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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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ケンカをしました。最低なのは私です。


「…あら?」


母が声を出した為、九十九は母の目線をたどり窓の外を見る。


「さっき、男の子がこっちを見てたような気がしたの。ここら辺で高校生はあまり見かけないのにね。」


母にそう言われ、再度 窓のそばに寄り確認した。


あぁ。多分、彼だろう。

そうか。確認に来てくれたのか。

あんな態度をとってたから来てくれないと思った。

そんな風に思いながらも少しホッとする自分がいた。その後ハッと気付く。


なんてヒドイことをしてしまったんだ、と。


時間を確認すると家に着き30分程経っていた。

彼はどんな気持ちでメールを待っていたんだろう。一言も会話をしない人の連絡を待つのはどんなに不安だっただろう。いつケータイの電源が切られてることに気付いたんだろう。多分、不快な思いをしたはずだ。それでも家まで確認しに来てくれた彼は、自分が家にすでに着いている姿を見てどんな気持ちになっただろう。

いくら怒っていたからといって、していいことと悪いことがある。


心臓がギュッと苦しくなる。


彼に嫌われているかもしれない。それを知りたくなかった。その保身だけでさらに彼を傷つけたんだ。


(私なんか嫌われて当然だ。)


ケータイを取り出し、電源を入れようとして迷う。


怖い…彼からの反応があっても無くても、全てが負の感情に思えて怖い。


(あぁ。私はこんなに彼を傷つけても自分のことしか考えれないんだなぁ。)


その日はそのままケータイの電源を入れることも出来ないまま過ごした。





朝だ。目覚まし時計がしつこいくらいに鳴っている。昨日は結局いつ頃眠りにつけれたのだろう。

なかなか動けない体を無理に動かして準備を始める。

顔を洗い部屋の鏡の前に座る。

短い前髪が不細工な顔を隠すことなどなく、朝から自分の顔にため息が出た。


『わぁ。可愛い。』


彼が昨日言った言葉を思い出し「どこが。」と冷たく呟いてしまった。

いつも通り髪にアイロンを掛けているつもりだがなかなかまっすぐならない。


(まるで私の性根のようだ。)


そんな風に自嘲した。時間がせまって来た為、早々に諦めることにした。




心臓が嫌な音を立てている。

真っ直ぐ前を向けない。

久しぶりに自分の足だけを眺め歩いて行く。


「………おはよ。……九十九。」


彼の声が聞こえ、ジワァ〜と体に血がめぐるような感覚がする。


(………来てくれた……。)


最低な行為を何度もした自覚がある。

なので彼がもしゲートにいなかったら…そんな想像を昨日の夜からずっと繰り返していた。そして彼からひどく冷たい言葉を発せられる妄想を何度も何度も思い浮かべていた。


「………っ……九十九。……俺、昨日は……。」


山下からの発言に体が大きく震える。

それを見た山下はその先を言えなくなったのか黙った。しばらくし「……学校行こう。」と言われ、無言のまま、いつもより少し離れた距離で歩いた。



教室に着くとクラス中の皆が目線を向けてきた。2人の距離と顔色を確認し「はぁ。」とため息をはき、目をそらされる。


「…………?」


「おい。山下。ちょっと来い。」


クラスの反応に首を傾げていると、土間が山下を連れて行った。


「おめーら、まだ仲直りしてねーの?いい加減許してやれよ。」


席に着くと津々見から挨拶より先にそんな文句を言われた。九十九は言い返す言葉もなく黙る。


喧嘩両成敗とはうまく言ったもんだな、と寝不足の頭でボンヤリと考える。喧嘩をした両方に同じ罰を…と言うが、まさしく九十九は今の自分の状況に当てはまっていると思った。


(謝る方にも、許す方にもそれなりの勇気がいるんだな。こんなこと初めて知った。)


