ケンカをしました。仲直りをしましょう。
九十九が山下の目の前を通り過ぎた。
「……あ、」
言いたい言葉が声になって出てこない。
山下に一切 目もくれず歩いていく九十九を唖然と眺めることしか出来ない。
そんな山下をクラス全員が痛ましそうに見る。
「おい。何ボンヤリしてんだよ。追いかけて謝ってこい。」
そんなクラスの目線を無視して土間が山下に「早く行って来い。」と促す。
「え、だって…」と山下はチラリと九十九が去って行った方を見る。
「いや。だってじゃねーよ。お前、朝も謝れてないんだろ?あいつだって謝ってもらえねーんじゃー許せねーだろ。」
「だって、朝 話しかけたらすごくビクビクされた。俺のこと怖いのかな。もう話掛けられたくないのかな。」
「いやいや。どんだけネガティブになってんだよ。それに多少、怖がられようとも謝んなきゃーもう一生怖がられたままだぞ。」
「やだよ。怖がられたくない!嫌われたくない!」
「いや。もう嫌われてんだろ。」
土間の発言に山下の顔が凍りついた。
「うわ。今のは悪かった。本当に口が滑った。すまん。兎に角、お前が謝らないと話が進まないんだよ。」
「……怖い…」
「…何が。」
「また…『嫌い』って言われるの。」
「……………。…1回も2回も一緒だ。」
「違うから!言われるたびにゴリゴリ心が削られるんだから!そのまま削られたらなくなっちゃうから!」
「……何がだよ…。」
あぁ。こっちも面倒で手強い。と土間はため息をつく。
「なぁ。俺が言って説得してきてやろうか?」
そんな2人の会話に割り込めるのは津々見しかいない。津々見の発言に「……え、」と山下が反応する。
「だから、あいつがどこでメシ食ってんのか教えて。」
「………っ!…っ!……絶対!…絶対、お前には教えねーよ!!」
山下は津々見を憎らしげに見つめ叫びながら走って行った。残された土間と津々見はそれを唖然と見る。
「…え?…謝り行ったの?」
「…いや、お前、地味にすげーわ。」
山下は恐る恐る旧校舎に来ていた。
ゆっくりと裏に回ってベンチを校舎から覗く。
いつもの場所、いつもの位置に九十九が座っていた。
山下はそれを見て心臓がギュッと痛くなる。
一昨日まで自分はあそこにいた。
昨日、自分が軽はずみな行動をしなければ今日もあそこにいるはずだった。
声を出そうとするが出ない。
チラチラと昨日の九十九の姿が頭をよぎる。
「大っ嫌い」そうハッキリ言われた。
その後も、全身で自分を拒否していた。
今日は昨日のような怒りは表に出ていないが、逆にビクビクと山下の発言に怯えている様子だった。
その反応が山下には1番ツライ。
少し校舎から一歩前に進む。
多分、離れた距離から話しかけた方がいい。
だって彼女は山下を怖がっているから。
「……………。」
しかし、声が出ない。足もこれ以上進まない。
どうしよう。どうすればいい。一旦ここは出直した方がいいのではないだろうか。もっとちゃんと九十九と向き合える自信が付いて、九十九が納得するような言い訳を考えた上で謝りに来た方がいいのでは…
そんな風に逃げ道を作り、そうだな。と一人で頷き後退しようとした。
「……山下くん…」
そう呼ばれた瞬間、心臓がバクン!と大きな音を立てた。
気付かれていた!そう思って慌てて声を出した。
「…っはい!!」
突然の大きな声に九十九はビクリと体を揺らしたのが見えた。山下を見て目を大きく開ける。
山下は焦った。
「何で勝手に来たの?顔も見たくない!」そんな風に言われるような気がして慌てて先に言葉を発した。
「…っ!ゴメン!勝手に来てゴメン!目障りだったら消えるから!すぐ消えるから!…だから…す、少しだけ話をさせて下さい。」
「……………。」
九十九は唖然ととした顔で山下を見た。
何と言われるだろう。「もう話すことはない。」と言われたらどうしよう。
山下は言われても仕方がないと思える最悪の言葉をひたすら思い浮かべ想像して一人傷ついていた。
どのくらいの時間だったのだろう。
ポツリと九十九が言った。
「…うん。…話して。」
全身の力が抜けるような気がした。
そして、まだまだ力を抜いてはダメだと気合いを入れ直す。言葉にしなくてはいけない。
