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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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強者は当然、報復する。



「君、もう帰っていいよ。」


しばらくして九十九が落ち着いてきた頃、山下がミオにそう告げる。


長い間、山下の胸で泣いていたつもりでいたが、ミオや周りにいた生徒が動いてないことから、さほど時間はたってないようだ。


そんな中、真っ青な顔色のミオが山下の言葉に顔を上げる。


「え、」

「茶道部の部長には俺から帰ったって伝えとくから。もともとミオさん、茶道部じゃないんでしょ?」


山下のその言葉に九十九とその他の生徒が「え、」と反応する。


「だって、亭主役も1回だけだったでしょ?しかも俺のクラスの時に無理言ってやらせてもらってたし。それに動作がぎこちなかったし、お茶も美味しくなかったし。」

「…………。」


あまりにもあけすけな山下の発言に誰もが黙る。


「ずっと上手い人のお茶を飲んでたしわかるよね。…もしかして俺がこの学校にいるかもって思ってたから、たまたまここでやるお茶会を知って参加してみた?」

「そんな……。それじゃーミオがストーカーみたいじゃないですか。」

「あ、違うんだ。……あの日。ミオさんと駅で初めて会った日。ミオさんは彼氏といたよね?すげーラブラブしたカップルだなぁって思ってたんだけど、ミオさんは俺の顔を見て目が合った後に、急に彼氏を振り出したよね?あの時は本当に驚いた。」


山下が急に話しだしたことに九十九とその他の生徒は意味がわからずハテナマークを浮かべているが、ミオは口をワナワナさせて震えていた。


「彼氏もビックリしただろうね。ついさっきまでラブラブしてたのに突然『別れよう』だもんね。いきなりどうして!なんで!って言いたくなる気持ちはすごくよくわかるよ。俺はただの痴話喧嘩だなと思ったし、正直かかわりたくなかったから無視してたのに、ミオさんが『助けて下さい!』って俺の背中に隠れてきたから仕方なく相手と話したんだよね。ミオさんを助けるためっていうか、彼氏が不憫でならなかったから。」

「…………。」

「その後、俺が電車を降りるまでしつこく名前と学校を聞いてきてたから、初めて学校で声をかけられた時はストーカーかなって思ったよ。」


いや、それ、確実にストーカーじゃん。と、会話する2人以外は心でつっこむ。


「ミオそんなことしないです!本当に偶然で…」


彼女の瞳にジワリと涙がたまる。

彼女のしでかしたことをうすうす分かっている生徒でもミオの表情を見て心配そうな顔をしだした。


「そうなの?ちなみにその振られたミオさんの元彼氏…トオルくんとはメル友になったんだよね。何日か後にバイト先に来るくらいには仲良くなったよ。」


ミオの涙がヒュンと引っ込む。


「トオルくんいわく『俺は3番目の運命の人』だって言ってたよ。じゃー俺は4番目なのかな?もしかしてもっと後かな?」

「……………。」

「こうゆうこと。九十九にしたようなこと…初めてじゃないよね?全体的に杜撰な計画なのは、それでも騙される男が多いからかな?」


山下が淡々とミオを追い詰めていく。

ようやく九十九は山下が最初からミオの性格を知っていたことに理解し、疑問が浮かんできた。


「…好き…だったんじゃ…ないの?」

「え、」

「彼女のこと。…だって急に仲良くなった…。」


最初こそ冷たい態度でミオに接していた山下だが、すぐに態度を改めていた。だから九十九は山下が彼女を好きになったと思ったのだ。


「好きじゃないよ。むしろ嫌い。」

「じゃーなんであの時……。」


あの時、あんな笑顔を彼女に向けたのか。

あの時、彼女の名前を呼びだしたのか。

あの時、一緒にご飯を食べようとしたのか。


これを言ってしまうとドロドロとした感情も一緒に吐露してしまいそうで言葉を止める。


「だって、俺と九十九のこと『ステキな2人』って言ってくれたから。」

「…………………ん?」

「ここの学校の人達って俺らを見たら『似合わない』とか『釣り合わない』とかばっか言うんだよね。俺と九十九ってこんなに仲がいいのに。」


いまだに山下は九十九の腰に手をまわした半分抱かれたような状態だ。仲がいいという言葉は否定できない。

しかし、それ以上に『似合わない』『釣り合わない』という言葉はもっと否定できない。


「ミオさんのことは好きじゃないけど俺ら2人のこと褒めてくれるから側にいてもいいかなって思っただけ。」


(あれ?おかしいな。言葉の単語は理解してるのに、内容が全然、理解できない。)


九十九は首を傾げながら、助けを求めるかのように視線をさまよわせると、周りにいる生徒も同じような顔で頭を傾げていた。

目が合い、初めて気持ちが通じ合った。


「……えーと。えーと。お昼一緒に食べようって…」

「だって、九十九は隠したがってたけど手作り弁当とか本当はもっと自慢したい!俺に向かってしか見せない笑顔とか話し方とかをもっと皆に知らしめてやりたい!…まぁ本当は誰にも見せたくないって気持ちもあるけど他校の女子ならいいかって思って。」

