クラスマッチ本番。〜暗黒ですがスポーツマンシップに則り戦っているはずです〜
「おせーよ。土間!」
「わりぃ!」
土間は体育館に戻り、人集りを押しのけコートに入っていく。九十九はその人集り前で止まろうとしたが土間よりグイグイ押され、一緒にコートに入ってしまった。
土間は最前列で応援しようとしている女子を詰めさせ九十九を座らせる。
周りの女子は不服そうな顔をするも、土間が「いいか。ここにいろ。」と九十九に言っている為、文句を言えないでいる。
申し訳ないと九十九は頭を下げた。
そして「あ、これ持っとけ。」と土間からポンポンを渡された。
(…………なぜ!)
チア部の使うホログラムフィルム仕様のギラギラ赤色ポンポンだ。
人生で初めてこんな派手な物を持ったかもしれない。持ったまま固まってしまうのは仕方ないことだ。
「おい山下。連れてきてやったぞ。やる気出せ。」
え、と山下は土間の指差す方を向き、九十九と目が合うと目を大きく開く。
「わぁあぁぁ…九十九!」
「おい。九十九、応援しろ。」
土間にそう言われたが応援とはどのように…と悩んでしまう。兎に角、何か反応をしなければいけないと思い、手にしているポンポンを胸の位置でカサカサと小さく揺らす。
「九十九の応援……」
「おいお前。あの応援でどうやって感動できるんだ。」
フヨフヨと顔を緩める山下に土間の的確なツッコミが入る。
「兎に角!これで負ける訳にはいかねーからな!」
そう言われ、山下の背中を土間が力強く叩く。
山下はフヨフヨした顔をキュッと締め頷く。
バスケメンバーは集まり陣を作り、大まかな作戦と気合い入れをし始めた。
いよいよ決勝が始まると応援に集まった生徒は緊張と興奮でドキドキし始めた時、相手チームの大きな雄叫びが響き、そちらを全員で見てしまう。
「ぜってーあいつには負けねーぞ!!」
「うおーーー!!」
「イケメンな上、勉強も運動も出来るなんて認めない!!必ずこの大勢の前で勝つ!!」
「うおーーーーーーー!!」
(……なるほど。彼らの気合いの理由は理解できた。)
言いたい事は全面的に同感だ。と九十九は思うがその他ギャラリーの目線は冷ややかだ。
そして、試合が始まる。
キュキュキュ!っとバッシュの音が響き渡り、大勢の男のダッシュが目の前で繰り広げられる。
(……こ、怖い…)
コートの最前列にいる九十九は男の怒声と足音が近いことが恐怖でしかない。
周りのギャラリーは大きな声で応援したり、かっこいいプレイに歓声を上げたりしているが、九十九はそれどころではない。あまりの恐怖に試合を見れずプレイ中の男子の足元だけを見ていた。
そんな時、悲鳴が響く。九十九は驚き顔を上げると、山下が相手チームの強いディフェンスに弾き飛ばされこけていた。
そこで審判の笛が鳴る。
「何でだよ!つーか、バスケの試合じゃーあのくらい普通だろ。あれでコケる方がおかしいって!」
そう審判に訴える相手チームは多分バスケ部なのだろう。身長が190cm近くありそうだ。
そんな人に体当たりされて山下は大丈夫なのだろうか。そう思い山下を見ると何事もなかったかのようにヒョイっと立ち上がる様子が目に入りホッとする。
すると、山下がチラリと九十九を見たので、目がバチリと合う。なぜかすぐに気まずそうに晒されてしまった。
「あの。俺は大丈夫です。ちょっと大袈裟にこけちゃっただけです。そのまま試合続けて下さい。」
山下が審判に話し掛ける。少し話し合い、再度 試合をスタートさせた。
「ってかさ!相手チーム、山下くんにだけマーク付け過ぎ!どんだけ ひがんでんの!かっこ悪!」
「だよね!勇也に怪我させたらマジ許さない!」
女の子達の過激な会話を聞き、九十九は再開した試合を見る。
(応援に来てるのに、見ないとかダメだ。)
九十九は震えそうな手をポンポンをギュッと持つことで紛らわし、山下に集中することで大勢の男の存在を霧散させるようにした。
山下が何かあった時、目の前にいたのに状況が理解できていないなんて嫌だと思った。
他の人に説明されるなんてもっと嫌だ、と。
スコアボードを見ると10点ほど山下のチームが負けている。周りの女子が言うように山下には多くのマークが付いているようで彼がボールを取ると何人もの敵がタックルでも仕掛けてくる勢いで攻めてくる。
それを少し強引に山下が抜けていく。
山下にしては珍しいな、と九十九は思うも時間も半分を過ぎていて10点差だからかな、と思い直す。
山下が投げたボールが綺麗な弧を描きゴールネットにポシュッと入る。そしてすぐに相手のディフェンスに掛かる。その姿も、いつもの山下にはイメージがないほどしつこく相手に喰らいつく。相手がパスしようとするとすぐさまカットし、ゴールへと走る。
山下はいつもの微笑みを浮かべ、敵を押しのけるように強引にシュートをし決める。
連続の得点に女子の黄色い歓声が上がる。
(…………あれ?…………気のせいかな?)
