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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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強敵は当然推してくる。



「九十九。おはよう。大丈夫?」


いつもの場所にいつも通りいた山下は眉をハの字に下げ、心配そうに顔を覗き込んでくる。


「うん。大丈夫。メールごめんね。」

「俺こそ。メール出来ないってわかってるのに送ってごめん。」


昨日、両親とたくさん笑った後、山下からメールが来ていることに気がついた。


内容は『気づかなくてごめん』や『すごく心配』や『メールが出来ないのが寂しい』などがツラツラと書かれた長文だった。文をスクロールして読んでいくがいつまでたっても終わりが見えないのでどうしようか本気で悩んでしまった。

ちょっと途中で読むのやめようかと思ってしまったことは秘密だ。


「心配してくれてありがとう。もう大丈夫だよ。」


そう笑いかけるも、なぜか先程より不安そうな顔で「九十九、無理しなくていいよ。つらいなら言って。」と言い寄られてしまった。

不思議だ。


その後は何とか山下を説得し、納得してもらった。表情は少し不満そうだったが、気づかないふりも大切だ。


学校に着き、教室に入ると鈴木がすでに来ており、すぐに彼の元へ行く。といっても席が前後なので自分の席に行っただけなのだが。


「おはよう。」

「おはよう。九十九さん。」


挨拶をするとニコリと笑った鈴木が振り返る。

九十九は急ぎカバンから本を取り出し鈴木に見せると彼は顔をパッと輝かした。


「お菓子の本、持ってきてくれたんだ!」


鈴木の言葉に頷き、本を見るように促すと、彼は体を九十九の方へ向け、本を一緒に見出す。


フードデザインの授業は来週だ。

九十九は1人で街に買い物に行けないため、早めに作るお菓子を決めて土日に母と材料を買ってしまいたかった。

それに鈴木とお菓子の話をするのはとても楽しい。2人で好きなお菓子を箇条書きにし「これは難しいよね」「これは時間がかかるかな」など話していると時間があっと言う間にすぎる。

まぁ基本、頷くか表情で伝えているので話していると言っていいのか疑問だが、意外と会話は成立している。


「プリンもいいけど、その場で食べる分しか作れないし、やっぱりクッキーとかパウンドケーキとかがいいかなぁ。ラッピングして人にあげれるし。」


確かにそうだね!と九十九は頷き、パラパラと本をめくって行く。


「…………なぁ。お前らまたケンカした?」


ふいと横から津々見が話しかけてきた。

いつもは無視するのだが、津々見の言葉を不思議に思い、彼を見返してしまう。


(ケンカとは、誰と誰が?)


「お前と山下だよ。」


九十九の周りにいる人は顔を読むのが得意になるようだ。山下にしろ土間にしろ鈴木にしろ津々見にしろ、的確に返事を返してくる。

九十九もそれに少し慣れてしまい、以前はしていた「心を読むな」という反応をしなくなった。


九十九は津々見になぜそんなことを言われたのかわからず、少し頭を傾げたあと、首を横に振った。


「そうかよ。ならいいけど。いつもよりよそよそしく見えたから。」


(いや、むしろ好きだからつらいんだけど。)


少し顔をしかめるも「あ、おいしそう。」という鈴木の言葉に余計な思考をポーイと捨ててしまう。

そこにはトロリとチョコが流れているフォンダンショコラの画像があり、九十九は鈴木に何度も頷く。

箇条書きにしたお菓子候補に『フォンダンショコラ』を加えると、それを見ていた津々見が「俺、フォンダンショコラ好き!」と嬉しそうに言ってきたので、すぐさまその箇条書きを消した。


「お前ほんと可愛くねーな!」


そう言って頬をつねられたので、グーで津々見の横腹を殴ってやった。


「まぁまぁ2人とも。ケンカはダメだよ。あ、九十九さん。グーパンチはダメ。落ち着いて。」


さらに殴ってやろうと構えると鈴木に止められたので渋々うでを下ろす。津々見は「お前マジ最悪!」と言っているところでチャイムが鳴ったのだった。




「ねぇ九十九。フードデザインは何を作ることにしたの?」


お昼休みになり山下が九十九の近くに来て聞いてきた。


「んー、候補は5個まで絞ったけど、まだ決まってないよ。あ、フォンダンショコラは作らない。」

「そうなんだ。すごく楽しそうに鈴木と話してたから。」

「うん。すごく楽しいよ。」


話しながら教室を出る。

するとこの学校のものではない制服がチラリと視界に入り、九十九は今までの楽しい気分が一気に崩れ落ちた。


「あー。山下くん!こんにちは!」


言わずと知れたミオである。


「あ、ミオさん、こんにちは。」


多分、隣では山下が嬉しそうな顔をしているのだろう。しかし、それを見たくない九十九は外の景色を見ることにした。どうせミオも九十九になど見向きもしないのだから。


「明日がお茶会本番なんで、ミオ、山下くんとお昼ごはん一緒に食べたいなぁと思って!」

「ごはん一緒に?」


ミオの言葉に山下がキョトンとした声を出す。


九十九は「はいはい。明日は準備で忙しくてなかなか会えないもんね。距離を縮めるには今日しかないよね。お似合いのカップルの片割れをよく誘えますね。」と心の中でミオに愚痴り、しかしそれを口に出さないように外の風景を見続けた。


「…だって!九十九どうする?」


(………はぁ?)


