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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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強敵は当然お茶会に参加する。



「…つ、九十九。……帰れる?」


HRが終わり荷物をカバンに詰めていると、山下があきらかに怯えたようすでやって来た。


「うん。帰ろ。」


いつも通りの口調で返事をして席を立つ。

「またね。」「またな。」と鈴木と津々見に声をかけられ頷きながら手を軽く振り別れる。


道中は山下の緊張がうつり、こっちまで緊張しそうになる。


「…あの、九十九。…今日はメールしていい?……あ!体調悪いなら無理しなくていいけど!」

「ううん。体調悪くないよ。メールできるよ。」

「あ、ありがとう!…………。」


少し沈黙になる。重く嫌な沈黙だ。


(…ん?もしかして気を使われてる?本当はこんな面倒な女とメールなんかしたくないけど機嫌伺いのためにメールしてやるか。的な感じ?)


先日から発想がとてもネガティブだ。

しかし、最悪なことを想像しておかないとそれを体験した時のショックに耐えきれる自信がない。

そして、そのための確認はとても必要だ。


「…メール…したくないならしなくていいよ?義務じゃないんだから。」

「し、したくないなんてないよ!何でそんな風に言うの?」

「…ならいいんだけど。」


彼は大丈夫だろうか。

もしかして彼の中で『彼女』というものに決め事でも作っているのだろうか。

毎日メールして、毎日ごはんを一緒に食べて、毎日送り迎えして。それが彼にとってのポリシーなのかもしれない。

それは両想いの恋人ならとても幸せなことだろう。しかし、九十九は罰ゲーム彼女だ。

それでも彼はポリシーに当てはめて対応してくれているのならば、それは両方つらいことだ。


(山下くんはもしかして、そのせいであの子を素直に想えないのかな?)


まぁ罰ゲームがある以上、本当の彼女を作ることはできないが、九十九のことは罰ゲームの範疇にとどめて、好きな子を優先してもいいはずだ。


チラリと山下を見ると、彼は緊張しながらも決意したような顔をして九十九を見る。


「あ、明日のお昼は2人で一緒に食べたい。よ、予約。」

「…別にいいけど、後悔しない?」

「しないよ。」

「わかった。じゃー明日は一緒に食べようね。」


ニコリと笑顔を見せたが、山下の顔は引きつったままだ。九十九の言葉の違和感を今度は感じ取ったのだろう。

そして会話が少ないまま九十九の家に着き、いつも通りのメールを出し、彼はバイトに出かけた。


その後、いつもは楽しげなメールがポンポンと送られてくるが、今日は数も少なくあきらかにこちらの機嫌を伺うあたりさわりのない内容だった。


九十九はついついため息を何度もついてしまうが、両親も失恋した娘が昨日と今日で元気になると思ってないようで、心配そうな顔をしながらもそっとしててくれた。




次の日になった。

いつも通りの朝なのだが山下の緊張がまったく解けていない。

ぎこちない笑顔でぎこちない会話をしてくる。


「山下くん。私、別に怒ってないから、そんな緊張しなくてもいいよ?大丈夫?」


あまりにも必死におべっかを使われており、見ているこっちがつらい。

それに、元々は九十九が勝手にヤキモチをやいているだけで、ミオに好意を持つこと自体は山下の自由であって気に病むことではない。


「緊張なんてしてないよ。」


と、ガチガチの笑顔を返された。

どうしたものかと思案し、ハッと思いついた。

彼も私もホッとすること。


「じゃー山下くん。ハグしよう。」

「…え!!」

「ケンカはしてないけど雰囲気が悪いし。リセットのハグ。罰ゲームとか彼女とかそうゆうの全部いったん忘れて。ね?…いや?」

「嫌じゃないよ!」


九十九は「じゃー、はい。」と山下に向けて両手を広げる。それを見た山下の顔が一瞬驚き、その後にフヨフヨと顔を緩め出した。


(うんうん。山下くんはこの顔じゃなきゃーね。)


山下がゆっくりと九十九を抱きしめる。九十九も広げた腕を彼の背中に回す。


(うん。ピッタリ。)


