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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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LHRは話し合いのお時間。


クラスマッチの女子競技メンバーは大体 決まりかけた時に男子の輪の中から山下がヒョイと顔だけ出してきた。

その姿が穴から顔を出したリスのようで、ちょっと可愛い。

ふと周りをみるとキュン死しかけている女子がもがいていた。


「九十九、何になったー?」


騒めいていた教室が少し静かになる。

いや、あいつ喋んないだろう。とクラスのほとんどが思った瞬間。


「バレー。」


普通のボリュームでそう言った九十九にクラス中が凝縮した。

九十九が喋った…

九十九が喋った!?

某アルプスの少女のような台詞が繰り返される。


「そっか。俺バスケ。同じ体育館だな。」


ニコッと笑う山下に、コクリと頷く。

クラス中の衝撃に気づかず、会話を進める2人はある意味、似た者同士なのかもしれない。


「ねぇ。九十九さん、放課後 練習する?」


2人の入りづらい空気をぶち破り、丸山が話し掛けてくる。


(…練習したい!)


九十九は問われた瞬間そう思った。

日頃、運動とは縁遠い生活をしている。運動部員が多く集まったバレーの仲間に入ったからには少しでも足を引っ張らないようにしたい。


しかし、一緒に下校する山下のバイトがある。

それに、九十九にも大きな問題があった。


九十九はあの事件後、男性恐怖症の為 部屋から出れなくなった。その彼女が必死に震える自分と戦いながら部屋から出て、家を出る努力をし、近所を歩けるようになり、学校へ通えるまでになった。

全て時間をかけて少しずつ目標を達成してきたことだ。途中、怖くて動けなくなり、泣きながら震えてうずくまっていたのを何度、両親が迎えに来てくれただろう。

「怖い…怖い…」と泣く九十九に両親は「頑張ったね。こんなに進めたね」と腕の中に抱きながら家まで連れて帰ってくれていた。

そうやって、今の九十九があるのだが、未だに彼女が克服できていないことが2つある。


その中の1つが『日が沈んだ後の外出』だ。

日没後、外を歩こうとするとあの事件がフラッシュバックする。


何度か練習しようとしたが過呼吸になったこともあり、両親から止められていた。


(そうなると…無理だなぁ。)


そう判断し、残念だと思いながら首を振る。

でも、本番は3日後だ。せめて本番までに少しだけでも丸山達と練習がしてみたいと思った。


「あ…昼は?」


「あー、そうだね!30分くらいは出来るかも…」


思いつきを呟いた九十九に丸山が大きく反応する。


「ダメ!」


2人を離すように山下が大きな声を出し割り込んで来た。


「いや。ダメだから!お昼休みはゆっくり話ししながらご飯を食べる時間だから。2人の時間だから。」


なぜか必死だ。

九十九はポカンと呆れた顔で山下を見た。

丸山も呆れた顔をして九十九に話し掛けた。


「え?…付き合ってんの?」


(……ええ。はい。一応、罰ゲームで彼氏彼女の関係ですが。………でも丸山さんの言っているのはそういう意味じゃないですよね?)


「付き合ってるよ!!」


と山下が返事をする。


(……ええっと。あなたが言っているのはそういう意味ですよね。…わかってますよ。わかってるから少し黙ってて。)


九十九の諦観の眼差しに気付いた山下は少し我に返ったのか、先程より落ち着いた口調で話し出す。


「九十九。練習したいんなら放課後にしよう。食後すぐ動いて気持ち悪くなったら大変だし、30分じゃー短いし、明日しか出来ないでしょ?」


「……バイト」


「大丈夫。オサムさんに言ってバイト少し遅くからにしてもらうし。そんな早くからお客さんも来ないし。たった2日のことだし。ね?」


「……夜は……」


九十九が顔を曇らせ、目を泳がせると山下がピンときたような顔をする。


「1時間だけって決めてたら?大分、日も長くなってきたし日没までには帰れるよ。九十九ん家 近いし、間に合わなそうだったら走って帰ろう?ね?」


そう山下に言われるとやれるのではという気になる。

(あ、でもその間、山下くんは……)

そう思い顔を上げると山下と目が合う。


「大丈夫。俺も隣のコートでバスケの練習するから。」


それまでの話を聞いていた女子数人(多分、体育館を使用する部活所属者)の黄色い悲鳴がする。


なら、問題なさそうだ。納得したように頷き、丸山に向かっても頷く。

丸山は再度、プハッと笑いながら「了解!」と九十九の肩を数回叩いて自分の席に戻って行った。


その後、唖然としている土間が山下に「お前スゲーな。九十九があんな連続で発言してんの初めて聞いたわ。」と呟いていたのを、山下は「スゲーのは九十九だから。」と返していた。




放課後になった。


「九十九。お母さんに連絡した?」


山下の言葉に九十九はハッとする。今まで放課後に突然、予定が入ることなどなかった為、ウッカリしていた。


(良かった。連絡忘れてたら、心配して探し回させてしまうとこだった。)



ケータイを取り出し、母にメールする。


『今日、放課後にクラスマッチの練習をすることになりました。1時間くらい遅く帰ります。心配しないでね。』


そう文字を打ち送信する。メール自体 慣れていないので、打つのは遅いし、内容も変に敬語でおかしい。でも、こんな内容をメールしていることに嬉しさもあった。


すぐに母から返信があった。


『わかった。頑張っておいで。でも無理しないでね。帰りに迎えが必要なら連絡ちょうだいね。』


と、九十九が行事に積極的に参加していることが嬉しい…というよりも不安や心配の方が大きいのだろう。それが伺える返事だった。


『うん。ありがとう。頑張ります。』


と、返事を送り、ケータイを鞄へと仕舞い、体操着に着替える。


丸山は部活を少し外れて九十九の練習に付き合ってくれると言っている。

山下にはバイトを遅らせてしまっている。

母には多大なる心配をさせている。


九十九が何かをすると、多くの人に迷惑を掛けてしまう。しかし、練習に誘ってくれた丸山にも、放課後の練習を進めてくれた山下にも、楽しい学校生活を送ってほしいと願う母にも、返せるものが『一生懸命に頑張ること』しかないのだ。


髪をひとまとめにくくり、気合いを入れ直す。


(よし!やるぞ!)


九十九は体育館に向かうのだった。



読んでいただきありがとうございます。

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