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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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休日は外の世界を勉強するお時間。


あの時は咄嗟の行動だったのだろう。


彼は頭で考えるより先に九十九を守ろうとしてくれた。自分の体を盾にして。

多分ステージがなくても彼は同じことをしたはずだ。本当に彼が無事だったのは不幸中の幸いとしか言えない。


こんなこと普通は出来ない。

たかだか罰ゲームで彼女になったクラスメイトに命を張れる山下はある意味、異常だ。


だからなのだろうか、彼は九十九にとって『大切な人』になった。

いや、すでになっていたのだろう。今日の出来事で自覚しただけだ。


無条件で愛してくれる両親と同じ。

だって彼は無条件で九十九を守ってくれる人だ。


頬に当てた山下の手に擦り寄る。

すると、山下はビクリと体を硬くする。目をやると彼は真っ赤になっていた。

耳や首、繋いだ手すらも真っ赤になっている。


「……かばってくれて、ありがとう。」


頭を下げると同時に彼の手をスルリと離す。そうでもしないと離せなくなるから。


「うん。」


「…でも、次はやめて。…心臓が止まると思った。」


「…うーん。………うん。」


頷かないと九十九が納得しないと思ったのだろう、仕方なく頷いているのがわかる。


「……今日もバイト?」


「うん。」


「……土日も?」


「うん。」


「そっか。頑張ってね。」


九十九は初めて山下のことについて自分から質問をしていた。

離れがたい気持ちがそんな風に作用していた。

九十九も自分の行動を自覚していた為「それじゃ」と早々に話を切り上げる。


「……九十九。」


山下に背を向け歩き出そうとしたとこで声を掛けられ振り向く。

相変わらず、全身真っ赤な山下が少し緊張気味に話す。


「…土日…メールしてもいい?」


(…………何の?)


今まで両親との間で報告メールしかしてこなかった九十九にとって山下の発言は意味不明だ。

何か報告、連絡があるのだろうかと考える。


「あ、返事とかしなくていいから!………いや。返事欲しいけど。あ!10回に1回くらいでいいから!………やっぱ5回に1回くらいで……」


山下がゴニョゴニョ何か言っているが、兎に角、メールに返事を出せばいいということだな。と九十九は理解し頷く。

すると、山下がニコニコと満足気に微笑みたしたので、再度「それじゃ」と言って別れた。


家に着くと山下に『着きました』メールを送る。

すると『わかった。バイトいってきます。またメールする。』と返ってきた。



今晩の夕ご飯は九十九の好きな物がたくさん出た。両親共に九十九の話を聞きたがり、九十九も楽しくて色々と話した。

試合でどんどん勝ち抜いたこと。お昼ご飯はサンドイッチを褒められたこと。決勝で負けてしまったこと。皆と抱きしめ合ったこと。頑張ったで賞のジュースを貰ったこと。バレーの支柱が倒れて来たのを助けてもらったこと。

まぁ山下のことは友達と言っておいた。

たいして、変わらないだろう。


「その子は大丈夫なの?怪我は?」


「大丈夫みたい。支柱には当たらなかったって。」


「でも、恩人だな。今度 家へ連れておいで。僕達からもお礼が言いたい。」


そう両親から言われるも、罰ゲームとはいえ彼女の家に行くのは勇気がいるのでは…いや、彼なら余裕顔で「えー。行く行くー。」と言いそうだ。

色々考えるも最終的に「…うん。言っておく。」と曖昧にごまかした。



次の日の10時頃、山下からメールが来た。


『おはよう。今日は昼からバイトです。九十九は今日、何するの?』


(うわぁ〜!こんなメール初めて来た!)


今まで両親との報連相メールぐらいしかしたことのない九十九にとって、こんな内容のメールは初めてで何と返事を出せばいいか迷う。


『特に予定はありません。月曜日にある英単小テストの勉強でもします。』


10分程かけ送信すると1分もせず返事が返ってくる。


『わー!忘れてた!単語表も持って帰り忘れた!』


ポンポンッと焦っている様子がわかるイラストスタンプが送られて来る。今まで必要ないと思っていた物もこうして使われているのを見ると「わぁ可愛いな!」と欲しくなる。


いつもの会話のような他愛のない内容が続く。九十九は少しずつメールに慣れて打つのに時間が掛らないようになっていた。


『あ、やべ。バイトの時間だ。いってきます!』


と、山下からメールが送られて来て、九十九も驚き時計を見る。2時間近くメールをしていたようだ。

皆がケータイを持つと時間を忘れると言っていた意味がやっとわかった。


その後も山下からのメールは届いていた。

バイト中に大丈夫なのかな?と思ったが『今、ヒマになったから』とか『今から休憩』とかちょくちょく送られて来る。

『これ、オーナーのオサムさん。』と隠し撮りのような写メが届いたすぐ後にオサムさんのキメ顔の写メが届く。『カッコよく写ったのを送れと怒られた。』との内容に笑いが出た。

