クラスマッチ本番。〜ウォーミングアップは大切です!〜
今日はHRが終わったら体操服に着替えて、体育館でクラスマッチの開会式。
1日中運動の日だ。
全ての競技はトーナメント戦の為、早々に負けたチームは他のチームの応援も有り、教室に戻り自習も有り、友達とお喋りも有り、学校から出なければ自由にしていて構わない。
でも、閉会式の参加は強制なのでそれまでは学校にいなくてはならない。
と言ってもいつもより早く帰れるので誰もそこに文句は言わない。
九十九はいつもより少し早く起きて、最近 毎日している髪の手入れをする。アイロンで毛先のウネリを何度も伸ばしツヤツヤサラサラのストレートにする。
今日はどうせ1日中、運動をする予定なので高めの位置でポニーテールを作る。
左右に動かすとサラリサラリと柔らかい髪が首元をくすぐる。
ミント系のデオドラントを付ける予定の為、あえて髪のオイルは塗らない。
最後に唇に色付きのリップを塗る。
そう。女のおしゃれは武装だ。
(今日はやってやる!)
九十九の気合いは十分だった。
「九十九。おはよう。」
山下がいつも通り爽やかに振り返り、朝の挨拶をしてくる。九十九はそれに大きく頷く。
「あ、髪……気合い十分だ。」
山下が九十九の気合いを髪型で感じとりクスリと笑う。九十九は「もちろん、気合いすごく入ってる」とばかりに、さらに大きく頷いた。
「ふっ……かわい。」
(…………ん?……今、何か言ったか?………最近……というか昨日から、ちょっとおかしい。)
昨夜も山下と手を繋いだことを何度も思い出してしまい、変にソワソワしてしまうし、変な聞き間違えもする、少し疲れてるのかも。どうせ明日からはお休みだ。今日はとことん頑張って明日はゆっくり疲れをとろう。そう思い、九十九は空耳ということにした。
「九十九。荷物持とうか?」
久しぶり聞いたこの言葉に九十九は顔を上げる。
確か、以前、不審者を見るような眼差しを向けて以来 言ってこなくなったはずだが…とふと考えると昨日、無意識にカバンを持ってもらったことと手を繋いで走ったことを同時に思い出してしまう。
ボボッと顔が赤くなるのがわかった。
慌てて下を向きカバンをぎゅっと持つ。
(うわぁ〜!絶対、私チョロい女だって思われてる!あんな簡単にカバンは渡すし、手も繋ぐし、よく話すし!…ダメだ!確かにチョロくなってる気がする!ってか全てはこのイケメンのせいだ!)
「……九十九?」
(わわっ!やめてその声!優しく心配そうに呼ぶのやめて!……絶対わざとだ!……早く学校行こう!)
九十九は山下の顔を見ないように早歩きしだす。
何も言わずカバンを胸に抱えて下を向いたまま早歩きしだす九十九に山下は焦る。
「…九十九?…大丈夫?……あ、筋肉痛?……………………怒った?……」
一応、首は振ってみるものの「ごめん。もう言わない。」とか「本当に怒ってない?」とか「こっち向いて。」とか学校に着くまでイケボのイケゼリフを永遠に聞かされ続けた。
そして気づく。
(私がチョロいんじゃない。この人がしつこいんだ。)
「九十九さん。今日は頑張ろうね!」
クラスマッチの開会式が終わり、丸山と他のメンバーから声を掛けられる。九十九は大きく頷いた。九十九達の試合は3番目で、まだ少し時間があるので、それまで軽くボールに慣れようと話した。体育館は人が多かった為、すぐ外の中庭で打ち合いを始めた。
クラスマッチはサッカー、バスケ、バレー、卓球の競技に分かれている。
サッカーといっても人数が少ないのでフットサルに近い。しかし試合はグラウンドで行う為、一応サッカーと言っている。
卓球は部が使用している専用の卓球場があるのでそこで行う。
バスケとバレーは同じ体育館をネットカーテンで2分しており、さらにそれを2分して男子用の試合コートと女子用のコートに分かれている。
その為、今 体育館には相当数の生徒が集まっている。2階席もあるので試合待ちのメンバーはそこに行けばいいのだが、今 混み合っているのは主に山下の周りだ。
「先輩!今から私達、試合なんで応援して下さい!」
「ダメでしょ。クラスマッチなんだから、他の学年、他のクラスは応援できないでしょ。ねえ。勇也。」
「あ、あの。サッカーの方は来てくれませんか?」
ザワザワと女の戦いが始まっており、冷ややかな空気を放っている。
「ちょっとごめんね。ここにいたら邪魔になるから移動しよう。」
山下が遠慮がちに言うも誰も動かない為、自分が行くしかないと、仕方なくノソノソと2階席へと上がって行く。すると周りの女子も山下に付いて行き2階席はハーレム状態だ。
2階席からキョロキョロと九十九を探すも見当たらない。朝は何も喋ってくれなかったので、試合の合間に話しがしたかった。
しかし、今のこの状況を見られるくらいなら、いない方がいいのかもしれない。
「せんぱ〜い。聞いてます?」
「ねぇ。勇也〜。」
可愛い女子から猫なで声で囁かれ肩や足を触られている。嬉しくないわけではない。
しかし…あ、これ。見られたら一発で嫌われるヤツだ。と思った瞬間、山下の心がスゥーと冷えて行く。
「ごめん。俺 彼女いるから、こうゆうの困る。」
「でも、罰ゲームの彼女ですよね?」
どこかで聞いたようなフレーズだ。そう、山下は思った。
「そうだよ。でも、彼女は彼女だから。」
「じゃー私が彼女になったら、そんな風にしてくれます?」
そんな風とは、どんな風だ。と山下は思うが、九十九に対しての対応だと言われると、そんなことは無理だなと思う。
食い下がる女の子は更に山下の顔を覗き見る。
近いなと思い、顔を少し晒すと1階の体育館に戻って来た九十九と目が合った。
心臓が跳ねた。
すごいスピードで動き出し、変な汗も出る。
やばい、どうしよう。と焦っていると、九十九から目をそらされた。どうってことないと言わんばかりに丸山の言葉を聞き頷いている様子が見れる。
あぁ、そうか。この光景を見て嫌われるほど好かれてもいない。そう気付かされた。
心は冷えているのになぜかグツグツと熱湯が沸いたような熱さを感じた。
「まず、君とは付き合わないから。」
その場の空気が固まるのがわかる。いつも表情が作れない。いつもの声が出せない。
仕方ない。その状況にしたのは彼女達だ。
「ごめん。もう近づいてこないで。」
そう言って席を立つ山下を追いかけてくる子はいなかった。遠くで女の子の泣く声が聞こえてきたが彼には関係のないことだ。
兎に角、謝ろう。多分 何に対しての謝罪かわからずキョトンとされるんだろうが…そう思うと心臓がジワジワと痛みだす。
「九十九。」
そう言って彼女の前に立つと、隣にいた丸山が反応してくる。
「あれ。山下くん。もう女の子いいの?」
女の子同士のこうゆうの連携は苦手だ。しかし、自分で自分の失態を話さなくてはならない状況は避けられたので逆に助かったかもしれない。
「あ、うん。……もう近寄らないでって言ってきたから……。あの……。九十九。ごめんね。」
そう言うと、彼女はやはりキョトンとした顔をした。
心臓がジクジクと痛む。
読んでいただきありがとうございます。
あれ。なぜか山下目線に…いつの間に。




