので山下は普通の顔に戻った。


「もういい!この際そこはいい。誰の言葉に納得したかはひとまず置いといて。とにかく全員でどこ行くよ。この人数だろ。」

「え、俺は九十九と2人でデートするから。」

「はぁ?」


山下の言葉に九十九もギョッとして彼を見上げる。


「最後の日だし。誕生日だし。九十九に一緒に過ごそうって言われたから2人で過ごす。九十九、大人数とか苦手だし。」

「お前、何言ってんの?こいつの言葉は俺の言葉をそのまま言っただけだろ。」

「何言ってんの?全然違うし。」

「はぁあぁぁあ?」

「『誕生日を一緒に過ごそう』じゃなくて『誕生日一緒に過ごそう?』って言ったし。すごく可愛いし。」

「その違いわかんねーし!!」


(やめて。やめて山下くん。いたたまれない。)


ヒートアップする2人にドン引きする周囲。

このままどうなるんだろ、と心折れかけたところで「ちょっと落ち着こう。」と鈴木が話しかけてきた。


(す、鈴木さまぁーーーー!!)


鈴木は山下に妥協案を提示してきた。

九十九との罰ゲーム期間は土曜日の4時まで。それまで2人でデートする。その後はクラスの皆でお祝いパーティーをしてはどうか、と。


「え、5時からバイトする。」


山下の発言にさらにギョッとなり、鈴木からすがるような目線を送られる。

その目線にプレッシャーを感じながらも、カオスだったさっきまでの空気をここまで立て直してくれた鈴木に報いるために、九十九は山下を見た。


「…誕生日はちゃんと祝われてほしい。」

「だって、九十九はいないでしょ?」

「夜は無理だけど、楽しそうにしてるパーティの写真ほしい。」

「パーティの写真?」

「くれないの?」

「送る!」


そんなこんなで話は終わった。

九十九は胃が痛くなり、6限中はずっと腹部をさすりながら過ごしていると、前の席の鈴木も腹部を定期的にさすっていた。

明日は効く胃薬の話をしようと思った。




読んでいただきありがとうございます。


長い1ヶ月だったねー。

いやまだあと1週間残ってるけど。

正確には本日合わせて6日間。

胃はこれからも痛くなる。不吉w

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