HRが始まらない。②
先程までの静けさは何だったのか、今はクラス中の女子が大声で叫んでいる。
「なんで⁈ なんで?」
「最下位って勇也が九十九さんと付き合うってこと?」
「いやいやいや。ないないない!」
絶叫に近い女子の様子を山下はキョトンとした表情で見ている。
側からは、冷静に見える九十九も心情はクラスの女子と同様に動揺し、心の中で叫んでいた。
(なんであんたがこんなゲーム参加してんの?!これはモテない男の、モテない男による、モテない男の為のゲームだよ!)
あまりに大騒ぎになってしまい、その他ゲームの参加者はドン引いていた。
そして、何も発言ができない。いや、してはいけないことに気付いていた。
「どうして勇也はこんなゲーム参加したの?」
クラスの女子の中心にいる芹川 莉子が山下に詰め寄る。それは、とても可愛いく。
芹川は大きな薄い色の瞳がとても印象的なクラス一、いや学年一の美少女だ。彼女から覗き込まれれば、誰でもドキッとするだろう。
緩く巻いた髪が肩から滑りフワリと揺れる姿はとても色気がある。
スタイルも良くて短めのスカートからスラリと細くて長い足がのびている。
そんな彼女が山下へ話しかけているのを日頃、よく見る。時々、体に触れる仕草を見て、2人は付き合ってるのでは…と、いう噂もあったが、山下の飄々とした対応に、そうでないと誰もがホッとしていた。
もちろん。九十九はまったく興味がない話だ。
そんな彼女、芹川が下から表情を窺うように山下を覗き込む姿は、少し離れた所から見ている九十九さえドキッとする。
「え?どうしてって…誘われたから?」
飄々とした態度で、そう返事をする山下にクラスの全員が沈黙する。
(なるほど。山下くんほどのイケメンになると、芹川さんくらいじゃー動揺すらしてもらえないのか。)
多分、クラスのほとんどが、そんなことを思った瞬間、芹川がキッとこちら側を睨んできた。
(え! いや!芹川さんくらいじゃー相手にされないとか思ってません!)
慌てて言い訳を考えるも、芹川の視線は九十九を通り越し、ゲームの参加者に向かう。
「なんてゲームに誘うのよ!土間っ!!」
(はっ!そう!確かに!それだ!)
ついつい、思考が回らず脱線してしまいそうになったが、今、問題はそこだった。
そうして我に帰った女子のほぼ全員が山下以外の参加者を恨めしそうに睨む。
「あんた達が馬鹿なゲームをするから!」
「大体、やってることがガキっぽいんだよ!」
「あんた達だけでやってれば良かったのに、なんで山下君を巻き込んだの⁉︎」
クラス全員の女子(九十九以外)からの総攻撃を受け、土間始めとする全員が身を小さくし、言い訳をボソボソと、言っている。
(いい眺めだ。)
こんなスッキリとした気分はいつぶりだろう。表現を崩さずほくそ笑んでいると、スッと誰かが九十九の横に立つ。
振り返ると山下だった。
「よろしくね。九十九さん。」
いつもより爽やかで柔らかい表現で山下はそう、九十九に告げる。
唖然とその姿を見て、その言葉が脳に届いた瞬間、サーっと頭の血が引いていくのがわかった。たぶん、顔色は真っ青だろう。
(無理…)
「勇也!罰ゲームなんかすることないよ!こんな馬鹿なゲームは中止!中止だよ!」
そう叫ぶ芹川に「そーよ!」と、続く女子全員。
(そーだ!そーだ!)
と、続く九十九の心の叫び。
土間達も女子の意見に対して反論すれば、彼女達からのさらに強い攻撃が返ってくるのを知っているため黙って様子を窺う。
そんな中、山下はまたキョトンとした表情をする。
「え? やるよ? 罰ゲームだもん。」
山下の一言でこのクラスから女子の叫びが再度、響いた(九十九含む)。
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