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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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強敵は当然攻めてくる。


今日はクラスごとにお茶会があるので、時間を見ながら授業をする。

他のクラスのお茶会に正客として参加する人は、後で受けれなかった授業を個別にすると言われ、選ばれた3人は肩を落としていた。


「今から着替えるんだね。いってらっしゃい。」

「うん。…いってきます…」


テンションだだ下がりの山下に声をかけて送り出す。


1限目も終わりに近づいた頃に津々見と芹川が着物姿で教室に戻ってきた。

クラス中が騒然となる。


(わぁー!かっこいい!キレイ!)


着付けをした人は美的感覚がいいのだろう。

ワイルド系イケメンの津々見は黒の襦袢に濃い灰色の着物を着流しており濃紺の羽織を着ている。全体的に黒いイメージであるが帯の柄が今風で怖いイメージをやわらげている。

芹川は薄紫の着物で紫陽花が上品に描かれており華やかだが派手すぎず、芹川の妖艶さを引き立てている。


席に着いた津々見が九十九の視線に気づき「見惚れてんな。」と言ってきた。

瞬時にときめきが霧散する。

ひとまず舌打ちをしておいた。


(あれ。山下くんは?)


「あいつは1番手。2限目からお茶会が始まるから、多分もう広場でスタンバってる。」


残念。とても見たかった。と、少し目を伏せると「ほら」と津々見がケータイを突き出してくる。

見ると着付けをされた山下の写真があった。


(わぁーーー!かっこいい!)


紺の襦袢に水色の着物、その上に紺の羽織が山下の爽やかさを200%引き出している。

少し不機嫌そうな表情が残念だが、このツンな感じもあまり見ないので九十九には嬉しいばかりだ。


(この写真ほしい!でも本人の許可なくもらうのはダメだよね。後で聞いてみよう。あ、それとも撮らせてくれるかな。いやいや。さすがにダメか。じゃーこれを記憶に焼き付けよう。)


しばらく画像をガン見していると「さすがに返せ」と言われて渋々そうした。


お茶会ではケータイの持ち込みを禁止している。盗撮防止だ。そうでなければお茶会中シャッター音がなりやまない、と会議で出たそうだ。

皆、我慢しているので九十九だけ山下に頼むのはダメなことだと自重するしかない。



2限目になると遠くの方で女子の叫び声が聞こえてくる。

どうやら山下が登場したらしい。


(うわぁ!いいなぁ。楽しみになってきた。)


最初は乗り気ではなかったお茶会だが、山下の着物姿で正客役は九十九の気持ちを反転させた。


(あれ?そういえば、このクラスの時は誰が正客するんだろう。)


疑問に思ったが、山下の正客役も楽しみだし、そうでなければ一緒にお抹茶が飲めるのも嬉しいし、どっちでもいいかと納得する。


4限目に九十九のクラスのお茶会は始まった。

なんと正客は山下だった。

クラスの女子同様テンションがだだ上がりするはずだったが、亭主役がミオだったことに気づきプラマイゼロで心は平穏に保たれた。

いや、いっそ少しマイが強い。


マイクを持った司会者が説明をしてミオがそれにならったようにお茶を点てる。山下もそれに準じた動きをしていた。

さすがに何度もやらされたからか司会者と亭主と正客の息がピッタリでお茶会はスムーズに進んでいった。


(……お似合いだなぁ……)


薄いピンクの着物を着ているがいつもよりずっと大人っぽいミオが丁寧な動作でお茶を点て、山下にお茶を出す。山下がゆっくりキレイな動作でそれを口付けミオに言葉を発する。


目の前にいるはずの2人があまりにも遠くて、悲しむことも悔しがることもできず、呆然と2人を見ることしかできなかった。


2人の実演が終わったら、水屋で点てたお抹茶と干菓子が配られる。

茶道でのお抹茶は苦いと聞いたことあるが、薄茶のためか、またはいいお抹茶のためか、とても飲みやすく美味しかった。隣には鈴木が座ってくれていたので、2人で目を合わせ頷きあっていた。


「いや、俺いらねー。」


なぜか鈴木の逆側の隣には津々見が座っていて、配られている抹茶を断っていた。


(じゃーなぜお前は来た。教室にいろ。)


と、心から思ったが、何度も正客役をしたからなのか津々見の疲れた表情を見てイケメンも大変なんだな、と黙っておいた。


クラス全員がお茶を飲み終わるとお茶会は終了で、教室に戻る。


「九十九。」

「山下くん。」


山下が裏方から小走りでこちらに向かってくるのがわかる。


「俺も戻るから、一緒に行こう。」

「うん。…あ、すごくかっこよかったよ。」


まぁ9割がた絶望を感じていたのだが。それは言わないでいいことだ。


「本当?ありがとう。よかった。」

「着物も素敵だね。着付けは誰かプロに頼んだの?」

「ううん。向こうの学校の生徒がしたよ。被服科があるんだって。」

「え!それはすごいね。…ってか恥ずかしいね。」

「うん。すげー恥ずかしかった。でも、襦袢の下に薄いTシャツと短パンはいてんだ。だからすごく暑い。」


年の近い子に着付けをされるのはやはり山下でも恥ずかしかったようだ。ちなみに九十九は絶対無理なことはわかっている。


「午後はまた別のに着替えるらしい。」

「え!そうなんだ。わぁ。見たかったぁ!」

「そう?なら写真送るよ。」

「え!!いいの?」

「え?いいよ?」


まさか、こんな棚ぼたな展開があるのだろうか。


(神さま、仏様、学校の女子さま、クラスの女子さま、ごめんなさい。皆、我慢しているから私も…なんて思ったときもありましたが、自重できません!)


