転校生がやって来ました。〜私のために争うのはやめてw〜
九十九と山下が教室に戻ったのは1限目が半分を過ぎたころだった。
先生の「大丈夫なのか?」という質問には山下が答え、九十九は頭を軽く下げ席に着いた。
隣に座っている転校生の存在は視界に入れないよう努めた。
もちろん、プクリと頬を膨らませたイケメンの彼も同様にだ。
1限目が終わると九十九はすぐに席を立とうと思ったが、それより先に転校生の周りに人集りが出来た。
驚きはしたがこれほど何重にも壁があるのなら大丈夫だと思い席を立たずに聞き耳を立てた。
彼のことについて知りたかった。いや、彼があのヤマトではないと確かな情報が欲しかった。
でないと、彼の隣に居続けることは出来ない。
1限目も彼の存在を視界に入れないようにと必死で授業内容は半分も身に入っていないし、微かな震えも止まらないのだから。
「津々見くんはどこから来たの?」
「大分から。めっちゃ田舎だったから、マジ都会の学校 緊張する!」
そんな彼の発言に全員が笑った。見た目のワイルドかつ無口そうなイメージからは少し違った彼の発言に、九十九の緊張が少し緩む。
「ねぇ。大分弁喋って!」
「…え!…えーっと…………おおきに。」
「いや。それ関西弁だろ!」
そしてまた大爆笑がおきる。そんな会話を盗み聞きすることで、九十九は震えが少しずつ減っていくのを感じた。
(彼は違う。…あの時のヤマトじゃない。…あのヤマトがこんな会話するわけがない。)
そう自分に言い聞かせ、九十九は彼の隣で授業をこなしていった。
「…なぁ。」
彼の声が聞こえる。
これはもしかして私に声を掛けているのだろうか。九十九はそんなことを脂汗をかきながら視線を向けることなく考えた。
「なぁ。あんた聞いてる?」
九十九の無視にくじけず彼が話しかけてくる。
いたたまれなくなり目の前の背を向けている鈴木の服を両手でガシリと掴むと彼は「ぅわ!」と驚き振り返る。
九十九の助けて!と訴える視線に気付いた鈴木は津々見に目線をやると、彼は鈴木に話掛ける。
「この女、話しかけても喋んないんだけど何で?」
率直な意見だ。簡潔で分かりやすい。
「あー。……九十九さんは男の人が苦手なんだ。…初めの人とは多分話せないんだと思う。」
(さすがです。鈴木さま!)
津々見を直視することは出来ないので、胸元あたりに視線を留め、九十九は頷く。
「ふーん。」
津々見が九十九の頭から足の先までを見た。九十九はそれを感じてザワザワと総毛立つ。
「なぁ。それでさ。ここ部活って何があんの?」
(って人の話聞いてんのかーい!!)
「いたたたた…九十九さんっ痛い!」
逃してたまるかと掴んでいた鈴木の手におもいっきり爪を立ててしまった。慌てて手を緩め頭を下げる。
「なぁ。部活だよ。ここの学校は部活強制だろ?2週間以内に決めろって言われたんだけど。」
(…こいつ。なんで私に聞いてくるの?人の話聞いてんの?馬鹿なの?)
「部活知りたいなら、この学校のパンフあげるよ。半年前のだけどさほど変わってないはずだから。」
苦渋に満ちた顔をしていたら、爽やかな声が横からしてきた。皆で振り向くと山下が立っていた。
「おー。サンキュー!」
そう言って津々見は山下からパンフレットを受け取りパラパラと見だすと山下はそのまま九十九の側まで動く。
「お前、何入ってんの?」
(なぜ私に聞く。)
「九十九は部活入ってないよね?」
山下の言葉に頷くと「え?強制だろ?部活。」と津々見が話し掛けてくる。
「う〜ん。基本は強制だけど理由があって部活動出来ない人は先生から許可もらって免除されるんだ。部活したくないのに先生から許可されない人は活動の少ない部に所属してるかな。」
さすがハイスペック男子!説明がとてもスムーズだ!と心で拍手を送った。
ちなみに九十九は日が暮れたら発作が起きることと、対人関係などで事件を起こされては困るという学校側の双方の利害の一致で許可がおりている。
そういえば山下も部活は免除されているがどうしてなんだろう、と頭をよぎる。
「ま、いっか。元々入るつもりだったし。」
(じゃーなぜ聞いてきたんだ。)
「………九十九。もう離してあげたら?」
何を?と山下の顔を見るとニッコリと頬の筋肉だけで微笑んだ顔で九十九の手を指差す。
鈴木の腕を掴んだままの手だ。