「しゃーしぃ女。」


ボソリと津々見が呟く。九十九は多分 自分を責めている言葉だとは思ったが意味がわからない為、津々見を見る。


「あ?……お前のこといってんだよ。」

「……意味。」

「…ああ。……面倒臭い、うるさい、うざい…全部の意味。」

「……何それ!…便利!…ピッタリ!」

「いや。喜んでんじゃねーよ。」



午前中は寝不足だが変に神経を張り詰めているせいか眠くはならない。しかし、まったく授業内容が頭に入らないと言うキツイ時間だった。


昼休みのチャイムが鳴り、九十九はお弁当の入ったミニバックを持ってノソノソと教室から出て行った。

途中、山下が「……あ、」と何か言いたげな顔をしていたが昨日から怖い想像しかしてこなかったので聞かないフリをした。




いつもの場所だ。癒しの場所。子どもの可愛く元気な声に元気をもらえる、そんな場所のはずだ。


なのに昨日から全く癒されない。


子どもの声を聞いても、壁越しの声が逆に1人でいることを強調されているように虚しく響いてくる。

お弁当を開いても食欲がわかない。

お母さんが作った大好きな蓮根のはさみ揚げが入っているのに箸が動かない。

ボンヤリと頭は働かないくせに、変な想像だけはしっかりと描ける。


「はぁ…」


何度目のため息だろう。止まる気配がない。


(今日は朝から何も話さなかったな。もう私となんか話したくないかな。そうだよね。嫌な女だもん。嫌味で根暗で不細工でワガママで…そう。しゃーしぃ女だもん。嫌われたよね。もう側に寄りたくないよね。どうすればいいのかな。どうすれば元に戻るのかな。私から謝ればいいかな。わかんない。仲直りの仕方がわかんない。…そもそも仲直りできるのかな。嫌われたんならもうそれまでのような気がする。そっか。もう山下くんとは仲良くなれないのか。)


ジワリと目に涙がたまる。

視界がぼやけてくる。


(もう仲良くなれないにしても、謝ることだけは出来ないかな。ひどいことをしてしまったもん。……でもそれも保身なのかな。謝ってホッとしたいだけなのかも。……ああ!もうわかんない!世の中の人はどうやってケンカしてどうやって仲直りしてるの!?教えてほしい!)


悶々と悩んでいるとハッとまだお弁当に手をつけていないことに気付いた。急がないと!今何時?とケータイの時計を見るとまだ10分しかたっていなかった。


(…あれ。スローモーションで世界は動いていますか?)


山下がいないと世界から意地悪をされているようだ。

何もかも上手く回らない。

たった2週間前は普通だった。全てが普通に回っていたのに。


もう戻れないんだ。ケンカ前には。

もう戻れないんだ。2週間前には。

じゃー私はどうなるんだろう。だって山下と仲が良かったケンカ前には戻れないんだ。だって山下を知らなかった2週間前の私には戻れないんだ。

じゃー私はどんな私になるの?

今の嫌味で根暗で不細工でワガママで…しゃーしぃ女…このままなの?


九十九は絶望がジワジワと体の体温を奪っていくのを感じた。同時に大きな恐怖もだ。


「……山下くん…」


助けを求めた。もう助けてはくれないと知っていても。彼しか頭に浮かばないのだから仕方がない。


「…っはい!!」


突然の声に九十九はビクリと体を大きく震わせた。驚き声のした方へ振り向くと、望んで止まなかった山下が目の前に立っていた。


もう来てはくれないと思った。だって今日は席を立つ九十九に何か言いたげにはしていたが結局何も言ってこなかった。いつもの彼なら追いかけてでも顔を覗き込んでも訴えてくるはずだ。


驚きのあまり口を開けたまま見ていると山下が慌てだす。


「…っ!ゴメン!勝手に来てゴメン!目障りだったら消えるから!すぐ消えるから!…だから…す、少しだけ話をさせて下さい。」


東尋坊の絶壁にでも立たされたような顔をしている山下が必死な声で叫んでいる。


九十九は山下の瞳に未だに映れていることに安心し、時間が通常どおり動き出したような気がした。


「…うん。…話して。」


もっと気の利いた言葉はなかったのか。

言った後に悔しくなったが、山下の顔がパッと明るくなったのでホッとする。




『…その友達はどう?……これからも一緒にいたいと思う?…もうダメだと思う?』



母の声が聞こえた。


(…お母さん。私は山下くんと一緒にいたい。できるならずっとずっと仲良くしていたいよ。)





読んでいただきありがとうございます。


長いよー。ケンカ長いよー。早く仲直りしてよー。と書きながら思うのは矛盾してるんでしょうか。笑

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