「………………。」


(あれ?おかしいな。山下くんがなんか嬉しいかんじなこと言ってくれてる風なんだけど頭痛がひどくて少しも喜べないなぁ。それに私この前、泣いたよね?嫉妬と失恋で泣き叫んだよね?家族はずっと心配してくれてたよね。)


「私の涙かえせ!!」

「え!!」


私の突然の叫びに山下が驚き目を丸くする。


(いや、違う違う。それを言いだすと色々と面倒だ。)


「彼女が言った言葉なんて嘘に決まってんじゃん!私達が似合うわけないし!ステキなわけないでしょ!」

「…なんでそんなこと言うの?そんなことないし。」


山下がムッとした顔で九十九を見る。


くそぅ、そんな顔ですら可愛く見えるから恋愛はやっかいだ。と九十九は山下から目をそらす。


「あ、九十九。ちょっと待ってて。」


山下は九十九の腰にまわした手をほどき、ミオの前まで歩いていく。

ミオと周囲の生徒が山下の表情を見て顔を引きつらせながら無意識に一歩さがるのが見えた。九十九からは彼の顔は見えないので皆の反応を不思議に思う。


山下はそっとミオの耳元に顔を近づけて、短い言葉をボソボソと話した。

ミオはその言葉を聞いて絶望的な表情をする。

それが聞こえていた数人の生徒も顔色を悪くしていた。


「……わかった?…じゃー帰っていいよ。」


顔を離した山下がミオにそう言うと、彼女は何度か頷いた後に走って行ってしまった。


(…何を言ったの?)


頭痛がさらにひどくなったような気がして九十九は手のひらを額に置く。


ミオが退出したことで周囲にいた生徒も教室に戻ろうと足を動かし出すと、


「お前たちは帰っていいなんていってないけど。」


山下の少し低い声が響き、生徒は肩を震わせ足を止めた。


「九十九をあんな風に責め立てておいて、自分たちは関係ないとでも言う気?」


(わー!やめて!山下くんいいから!本当にいいから!)


彼らはミオに騙されていただけだ。

真実がわかりミオが退出した。それに山下の気持ちが知れただけで九十九は満足だ。


九十九は慌てて山下を止めようと階段を降り、彼の近くへ寄り、着ている着物を引っ張る。


「九十九に謝って。」


山下の言葉を聞いて口をワナワナさせていた生徒達だったが九十九の焦っている姿を見て、少し落ち着いたようだ。

ミオをかばって発言した男子生徒が前に出て頭を下げた。


「ごめん。」


すると、次々と生徒から謝罪の言葉が飛んでくる。九十九は頭を横に振ることしか出来ず、逆に大変申し訳ない気持ちになった。


「九十九。本当にこんな謝罪でいいの?土下座くらいしてもらった方がいいんじゃない?」


山下の発言に九十九と謝罪してくれた生徒全員がギョッとする。


「いい!もう満足!本当にいい!」

「…本当に?俺はあんまり満足できてないけど。」


(やばい!山下くんの暴走がとまらない!どうしよう!どうしよう!………あ!)


「……っ…山下くん。それより足が痛い。」

「…っ!!!……そうだったね!遅くなってごめんね。すぐに保健室行こう!」

「うん。すぐに行こう。」


少しだけ振り返ると、先程の彼が手を顔の近くまで掲げ「わるい!助かった!」と、ばかりの表情をしていたので、九十九は頷き「いいから早く行って!」と表情で返事をした。

伝わったようで彼らは蜘蛛の子を散らしたようにササッと逃げていった。それを見て九十九はホッと一息つく。


「九十九?」

「………ん?」

「ごめんね。」


先程とは打って変わったように山下はか細い声で九十九に謝罪してきた。

九十九は意味がわからず頭を傾げる。


「九十九が女の子達に呼び出された日、今後こんなことさせないようにするって約束した。あれからまだそんなに経ってないのに九十九にケガさせてしまった。ごめんね。」


以前も見たことのあるツラそうで痛そうな顔でポツリポツリと言葉をこぼす彼に心臓がぎゅうぅうう〜と締め付けられる。


「………山下くん。…さっきは本当にありがとう。とても嬉しかったよ?」

「…でも、もっと早く対処してれば九十九はケガをしなかった。」

「山下くんは、山下くんを好きで暴走した全ての人の罪を背負ってくの?そんなの無理だし、そんな必要もないよ。彼女がした罪は彼女だけの罪だよ。」

「九十九。」

「そんなことより、私は、私を救ってくれた山下くんに感謝してるの。あんな状態だったのに信じてくれたこと、守ってくれたこと、助けてくれたこと、嬉しかった。」


ジワリとなみだが瞳にたまるのがわかったが、これは歓喜の涙だ。隠す必要がないと思ったのでそのまま彼を見ていた。


「ありがとう。山下くん。ありがとう。」


心からの感謝を素直を彼に伝えた。

伝われ。ちゃんとこの想いが伝われ。と強く思いながら言葉を紡いだ。


山下は眩しいものを見るように目を細めた後、少しずつ顔を赤くしていく。


「………うん。」


それだけ言って彼は顔をそらし、九十九の手を引いて保健室に歩き出した。




読んでいただきありがとうございます。

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