山下の微笑みと、相手チームのわななく表情を見て、九十九はあることに気付いた。気のせいと思いたかったが、どうもそうではない。
(…………あれ。怒ってるよね?)
山下の笑顔が、付き合った初日に見せたドス黒い笑顔に見える。いや、その時の数倍黒い…。
相手チームが山下と目を合わせるたび、目を見開いて緊張するような表情をしている。
(暗黒王子降臨……もうこれはいっそどっちを応援したらいいのか。)
しかし、山下の躍進ぶりがすごい。
いや、九十九が見ていなかっただけでずっとそうなのかもしれないが。
今までの試合では、それはもう華麗なプレイをして見せていた。貴族が余暇に運動をするイメージで。今回のように点を意地でも取ったり、相手のパスを無理にカットするようなことはなかった。
(…まぁ怒っても少し強引なプレイになってるくらいだから大丈夫かな?)
ガンガン攻めて点数を縮める山下に女子の声援が響く。兎に角、時々見せる目を伏せる仕草が色っぽいし、汗を体操服で拭う姿は日頃 王子様のような彼には見せないワイルドさを感じる。
山下が体育館に設置されている時計を確認した。
(あと2点差。もう時間あまりないよね。)
相手チームがボールを持ち、すごい勢いで攻め込んでくるのを山下が強引に止め、ボールを弾き飛ばす。ボールは相手チームの体に当たりコート外へ出る。
山下のチームのスローインで再度 試合を再開する。相手チームはすでにディフェンスの態勢を取っている。
「絶対、守り切るぞ!」と相手チームの声が響く。山下チームも最後のチャンスだと気が焦る。
すると、今まで強引にグイグイ攻めてきていた山下の行動が急に緩慢になる。そしてコート半ばで足を止める。
「おい山下!何止まったんだよ!パス!」
土間の怒声が響く。
すると、山下がボールを片手で持ち上げ、大きく振り投げる。その動作があまりにもゆっくりに見え、選手も観戦者も唖然とその光景をみる。
彼がボールを投げた位置はコートのほぼ中央だ。そこから、野球のボールを遠くへ飛ばすように投げられたバスケットボールは大きく弧を描き選手の頭上を通り越す。
ポシュ!
小気味のいい音が体育館に響いた。
しん、とした体育館にゴールから落ちたボールの跳ねる音だけが聞こえる。
ピピッピピッと試合の終わりを告げるアラームに審判が我に返り笛を吹く。
「し、試合終了ー!!」
わぁ!!
声援の大爆発だ。
山下はチームのメンバーから「よくやった!」「てめーだけ目立ちやがって!」とバシバシと叩かれている。
相手チームは皆、コート内の床に死屍累々とばかりに倒れ込んでいる。
絶叫する女子達の間で九十九は絶句していた。
あまりにも衝撃的過ぎる展開について行けず固まったままだ。それに気付いた山下が九十九に近づいてきた。いちいち女子の叫びがうるさい。
「勝ったよ 九十九。褒めて。」
ニコニコと笑う山下に、先程の黒さはない。
そのことにホッとするも、褒めるとはどうすれば…と再度 固まる。
山下にジッと見つめられ、何かしなければ解放されないことに気付き、目を右往左往させる。
「…かっ…………………こよかった………です。」
それだけ言ってまた口ごもる。
「あは。……やった。よかった。」
山下の蕩けるような笑顔を見て、再度 体育館が騒然とするのだった。
読んでいただきございます。
バスケのルールや表現がテキトーですいません。
間違いあるようでしたら教えてください。