どうやらオーナーさん容認のおサボりのようだ。


九十九がクスクス笑いながらメールをする姿を母は微笑ましく見ていた。

メールは2時間おきくらいに届き、休日出勤をしていた父が帰って来た後も続いていた。


「あ、バイト終わったみたい。」


「こんな時間まで働いてるのか。帰りは大丈夫なのか?」


時計を見る10時を過ぎている。


「バイト先が家の裏だから大丈夫だよ。」


「……なんだ。行ったことがあるのか?」


「うん。すぐ近くでね。大通りを登って10分くらい歩いたとこ。アパートとバイト先って教えてくれたよ。」


両親は意外と深く仲良くなっているんだな。と感じながらも、あの事件以来、娘から聞く初めての友達情報に嬉しくなる。


「あ、ほら。もう家に帰り着いたって。」


スッとケータイ画面を向けられ父、則文は文面を読んでしまう。


『もう帰り着いたよ!疲れたー!

…ってか九十九ゴメンね。

こんな遅くまでメールして。

また、明日もメールするな。おやすみ。』


と、あった。則文は少し思案する。

えらく男勝りなメールだが…女の子だよな?…と。まさか、男性恐怖症に近いほど男が嫌いな娘が男友達を作るとは考えられず、則文の中で娘の友達はボーイッシュな女の子というポジションに落ち着いた。



次の日も10時くらいにメールが届いた。


『九十九おはよー。今日も昼からバイト頑張ります!九十九は?』


『今日はお昼から父さんと母さんと図書館に行って買い物と食事に行くよ。』


朝からテンション高めの山下のメールに九十九もつられて元気になる。


『家族でお出かけいいな!写メ送って!』


(写メとな!?)


そんなもの送ったことがない。ってゆうか写真自体そんなに撮ったことがない。九十九のケータイの容量はガラガラだ。


『写メなんて送ったことない。何撮ればいいの?』


見栄なんて張っている余裕もなく素直に聞いてみた。


『何でもいいよ。家族の写真とか。あ、それは送るの嫌かな?じゃー行った先で気になった物とか。面白そうな本とか。美味しかったご飯とか。』


そんなの見て楽しいのかな、と少し思うも本人が送ってと言ってるのならいいか。と思い直す。


すると、山下から写メが届いた。

すごく大きなお皿にナポリタンパスタが山盛りに乗っけてある。その後ろに山下らしき人物の目が写っている。目だけでもイケメンだ。

『ちなみに昨日の夕飯。』と、送られてきた。


(うわ〜。これ一人前?)


少しドン引きしつつもそのメール内容にフフッと笑いが出る。

そんなの楽しいのかなと思ったけど…うん。楽しいな、と思った。



その日は初めて色んなものを撮った。

図書館で借りた本。オシャレな小物。久しぶりの外食で出た美味しい料理。


山下は気になる物と言っていた。

何かないかと周りを見渡すと世界がキラキラして見える。

今まで外出すると周りの目線や人の気配にビクビクしていた。両親にくっつき、目線はいつも両親か足元を彷徨わせていた。

そんな世界と同じとは思えない。


(すごい。山下くんは本当にすごい。)


魔法がかかったように世界が変わった。

どっちが本当の世界なんてわからない。今まで九十九が見てきた鬱々とした世界が本当で、今見えているキラキラした世界はフィルターが掛かっただけの嘘の世界かもしれない。

それでも同じ歩くなら楽しい世界がいいと九十九は思った。


九十九の表情の変化に両親は驚いていた。

いつもはくっついて離れないはずの娘が突然いなくなり、焦って探すとフラフラと1人で店を覗いていることが数回おきる。

娘の変化に嬉しいが3割。心臓に良くないが7割の休日を過ごした。



読んでいただきありがとうございます。

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