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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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あと少しと実感します。


山下と一緒に保健室に着くとチャイムがなった。

先程の廊下での一悶着にクラスメイトがいたので遅れても大丈夫だと山下に言われる。


「付いて来てくれてありがとう。山下くんはもう行っていいよ。着替えるんでしょ?」

「いいよ。正客役は俺だけじゃないし。」


そう言って山下が保健室のドアを開けると、気づいた保健医の金城先生がこちらを向いた。

九十九はハッと驚き固まる。


(あの人達を逃さなきゃという思いでとっさに言ってしまったけど、保健室の先生って男の人だった。)


ほぼ面識のない男性に触られるのは厳しい。

九十九は少し後ずさってしまう。


「九十九。俺が手当てするよ。」


九十九の表情を見て、察してくれた山下が救いの一言を言ってくれる。それに頷きかけた。


(……って無理!!)


好きな人に大根のような足を間近で見られた挙句、触られるなんて死んでも無理だ!

そう思い、頭を高速で横に振る。


「おい、どうした?何かあったのか?とにかく入れ。」


そう言われ、それには素直に従うも先生と山下の「手当てする」という言葉を断固、拒否して自分で治療した。

その後、1人戻れると訴えるも、それには納得してくれなかった山下に教室まで送り届けられ無事に授業を途中から受けた。


5限が終わるとケータイに画像が送られているのに気づく。

午前中の爽やかな雰囲気とは違い、濃い青のような緑のような色の着物で、よく見るとデニム生地だった。


(かぁっこいい!!)


襦袢と羽織、あと被っているハットの色が渋い茶色でとても大人っぽく見える。


4枚あった画像の最後は、多分、津々見が強引に撮らせたのだろう。津々見、山下、芹川が3人美しく並んでいた。

今までの写真は笑顔だったのに最後だけ山下の表情が抜け落ちていることに笑いがこみ上げる。


(あぁ…本当に好きだなぁ…)


なんだか涙が出そうになる。

彼の存在が大き過ぎて、彼と別れる未来がどんどん怖くなっていく。この時間が止まればいいのにと思ってしまう。

でも、それでも彼との時間が早く来ないかと待ち望んでしまう自分もいる。

ぐちゃぐちゃだと思った。

矛盾だらけで、自分の感情さえわからない。

だけど、多分この気持ちだけは本当なんだと。


(山下くんが好き。)





6限目の途中で、制服に着替えた山下がやっと戻ってきた。

デニム生地の着物姿を生で見れなかったのは残念だが、やっぱり制服姿が落ち着くなぁと思い彼を見ていると目が合い、ニッコリと笑顔を向けられた。

とてもご機嫌な笑顔だ。九十九は少し不思議に思うも、授業中なので聞くこともできなかった。


放課後になって、山下が先程同様、ご機嫌な様子で「九十九、帰れる?」と聞いてきた。

頷き、席を立つ。


「ねぇ、九十九。今日オサムさんに、月曜にバイト休んでいいか聞いてみるから、よかったら予約いれてもいい?」

「月曜にうちに来る?…うん。多分いいと思うよ。あ、オサムさんからOKが出たら教えてもらっていい?」

「うん。すぐにメールする。」

「うん。あ、すぐって言っても休憩中とかでいいからね。」

「うん。わかった。」


そんな話をしながら歩いているとすぐにゲートまでたどり着く。九十九は足を止め山下にお礼を言おうとすると、何かを決意したような顔の山下から「行こう!」と腕を引っ張られる。


「…え!どこに?」

「九十九にケガさせたこと謝らないと。今なら恵美子さんいるよね?」


山下の言葉にギョッとする。

あの時「山下くんのせいじゃない」と言ったつもりだが、伝わっていなかったようだ。


「いやいや、大丈夫だよ!だいたい山下くんがケガさせた訳じゃないから謝ることないよ!」

「でも、俺のせいだから。」


山下の真剣な表情に九十九はあせる。

最近は両親を心配させてばかりだ。

先日の女の子達に呼び出され、叩かれ噴水に落とされた事件をはじめ、一昨日は失恋したと大泣きして、昨日は落ち込み、ため息の連続。

もうこれ以上、何かが続くと…


「転校させられちゃうから!」

「……え!!!」

「これ以上、大騒ぎしたらイジメにあったと勘違いした親から転校させられちゃうから!」

「そそそそそそそんなのだめだよ!」


(まぁだいぶ話を盛ってみたけど、あまりにもひどいことが続くと両親が学校に乗り込むのも時間の問題だし。)


「うん。私も嫌だよ。だから今回は大事にしないで。次からはちゃんと山下くんに守ってもらうから。ね?」


とは言ったものの、罰ゲームはあと一週間ほどで終わるので山下から守ってもらえる期間もあと少しなのだが。しかし、山下に関係のある事件はその期間が過ぎたらなくなるはずなのである意味、間違いではない。そう自分に言い聞かせる。


