イケメンは九十九に癒される?〜私に癒し能力はありません〜
「九十九。おはよう。」
いつも通り爽やかな微笑みを浮かべた山下だが、その後に入念に九十九の顔を観察する。
「おはよ。」
ニコリと笑うとやっと山下は納得したのかホッとした顔になる。
そんなに心配していたのかと少し申し訳ない気持ちになり、彼の顔に手を伸ばす。
先程された観察のお返しをした。
いつものイケメンだ。しかし少し疲れたような顔をしている。若干クマもあるし、顔色がいいとは言えない。
ただ少しずつじわじわと頬が赤くなる。
「昨日ちゃんと寝た?」
「……寝たよ。」
「嘘はいらない。」
「………。ちょっとは寝た。」
多分それは九十九がメールを返してからの『ちょっと』ではないだろうか。違ってほしいと願う。
「…返信出来なくてゴメン。でも毎回、返せるわけじゃないよ。」
「うん。」
「こんな風に山下くんの負担になるなら…」
「え!やだ!やだやだやだやだやだ!」
メールをやめた方がいいのでは…という言葉は彼の拒否によって言わせてもらえない。
「…違う。…メールだけじゃなくて。少し怖い想像をしてしまって…ただ眠れなかっただけで。」
彼にも怖いものがあるのか。眠れないほどの。
そういえば彼の表情は九十九があの夢を見て恐怖で目覚めた時と似ている。
苦しくてしかたがないという顔だ。
山下が九十九の手に擦り寄ってきたので九十九はもう片方の手も彼の頬に添える。
すると彼は頭を近づけて来て九十九の肩へ置く。
表情が見えなくて嫌だな、とも思ったがこういう時に顔は見られたくない気持ちはわかるので黙っていた。
「……大丈夫って言って。」
顔が近くにあるから、なんとか聞こえて来た。
そんな山下の小さな声を初めて聞いた。
「…ん、大丈夫。…大丈夫だよ。」
山下の背中を撫ぜながら呟く。
次第に彼の緊張がほぐれて来た。はぁ…と吐く息の音を聞いて安心する。
「学校行こう。」
体を離し山下にそう言うと、山下は少し不満そうな顔をする。昨日のプクリ前の表情と一緒だ。
時間が時間なので渋々といった顔で頷き、彼は片手を出し「手つないで。」と言ってきた。
九十九は少し悩むも「誰もいない所までなら。」とその手を取った。
「なぁ。俺バスケ部入ろうと思うんだけど、お前マネージャーなんねぇ?」
(……なんねぇよ。)
九十九が席に着いた後に登校してきた津々見がそう話し掛ける。九十九は彼の方を見ずに首を振った。
男嫌いな九十九が男バスのマネージャーになれる訳がない。
「…そうだよなぁ〜。」
そう自分に言い聞かせるように呟いた彼は、昨日のように九十九を頭から足先まで見る。
その感覚がわかり九十九は体を硬くした。
「ここ、美人で可愛い子ばっかで落ち着かねぇんだよなぁ。お前くらいの奴がいる方がいい。」
(あ、こいつ殴ってほしいんだな。)
まぁそうでしょうね。と九十九は納得した。
この学校は偏差値は高めだが規則は緩めだ。パーマも化粧も派手過ぎなければ怒られないし、制服も多少着崩しても注意されない。
その為か、可愛く着飾っている子が多いし、特に九十九のクラスは可愛い子が集まっていると男子…まぁ土間だが、そう言っていた。
(その中で見つけた休まる居場所がこの根暗ブスだとは、ワイルドイケメンが残念過ぎる。)
まぁ知らない場所に来て慣れない生活をするのなら心細くはなるだろうな。とは思うが巻き込まれても困る。だって彼は九十九の発作対象だ。
今のところ誰も津々見のことを名前で呼ばない。それだけが救いだ。しかし次第に周りと仲良くなると彼の名前を呼び出す人は出てくるだろう。そうなった場合、九十九はどうなるのか。想像しただけで心臓が嫌な音を立てる。
せめて、その前に彼が例のヤマトとは違うと確信がほしい。そう思うとため息が出る。
「なぁ。お前いつ俺に慣れるの?」
(そうだな。改名した後かな。)
九十九は津々見を一切見ずに無表情でいるが、彼は気にした素振りも見せず、話し掛けてくる。
何となく既視感を覚える。
少し考えた後に、あぁ山下に似ているなと思った。
顔も雰囲気も言葉使いも全然違うのにそう思ってしまうのはこの馴れ馴れしさとしつこさと自分勝手なところだろう。
