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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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特別授業のお時間。〜お話をしましょう〜



山下が「ここ!俺のアパート!」とか「ここ、バイト先!」と個人情報を九十九に教えてくれたのはいつだろう。


(…えーっと、初めてケンカをした後…?…だから…付き合って土日を挟んだ5日…?かな?)


まだまだ山下のことを全然、信用してなかった頃で話し掛けられても頷くか無視をしていたような時期だ。

そんな時に彼は九十九にアパート先(しかも部屋番号付き)とバイト先を教えてくれていた。

あまりにも軽く教えてくれていたので多分、皆知っているんだろうと思っていた。

しかし、どうやら違うようだ。

「誰にも教えないって決めてるから。」山下は先程そう言った。


(……え?…じゃー何で私は知らされてるの?)


ん〜っとしばらく考えるとパッと閃いた。


(そういえば!あの時「もし何かあったら」と何度も繰り返し言われていたよね。管理人のシゲさんかオサムさんに助けを求めてって。つまり、私のあの事件を知って不憫に思って教えてくれたのかも!)


少し納得しかけた後に、どこかモヤッとする部分がある。


(まぁ保護先はいくつかあった方がいいと思ってくれたのかもしれないけど…たった5日目の罰ゲーム彼女に対して教えるかな?部屋番号もだよ?)


ムムム…と悩んでいると、講義が始まったので九十九はそれについての思索をポイっと捨てる。


(まぁわかんないことは本人に聞くのが1番だよね。……それに山下くんってちょっと変わった思考の持ち主だし。)


自分のことは色々と棚に上げ、講義に耳を傾けるのだった。




講義はとても楽しかった。

さすが有名塾講師。言葉がうまく生徒を楽しませながら教えて行く。

教えては1問解き、また教えては1問解く。

隣の山下がその度に答え合わせをしようとノートを差し出して来たり、九十九のノートを覗き込んだりとコソコソ作業することが楽しい。

時々、楽し過ぎて声が出そうになるのを2人で必死に耐えたり、軽快に喋る講師の先生の話についていけなかった時は山下が説明の補足をしてくれた。

2時間だった講義はやはり20分ほど押して終わった。九十九にとってはあっと言う間だったが、前方からノソノソと帰ろうとする数人は「長かった…」「キツかった」と話して通り過ぎて行く。


「楽しかった。ね。」

そう山下が笑顔を向けてくるので九十九は「うん。」と返した。周りの女子を見ると複雑そうな顔をしていた。しかし山下の笑顔が見た瞬間に目がトロリと下がって満足した様子だった。


「九十九。質問しに行けるみたいだよ。行く?」

「ううん。わかんないことは山下くんが教えてくれたから大丈夫。あ、山下くんは何か聞いてくる?私、待ってるよ。」

「ううん。俺はいい。じゃー帰ろう。」


ニコリと笑って席を立つと周りの女子があからさまな落胆顔になり「えー。行っちゃうの?」と唸る。

九十九は少し気がひけるも山下が平気な顔でそんな女子を無視するので、それについては何も言えなかった。



「…女の子達、大丈夫?」


つい講堂から出た時に九十九は聞いてしまう。


「…何が?」


質問の意味が本当にわからない、というキョトンとした顔で山下は答える。


山下は基本とても優しい。男女分け隔てなく話すし、女の子に騒がれたり触られたりすることもよくあるが、そんな時もニコリと笑って会話しつつ少しずつその場をおさめたり距離を取ったりする姿を罰ゲーム彼女になる前から遠目で見ていた。


しかし最近、山下に近い位置にいるから気付いたのだが、彼は意外とバッサリと女の子達を切る。

突然、腕を絡ませててきた子とか、グイグイ会話をしてくる子とか「やめて。困る。」と断ってるし、騒がれても先程みたいに自分のことではないように無視する姿もチラホラと見る。


「女の子達、山下くんと話したがってたみたいだけど。」

「今は九十九といるから話されても困る。」


(…ん〜と。彼女の前では他の子と話したりするつもりはないと。彼女至上主義ということかな。……私、罰ゲーム彼女なのに徹底してるな。)


