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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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本日の彼は真っ黒です。〜時々、真っ赤かも〜


「おはよう。九十九、昨日は楽しかったね。」


あぁ。今日の天気は雨なのに、どうやら狐の嫁入り…天気雨のようだ。とても眩しい。

そんな馬鹿なことを考えながら、目の前の太陽に目をつぶされそうになっていた。


「おはよう。うん。楽しかったね。」

「ご飯がすごくおいしかった。恵美子さんは料理が上手すぎだと思う。」

「ふふ。ありがとう。お母さんに言っとくね。」


山下が嬉しそうに笑う。


恵美子さん…そう。

山下は九十九の両親を則文さん、恵美子さんと呼ぶようになったのだ。


昨日「ねえ、九十九!」と山下が声をかけたことに家族全員で反応してしまったことから始まった。


「…一応、山下くん以外のここにいる全員、九十九なんだが。」


そう呟く父、則文に母、恵美子が「ふふっ」と笑う。


「あはは。そうでした!」


そう山下は笑ったが、少しして「ではどう呼べば…?」と困ったような顔をしたので、両親を名前で呼んだらいいと提案した。


「いや、なぜ同級生の凛花を差し置いて僕達が名前呼びなんだ。……いや、別にいいんだが。」


つい娘にツッコミをいれてしまったが、イケメン山下に娘が名前呼びされる想像をして、微妙な気持ちになったらしく、すぐに肯定しだした。


「だって、九十九のお父さんとか長いし面倒でしょ。それに学校で名前呼びされたら周りの反応が怖いし。」


その1言で両親、山下共に納得していた。


まぁ、本当は山下に名前で呼ばれると赤面してしまうことと、罰ゲーム彼女の期間が終わって呼び方を凛花から九十九に戻されると傷つくだろうな、と全て九十九の自衛が理由なのだが、絶対に口に出せることではない。




「ねぇ九十九。今度また予約をいれてもいい?」


そう山下から顔を覗かれ、九十九はハッと我にかえった。


「ふふ。いいよ。ちゃんと1週間に1日は休みを入れてね。」

「うん。ありがとう。」


そうは言っても罰ゲームも残り2週間を切ったし、今週のお休みは昨日、使ってしまったので山下が九十九の家に来るのもあと1回くらいだろう。

そう思うと寂しくなり、目をふせる。


(……って!落ち込むのは罰ゲームが終わってからにしよう!今は山下くんの彼女を思いっきりやらなきゃーもったいないよね!)


そう自分の気持ちを奮い立たせ、九十九は山下の顔を見てニッコリ笑う。


(せっかく好きな人の彼女をしてるんだもん。山下くんといっぱい話していっぱい笑って、最後はいい女っぽく気持ちよく別れよう!)


そんな風に九十九は短期間の目標を決めるのだった。





「なぁ。選択授業のプリント書いた?」


津々見が教室に入るなり話しかけてくる。


(こいつ、本気で一緒の班になる気?)


無言で津々見の顔を見上げてると、山下がサッと九十九の前に出て来て、視界が彼の背中だけになる。


「津々見は俺と一緒にビジネス実務だから。」

「……はぁ?何、勝手に決めたんだよ!」

「嫌なの?」

「嫌も何も、お前俺のこと嫌いだろ!」

「うん。」

「即答すんな!少しは迷え!」


2人のやりとりが漫才のように聞こえてくるのは九十九だけなのだろうか。

それより席に着きたいな、と思うが目の前に山下と津々見の壁が並んでおり前へ進めない。


「津々見…耳かせ。」

「…あ?」


2人がコソコソと内緒話をはじめたので、その隙に九十九は席まで逃げる。


イケメン2人が並ぶと需要がうまれるが、そこに根暗女子が追加されると急激に価値が下がる。

とゆうかもはや「私をいじめてください。」と女子の皆さんに言ってるようなものだ。


「おはよう、九十九さん。」


先程の光景を見ていたのか鈴木は気遣わしげに挨拶をしてくれる。


(はぁ〜。さすが鈴木さま。落ち着くわぁ〜。)