今は山下が来たからいいが授業が始まったらいなくなる。そんな時は助けてね。という気持ちを込めて頭を下げながら渋々腕を離す。
「なぁ。お前、帰り電車?」
「……………。」
「九十九は徒歩だよ。……何で?」
(何なんだこれは。一帯が微妙に寒いのは何故だ。おかしいだろ。ハイスペックイケメンと転校生ワイルドイケメンが陰キャ根暗ブスを挟んで何の争いをしてるんだ。)
九十九は鈴木の腕を離してしまったことを後悔した。鈴木は頑なに振り向こうとはしない。
クラスの女子がこの光景を見て眉をひそめている。
そりゃそうだ。ここに学年一美少女の芹川がいれば納得しただろう。
人のトゲトゲした声に周りのチクチクした視線。九十九もイライラし出す。
「………チッ…………うっっっざい………」
舌打ちとドスの効いた声で告げると一瞬で静かになった。どうやら2人の争いは終わったようだ。
ちょうどタイミングよくチャイムがなる。
なかなか席に戻らない山下を見上げると、いつもの情けない顔になっていた。
「ゴメンね」と彼が言いだす前に、彼の席を指差す。『ハウス』と。
ショボンとしたまま無言で自分の席に戻っていった。
それにしても、やはり授業に集中できない。
津々見が隣で体を少し動かしただけで体が勝手に逃げようとしてしまう。
彼はヤマトじゃない。そう何度も自分に言い聞かせるも、やはりそんなことでは本能は納得していないのだろう。
九十九は深いため息をついた。
「おい津々見!一緒にメシ食おう。」
土間が津々見を誘い「おう。」と彼は土間の方へ歩いて行った。
九十九は彼が離れたことに安堵の息をはく。
「九十九、ご飯…行こう。」
九十九の表情を見て言葉が小さくなっていく。
(今日は助けられたこともあるけど、保健室から戻ろうとしなかったり、転校生と訳も分からない言い争いをしたり、あなたは暴走し過ぎではなかろうか。)
「ごめんね。怒った?…ごめん。」
九十九は再度、ため息をつく。
「授業内容教えてくれたら許す。」
その言葉に山下は満面の笑みを浮かべ、教科書とノートを全て鞄に詰めいつもの場所へ向かう。
昨日より大きくなっている弁当に感動し「はぁ…生きててよかった…」と呟いきながら食べていた。
そうですか。生きる糧になったのならよかったです。と九十九は力なく考える。
朝から衝撃の事件に山下の言動、何より午前中ずっと緊張し続けていたため兎に角、疲労困憊だった。
(今日のLHRはなくなったから、いつもより早く帰れる。…今すぐ帰りたい。)
九十九の学校はLHRの時間を毎週設けているが、特に何も話し合うことがない時は、本当に時々だが早く帰れる日がある。今日がその日だった。九十九にとって僥倖以外の何物でもない。
その後は必死に5限目と掃除を乗り越え、「部活を案内してやるよ。」と津々見を連れて行った土間を横目で見ながら、九十九はそそくさと帰路に着いた。
帰り道ではフラフラと歩く九十九を山下が心配そうに見守る。
こんな疲れた日はいつ以来だろう。あ、山下と初めて罰ゲームカップルになった日だ。
そう思うとまだ2週間も経ってない。
心配する山下に「もう家そこだし大丈夫」と言い聞かせ、いつものように別れ、いつもの『着きました』メールを送り、九十九は事切れる。
ソファでぐっすりと眠り、夕食とお風呂に起こされはするも半分寝たような状態で全てを済ませ、すぐにベッドに横になった。
深い深い眠りについた。
朝は目覚まし時計より先に起き、すっきりとした気分でチカチカと光るケータイを見る。
山下からのメールが8件届いていた。
「大丈夫?」「もしかしてまだ怒ってる?」「ごめんね。」「もう寝てる?」「寝てたらゴメンね。また明日。」
…的な内容の長めのメールが8件。
少し遠くを眺めてしまうのは仕方がない。
あと2時間もすれば顔を合わせるし言い訳はその時でいいかな、とも思ったが彼のショボンとした姿を思い出してしまい、仕方なくメールを出す。
『おはよう。昨日はメールに気付かず、ずっと寝てました。返信出来なくてごめんね。怒ってないです。』
と送信した1分も経たないうちに山下よりメールが返ってきた。
『よかった!嫌われたかと思った。ゆっくり寝れたのならよかった。また後で迎えに行くな。』
逆に彼は寝ているのだろうかと心配になった。
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