これからは要予約で。
「もしもし…」
そう電話に出ると彼は元気な声で『九十九!お疲れ!』と言ってきた。
「ふふっ。疲れてるのは山下くんでしょ?お仕事お疲れ様です。」
『うん。ありがとう。』
「今はどこ?まだバイト先?」
『うん。今、部屋に向かってるとこ。』
「ふふっ。いいね。通勤3分。」
『そうでしょ?…九十九いつ遊び来てもいいよ。ご飯食べたらすぐ俺の部屋行けるし。帰りたくなったらすぐ送ってくし。』
山下がいいこと思いついた!とばかりに話をする。
「ダメだよ。バイト夜まで終わらないでしょ?今日みたいに途中から抜け出すのは迷惑になるからダメ。」
『………。じゃー俺が休みの日に行くのは?』
「……それはいいけど……休みの日にバイト先、行きたいの?」
『行きたくない!』
「ふふっ。」
そんな風に軽快な会話がいつものように続く。
しかし顔が見えないのが少し寂しいと感じる。
「電話だと声が少し違うね。」
『うん。九十九の声が少し低い。』
「そうなんだ。山下くんは少し軽い。」
『軽い?何それ。はは。』
ゴソゴソと九十九はベットに入りベットの背もたれに背中を預ける。
『…?九十九、今どこかに移動してる?』
「うん。ベットに入っただけ。」
『…………。あ、眠くなった?』
「ううん。まだ10時だよ?ただちょっと冷えてきたなって思ったから。」
『そっか。眠くなったら寝ていいからね。』
「うん。ありがとう。…あ、そういえば下着代いくらだった?月曜日返すから。」
『……え!いいよ。今回は本当に俺のせいだし。』
「山下くんのせいじゃないよ。それに、それとこれとは話が違うでしょ?」
『…………九十九は奢られるの嫌いだよね。……でも、今回は男の矜持と思って奢られてくれる……っていうのはダメ?』
「……こうゆうのって返されたくないの?」
『…うん。見栄を張りたい。』
九十九は少し考えた。今日のことは本当に彼のせいではないし、本当に迷惑をかけた1日だった。それなのに被せて下着代まで払わせてもいいのだろうか。それに元々、九十九は人に 施しを受けるのが好きではない。
しかし、彼はそれを知ってても見栄を張りたいと言ってきた。それでも我を通すのはとても可愛いくない行為だな、と思った。
「…じゃーお言葉に甘えさせてもらいます。ありがとう。」
『あは。よかった。』
山下のホッとしたような声が聞こえた。
それを聞いて九十九もホッとする。
山下の周りにいる子の気持ちがわかるな。と九十九は思った。彼の言動で気分も上がるし、彼に少しでも可愛いと思ってもらえるように言動を考えたりする。
ますます今日、九十九を呼び出した子達のことを悪く言えない、と思った。
(あと、2週間で罰ゲームカップルも終わりだな。そうしたら彼には彼女ができるのかな。だったら仕方ないよね。他の女の子達と一緒に泣いてみようかな。)
そんな風に思い、九十九はふふっと笑う。
『九十九?』
「何でもないよ。思い出し笑い。…そういえば山下くんが送ってくれた後、山下くんの話をいっぱいしたよ。」
『…えー。怖い。どんな?』
「ふふっ。」
そんな風に通話は2時間ほど続いた。
『…も…九十九?』
「……ん?……あ、ゴメン。ウトウトしてた。」
『…ふっ。ゴメン。起こしちゃった。今日、色々あって疲れてるよね。もう寝よっか。』
「…うん。ゴメンね。おやすみ。山下く…ん…」
そのままケータイを切ることも出来ず眠りに落ちてしまう。
電話の向こうで彼が悶絶しているとは知らずに。
チロリン♪ とメールの着信音が鳴り、九十九は目を覚ます。
『おはよう!九十九!』
と、山下から元気いっぱいなことがわかるメールが届いていた。
昨日はやはり疲れていたようで、今までとても深い眠りについていたようだ。よく寝てスッキリしている。
時間を確認すると8時だった。
先週から彼と土日もメールをするようになったがその土日とも10時ピッタリにメールを送られて来ていた。
2時間早くなっている。
『おはよう。早いね。どうしたの?』
『九十九。今日、朝だけお出かけしませんか?』
なんと…。お誘いメールが来た!
