強敵は突然心をえぐる。
「あ、」
放課後になり、帰ろうと2人で廊下を歩いていると山下がそう声を出し足を止める。
九十九はそれに気づき彼を見た後、彼の視線の先を見る。
そこには例の『自称・運命の人、ミオ』がいた。
昨日と同じ状況にもかかわらず、山下は隠れることなく足を進める。
「あ、山下くん!こんにちは!」
「こんにちは。ミオさんは茶道部の活動?」
「はい!この後、打ち合わせです!」
「そう。大変だね。」
「はい!2人はもう帰るんですか?仲が良くて羨ましい!ステキです!」
「ありがとう。」
ニッコリと笑顔を浮かべる山下にミオは頬を赤く染め可愛く笑い返す。
『2人』と表現されたのにもかかわらず、九十九の方を一切むかないミオに言いようのない不安と不満と苛立ちを感じた。
(落ち着け私。落ち着け私。)
そう自分に言い聞かせる、出来る限り2人の話の内容を聞かないように努めた。
「ね。嬉しいね。九十九。」
そう山下から話しかけられたが内容を聞いていなかった九十九は少し戸惑うも、早くこの場を去りたかったので曖昧にごまかす。
その後、少しだけ2人は会話をし別れたのだが九十九にとっては耐え難いほど長く感じた。
「ねぇ。九十九。」
山下がいつものように話しかけてくるが、九十九は内容が頭に入らず、返事を苦笑いで返していた。
「九十九、大丈夫?昼休みから少しおかしいよ。どこか痛いの?辛い?」
(つらい…)
そう心で思いながらも頭を横に振って、歩行を早めた。
(早く帰りたい。山下くんと早く離れたい。)
そんな風に思ったのは、つい先日のような気がする。あの後、仲直りしてからは「もう絶対そんなこと思わないだろう」と思っていたが案外すぐに思ってしまった。
「九十九、本当に大丈夫?」
心配する山下に作った笑顔を見せ「大丈夫。」と頷き別れ、急いで家に帰り『家に着きました』メールを出す。
山下からはすぐメールが返ってくるも、かぶせるように『頭痛がするから今日はメールできないと思う。ゴメンね』と送りケータイを部屋の定位置に置く。
ベットにボフリとうつ伏せで倒れ、枕に顔を押し付ける。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
言葉にならない言葉を叫んだ。
大きな声なんてずっと出していない九十九はすぐに喉が痛くなり声がかすれるのを感じる。
ジワリと涙がにじむのがわかる。
喉の痛みより胸が苦しくてどうしようもなかった。
(よく頑張った私!うん。エライ!)
ポキリと折れそうな心を自分を褒めることで補っていた。そうすることしか出来なかった。
先程の光景が浮かんでくる。
山下が柔らかく嬉しそうに笑い、顔を赤くしたミオがとろけるような表情で微笑み返す。
あまりにもお似合いの2人だ。
あまりにも理想の2人だ。
そこに誰も入れる余地はなく、その永遠とも呼べる数分間は九十九を孤独にした。
「何が理想のカップルだ!嘘つき!少しもそんなこと思ってないくせに!嘘つき嘘つき!本当は山下くんしか見てないくせに!見え透いた嘘ついてんじゃねーよ!!…っ…つっ!」
ボロボロと涙が溢れてこぼれていく。
「山下くんも山下くんだ!あんなに苦手って顔してたくせに!逃げてたくせに!コロッと流されちゃって!チョロいのはお前だ!バカ!バカ!嫌い!ホント嫌い!………っ……きらいっ…に…なりたい……。」
本当は2人を前にして叫びたかったのを必死でこらえてた。
先日のケンカでは山下をとても傷つけ「もうしない。」と約束したばかりだ。でも彼に何か言葉をかけようとすると先程のように罵倒しそうになる。
しかし、今は罰ゲームで九十九が彼女をしているが、本来なら彼が誰かに恋することに対して文句を言える権利などない。
それに彼に好きな人が出来て、それを邪魔する存在になりたくなかった。
(だって山下くんに嫌われたくない。)
山下に彼女が出来たら他の女の子達と一緒に泣こう、そう以前は思っていた。しかし、いざその可能性が大きくなると、そんな凪いだ感情など1つもない。今あるのはドロドロした汚くて醜い嫉妬だけだ。
(………あぁ…皆これを感じてたんだ……)
山下と付き合いだして感じる女の子の目線や態度はいつもトゲトゲしいものが含まれていた。
(皆、こんな気持ちだったんだね。ドロドロした気持ちを消化するために仕方なかったんだね。やっと皆の気持ちがわかったよ。…うん。すごくつらいね。皆すごいね。私も頑張るよ。)
自分の体をギュッと抱きしめ目をキツく閉じる。
(山下くんにキツイ言葉を言わないように気をつけよう。2人のことは応援はできないけど邪魔はしないようにしよう。つらくなったら山下くんやミオさんにあたってしまう可能性があるから、そんな時は少し距離を置いて落ち着いたらまた話そう。)
1つ1つしっかり実行できるようにゆっくり考えて納得して飲み込んでいく。
涙がポロリポロリと落ちているが、それは九十九のドロドロした気持ちが浄化して排出されているので止めようともせず、こぼれるまま流していた。
九十九はその日、初めて本当の意味の『恋』を経験したのだった。
家に帰るなり部屋に閉じこり小さな声で叫ぶ九十九に両親はとても心配していた。
夕食になりやっと部屋から出てきた九十九は目を真っ赤に腫らしており、か弱く微笑む。
それがとても痛ましくて則文と恵美子は「何があった?」「どうしたの?」と詰め寄った。
しかし、九十九は目の腫れや先程の表情とはうって変わって「うん。何もないよ。大丈夫!」とケロリとした声で答えた。
「そんな顔をして大丈夫なわけないだろ!」
「泣いたらスッキリした!だから大丈夫!」
「だから!何に対して泣いたんだ!」
両親があまりにも切羽詰まった声で聞いてきたのでこのまま「何もない」じゃー通用しないとわかり、九十九は本当のことを言うしかなかった。
「う〜んと……失恋?」
そう言うと則文は固まり、恵美子はつらそうな顔をして抱きしめてくれた。
「ふふ。本当に大丈夫だよ。」
『虐められた』なら両親が表立って出ることが許されるが、失恋では何もできない。
則文はため息を付き「明日、休みたいなら休みなさい。」と、娘と恋愛の話などしたことがない彼にとっての精一杯の慰めを言った。
両親の愛情と優しさが染みわたってきて全身がホカホカしてきたような気がする。
(…うん。私はとても幸せ者だ。)
そう、心から思えた。
「だいたい凛花はこんなに可愛いのに振るなんてその男、目が腐ってるんじゃないのか?」
「そうね。眼科か脳外科かを進めた方がいいかもしれないわね。」
嘘が1つもなく愛情だけが詰まったその的を得ない言葉に九十九は心から声を出して笑ったのだった。
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