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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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放課後は練習の時間。


バレーの練習はまず柔軟体操から始まった。

次に丸山の打ったボールをレシーブで拾っていく。最初はとてもゆっくりとしたボールだが少しずつ強さが増してくる。


時々、気になる返し方をした時などはアドバイスをしてくれ、少しずつ変な方向にボールが飛んでいくことが減っていく。

すると、ボールの強弱が変わり出す。強いボールが続いていたのに突然、フワッとしたボールが来たり、その後に豪速球が来たりと九十九は前や後ろへ動きながら必死に食らいつく。


息はとっくの昔に上がっている。


「ちょっと休憩しよう。」


丸山が言ってくれた時には大量の汗と震える手足、息切れが尋常ではない状態だった。


買っていたポカリスエットがひどく甘く感じる。

練習を初めて30分が経過していた。


汗で服が体に貼り付き不快だし、震える手足は力が入らないし、息切れは未だになおらない。

それでも、楽しいと思ってしまうのが不思議だ。


「九十九さん。意外と運動神経いいね。」


そう話し掛けてくれる丸山は優しい。


そんな時に遠くから黄色い悲鳴が聞こえる。

体育館はバレー部とバスケ部が一緒に使えるようにネットカーテンで半分に区切ってある。ボールが飛んで行ってもお互いの部活に支障きたさない為だ。

そんな中、ネットカーテンの向こうで山下がバスケ部に混じり試合をしている。まるで動きがバスケ部員そのものだ。

しかし、山下が入っているからか、少し遊び半分な雰囲気でもある。山下がシュートしたボールを外し「ガーン!」と叫んでいると周りが大爆笑している。

それを女子部員がキャアキャア言いながら見ている。

結構、前からその光景は続いていたのだろう。九十九は自分のことに必死で気が付かなかった。


誰とでも仲良くなるなぁとその光景を眺めていると山下と目があった。すると、ネットカーテンの向こうでワタワタと慌てだして「違うから!たまたま外しただけだから!」と必死に言っている。


バスケ部員と互角に試合している山下を下手なんて思うはずがない。そんな言い訳いらないのに。と笑いがこみ上げて来たので顔をそらし膝で笑い顔を隠す。


それを見た山下が「情けないと思われた!」と勘違いをし、本気スイッチが入る。

その後バスケ部員を全てかわしシュートを決め、九十九にドヤ顔をするが、九十九はバレーの練習を再開しており一切見ていなかったことを知った山下が盛大に落ち込んだことを九十九は知らない。



あの後、バレー部員が付き合ってくれ、10分のミニ試合をしてくれた。もちろん手加減をしてもらい、ハンデもくれた。それが思いのほか楽しくて、兎に角、必死にボールを拾った。


そして1時間キッカリで練習は終了した。


「付き合ってくれてありがとう。」


小さな声で申し訳ないが、バレー部の人達と丸山にお礼を言った。


「うん。また明日ね。」


そう、丸山が返してくれた。



制服に着替え、山下といつもの道を歩く。

日没までまだ時間がありそうなことにホッと息をはく。


「楽しかった?」


そう聞いて来た山下に大きく頷く。

明日は多分、筋肉痛との戦いだろうが そんなことどうってことないくらい楽しかった。

それが顔に出てたのだろう。山下は嬉しそうに満足そうに微笑む。


フと九十九が足を止めたので、山下も止まる。

そこには小さくて古いがセンスが良く可愛い建物のケーキ屋がある。

九十九が『誰とも関わらなかったご褒美』のケーキを買うお店だ。

最近ケーキ買ってないな、と今朝思っていた。それはそうだ。今までにないほど人と関わって話をしている。主に山下と。

しかし、以前ほど、それが不快ではない。

いっそ、今日は自分から人に関わりに行って、すごく楽しく充実した時間を過ごした。

そんな自分の変化を褒めてもいいのではと思ったのだ。


「……寄る。…」


「え?…あの店に寄るってこと?」


山下が驚いて聞き返して来た。それに頷く。


「………バイト。」


「あの店に寄るくらい大丈夫だよ。行こう。」


山下はニコニコ顔になって九十九を促す。

九十九も久しぶりに入るケーキ屋にテンションが上がった。

店の扉を開けるとカランカランとドアベルが鳴る。入店するとフワリと甘い香りが鼻をくすぐり、色鮮やかなケーキや焼き菓子が目を楽しませる。

ケースに並ぶケーキを端からじっくり見るが買う物はすでに決まってある。

自分用にイチゴのショートケーキ。

父用にレアチーズケーキ。

母用に抹茶のムースケーキ。

我が家の定番だ。


悩む時間もないのでサクサク決めてしまう。


「俺、ケーキ屋なんか初めて入った。今日は誰かの誕生日?」


そう山下が聞いて来た。ケーキ屋に入ったことがないなんて珍しいなと思うも、男の子ならそんなものなのかな、と思い首を振る。


誕生日はいつも母お手製のホールケーキだ。

これはただのご褒美ケーキ。


バイトをいつもより遅らせているにも関わらず

寄り道まで付き合ってもらった山下に深く頭を下げ「ありがとう。」と言うと彼は少し顔を赤くし「また寄り道しよう。」と言ってくれた。


その後、いつも通りゲートまで送ってもらい、家に着いたらメールを送る。

いつもは『着きました。』と一言だけ送るのだが、今日は迷惑をいっぱいかけたので、その後に『今日はありがとう。』と一文を加えて送った。


すると、すぐに『ううん。明日も頑張ろうな。また明日。』と返信が来た。


その後、母より心配そうに「大丈夫だった?」と聞かれるも、九十九の笑顔を確認して嬉しそうに学校でどんなことがあったのか聞かれた。


父も帰ってきて、母から九十九の話を聞き、嬉しそうに九十九からの話が聞きたいと、言ってきたので、再度 同じ話をした。母は2度目なのにニコニコと聞いてくれた。


(両親に学校の話をしたのはいつぶりだろう。)


最近の九十九は今までにない程、ポジティブだ。

時々、山下に流され過ぎなのではと思うほど。しかし、両親の嬉しそうな顔が九十九に「大丈夫。間違ってないよ。」と言ってくれているようで九十九はホッとした。



読んでいただきありがとうございます。

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