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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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彼がうちに来ました。〜何をしたのか吐きなさい!〜


「ただいま。」

「あ、お父さんおかえりー。」

「お邪魔しています。」


仕事から帰ってきた九十九の父、則文はリビングに入り彼の存在に少し驚き、そして昨日の娘の会話を思い出して納得した。


「ああ。山下くん、いらっしゃい。ゆっくりしてって。」

「はい。ありがとうございます。」


とてもキレイな顔で彼がニコリと笑う。

則文は作った笑顔しか返せず、つい助けを求めるように妻を見てしまう。

妻、恵美子と目が合い少し苦笑いし合った。

仕事の荷物を定位置に置き、着替えのためとリビングから出ようとすると、娘と山下の声が耳に入る。


「あ、山下くん。数学でわからないとこあって教えてもらっていい?」

「うん。俺がわかることなら。」


則文は娘が学年1位の成績なのはもちろん知っている。そんな彼女が勉強を教えてもらうとなると彼も優秀なのだろう。

着替えを終えてリビングに戻ると肩が触れ合うほど近い距離で2人がリビングの机に向かっている。

いまだに娘が男の子と仲良くしている目の前の光景が信じられない。

本当に大丈夫なのだろうかと、ついつい娘の表情を伺ってしまう。


「これ、どうしても答えが合わないんだよね。」

「う〜ん?式は合ってるよね?何でだろう。」


カリカリと問題を解いていく山下の手元を覗く娘が躊躇なく彼に近づき、いっそ頭同士が接触しそうだ。


「…あ、あはは。九十九。これ掛け算間違ってるよ。7×8=54になってる」

「え!ウソ!恥ずかしい。」


目を合わせて笑い合う2人に則文は目を細めた。

娘に友達ができて楽しそうに笑っているのはとても嬉しいがその相手は男の子だ。しかも、極上のイケメン。

正直、とても複雑な気分だ。

さすがに家に上り込むくらいだから騙されているとかいじめられているとか、そういうのではないのだと思いたい。そんな下品なことを考えてしまうほど彼の容姿は整っているのだ。


則文は自他共に認めるほど親バカだ。

しかし、客観的に冷静な判断はしっかりできる。

自分の娘が世界一かわいいと思っているが、客観的にみれば普通にいる女の子だ。

そんな娘の横にTVに映っていても何ら不思議ではないほどのイケメンがいれば複雑な気持ちになるのは当然だ。


まさか、こんなハイグレードなイケメンが普通の女の子に手を出すなんてないだろう。……しかし、顔が近い!!もっと離れなさい!!と、そんな風にハラハラしつつ2人を見守っていた。

後になり、手に汗握っていたことに気づいた。






「今晩はコロッケと唐揚げよ。いっぱい食べてね。」


出されていた宿題を話し笑いながらしあげた頃に母から「ご飯にしましょう。」と声をかけられた。


ダイニングテーブルに移動し、どうぞと言われた椅子に山下は座る。九十九はその横に並んで座った。

山下は嬉しそうに笑い「そこが九十九の定位置?」と聞いてきたので「そう!」と頷く。


「口に合えばいいんだけど。いっぱい食べてね!」

「ありがとうございます!いただきます。」


そういって山下はパクリと大きめの唐揚げを一口で食べる。九十九は「わぁお!さっすが!」と思ったが彼の早食いと大食いはいつものことなので気にせず自分のお皿の唐揚げを一口食べる。チラリと両親を見ると驚いた顔をしていて笑いそうになった。


「おいしい!」


キラキラした瞳で彼が九十九の方を向く。

「よかった。」と九十九が笑うと山下は恵美子の顔を見て「おいしいです。」と笑った。

母は嬉しそうに「嬉しい。おかわりあるからいっぱい食べてね。」と言った。

事前に彼の大食いのことを母に伝えてあってよかったと思うほど彼はよく食べた。

あの体のどこに食べた物が入っているのだろうか。もしかして亜空間にでも繋がっているのだろうか。そう思わずにはいられない。

そんな馬鹿なこと…とは思ったが両親の顔がまさしく同じことを考えていることに気づき、親子の絆を感じてしまった九十九であった。



「山下くんがケーキを買ってきてくれたの。お茶と一緒にいただきましょう。」

「そうなのか。わざわざありがとう。」

「いえ、こんなに遠慮なくいただいてしまってすみません。九十九にお二人が好きなケーキを教えてもらって買ったのでハズレはないはずです。」

「ふふ。こんなにいっぱい食べてくれると作り甲斐があって嬉しいわ。」

「本当においしかったです。」

「……そういえば凛花。今日は大丈夫だったか?」


両親と山下の会話になんだか嬉しくなり、九十九はニコニコと笑っていると、急に話を振られキョトンとした顔になってしまった。


「そうね。叩かれた女の子達に何かされなかった?会わなかったの?」

「ああ。うん。全然会わなかったよ。多分もう大丈夫だよ。」

「…うん。多分、大丈夫だと思います。」


なぜか、九十九の後にサラリと山下が同意する。その言葉に違和感を覚え、九十九はつい山下をジッと見てしまった。


「………………。何したの?」

「…え?何が?」

「…………何かしたの?」

「…何もしてないよ?」


山下のキョトン顔が怪しくて、なんだか憎たらしく見える。


そういえば、午前中の休憩時間に彼が教室から出ていくのを見た。最近はそんなに他のクラスに行かなくなった山下だったが、今日は休憩時間のたびに席を立っていた。


「……女の子を怒ったの?」

「怒ってないよ。相手が誰かもわからないのに。」


そう言われると確かにそうだ。

でもなんだ。納得がいかないこの気持ちは。

そんな気持ちで九十九は山下を見つめるが、彼はニコリと笑い「ケーキおいしいね。」と話を変えようとする。


(絶対なにかしてやがるな…!)


