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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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特別授業のお時間。〜彼のことを知ろう〜



「じゃー九十九はこの高校で良かったって思う?」


少しずつ顔色が戻ってきた山下が聞いてくる。


「う〜ん。……そんなに良かったぁーとは思ったことないけど……山下くんと仲良くなれて良かったとは思うよ。」


そう言うと山下の頬が少し赤くなっていく。


「……殺し文句ヤバイ。」


ボソリと彼が何かを言ったがそれは聞こえなかった。


「私も山下くんのこと聞いていい?」

「うん。」


良かった、と九十九はホッと息をはく。

九十九は山下についてほぼ何も知らない。基本、2人の会話は山下が九十九に質問することが多く、九十九から山下にはほとんど質問をしたことがない。

山下には謎が多い。時々、彼に色々と質問する女の子がいるが、それを笑顔で流したり、他の話にすり替えたりすることを何度か見たことがある。

その為、九十九もあえて聞かなかった。

しかし、こんなに仲良くなって、こんなに自分のことを知られているんなら彼について少しは知っててもいいのでは…と思った。


「じゃーご家族のこと聞いていい?」

「うん。俺には姉ちゃんがいるよ。6歳離れてんの。もう結婚して子どもいるよ。」

「そうなんだ。甥っ子?姪っ子?」

「姪っ子!…1歳なんだけど、マジ天使!マジ可愛い!」

「ふふっ。そうなんだ。」

「うん。あ、写メあるよ。見る?リンナ。」


山下の言葉につい「え、」と反応してしまう。


「はは。うちの天使の名前、リンナって言うんだ。凛とした名前で『凛名』。九十九とお揃いだよね。」


そう山下が満面の笑みを向けてくるので九十九は更に「…え、」と反応する。


「だって、九十九の名前『凛花』でしょ?九十九凛花。いい名前。」


山下の言葉がジワジワと九十九の脳に届いてくる。そして意味を理解すると次はジワジワと頬が赤くなってくるのがわかった。


(うわーーー!ヤバイ!顔が熱い!絶対赤くなってる!絶対バレる!恥ずかしい!……うわーーー!ヤバイ!)


九十九は混乱していた。


家族以外に名前を呼ばれたのはいつぶりだろう。2年になって初めクラスで自己紹介した時に名乗ったが誰も覚えていないと思ってた。

まぁ山下のように頭が良くて社交的な人は人の名前を覚えるのは得意だろうと思ってはいたが、彼から呼ばれることがこんなにも衝撃的だとは思わなかった。

顔がどんどん熱くなっていく。


「あは。顔が真っ赤になった。どうしたの?」


山下が九十九を見て小さく笑い、少し俯いている為に顔にかかってしまっている九十九の髪を耳にかける。

九十九は更に顔を赤くした。


(ちょっとーっ!!やめて!いきなりイケメン行為するのやめてーーー!!)


九十九は恥ずかしさのあまり手の平を山下に向け距離を取ろうとする。


「あ、ゴメン。もう言わないから離れないで。」


九十九から拒否されたと勘違いしたのか、山下に謝りながら逆に手を掴んで引っ張られる。

なぜか先程よりもっと近くに座らされる。


「…名前…呼ばれるの嫌い?」

「…ううん。でもちょっと刺激が強いかも…。」

「あは。何それ。おもしろい。」


いや、おもしろくない!と言いたいが、心臓のドキドキを止めるのに一生懸命だ。いや、止めちゃあいかんのだけれども…

そんな訳の分からないことを頭で言いながら、いまだに頭がうまく回らない。


(…あぁ。でも彼に名前を知ってもらっていたのは嬉しいなぁ。)


そんな風に思うと、少しだけ落ち着いてきた。


「見て。凛名の写真。めっちゃ可愛いでしよ?」


山下がケータイを九十九に見せる。そこには目がクリクリとした細い髪をツインテールにいている可愛い女の子がいた。


「ふぁ〜〜!!かわいい!!」

「でしょ?でしょ?マジ天使!」


目はクリクリまん丸だが少し猫っぽいつり目なところが山下と似ている。


「ふふっ。山下くんに少し似てるね。」

「そう言われる。まぁ姉ちゃんと俺が似てんだけど。」


少し照れたような彼の顔が可愛い。


年頃の男の子がそんな風に『家族と似ている』と嬉しそうに言うなんて珍しいな。そういえば、家族の話を聞いて1番にお姉さんのことを言うなんて不思議だな、と九十九は思っていた。


