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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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強者は当然キバを剥く。


「何?どうした?」

「や、あの罰ゲームの女が山下に近づいたあの子を突き落としたらしいぞ。」

「はぁ?階段から?めっちゃあぶねーじゃん!ひでーな!」


そんな声が耳に入り、九十九はゾワゾワと全身が総毛立つ。緊張と恐怖が身体を金縛りにし、何も言えない動けない状況は続いていた。

そして、


「ミオが全部悪いんです!どんな罰もミオが受けます!だから山下くんにキツくあたるのはやめてください!」


彼女の大声の訴えも続いていた。

ミオがポロポロと涙を流し悲痛な声で謝罪しているのに対し何の反応もしめさない九十九に多くの冷たい視線が向けられる。


「え?何?俺、今から着替えるんだけど!」

「それどころじゃないんだって!早く来い!」


と、聞き慣れた声が響き、九十九はやっと体を動かし声の方へ向くことができた。


どうやらこの騒ぎを見た男子生徒が「非常事態!」と山下を呼びに行ってくれたらしい。

連れて来られた山下がことの次第を目の当たりにし、目が大きく開いたのが遠くにいてもわかった。


この状態で彼の存在が希望に見えた。

九十九は無意識に手を伸ばして、彼に近づこうと一歩前に進む。


「山下くん!…違うんです!九十九さんは悪くないんです。ミオが全部…わ、悪いんです。」


九十九が動くよりもずっと早く、ミオは山下のもとへ駆け寄り、先手必勝とばかりに泣き叫ぶ。

それを見た山下は困惑してミオと九十九を交互に見る。


すると、近くにいた男子が山下に「お前の罰ゲーム彼女が突き落としたらしいぞ。」と告げた。


山下は目を見開き九十九を見る。

九十九は事態の悪化でヒュッと喉がなった。


階段の真ん中で立ち尽くす九十九。

散乱したお茶缶。

泣くミオ。

周りの冷たい目線。

どれも九十九がミオを突き落としたことを裏付けるような状態に九十九は顔を真っ青にしてカタカタと震えるしかできない。

「違う!」と叫びたいのに緊張で喉が張り付いたかのように声が出ず、ハクハクと口を動かし、頭を少し振ることしかできなかった。


「…九十九…」


山下の顔がつらそうに歪む。


「山下くん!…ミオ、…ミオ、助けてくれた山下くんのこと本当に感謝してて、始めは優しい山下くんのこと、お兄さんのように思ってて…でも、……気づかないうちに…少しずつ好きになってしまって…それを九十九さんに気づかれてしまって…」


先程までとはうって変わり、ミオはポツリポツリと山下に訴える。


「……ミオが悪いの。九十九さんに言われて初めて山下くんへの気持ちに気づいたの。ごめんね。好きになってしまってごめんなさい。」


ミオが涙をポロリポロリと流す。

周りの生徒はそれを同情したような、また眩しそうな顔で見ている。


九十九はその光景を見ながら心がスーっと冷めていくのがわかった。まるでもっと高い位置から俯瞰で芝居を観ているような感覚になる。


もともと山下はミオに好意をもっていた。

彼女がなぜこんな大袈裟な芝居をしだしたのかは不明だが、こんなことをしなくても彼は彼女のものになっていたはずだ。


(あ、もしかしてあと1週間が待てなかったのかな。)


こんな事件をおこせば罰ゲームなど破棄されて当然だ。好きな人を階段から突き落とした女と一緒にいられるはずがない。


(……あぁ…罰ゲームもこれで終わりかぁ…。)


九十九は絶望を通り越し、何の感情も持てなくなっていた。


罰ゲームが終わったら山下との関係はどうなるのだろう、と考えていたがそんな不安は杞憂に終わったらしい。

でも、彼女は…ミオは嫌だな。人をはめておとしいれるような女の子。山下にはもっと優しくて可愛い女の子と付き合ってほしかった。…いやいや、誰であっても嫌に違いない。どんないい子でも、どこか悪い点をあげて同じように「彼女は嫌だな。」と思うに決まっている。


自嘲気味に九十九は笑い、この後の進展を見る。

早くこの場を離れたいが、そういうわけにはいかないだろう。


「…ミオ、こんなこと山下に言うつもりなくて…こんな…困りますよね……つっ……こんな泣く子…山下くん…キライですよね?」


(あぁ…本当にこの子は庇護欲をそそるなぁ。)


周りにいる数人の男子が心配そうな顔をし、大丈夫だと抱きしめてしまいそうになっているのを遠目で確認する。


そんな彼女に山下は優しい笑みを浮かべた。


「そうだね。泣く子っていうより君のことは嫌いかな。」


………………。


長い時間その場が静かになった。

耳に届いた言葉があまりにも信じられず、何度も頭の中で山下の発した言葉をリプレイする。

10回ほど繰り返したところで我に返った。


(…んん!?)


唖然としていたミオも我に返り、驚愕の顔で山下を見返していた。


「…や、山下くん!ミオのことキライなの?」

「うん、知らなかった?」


極上の笑顔で猛毒を吐きちらかす彼に周りの生徒も開いた口が塞がらない。


「ねぇ。それよりこれってどういう状況なの?九十九が君を突き落としたって言ってたけど…。」

「…ミ、ミオがお茶の道具を運んでたら、いきなり押されてこけて……見上げたら九十九さんがいて……。」


(おい。喋るんかい!…私をかばっているていで行くんじゃなかったのかい!)


