特別授業のお時間。〜王道パターンがやっと来ました〜
ブブブブブ…
バイブの音が鳴り、山下がカバンからケータイを取り出す。
「あ、オサムさんからだ。九十九、出ていい?」
どうやらバイト先からの電話のようで、九十九はすぐに頷く。
「あ、九十九。オサムさんの声聞く?」
「え、」と九十九が驚いている間に山下はイタズラっ子のような顔をしながら電話をハンズフリー通話にして出る。
「もしもし?オサムさん?」
『おー出た!悪い、勇也!今どこだ?学校か?』
電話からは少し焦ったような大人の男性の声が響いた。
「今?今は九十九の家の近くにいるよ。どうしたの?」
『そうか!良かった!今、九十九ちゃんと一緒か?』
(つ、つ、九十九ちゃん?!)
九十九は2人があまりにも自然に自分の名前を話しているのに驚き固まる。
(どうしてバイトの経営者との会話に私の名前があっさり出てくるの?)
「うん。今、隣にいるよ。何で?」
『…だろうな。……お前、口調なんとかしろ。マジキモい。』
「うるさいな。何なの?」
山下がムッとした時の声に変わる。
どうやらオサムさんとは軽口が聞けるほど仲が良いみたいだ。以前、写メの件でも軽いやり取りをしていたことを思い出した。
『……。うーー。悪い!本当に悪い!勇也、今からバイト出てくれ!』
「………はぁ?今日は夕方からって言ったじゃん!え、何で?」
『本当に悪い!…バカトが来ねぇ!』
「またぁ?またタカトさん寝坊?」
『わかんねぇ!電話しても出ねーんだ。今、俺とリョウで回してんだけど10人の団体が来て、マジ無理!この後3時から予約客が来るから、本気で無理だ!一応、リツコに早めに来るように連絡はしたけど、それでも多分回らねぇ!』
「えぇ〜!…だって今日…まだ30分くらいしか話してない……。」
山下が本当に嫌そうな顔をして九十九を見る。
まるで助けを求めているような顔だ。
しかし、そんな顔をされても九十九には何が何だかんだわからないし、何を求められているのかもわらかない。
『本当に悪い!頼む!』
「……うぅ〜。九十九〜。」
(え〜。どうすればいいの?)
「…九十九はもっと話したいよね!一緒にいたいよね!」
(えぇ!そこ?お話したいから断ってってこと?いやいやいや。それはダメでしょ!)
「山下くん。行ってあげた方がいいと思う。」
そう言うと山下は雷が落ちたようなショックを受けた顔をする。
「今、オサムさん大変なんでしょ?お話はまた今度しようよ。ね?」
「今度っていつ?明日?1週間後?いつ?」
山下が責めるように九十九に尋ねる。
(……えーっと。私は何に怒られているんだろう。まぁ『また今度』ってその場しのぎの適当な言葉に聞こえるもんね。じゃーどうしよう。)
「うーんと。じゃー夜に電話しよう。」
「っ!!!」
ムッとしていた山下の顔が驚きの表情に変わった。少し嬉しそうだ。
「……電話…夜していい?」
「うん。バイト終わるの10時?その後に電話でお話ししよう。」
「………。わかった。」
『…マジか!本当ありがとう。九十九ちゃん!』
2人の会話に黙って耳を傾けていたオサムさんが歓喜の声を出す。
『ってなわけで、勇也!マジ急いで来てくれ!猛ダッシュ!5分で頼む!』
「うるさい!オサムさんは黙ってて!ってかもう切るから!」
そう言って山下はケータイの通話を切る。
「電話になんか出るんじゃなかった。ってかスピーカーにしなきゃーよかった。」
ブツブツと文句を言いながらケータイをカバンに入れる山下が九十九をチラリと見る。とても悲しそうで辛そうな顔だ。
「お仕事頑張って。行ってらっしゃい。」
「絶対、10時に電話するから。」
「うん。待ってるよ。」
そう言うと山下が「うん。行ってきます。」と振り切るように走って行く。そうでもしないとその場から離れられないような、そんな表情だった。
彼の姿が見えなくなるまでその場で手を振っていた。ポツンと残された九十九は今までの流れを思い返して、プッと笑う。
(…ってか、急に入ったバイトに行くのにどんだけ!!笑)
映画で戦地に向かう恋人との別れのワンシーンのようなやり取りに笑いしか出ない。
九十九は一通り笑い落ち着いた後、ゆっくりとベンチから立ち上がり、家に帰ろうと足を向けた。
「ねえ。」
突然、声を掛けられ、九十九は振り向く。
そこには女の子が5人、こちらを冷たく見下ろしていた。講義の時に見た顔ぶれだ。
「ちょっと話があるんだけど、来てくれない?」
「……………。」
(これは、あれかな?イケメン彼氏を持つ彼女をイジメましょう的な王道パターンかな?)