まさかの想像だにしなかった山下の返しに驚いて彼の顔を見返す。

キラキラと希望に満ちた顔の山下と目が合い、九十九は瞬時にカッと怒りがこみ上げてきた。


(何言ってんだコイツ!私が他校の、それも話したこともない女とごはん食べたいなんて言うわけがないでしょ!…ってかどうする?ってどういうこと?私に何て言ってほしいわけ?だいたいこの子をいつもの場所に連れて行ったら次からは許可もなく絶対、勝手についてくるよね?それがわかんない?バカなの?)


鼻の奥がツンとしてくるのがわかり、九十九はハッと我にかえる。涙なんか絶対見せたくない。

そのおかげで2人に罵声をあびさせる直前で理性を取り戻した。


目に集まりそうになっている涙を霧散させるように深呼吸を何度も繰り返す。カッとなって視野が狭くなっていた。山下とミオだけだった世界が元に戻り、クラスメイトや離れたところで他校の女子がこちらを見ている姿が目に入る。スッと気持ちが冷めていくのがわかった。


「九十九?」

「いいんじゃない?」

「本当?……いいって。一緒に食べよう。」


九十九の返事を聞くと嬉しそうに笑った山下がミオに返事を返す。ミオは「わぁ!嬉しい!ミオ本当に嬉しいです!」と大袈裟にはしゃいだ。

その姿が本当に可愛くてイラッとする。


「じゃー行こう。」


そう言って山下は歩き出そうとするが、場所を言わないあたり、いつもの場所に行くつもりなのだろう。そんな山下にもイラッとする。


「……山下くん。いつもの場所、ベンチ1つしかないし、3人はキツイよね?だから食堂で食べたら?」

「あ、そっか。じゃー食堂にしようか。」

「うん。食堂を案内してあげたらいいよ。」

「………………え、」


九十九の言葉の違和感にやっと気づいたらしい。山下の顔色が変わる。


「…え…っと。…九十九も来るよね?」

「どこに?」

「しょ…食堂に…」

「ううん。私はいつもとこで食べるよ。」

「え、え、ちょっと待って。さっき、いいって…。」

「うん。山下くんがその子と食べる分はいいんじゃないって言ったの。罰ゲームの規定に昼ごはんはないから大丈夫だよ。」


九十九の本気を感じたためか、張り詰めた空気に緊張したためか、山下がゴクリとツバを飲み込んだのがわかる。


「…つ、九十九。九十九も一緒に食べよう。」

「私は一緒に食べたくない。」


キッパリ言い切ると山下は顔を真っ青にして目が右往左往している。


「やっぱり俺、九十九と2人で食べる。」

「何で?」

「え、何でって…」

「何で私にそんな気を使うの?別に嬉しくない。それに一度いいって言ったんなら食べてあげなきゃ可哀想でしょ。」

「……九十九…。あの、」

「…はい、お弁当。……あ、お弁当いらない?」

「い、いるよ!!」


食堂を案内するのなら学食を食べたいかもしれない。それに気になる女の子の前で他の女が作ったお弁当を食べるのは嫌なのではと思い聞いてみたのだが、山下は弁当をすがるように掴んで離さなかった。


「…じゃーいってらっしゃい。」

「……九十九……。」


山下が絶望的な顔をしたままその場を動かないため、九十九がサッサとその場を離れた。


いつもの場所、いつもベンチ、子どもの声、隣に山下がいないだけで全てがいつも通りだ。

少し寂しい気持ちもあるがイライラした感情のまま山下とごはんなど食べられない。

今は彼が隣にいないことにホッとしていた。


最高潮まで上り詰めた負の感情は先程の彼の表情で少しスッキリしたのか半減までしていた。

彼には悪いことをしたがドロドロした感情をああでもしなければ治められない。それに彼女と食事を共にしてるんだし、結果的に彼は希望は叶えたので良かったのではないだろうか。


そう思いながらも先程からため息しか出ない。

多分、それが九十九の本当の気持ちで違いなかった。


(うん。大丈夫。泣かなかった!えらい私!罵倒しなかった!えらい私!)


そんな虚しいだけの自画自賛も、今の心を保つには必要なことだった。




読んでいただきありがとうございます。


九十九は山下を好きなのに意外と扱いが雑でウケますね。鈴木様の方が大切にされている件。w

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