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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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昼休みは癒しの時間…と思っていた時期もありました。


2限目が始まる前に罰ゲームのルールの説明をした。山下の質問で時間が足りなく、2限目が終わった後、追加で話をした。それでも山下が質問を繰り返す為、答えられなくなった土間は「あとは九十九に聞いてくれ!」と逃げた。


(アイツマジコロス)


3限目が終わった今、九十九の席の前(鈴木君)の席に山下がこちらを見て座っている。


(鈴木君!授業中うるさくてゴメンネ!時々ノートが盛大にやぶれる音にビクッてなってたのに無視し続けてゴメンネ!もうしないよ!だから!だから帰ってきてー!カムバーーーック!)


九十九の反省アンド願いは聞き入れられることはない。


「ねえ。九十九さん。あ、これから九十九って呼んでいい?」

九十九はコクリと頷く。

(嫌だけど。)


「俺、毎日ってほどバイトしてて、授業終わったらすぐ帰らなきゃーいけないんだけど、それって九十九は大丈夫?」


九十九はまたコクリと頷く。

(サクサク帰りましょう。いっそ走るなんてどうですか。)


「よかった。それでさ。………」


山下の質問はまだ続く。九十九はそれを遠い目をして頭の縦、横の動きだけで全てを答えた。


(神様!神様!絶滅して欲しいのは男であって私ではありません!)


九十九は前髪の壁と教卓付近に目線をうろつかせることで、山下と目を合わせることを回避しているが、目の前にいる男が自分の目をまっすぐ見て、すごくキラキラした笑顔を振りまいているのがわかる。

照り返しがすごい。


(目が合ったら、干からびる可能性90%!)


命の危険を本気で感じながら山下とのやり取りが続く。


10分という休憩時間がこんなに長く感じるのは、初めての体験だった。

そして、4限が始まる2分前に戻ってきた鈴木のことを、これからは『鈴木様』と心での呼ぶことは決定事項だ。






「よし。じゃー今日はここまでなぁ。」と、先生が言ったタイミングで、4限の終わりを告げるチャイムが鳴る。


ガタッ


キーンコンの『キ』が鳴り止む前に席を立つ音が教室に響いた。

クラスの全員が音の方を向く。


(山下君?)


すると、彼はものすごいスピードで教室から出て、そのままの速さで廊下をかけて行った。


「何だ?山下、トイレか?」


そう、先生が呟きながら教室を出て行く。

九十九は山下がいなくなったことにホッと一息つく。


(よかった。また、質問攻撃が続くと思った。うんうん。そうだよね。お昼くらいはゲームのことを忘れてのんびり友達と過ごしたいよね。)


他のクラスにも友達が多い山下が、今日は自分のクラスから出ていないことを思い出し、そう納得する。


(さて、これから1カ月、地獄が始まるんだから、私も今くらいゆっくりしよう。)


弁当の入ったミニバックと小説を持って九十九は席を立つ。

九十九には特等席がある。今は物置となっている旧校舎の裏に狭いスペースがあり、そこには1つだけ木造のベンチがある。

新校舎からは離れているし、旧校舎は古くて汚いと認識されている為、近づく人はあまりいない。ましてやその裏側にベンチがあるなど誰も知らないだろう。

本当に狭い場所で校舎の反対側も高校附属の保育園の裏なので、見渡す限り壁だ。

しかし、1人しかいないと実感できるこの狭さが、九十九は気に入っていた。

そして、保育園から壁越しに聞こえる子ども達の声に時折、癒される。

同じお昼ご飯の時間の為、「いたーだきます!」と、子ども達の大合唱を聞き、ふふっと笑って「いただきます」と九十九も呟く。


(…この時間は大切にしたいな…)


これから1カ月、辛いかもしれないけど、この時間があれば頑張って乗り越えられる気がする。





…そんな風に思ってた時期もありました。




心が癒され、体が軽くなったような気持ちになり軽やかな足取りで教室に戻ると、頬をプクリと膨らませたイケメンが九十九の机に座っていた。


軽かったはずの足が、ガチリと罠に捕まったかのように動かなくなる。


「九十九。どこに行ってたの?」


いつもの笑顔。いつもの口調。なのになぜ冷や汗が出るんだろう。

山下のゆっくりとした問いに、九十九は全ての機能を停止させた。


「………」


「九十九。どこに、行ってたの?」


山下の目がニッコリとさらに深い笑みを浮かべる。


カーンカーンカーン!

九十九の中で大きな警報が鳴り響く。

その音にハッとなり、やっと体が動くようになった。


「ご飯に……。」


か細い声を出す。山下は聞こえたのか、口の動きを読んだのか、勘なのかはわからないが、九十九の言った内容は理解したようだ。


「恋人はお昼ご飯を一緒に食べるんじゃないの?!」


……っ!!!!!!!!!!


(そんなルールありません!!)


声には出さないが九十九の表情が、そう言っているのを山下は解読したようだ。


「ご飯一緒に食べたくて、急いで昼メシ買いにいったのに…」


あぁ…焦ってトイレに行ってたんじゃなかったのか。

聞き耳を立てていたクラスの全員がそう納得する。


「でも、そっか。一言残してから買いに行かなかった俺が悪いか。」


ボソリと山下は呟き、九十九の目を見直す。


「じゃー明日から一緒に食べよう?」


「っ………!」


どうせ断れないのはわかっている。しかし、せめてもの抵抗として口をつむぎ、首を縦にも横にも振らなかった。


(神様!神様!神様!今こそ、その時です!!どうか!男の絶滅を!)



午後の授業のノートが全てが真っ黒になったのは仕方のないことだ。






そんな中、フ、と気づく。

初めての会話が「ご飯に…。」だったことに少しだけ笑いがこみ上げてきたのは九十九だけの秘密だ。


読んでくださってありがとうございます。

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