九十九は心の中で皆に頭を下げて謝った。


「え?九十九?」


いや、両手を合わせてペコペコ頭を下げてたので心の中ではなく、しっかり皆さんに謝罪できていた。何の謝罪なのかは伝わってはいなかったが。

先程までの鬱々としたものはこの僥倖によって頭の片隅に追いやられた。



すぐに昼休みになり、和装姿の山下といつもの場所に歩き出す。

いつもより周りからの目線がすごいがそうなる理由もわかってるので皆さんの鑑賞の邪魔だけはしないように歩いた。


「着替えなくていいの?」

「どうせ制服に着替えても午後からまた着付けられるから時間の無駄だよ。」


(なんと!ご褒美が連続すぎる!…え?…まさかこの後わたし死ぬの?)


幸せすぎると反動が大きいと聞いたことがある。運の量は皆おなじで早くに使い切ってしまう人、満遍なく使う人、人生の晩年になって使う人、様々だそうだ。

どうせなら自由に使う人になりたい。


(そうなると私の運は山下くんと付き合うことから使い始めて……は!さすがにもう使い切ってしまったのでは?)


日頃より悪い妄想ばかりするせいで、素直にラッキーと思えない九十九であった。



昼ごはんを食べ終え、いつもより少しだけ早く戻ろうと2人で歩く。

途中、山下は別棟にある和室へ、九十九は教室へと別れ、九十九は教室に続く階段を登りながらホクホクと顔を緩めケータイを見ていた。

実は、山下に今の着物姿の写真を撮らせてもらえたのだ。

「九十九がそんなに和服が好きなんて知らなかった。」と山下は言っていたが、そんな訳がない。

しかし、それも言わなくていいことだ。

それに恥ずかしいことに「俺だけじゃー恥ずかしいから九十九も入って!」と2人で並んだ写真も撮ってしまった。

しかも自撮り棒もなかったので身体を寄せ、手を伸ばして撮るしかない。


「ほら。九十九。ちゃんと寄って!」


とギュウギュウ抱き寄せられ、すごく恥ずかしかったが、そういえば朝にハグしたこととそう大差はないと気づくと、恥ずかしいのは自分が誰かのケータイの中で写真として残ることだと気づいた。


「やっぱ無理!」と少し暴れはしたが無事に写真は撮られたようで山下は「九十九。かわいー。」と喜んでいた。

「んなわけあるかい!」とツッコミたかったが、あれだけ山下を撮っといて自分は逃れるなんて、そんな卑怯なことはできなかった。

ちなみにその画像はちゃっかり送ってもらった。


(うわぁー。やばい。恋人っぽい。)


山下との罰ゲーム恋人期間はあと1週間。

形に残るこんないい思い出が出来てしまった。

九十九はケータイをミニバックにしまい、緩む口を両手で隠しながら軽い足取りで歩き出した。



「きゃあぁあぁぁ!!」



女の子の大きな声に飛び跳ねるように驚いてしまい、声の方へ振り向こうとするとドンッと力いっぱい押され、九十九は階段の途中で前のめりに転倒する。

足を強かに打ち、痛みに言葉を失う。


「…っ!」


ガシャン!と金属音があたりに響き渡り、九十九は再度、驚き目を見開く。

振り向くと目の前には同じく転倒しているミオがいた。

彼女の周りにはダンボールとお茶の缶が散らばっている。

ダンボールを運んでいて、九十九に気づかずぶつかってしまったのだろうか。とにかく彼女を立たせようと、九十九はミオに手を伸ばす。


「ごめんなさい!…私!そんなつもりじゃーなかったんです!」


それはそれは大きな声で叫ぶミオにギョッとする。

そんな大袈裟に謝らなくても、と思っていると案の定、周りに人が集まってくる。


「ごめんなさい!ミオ、九十九さんの気持ちに気づかなくて!でも本当にそんなつもりじゃなくて。ミオ、山下くんが優しいからつい頼ってしまって!ごめんなさい!」


(……ん?……何の話?)


九十九はポカンとミオの発言を頭でリプレイすることしかできない。

周りに集まった生徒がザワザワとこっちを見ている。


「2人の邪魔なんてするつもりなかったんです!…でも2人がギクシャクしたのはミオが鈍感なせいだって気づいて!…九十九さんは怒って当然です!本当にごめんなさい!」


(………え〜っと?…これって、もしかして?)


ミオは大きな瞳に涙をためてこっちを上目遣いで見ながら大声で叫んでいる。

周りを見渡すと多くの生徒が非難の目を九十九に向けていた。


(…私…ハメられました?)


脳内の口調は呑気だが、現状、多くの悪意のある目線を浴び、九十九は緊張と震えでピクリとも動けず、その場に佇むしかなかった。




読んでいただきありがとうございます。


ミオちゃんサイコーですな!

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