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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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転校生がやって来ました。〜上原先生は後悔する〜

今回は担任の上原先生目線のお話です。


九十九のクラス担任の上原は1限目の授業を終えると急いで自分のクラスへ向かった。


廊下から教室の様子を伺うも、転校生の周りに人集りが出来ており、彼女の様子が確認できない。

教室に入り確かめたかったが、自分のせいで事をさらに大事に変えてしまってはいけないと思った。

仕方なく保健室に向かう。


「先生。九十九の様子はどうでしたか?」


保健室に入ってすぐにそう聞くと、保健医の金城先生は「まぁまぁ座って」と椅子を指差した。


「最初はどうしようもないくらい怯えていたけど、山下くんのおかげで徐々に落ち着いて、教室に戻る頃にはケロッとしてましたよ。」


そう聞き、はぁ〜っと安堵のため息が出る。


彼女の出自は特殊だ。


入試ではダントツ1位の好成績を取るも中学時代の事件・引きこもりの経緯から入学を拒否した方が良いのではという先生もいた。

「変な噂が立っては…」「また引きこまれてはうちの学校の名誉が…」など、お偉いさん方の言うことは保守的でイライラしたのを覚えている。


「被害者の彼女を守れない学校なんて、どんな名誉や権威があっても存在する意味がない!」


そう宣言した上原は、全てにおいて九十九の責任を負うという条件を飲んだ。


九十九の両親とは何度も話をした。


「普通の子と同じように接して下さい。娘は頑張ってます。ただ、苦手なことが少しあるので、その時は配慮頂けると助かります。」


そう言われていた。

彼女が入学し担任として見守るが、人と関わることを極力避け、誰とも話さず、黙々と授業だけを受け帰る生活を送っているようだった。

2年になり、またも担任となるが、3年間 彼女を見守る予定なので異論はなかった。

そんな彼女が最近とても表情豊かになった。

少し前にノートを真っ黒にするほどストレスが溜まった様子が見られたが、それからだ。

先日のクラスマッチでは初めて彼女が元気に楽しそうに運動する姿を見た。

それにどれほど感動したか。

その後、クラスの男子バスケチームの優勝にジュースのご褒美をしていると彼女はとてもキラキラした顔をしてその光景を眺めていた。

まぁ、それはクラスの女子のほとんどがそんな顔をしていたのだが。

もしかして、彼女は山下のことが好きなのかもしれない、と思った。

彼は兎に角モテる。表情だけで全校女子生徒を骨抜きにするほどのイケメンだ。しかも性格も良く、頭も運動神経もいい。

そんな彼に好意を持つのは当たり前で、もしその気持ちが九十九の表情を豊かにしたのなら いいことだと思った。

しかし、彼に彼女が出来たらまた前に戻るのか…いやしかし、あの学校一美人と言われた女子を振るくらいだ。そうそう彼女は作らないだろう、と期待していた。


そんな矢先に、転校生がやって来た。

上原は困った。転校生は男で、空いている席は九十九の隣しかない。

困るが仕方のないことだった。しかし九十九は男性が苦手だが大袈裟に拒否する様子はこの1年間見られていない。

なら大丈夫なのかもしれない。そう思った。


HRで転校生の紹介をした。津々見が教室に入ると九十九は渋い顔をしたが、そのくらいは許容範囲だと思った。

そして津々見が自己紹介をし出すと、山下がコソリと低い姿勢で席を立ち移動する姿が目に入った。

何をしてるんだと思い、彼の行動を目で追っていると九十九の席まで移動し、彼女に話し掛けている。

そして上原は初めて九十九が真っ青な顔をし震えていることに気付いた。


「九十九…九十九!」


クラスのメンバーはすぐに彼の行動に気付き騒めく。

九十九は掛けられている声が全く届いていないようで焦点の合ってない目が右往左往している。

山下はそんな彼女の両頬に手を添え、グイッと上を向かせた。


「…九十九?…九十九、大丈夫?」


九十九にやっと山下の声が届いたようだった。「上原先生。保健室行ってもいい?」という山下の問いに「すぐ行ってこい。」としか言えない自分が悔しかった。

何を間違えた。何を見逃した。グルグルと今までのことを考え巡らせ、ハッと転入生を見た。


ヤマト…聞いたことあるフレーズだ。


ある一時期、その名前はここいら一帯の学生にとても有名だった。彼の名前を耳にしたら逃げろと。

何人かの生徒が大怪我を負い、話を聞くとヤマトという中学生に絡まれ暴力を受け、お金を盗られたとあった。それが1度や2度ではない。


ヤマトという悪名はとても広く轟いており、もしかして成りすましがいるのではないかというほどあちこちで噂を聞いた。


そして九十九の両親からもその名を聞いたのだ。

「ヤマトという男に襲われた。」と。


ああ。やってしまった。

ご両親より「少しの配慮を。」と言われていたにも関わらず、何も気付かず何も出来なかった。

そう上原は後悔した。


今は兎に角、この騒ついた教室を治めること。それと何が起きたか分からず棒立ちしている転校生を安心させることしか出来ることがなかった。




「本当に情けない。」


そう保健室でつぶやいた。


「まぁ。まさかヤマトって名前がダメだなんて言われなきゃー気付かないよな。」


そう保健医の金城先生より言われ「知っていたのか。」と聞き返すと「いや、2人が話してるのを聞いた。」とあった。


「まぁ、例のヤマトってやつは詐欺か何かで今は少年院に入ってるらしいし、転校生の津々見は大分から来たから全然 違う人物なんだろうが…」


それでもあの中で自分が彼女の状況を1番知っていたにも関わらず、何も出来なかったことが悔やまれてならない。



「なぁ。それにしてもあの2人って付き合ってんの?」


この状況で何を言っているんだコイツは…と、上原は金城を睨みつけた。


「だって。保健室に来た2人に近寄ろうとすると山下からすんげー牽制されたし、九十九に寄り添いまくってたぞ。」


「いや。山下は分け隔てなく優しい奴なんだよ。周りもよく見てるし、九十九が心配だったんだろ。」


「ん〜。そうか?だいぶ山下が惚れ込んでるように見えたけどな。」


金城は最後の方に聞いた山下の『九十九は俺と一緒にいたくないの?』と言う発言と、困ったように自分に助けを求めるような九十九の目線を思い出していた。


「いやいや。彼は学校一の美少女を振る男だよ?あの顔面凶器の山下だよ?男嫌いの九十九との接点は同じクラスってこと以外にないから。」


そう発言するも、そういえば九十九は山下が好きかもしれなかったな、と思い出す。しかも九十九の異変にいち早く気付いたのは他でもない山下だ。それもあのクラス中が転校生に注目している中でだ。

しかし、上原には2人の接点が本当に思い当たらず顔をしかめた。


兎に角、これからの九十九の様子を注意深く観察するしかない。

転校生の大和は九十九の隣に座っているのだから。


上原は保健室を出て、九十九達のクラスの2限目の授業をする先生の元に向かうのだった。




読んでいただきありがとうございます。


上原先生目線のお話では、九十九が知らない情報が色々と入ってます。そこに注目してくれれば嬉しいです。

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