そう思うと少し笑いがこみ上げる。
「あ、テメェ何笑ったんだよ。」
そう言われ九十九は無表情に戻し小説を取り出して「あなたの話は一切聞きません。」と壁を作った。
それでも独り言のように話し掛けてくる津々見は強者だ。しかし、山下と似たところがあると気付き少しだけ力が抜けるのを感じた。
「九十九。ご飯行こう。」
今日は昨日より授業が頭に入った。よかったと満足気に顔を上げると、なぜか不安そうな山下の顔が見える。
「え、お前らメシ一緒に食ってんの?」
「……うん。」
意外にそうに津々見が聞いてくる。
確かに男嫌いの九十九が男と昼ご飯を食べるなんて想像も付かなかっただろう。
「へぇ。じゃー俺も一緒に食っていい?」
「………。」
いつもだと山下の拒否が入るはずだが今日は何故か無言で九十九の顔をチラリと覗きこんだ。
そうか。昨日、ウザいと言ったから喧嘩になるようなことを言わないようにしているのか、と納得した。
(絶対イヤだから。)
意思を伝えるように、九十九は津々見の顔を見て首を横に振った。さすがに目を見ることは出来ないので彼の口辺りを見ながらだが。
しかし、彼にはそれが伝わったようで「ふーん。わかった。」と言われた。
山下はホッとしたようだが、不安そうな表情は消えなかった。お弁当を渡してもいつものようなキラキラニコニコ笑顔にならない。食べながら色んな質問をしてくるがそれもない。
(何が彼をこんなに不安にさせているのだろう。)
朝のように少しでも本音が聞きたくて山下の頬に触れてみる。彼はビクリと体を揺らし、九十九の方を向く。
「……何が不安?」
「………………。……………彼に慣れた?」
彼とは、津々見のことだろうか。最初は名前からして全拒否だったので慣れたといえば慣れたのだろうか。確かに昨日のような疲れはない。
そんなことを考えていると山下がポツリと呟く。
「……わらっ……てた…から…」
「…山下くんに似てるなって少し思っただけ。」
「………………似てない。」
「ふふ、そうだね。ゴメンね。」
不安ながらも少しムッとした山下の表情が可愛いくて笑いが込み上げた。
「…少し寝ない?…寝不足でしょ?」
人は寝不足だと正確な判断が出来なくなる。もしかして不安な気持ちもそこから来ているのかもしれないと九十九は思った。
「…寝ない。」
あ、これは少し我が儘モードに入ったな、仕方がないな、と最強のカードを出した。
「本当に寝ない?」
そう言って自分の膝をポンポンと叩くと、山下は目を大きくして顔を赤くする。
どうやら意味は伝わったようだ。
「…寝る!」
何故、彼がこんな根暗ブスの膝に寝ようと思うのか不思議で仕方ないが、九十九が山下を信頼しているように彼も九十九を信頼し、安心できる場所と認識してくれれば嬉しいとそう思う。
おずおずと九十九の膝に頭を乗せて「うわぁあぁ」と小さい声で興奮する山下に「寝て。」と言うもどうやら逆に目が冴えたようで口元をニマニマとさせている。
これはダメかな、と思うも少しでも寝てほしい。
そう思い頭を撫ぜる。
「…大丈夫。……大丈夫だよ。」
そう何度も言い、頭を撫でたり肩を撫でたりしていると山下の力が抜けていくのがわかる。
はぁ…と安堵の息が漏れ、その後しばらくしとても静かな寝息が聞こえ出した。
彼のつり目が少し下がり、息を吐く度にまつ毛が小さく震える。
綺麗だな、可愛いな、と九十九は思った。
男性に対して使う言葉ではないが、そんな風に思ってしまうのだから仕方がない。
九十九にとっても幸せな時間だった。
山下は10分程し目を覚ました。
「起きた?」と九十九が声を掛けるが無言だ。
深く寝ていたので混乱しているのかな、とも一瞬思ったが、目を閉じてはいるが口をニマニマさせているので違うのだろう。
「山下くん。」
「もう少し。」
九十九の声に被せるように言ってくる彼に仕方がない少しなら、と思う。
しかし、何度も同じ台詞を繰り返えされ、予鈴が鳴るまで粘られるのだった。
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