ひとまず、イヤです。と首を振っておいた。
それを見て女の子達は激高したようで激しい口調で罵ってくる。
「あんた、何様のつもり?ゲームで山下くんの彼女になったからって、本当の彼女じゃないんだからね!」
「ってか!その顔で勇也くんの彼女になるとかマジあり得ないから!」
「身の程をわきまえなさいよ!」
「つーか、山下くんとしか喋らないって何?マジキモいから!」
(確かに!)
「いや、頷いてんじゃねーよ!ってか顔かせって言ってんだよ!来いよ!」
(いや、来てくれない?って聞いてきたから断ったのに。)
そう思うも逆らうと面倒なので彼女達の言うことを聞く。女の子5人に囲まれながら大通りを歩いて行く。
山下と付き合いはじめの時は、いつ女子生徒にいじめられるのだろうと思っていた。しかし、それから2週間も何もなかったので、そういう可能性をウッカリ忘れていた。
どこに行くんだろう。そう思いながら彼女達に着いて来たが、目的地に着いて「なるほど。そういうことか。」と納得した。
そこは山下のアパート前の広場だった。
噴水と床の可愛いタイルが外国風で素敵だ。
「ねぇ。勇也くんのバイト先、知ってるよね?どこ?」
(やっぱりそうだよね。)
自分の想像があたっており、少しため息をつく。
「ここら辺ってことは知ってんの。いつもこのあたりでいなくなるから。」
(ええ、そうでしょう。あなたのすぐ後ろの建物の裏ですよ。…ってか毎回ストーカーしてるんですか。)
「何だよ。その顔!罰ゲームで誰とでも付き合うビッチにそんな顔されたくないんだよ!」
胸元をドンッと押される。
「言えよ。あんたみたいな女が知ってるなんておかしいでしょ。」
女の子達が周りを囲み、グイグイと体を押してくる。九十九は痛みと恐怖に耐えながらもひたすら口を閉ざしていた。
(ってか、自分がされて嫌なことを人にはしないなんて、小学生でも知ってる常識だから!)
どのくらいそうしてただろう。とても長く感じた。
絶対こんな奴らに負けない!言ってたまるか!とそんな気力だけで耐えてみせた。
「いい加減、喋れよ!ブス!」
強烈な平手が九十九の左頬を叩く。
眩暈がし、その後に強烈な痛みが襲ってくる。
「……………っ!」
九十九の痛みに耐える姿を見て、自分のしたことにおののいたのか、女の子は「…もうこいつダメじゃん。喋んないし、行こう。」と言い出した。
九十九はやっと終わるのかと息をはく。
「マジうっざい!」
他の子から強い力で肩を押される。体勢を崩した九十九は後ろへよろめき、足に何がが引っかかりお尻から転倒する。
バシャン!
足に引っかかったのは噴水の淵で、転倒した先は噴水の中だった。胸元まで水に浸かり、唖然としてしまう。
それを見た女の子達は「きゃはははは!」と大笑いしていた。
「いい気味。いつも彼女面して偉そうにしてる罰だよね。」
そう言って笑いながら去って行った。
「………………。」
あまりにも嵐のような出来事に九十九はしばらくその場から動けないでいた。
少しずつ暖かくなって来たとはいえ、まだプールに入るには寒過ぎる時期だ。吹いた風に体がブルリと震え、初めて九十九は頭をゆっくり回転し始めた。
噴水の中からザバッと抜け出す。制服が水を吸い、とても重たい。
(帰らなきゃー。どうしよう。この格好で?)
ずぶ濡れの格好で帰った時の両親の反応が怖い。
心配されるのはもちろん、怒って学校に抗議するのか、それとも転校でも勧められるのか、その全てのような気がして九十九は困惑する。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう。)
されたことの衝撃と今の現状と今後の想像が九十九の頭を働かせなくする。
「……大丈夫かい?……おや。あなたは九十九さん?」
突然、声を掛けられ、九十九は体をビクリと震わせる。そこには見知らぬ年配の男性が立っていた。
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