はぁ…と、彼の口から安堵のため息が漏れる。

ガチガチに力を入れていた体が弛緩し、より柔らかく九十九を抱き寄せた。


「………九十九、俺…」

「あ、時間やばいね!学校行こう!」


ハッと我に返った九十九はササッと山下から離れた。


「………………………。」

「ほら、山下くん早く行こう!」


ようやく本当にいつも通りの笑顔で山下に話しかけられた九十九はテンション高く山下を呼ぶ。

山下は呆気にとられたような表情をしていたが九十九のようすを見て嬉しそうにニコリと笑う。

2人はいつものように並んで楽しく話をしなが学校に向かうのだった。





「わぁ。すごいね。」


九十九達の通う学校は校門から校舎まで、真っ直ぐ続くタイル張りのアプローチがある。その横にはベンチが何脚かおいてあって、さらにその奥は広めの芝が広がる。

その芝は昼休みになるとレジャーシートを敷いてのんびりと昼食をとる生徒が結構いる癒しの広場だ。

そこに野点用の畳が敷かれており、それを囲うように赤い布(毛氈というらしい)がかけられた長椅子が並べられている。

昨日、帰る際にはなかった物だ。

そんな中、他校の制服を来た女の子達が荷物を運び準備をしている。


「あー!山下くん!おはようございます!」


その聞きなれた声に九十九同様、山下までがビクリと驚いていた。


「あ、ああ。ミオさん…おはよう。」

「はい!今日よろしくお願いします!」

「……………何が?」

「え、」


今までと違い、引き腰になっている山下だったが、ミオに何を言われているのかわからず頭を傾けた。

驚いた表情のミオに先程の言葉の意味をザックリ教えてもらった山下は慌てて九十九の手を引いて走り出した。



「上原先生!聞いてないんですけど!」


山下は教室に入るなりそう叫んだ。


「おぉ。おはよう、山下。今日お茶会の正客役を頼むな!」

「聞いてないです!」

「あぁ。昨日の最終会議で決まったんだよ。お前らすぐ帰るしなぁ。電話は一応してみたがお前出なかったから、今日でいいかと思って。」

「バイトから帰って着信に気づきましたけど、夜遅いし電話しなかったんです。ってか何ですか正客って!」

「いや、お茶飲む役だよ。一応、今日は茶道を説明されながら流れを見て、お茶を嗜んで終わるけど、どうせ流れを見るならイケメンがやった方が真剣に見るだろ?」

「俺、茶道なんてしたことないし、流れもわかりません。」

「ああ。始まる前に少しレクチャーするとは言ってたが、説明をしながらお茶たてるから、それを聞いて動いてくれればいいってさ。」

「いやいやいやいや。ってか何回、飲まされるんですか?全校生徒が1度にとか無理ですよね?」

「おう。クラスごとらしいぞ。あと、このクラスからは、津々見と芹川が正客役だな。交代でやってくれ。」

「はあ!?聞いてねぇ!」


遠くで津々見が驚き、椅子から立ち上がる姿が見えた。


「イケメンに選ばれてよかったな!」


上原先生は笑いながら軽く返す。

多分、そういうことではない。とそこにいた生徒は全員おもったはずだ。


「あ、なんか着付けするらしいからHRが終わったら和室に行ってくれ。」

「いや、俺はするなんて、」

「わぁ。着物姿かぁ。」


山下が上原に抗議の言葉を言おうとすると、隣から小さな囁きが聞こえ、つい言葉を止めてしまう。


「………九十九は着物姿みたいの?」


九十九は山下に期待を込めた瞳を向け大きく頷く。

好きな山下が日頃は着ない特別な服を着るなんて、見てみたいに決まっている。実は前に見たギャルソン姿にもとてもときめいていた。


そんなキラキラした瞳で見られた山下は折れるしかなかった。


「俺、今日は九十九の隣でお茶会に参加する予定だったのに…美味しいねって言い合う予定だったのに…。」


山下の悲しい独り言は近くにいた鈴木の耳にしっかり届いていた。彼は聞かなかったフリをして席についていた。





読んでいただきありがとうございます。


鈴木さまの処世術が日に日に上手くなっている件。w

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