九十九は少しテンションが上がるも、ふと考える。
『今日お昼からバイトでしょ?』
彼は今月は土日に休みはないと言ってたし、昨日の電話でもバイトだと話していた。
『うん。だから朝だけ。』
(あ、だからいつもより早くメールが来たのか。)
九十九はまた少し考える。
昨日、母と買い物に出る約束をしていたが、それは昼からでもいい。山下に会いたくないのかと言われれば会いたいな、と思ってしまう。
しかし…
『山下くん。電話かけていい?』
そうメールを返すと『え、全ぜわえけど同士な』とよくわからないメールが返ってきた。打ち間違えなんて珍しいと思いつつ電話を掛ける。
「おはよう。」
『わ、おはよう九十九!ゴメン。さっきメール間違えて…』
慌てた様子の彼の声が聞こえてきた。
「昨日、何時に寝たの?」
『え!?…に、…1時!』
(はいはい。2時過ぎね。)
「じゃー今日何時に起きたの?」
『さ、さっき!』
(いやいや。さっき起きた人が計ったかのように8時ピッタリにメール送って来ますか。)
「昨日、山下くんバイト大変だったよね?呼び出されるほど忙しい日だったんだよね?それに、私のこともあって走り回ってたよね?」
『…え?あの、九十九?』
九十九の質問の意図が読めず、混乱しているようだ。
「今日もお昼から夜までバイトなんでしょ?そんな日の朝くらいゆっくりしてほしい。」
『…え?大丈夫だよ。疲れてなんかないし。』
「疲れてないわけないよ。」
『……………。…九十九は俺と会いたくないの?…昨日は嬉しいって言ってくれたのに。』
あ、拗ねた。と彼の口調の変化でわかった。
「会いたいよ。でも無理してまで会って欲しくない。」
『無理してないよ。』
(う〜ん。これは決着が付かないパターンだな。)
「じゃーこれから私の予定は予約制にする。」
『……え?何?』
「本当にどうしようもない時は仕方ないけど、それ以外は予約とって。前日の夕方4時までね。」
『え?…え?…予約って?』
「山下くん。昨日、学校の帰りにお話しようって言ったのも実は前から決めてたでしょ?」
『…………。』
どうやら図星のようだ。
昨日、オサムさんが何度も「悪い!頼む!」と言ってたから不思議に思ってた。山下はその返事に「まだ30分くらいしか話してない…。」と言ってたのに対しオサムは「話だけならいいだろ」みたいなツッコミはいれずひたすら謝っていた。多分、勤務を昼から夕方に変更する時に「明日は九十九と話をする」とでも言っていたのではないだろうか。
「決めてたならそのとき言って。今日のお出かけはいつから決めてたの?」
『…………昨日。』
(だろうね。アラームセットして早めに起きなきゃー無理だもんね。)
「何で昨日の電話のときに言ってくれないの?」
『もっと大切な予定が後から入るかもしれないから…。期待してダメになるの悲しいし。』
「山下くんとの予定も大切だよ。」
『……………。』
あぁ。やっぱり電話はダメだな。
今どんな顔をしているのか見れないのがつらい。
こんなこと言っていて逆に会いたくなる。
九十九はふぅと小さなため息をつく。
『…会えない?』
「朝は会わない。バイトまでゆっくりして。」
『……わかった。……朝からゴメン。』
彼はあからさまに落ち込んだ様子だ。
落ち込んだままの山下を放置は出来ない。
「…予約入れないの?」
『え、』
「………バイト。次のお休みはいつ?」
そう聞くと、困ったように『えっと…』と言い淀んだので、まさか!と思い「来週休みないの?」と聞く。
そういえば、付き合い始めてからバイトが休みの日があっただろうか。いいや、ない!
あまりにひどい勤務状況に呆れてしまう。
『あ、いや。法律上アウトだから今週は休み取れって言われてたけど、ハッキリとは決まってなくて。土日以外になる…かな。』
(法律上アウト!?…ダメだ。この人。本人が少し駄々をこねても休ませなければ。)
「じゃー嫌じゃなければ月曜日に休み取って。」
『…え?』
「月曜日に予約入れて。」
『…でも、学校終わってからだし、すぐに暗くなって、あんまり話せないし。』
「うちで話せばいいでしょ?」
『………え!!!』
「昨日、お母さんもちゃんと山下くんの話を聞きたいって言ってたし………前に土日にちゃんと挨拶するって言ってたけどもう昨日軽くしちゃったし、いいでしょ?…嫌?」
『嫌じゃないよ!!』
「じゃー決まりね。親にも言っとくよ。」
『うわぁあぁ〜。九十九の家……。』
「…ふふっ。ご予約承りました。」
まぁだいぶ強引に予約を取らせてしまったようだけど、彼がしっかり休みを取るのとテンションが上がってきたのなら何でもいい。
「じゃーもう電話切るね。バイトまでゆっくり休んで。寝れるなら少しでも寝て。」
『うん。………メールはしていい?』
「………10時以降なら。」
『うん。わかった。じゃーまた10時ね。』
そう言って電話が切れる。
多分、10時ピッタリにメールが来るのだろう。
少しでも長く休んでほしいんだけどな。そう思うも、そこは仕方がないし、少し嬉しい気もする。
そして2時間後の10時ピッタリにチロリン♪とメール音がするのだった。
読んでいただきありがとうございます。
あれ。超絶イケメンの彼がとんでもなくうざキャラになってるなぁ。
まぁいいか。