そんな考えが顔に出ていたのか、山下が話を続ける。


「俺、両親いないんだ。施設で育ったから。ってか半年前までずっとそこにいたんだけど。」

「…そうなんだ。今は一人暮らしだよね?」

「うん。ずっと施設から出たくて。姉ちゃん夫婦の近くに引っ越すって理由で出てきたんだ。」

「だからバイトあんなにしてるの?」

「うん。姉ちゃん達も家庭があるし、俺が負担になるなんて嫌だから。」

「だから部活してないんだね。」

「うん。バイトしないと生きてけないし。」


なんてことないように山下は笑う。


「かっこいいね。」

「…え、」

「だって、私は親に甘えてばかりだから。いつかは自立したいと思っても出来ないことが多過ぎて恥ずかしくなるよ。」

「俺からしたら九十九もかっこいいよ。」

「ふふっ。どこが?」

「真っ直ぐなとこ。凛と立ってるとこ。…名前のままだなって思う。」


真っ直ぐ?凛と立ってる?…九十九はまったく自分に当てはまらない言葉に疑問しか浮かばない。

性格はグネグネ性根が曲がってるし、よく下ばかりを見て歩いてるし、彼は自分のどこのことを言ってるのだろう。

本気でそう思い山下を見ると、近くにあった彼の目と目が合う。


「ふっ。可愛い。」


トロリと目尻を下げた山下がついこぼれ出たように言葉を漏らす。

九十九はしばらくポカンとしてしまったが山下の発言が脳に届くと全身がカッと熱くなる。


(そ、そ、そ、それはダメなやつ!女の子に言っちゃーダメなやつ!)


時々、山下から可愛いと言われていたが冗談かお世辞か九十九の行動がおかし過ぎて言っているだけだと思っていた。


(その言葉はそんな顔で言っちゃーダメだよ!勘違いするから!私以外の子は絶対!)


そんな風に彼に言ってやりたかったが、あまりにも心臓が激しく鳴り体が熱い為、言葉が出ない。


「ねぇ。九十九。今度どこか出掛けようよ。」

「…出掛ける?」

「うん。どこでもいいから。図書館でも買い物でも遊園地でも水族館でも。本当にどこでもいいから。」

「ふふっ。突然だね。」

「俺、あんまりそういうの行ったことないんだよな。九十九と行くなら楽しそう。」

「う…ん。…でも私…行けないとこ多いもんなぁ。」


買い物といえば街に出なくてはならない。しかし街は2年前の事件を濃く思い出すので未だにあまり行けてない場所だ。あと、人混みも苦手だ。知らない人と肩が触れる想像をするだけでゾワゾワと総毛立つ。

そういう場所には両親がいる時でないと行けない。そこでふと山下を見る。


(そうか。山下くんが近くにいたら行けるのかな。)


だって彼は家族同様に信頼している人だ。彼が手を繋いでてくれていたなら行けるのでは、と思った。


(…って……手って!いやいや!カップルかよ!……いや一応罰ゲームカップルだけど…)


街を山下と手を繋いで歩く、そう妄想だけで顔が熱くなる。


おかしいな。先日まで結構、普通に手を繋いでたのにな。昨日だってハグもしたのに。改めて考えると恥ずかし過ぎる。

悶々と九十九が考えていると山下から「九十九?」と声を掛けられた。


「……そんな出掛けるの嫌?」

「嫌じゃないよ。ただ、行くのに勇気がいるだけ。でもいつかは行けるようにならないと…とは思ってるんだけど…。」

「そっか。じゃー怖かったらすぐ帰ればいいよ。30分でも10分でも。俺は九十九と出掛けられれば満足だから。少しずつ慣れればいいんだし。」

「…………………。手を繋いでって言っても?」

「手?…手を繋いでてほしいってこと?」


山下が少し驚いたように九十九の顔を見るので、恥ずかしくなり俯きながら頷く。


「それ大丈夫。ずっと繋いでる。家を出た瞬間から帰るまで。1日中でも大丈夫。」

「いや…。人が多いとこだけでいいんだけど。」


山下の食い気味の発言に若干引きつつ、なら出掛けられるかな、と九十九は思った。




読んでいただきありがとうございます。


やっと九十九の名前が出ました。

山下に最初に呼んで欲しいなと思っただけなのにこんな遅くになっちゃいました。

主役なのに…笑

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