多分あれだ。悪魔との契約で相手を割り出したんだ!なんて奴だ!

久しぶりに山下が悪魔との契約を結んでいることを思い出し(w)九十九は想像を巡らせる。




(注)下記より九十九脳内妄想をお送りします。

※この妄想はフィクションです。実際の人物・団体・時間などは関係ありません。



山下の本当の彼女が可愛らしく笑う。小さく唇の両端を上げるだけの微笑みだが、それだけで周りの空気を明るく華やかにする。

男女ともにその微笑みにほう…とため息が出た。


「勇也くんが昨日、家まで送ってくれたの。これからはいつも送ってくれるって言ってくれて嬉しくて。」

「そうだね。山下くんは心配性だし、送り迎えはしてもらえるよね。」


ポンッと小さなピンクのバラが咲くように頬を染めた彼女についいつもより低い声で反応してしまう。そんな九十九の声に彼女は少し怯むも、振り切るように華やかな笑みを浮かべる。


「メールもたくさんくれて。バイト中も時々送ってくれるの。オーナーさんの写メとか送ってくれてすごく楽しくて。」

「そうなんだ。オサムさんは元気そう?」


彼女の笑顔がヒクリとゆがむ。それでも彼女はその笑顔を貼り付けて喋った。


「バイト先とアパートを教えてくれて。今度あそびに来てって言われて」

「そっかぁ。山下くんの部屋、何もないから多分あそびに行ってもヒマだよ!」

「………。」


彼女の笑顔が消えたのが見えた。

うん。少し黙っててと九十九はホッとしてしまうが、ふと彼女の瞳から綺麗な一粒の涙がこぼれた時、心臓がヒュンと縮むのがわかった。


「わ…っ!ごめ…!」


「何してるの?」


ドキリと心臓が大きな音を立てた。

声の方を向くと、山下が九十九の顔を真顔で見ている。そっと近づいて来て、彼女の体を包み込むように抱きしめた。

その行為に小さく胸が痛む。


「九十九が泣かしたの?」

「あ、ゴメン。そんなつもりじゃなくて。」


じゃーどんなつもりだ。そう自分につっこんでいた。そんなのこと私もされてたよ。と彼女の自慢を跳ね退け、嫌味を込めていたことに違いはない。


「九十九がこんなことをするなんて。……最低だね。」

「………っ!」

「もう顔も見たくない。消えて。」


心臓がズキリと鈍く痛んだ。

唖然としてしまい、何も言葉が話せない。口からはヒュッと空気が通る音だけがしたが、その後どんな風に息をしていいかわからず、その場に立ち尽くしていた。




「………はっ!!」


一瞬のうちに妄想の世界へ突入して現実に戻ってくるまで0.3秒。

九十九はジワリとかいた汗を無視し、涙が出そうになったのを必死に止める。


「…彼女達が可哀想でしょ!」


彼女達と言ってみたが九十九が思い浮かべるのは未来の自分だ。山下くんに本当の彼女ができたら、多分、嫉妬して冷たくあたってしまう自信がある。

まさしく彼女達は私の未来の姿のようだ。


(山下くんにあんなこと言われたら泣く!いや、人生のどん底に落ちる!)


「あの子達が可哀想?どこが?」


そう言った彼は今度こそ本当にキョトンとした顔をした。


「…あの子達って言った?…その子達じゃなくて。」


山下がハッとした顔をして目が一瞬およいだのが見えた。

実際、彼女達に会っていない、知らないなら「あの子達」ではなく「その子達」と言うはずだ。


「やっぱり!」

「違うよ。言い間違えただけ。」

「うそ!今、目がおよいだもん!彼女達に何て言ったの?」


「まぁまぁ。2人とも落ち着いて。」

「ケンカはだめよ!」


2人の会話が少しずつヒートアップしていくのを両親が止める。


「山下くんはりんちゃんを心配してるからこその行為でしょ。そんな責めた言い方しちゃダメよ。」

「うん。凛花が優しいのはわかるが、お父さんもその子達をただで許してあげられないよ。山下くんの気持ちはよくわかる。」


そう言われ、確かに彼女達に感情移入しすぎていたことに気づいた。山下が九十九を思ってしてくれたことだ。言い方っていうものがある。


「…………うん。………ゴメン。」


チラリと彼の顔を見ると彼はニコリと笑っていた。


「うん。大丈夫。それに本当に何もしてないよ。」


多分それはウソだろう。本当は何をしたのかだけは聞きたかったが、この状況ではもう聞けない。

しかし、この流れで彼が両親から少し信頼されたのがわかった。


この後もう少しだけ話しをし、彼は9時過ぎに帰って行った。



読んでいただきありがとうございます。

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