やっと謝罪ができる場所に立てただけであってまだ許された訳ではないんだ。
「……つ、………九十九。…俺ヒドイことした。女の子の髪を勝手に切るなんて最低なことをした。…本当にゴメン!…あの後、土間に九十九が刃物が苦手だって聞いて驚いた。信じて切らせてくれたのに裏切るようなことしてゴメン。」
チラリと九十九を見ると彼女は少しツラそうな顔をしていた。
「………土間が九十九の前髪は壁だって言ってた。」
九十九がピクリと反応し顔を上げる。
「…俺、よくわかんなくて。…でも九十九が大切にしてきた物なんだって……思って。……本当にゴメン。…ごめんなさい。」
山下は深く深く頭を下げた。
しばらく沈黙が続いた。
「……何で切ったの?」
「……え。」
「…髪。……切れば私がもっと前に進めると思った?」
「……?…前に?……いや……可愛いんだろうなって……思って……。」
何を言われているんだろう。山下は混乱した。
『前に進める』とは?ここは頷いていた方がいいのだろうか。そう思いもしたが、九十九に対して誠実にいようと思い直した。
なので素直をあの時の本当に馬鹿な思いを口にした。
すると九十九はポカンとした顔をした。
山下は間違ったかもしれないと即、先程の発言を撤回できないか考える。
「……可愛くない。」
どうやら撤回はできないみたいだ。少しだけムッとした顔で九十九が言ったが、それに対して山下も引き下がることは出来ない。
九十九のことを可愛くないなんていう発言は許されない。たとえ本人でもだ。
「…可愛いよ。……それに……もっと顔が見たい…と思ったから…」
「…顔…見たい?」
「九十九も俺によく言うでしょ?…顔が見えないから上を向いてって。……俺も九十九の顔が見たいよ。」
「………………。」
九十九が再度ポカンとした顔をした。その後フイッと山下から顔を背ける。
山下はその姿を見て全身がゾワゾワとした。
失敗したのか。さらに嫌われたのか。と不安ばかりが募る。
九十九の肩が震え出したのを見て、心臓がギュッとなるのがわかった。
「…………っ………はっ……あははは!」
山下は唖然と九十九を見た。
九十九が笑っている。声を出して。
今の状況を受け止めきれない。
「あははは!……おっかし!…あははは!」
初めて見る九十九の大笑いに山下はどういう反応をすればいいのかわからず顔を硬ばらせる。
「…九十九。」
「…山下くん。…私ね。あの事件の後、対人恐怖症になってね。誰とも会えない日が続いてたの。家から出て外の道を歩く練習をしていても人が近くを通るたびに怖くて動けなくなってね。このまま学校には行けなくなるのかなって思った。」
九十九が山下を見て淡々と話し出す。
内容の壮絶さを感じさせない飄々とした顔でだ。
「そんな時、お父さんがね、髪が伸びたね。顔が見えないって私に言ったの。…あ、皆からは私の顔が見えないんだって思って…少しホッとした。……それからなの。……あの前髪が私の壁になってたの。あれのおかげで少しずつ人前に出れるようになった。道を歩けるようになって学校に通えるようになったの。」
九十九の話を聞いて山下は顔色を次第に悪くする。
「……ご……ゴメン。……そんな…知らなくて。……ゴメンね。」
やっと九十九が前髪を切って怒った本当の意味がわかったのだろう。山下は少し真っ青な顔で何度も謝った。
「ううん。知らなかったんだもん。仕方ないよね。私も怒っていたとはいえヒドイことをいっぱいしてしまってごめんなさい。」
九十九が頭を下げる。とても綺麗な動作で。
「仲直りがしたい。」
頭をあげてニコリと笑う九十九がそう言った。
山下は言われたことが信じられず、つい九十九に手を伸ばした。
それに気づいた九十九が手に頬を寄せる。
温かい体温を感じて山下はゾワゾワと全身が震えた。頬が熱い。いや、全身が熱い。
夢じゃないと気付いて全力で頷いた。
「…っ!…俺も!九十九と仲直りしたい!」
その言葉を聞いた九十九がまたニコリと笑う。
その顔が可愛くて。
幸せ過ぎて。
山下は涙が出そうになった。
読んでいただきありがとうございます。
よかったー!
長かったー!
さぁバカップルに戻っていただきましょう!