周りの生徒も山下の発言に唖然としていたものの、ミオの言葉で九十九の存在を思い出したのか、再度、侮蔑のこもった視線が向けられる。


「…それで?それを見た人は?」

「…え、」

「皆は九十九を怖い目で見てるけど、彼女が言っていることを証明できる人はいるの?九十九が彼女を突き落としたのを見た人は?」


山下の発言に周囲にいた生徒は目配せ合い、1人の男子生徒が少し前に出てきた。

ミオを先程から心配そうに見ていた男子だ。


「…その場は見てねーけど、声がしてすぐ見たら階段に2人がいたのを見たよ!」

「それは落とした証拠になるの?」

「それは……でも、あの子が落ちるとこを見た!そのときすぐ近くにお前の彼女がいたのは間違いない!」

「…よく見てたんだ。じゃーその時、九十九もこけてなかった?」

「…え、」

「ちゃんと思い出して。ミオさんが転倒した時、目の前にいた九十九もこけてなかった?」


彼は目を階段の方へさまよわせた。


「………こけて…いた…」

「だよね。」

「でも!この子を押した反動でこけただけかもしれないだろ!あの状況でお前の彼女が押さなきゃ誰が押せるんだよ!」


彼はどうやらミオをどうしてもかばってあげたいようだ。


「九十九はそんなことしてないよ。」

「お前は見てなかっただろ!」

「見てなかったけど、少し考えればわかるよ。お前らは偏った見方しかしてないから見えないだけだ。」

「……はぁ!?」


山下が男子生徒を、そしてその周りにいる生徒も嘲るように鼻で笑うと、その子たちは烈火のごとく怒り出した。


(山下くん!何言い出すのー!やめてやめて!)


人当たりのいい彼がこんな発言や態度をとるなど信じられず、また自分のせいで彼が叩かれるなんて絶対イヤだと九十九は焦る。


「可愛い子が階段から落ちたら目の前にいた人が突き落としたってことになるの?可愛い子が泣いたらその子の言っていることは全て正しいの?」

「……っ!」

「俺からしたら、皆から非難をあびて声も出せないほど震えてる九十九の方がずっとずっと可哀想で可愛いけど。………九十九。足ケガしてるよ。大丈夫?」

「え!」


九十九は驚き自分の足を見ると両足の脛から血が流れており靴下まで達している。あまりにも恐怖で今まで痛みを感じていなかった。


そして、それに気づいた周囲の生徒も一瞬にして怒りをしずめたようで初めて非難や侮蔑以外の視線を九十九に向けた。


「それで?…押した反動でこけた…だっけ?おかしいな、それだったらあんな所をケガするかな?」


山下の発言に周囲がハッと息を飲むのがわかる。


九十九のケガは脛だ。そうなるとこけた時、彼女の体は階段を登る方を向いていたということになる。下段にいるミオを突き落とすには無自然な姿勢だ。


「前を向いて後ろの人を押せるわけないよね?ってか、ケガをしてるあたり押されたのは九十九の方かな?…あれ。おかしいな。ミオさんはさっきいきなり押されたって言ってたけど、聞き間違えかな?もしかして自分が押したって言いたかったの?あぁそっか…自分から当たりに行ったのなら受け身ができて怪我なんてしないもんね?…ね。ミオさん。」


いつのまにか喋らなくなっていたミオの顔色は真っ青だ。

次第に周りの生徒の空気が不穏になりミオを見ている。


「ち、違…!」

「そういえばお茶の道具を運んでたようだけど、運ぶなら広間か和室だよね?…階段登ってどこに持って行こうとしたの?…どこが目的だったの?…それとも九十九が目的だったの?…ねえ。言って?」

「………。」


彼女はそのまま喋らなくなってしまった。

先程までと反転し、ミオは非難や侮蔑の視線をあびていた。もはや顔を上げることができない。


山下は一瞬、冷たい目を彼女に向けた後、振り返り九十九の方へ来る。


「九十九。大丈夫?痛かったね。怖かったでしょ?」


緩く手を広げて九十九の近くへ寄ってくる。皆の前でハグなんて無理!…と、普段なら拒否していたであろう。

しかし、間も無く決壊する涙を隠すには彼に従うほかなかった。

というのは後から言うための言い訳だ。


本当は怖くて怖くてたまらなかった。

このまま全てが壊れてしまうと思っていた。

これからの学校生活を諦めはじめていた。

でも、山下は信じてくれた。

助けてくれた。

そんな彼のそばで安心したかった。


山下の胸に顔を寄せると、彼は九十九の頭を抱えるように抱きしめてくれる。


「……ふっ……っ………っ…」

「…大丈夫。…大丈夫。…怖かったよね。もう大丈夫だから。」


声を殺して泣く九十九を山下がなだめる。

そんな様子を周囲の生徒は気まずそうに見ていた。




読んでいただきありがとうございます。


どっかでみたような展開だ(コラ)

でも、これがなきゃー楽しくないよね♪


ついでに強者=山下くんです。w

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