そんな風に思えるクラスメイトは多分、彼しかいない。九十九は「おはよ。」と挨拶を返し、プリントを取り出す。

選択授業のフードデザインの欄にチェックを付け、班の記入欄(未記入可)に鈴木の名前を書いてあるのを、鈴木本人に見てもらい確認する。


「あ、うん。僕も書いたよ。」


そう言って彼もプリントを取り出すと、すでに班の記入欄に九十九の氏名が書かれてある。

それを見て九十九は満足気に大きく頷いた。


そんな会話をしていると「よし、わかった!」と大きな声が聞こえる。

声の方を向くとニッコリ笑った山下と決意を固めた津々見の姿がうつった。


「じゃー俺もビジネス実務にする!」

「うん。そうしよう。」


どうやら山下のお誘いは成功したようだ。

さぁどんな手を使ったのか。津々見は単純なので言葉巧みにだましたのかもしれない。また悪魔に頼んだのかもしれない。

呆れながらその光景をみていると、山下が満面の笑みでボソリと呟いた。


「……ふっ………チョロ。」


はいはい。どうやら悪魔の方だったようだ。

九十九はソッと山下から目をそらしたのだった。




「ビジネス実務の授業内容あとで教えてね。」


昼休みになり、2人で弁当を食べ終わったあと九十九は山下にそうお願いをした。


「もちろん。でも九十九、ビジネス実務に興味あったんだ。」

「うん。気になったけど内容からして挨拶とか電話対応とか班でさせられそうだなと思って。」


九十九にとって数人の前で自己紹介やお客様対応などをしなくてはいけないなんて、それは地獄と相違ない。想像しただけで吐きそうになる。

でも、本当はとても気になっていた。

山下と一緒ならもしくは出来たのかもしれないが、今は少し料理のほうが興味が強かったので仕方がない。


「そっか。フードデザインの方は何を作るかもう決めたの?」

「うん。2時間しかないし、30分くらいは栄養素の話があるらしいから、鈴木さ、くんと話して1時間弱で作れるお菓子にしようかってなったよ。」

「そうなんだ。いいな。楽しみだね。」

「うん。」


毎年、女子はフードデザインの選択が多いのだが、今年はイケメン2人がビジネス実務を選択したため、だいぶそちらに流れたようで、今回はゆったりとした空間で料理が作れるようだ。

山下と津々見にコッソリ感謝する九十九だった。




放課後になり、下駄箱で靴を履き替える。


「雨やんでよかったね。」

「うん。雨の日はお昼も別のとこ探さないといけないもんね。」


今のところ昼休みに雨が降ったことはなく、いつもの定位置でお昼を取れている。

今まで雨の日は教室で食べていた九十九だが山下にお弁当を作っている今、教室で食べるわけにはいかないな…と少し思案しながら歩く。


以前は生徒がいなくなる場所まで喋らなかったが、教室では普通に話しているし、お昼ご飯を一緒にとっているのは皆が知っているし、クラスマッチの日は泣きながら手を繋いで帰ったので、繕うのは止めることにした。


山下がもともと社交性のある人物なので普通に話して帰る分は女子達も仕方ないと思っているようだ。トゲトゲした視線は時々しか感じない。まぁゼロではないが…。


九十九がふと顔を上げたとき、女子生徒と目が合った。見たことのある顔。

先日、山下のバイト先を教えろと詰め寄り、頬を叩いてきた女の子だ。


目が合った瞬間、彼女はピョンっと跳ねるように驚いて、次第に顔の血の気がなくなっていく。機械のようにギギギ…と音が鳴りそうなほど、ぎこちなく九十九から隣の方へ目線をずらすとサァーと一気に青ざめていくのがわかった。

そして「ひぇっ」と小さな叫び声をあげながら走って逃げて行ってしまった。


「…………………。」


九十九は彼女が叫びながら逃げた原因の山下を見る。

山下は空をわざとらしく見上げていた。


「………彼女に何をしたの?」


(いっそ何をしたらあんなに怯えるの?)


「何が?」

「今の女の子。すごく怯えてたでしょ?何をしたの?」

「何もしてないよ?」

「何もしてなかったら、あんなに逃げたりしないでしょ?」

「本当に何もしてないよ?…ってか何であの子に何かしたと思うの?…あ、あの子が九十九をいじめた子なの?」

「……っ!」


(…こいつ!わかってるくせに!)


そう言われてしまうと「違う。知らない子」としか言い返せないし、そう言ってしまうと彼は「そうなんだ。じゃー俺があの子に何かする理由がないよね。」と返すに決まってる。


多分これはあの時、素直に彼女達のことを言わなかった仕返しのようなものだろう。

どうやらいまだに根に持っていたようだ。


確かにあの時、九十九が酷い目にあったのは自分のせいだと辛そうな顔をしていた彼に適当なことを言って彼女達の存在を曖昧にした。

今、思えばとてもひどいことだ。

そう思うと今回のこの仕返しは仕方ないことなんだろう。


しかし、やり方が巧妙かつ黒い。

なので言ってやらねば気が済まなかった。


「…………いじわる。」


「……っ!!!!」


なぜか山下の顔がボボッと赤くなる。


「…ちょっ…かわ……違うから。お、俺、九十九にいじわるなんてしないから!」


よくわからない言い訳を言いつつ、どんどん彼の顔が赤くなっていく。

そんな彼を見つつ、先程は全面的に九十九が仕返され負けてしまったが、なぜか最後の最後で少し勝った気分になった。


それより彼の顔が赤くなるポイントが未だに理解できない九十九だった。




読んでいただきありがとうございます。

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