「………う、うん。………でも。」


山下は罪を隠蔽するみたいで嫌なのだろう。苦虫を噛み潰したような顔をした。


「あの時は助けてくれたし、あの子にもやり返してくれたし、他の生徒にも謝罪するように言ってくれたでしょ?それなのに山下くんが怒られたり責められたりするのは嫌だよ。本当に大丈夫。」

「………わかった。」

「そんなことより、月曜日のことを楽しみにしてるね。メールちょうだいね。」

「っ!うん!」


そんな風に話をそらしすことに成功し、山下と別れた。




夕食の前に山下から『月曜日いいって!』とテンション高めのメールが届いた。

九十九も嬉しくなり、すぐに顔を上げて両親に声をかける。


「お父さん、お母さん。また月曜日に山下くんを遊びに連れて来ていい?」


九十九の言葉に両親がともに「え、」と驚き、戸惑った様子が見てとれた。

不思議に思っていると、気まずそうに母が近いてくる。


「りんちゃんは…その…大丈夫なの?…山下くんが来て…」

「?…大丈夫だよ?」


そう言ったとこで、ハッと気づいた。

一昨日、九十九は「失恋した」と大泣きしていた。

母には山下が好きなことは伝えてあったし、だいたい男性が嫌いな九十九が好きになる人といえば、家に上げてもいいほど仲の良い山下くらいしかいない。そんな風に父が気付いてもおかしくない。


失恋した娘が、失恋相手を家に連れて来てもいいかと聞いてきたら、こんな風に気まずそうな表情になって当然だろう。


「……あー。えーっと。その………勘違いだったの。私の。」


何か言い訳を…と思ったがまったく思いつかなかったし、無理して嘘をつくと山下が不利になりそうだったので素直を言うしかなかった。

多分、顔は真っ赤だ。


「え、りんちゃんは……失恋してないの?」

「…うん。…好きな人ができたと思ってたら…その…違ったみたいで…。」

「そう!よかったわね!…あれ?喜んでいいのかしら?…いいわよね!…もちろん、呼んでもいいわよ。ご飯なに作ろうかしら。楽しみね!」


母が満面の笑みで飛び跳ねるように喜んでくれた。九十九は自分の片想いが親公認のような形になってしまい恥ずかしくて部屋にこもりたい気分になったが、母が本当に喜んでくれたので「うん、ありがとう。」と返すしかなかった。


その横で父が笑うのを失敗したような顔をしていた。


その後に山下へメールを返す。


『親に月曜日のこと言ったよ。もちろん、いいよって!楽しみにしてるって!』

『本当に?よかった。俺もすごく楽しみ。』

『お母さんが張りきってたよ。夕食何が食べたい?』

『え、俺また夕食いただいていいの?めっちゃ食うのに…何か悪い気がする。』

『まさか。いっぱい食べてくれて嬉しいって言ってたよ。好きな食べ物なに?』

『……う〜ん。……………甘い卵焼き。』

『それ、夕食のおかずにならないよ。』


そんなメールをつらつらとし続けた。

昨日と違って楽しくて仕方ない夜だった。



土日は母に頼んで買い物に出かけた。

フードデザインで使う材料だ。鈴木と話し合い、材料を書き出し、2人で買う物を分け合った。

九十九は土日に買い物をすませると言っておいたので、なま物ではない食品を主に担当した。


それと。

今週で山下との罰ゲーム期間が終わる。

山下に何か形に残るものを送りたかった。


(迷惑に思われるかな?)


と、色々考えたが、その時はごまかして持って帰ろう、と苦肉の策をたて、今はこの気持ちに素直に従ってみようと思った。


彼の家には何もない。

選び放題のようで、逆に邪魔にならない物と悩んでしまい、色んな店をグルグル回り、母には迷惑をかけてしまった。


結局、疲れた先に入ったお店で一目惚れしたグラスを購入した。

温かいものも冷たいものも両方使えるグラスで、液体を注ぐと薄っすら花の絵が浮かび上がる。


「きっと喜んでくれるわ。」


そう母に言われ、顔を上げると母はとても複雑そうな顔をして九十九を見ていた。

よほど自分が辛そうな顔をしていたのだろう。

グラスを購入した後、色々な後悔や不安が襲って来たからだ。


罰ゲーム期間が終わってしまう。

こんなもの欲しくないかもしれない。

でも彼は優しいから多分いらなくても受け取ってくれる。何でこんな物買ったんだろう。


ジワジワとこみ上げる負の妄想が九十九の顔を曇らせていた。

母の言葉を聞いて九十九はハッと我に返る。


「うん。そうだね。」


それだけ言って母と家に帰った。




読んでいただいてありがとうございます。

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