そうか、なら仕方ないと九十九は納得した。


「九十九は俺が他の子と仲良くして欲しいの?」

「ううん。好きにしたらいいと思う。」


そういうと山下は少しホッとしたような顔をした。

その話はもうやめようと話を変える。


「今日の講義で思ったけど、やっぱり塾って授業以上のことが知れるね。」

「そうだね。俺は行ったことないけど。九十九は塾通ったことある?」

「ううん。でも意外と楽しかった。」

「……………。今後、通ったりする?」

「う〜ん。それはないかな。人が苦手だし、夜が遅くなるのが……あ、でも今はオンライン授業とかあるもんね。するならそれかな?」

「…よかった!塾でメールの時間減るの嫌だし。」

「ふふっ。まぁ罰ゲームが終わるまでは塾に行ったりはしないよ。」

「……………。それは罰ゲームが終わったらメールはしないってこと?」


山下のテンションが急降下したのが声でわかった。驚いた九十九は足を止めて山下を見る。


「……。メール続けてくれるの?」


九十九は罰ゲームが終わったら全てが元通りになると思っていた。送り迎えがなくなるのはもちろん、メールもしない、昼食ももう一緒に食べないと。

もしかしたら以前のように会話すらしなくなるのではとも思っていた。

だって今までの罰ゲームがそうだったから。


「………九十九が嫌じゃないなら続ける。」

「…嫌じゃないよ。」

「じゃー続ける。」


山下のテンションが徐々に浮上してくるのがわかる。


九十九はなくなると思っていた山下の繋がりが、1つでも残ったことに安堵して嬉しくなった。


「…あ、そうだ。そういえば何で私にバイト先とアパート教えてくれたの?」


後で聞こうと思っていて忘れていた。

今のタイミングで思い出したので聞いてみた。


「…ん?……んー。九十九に頼られたいなって思ったから。」


聞いてもよくわからなかった。あ、そうか彼は彼女至上主義だからかな、と九十九は思うことにした。


「それ危ないよ。もし私が誰かに言っちゃったらどうするの?」


現に九十九はみんな知っているものと思っていた。つい話の流れで言ってしまっていたら大変だ。


「九十九が信用してる人には言っていいよ。」


ケロッとした山下の表情と言葉に、こりゃ何言ってもダメだと九十九は諦める。


(私以外の女の子が聞いたら口説かれてんのかなって思って当然だと思う。)


そう思いながらその話も止めることにした。

そうすると住宅街のゲートに着く。

九十九は足を止め「今日はありがとう。また月曜日。」と言おうとするが、その前に山下から「ねぇ。九十九。」と言葉を発せられ言えなくなる。


「今日はこの後、用事ある?」

「…この後?何もないよ?」


いつか聞いたことあるような台詞だ。と思いつつ九十九は答えた。


「じゃー少しお話ししませんか?」

「………お話し?」

「うん。俺、バイト夕方からだし。いつもそんなに話せないから。」


(そんなに話せない?…結構話してると思うけどな。)


登下校も昼休みもほぼ毎日話をしてるので九十九にとっては十分だと思っていたが、山下は違うらしい。

まぁ人と話さないことを目標としていた九十九と誰とでも仲良くできる山下とでは基準が違うのだろう。そう九十九は思い、少し考えた後に頷き了承する。山下はパッと顔を輝かせて笑った。


「よかった。時間いっぱいあるからいっぱい話そう!4時間くらい!」


山下の発言にギョッとすると、それを見た彼が楽しそうに笑う。


「あはは。4時間は言い過ぎた?じゃー2時間。」


それでも長いのだが、彼からしたら大分気を使った時間らしいので、それに対しては何も言わなかった。


2人でどこで話そうか少し考え、ゲート近くの広場のベンチに座った。

少しソワソワとした山下だったが、少し何かを考えるように黙り、その後気まずそうに話し始める。


「ねぇ九十九。…あの。嫌だったら答えなくていいんだけど…聞いていい?」

「……何?」

「…………。九十九が…男が嫌いな理由は…前に言ってた2年前の事件のせい?」


なぜか山下が怯えたような瞳で九十九を見てくる。それを見た九十九は逆に平然とした顔で「うん。」と答えた。


「………そっか。」


とても痛そうな顔を彼はする。


「…九十九は頭がいいでしょ?…何で共学の学校を選んだの?」

「…女子高…受けようとしてたら事故に遭遇して受験に間に合わなかったの。今の学校は家も近かったから併願校だったの。」

「…………それは……」


山下が顔色を悪くする。

あまりにも九十九の不幸続きに言葉の先が出ないようだった。


「私ね。人を初めて助けたの。」

「…え。」

「その事故の話。…初めて人の役に立てたの。私、それがなかったら多分もっと人形みたいに生きていたと思う。」


山下が驚きの顔になる。少し顔色が戻って安心した。


「こんな私でも誰かの役に立てるんだって思った。……こんな私でも生きてていいんだって…そう思えた…。…あの事故は私にとっては唯一の誇りなの。もしあの時に時間が巻き戻せても私は何度でも同じことをするよ。」


そう言って笑うと、山下が眩しいものを見るように目を細めた。




読んでいただきありがとうございます。

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