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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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LHRは気合い入れのお時間。


なぜ彼は、そこまでしてくれるのだろう。


山下が自分のアパートとバイト先を案内した後「それでは。」と1人で帰ろうとする九十九を「ダメダメ。危ないから!」と言って引き止め、送ってくれた。


何が危ないのだろう。

あの辺に虎でも出没するのだろうか。


過保護にも程がある。


九十九の両親すら、学校の登下校を送り迎えするようなことはしない。

まぁ情緒が不安定な時、送り迎えされていたこともあったが、今は全くない。


でも、家に帰り着くと母より「遅かったね。今、電話しようと思ってたの。」と言われた。

30分帰りが遅くなったら心配されるのだから仕方ない。


(あ、もしかして、山下くんは事件のことを知っているのかも。)


九十九に起きた2年前の事件のことは、学校の同級生は結構、知っている人は多い。

教師はほぼ知っているし、同級生に同中の子が数人いることもあるし、他校で知り合った子から聞いたりもしているだろう。

土間も以前、知ってる風なニュアンスの話をしていた。

もしかして、山下は土間から聞いたのかもしれない。


九十九は、ならいいか。と納得する。


意味がわからず過保護にされると怖いが、それが九十九の過去に憐憫の情を抱いてくれた行動なら仕方ないかな。と思えた。

同情されるのは嫌だが、守ろうとしてくれている人には嫌とは言えない。


少し、山下の謎が解けて安心する。


それにしても山下は案外、近くに住んでいたことに驚いた。

しかし、あんなに安易に個人情報を漏らして大丈夫なのだろうか。学校でのモテ具合からして待ち伏せやストーカーが出てきては大変だと思う。


いや、彼のことだ。スマートに注意してスマートに帰宅を促すに違いない。………ん?促すのか?いっそ、可愛い子を食べ放題では……。


ふと、九十九の脳裏にオシャレで大人っぽい部屋に18禁顔の山下が女の子を誘う絵が浮かんだ。


(……絶対、近づいてはいけない!!)


そう、何度も頷くのであった。





次の日


「そういえば週末クラスマッチあるよな。」


恒例の「おはよう。九十九。」にペコリをし、学校へ向かう中、山下からそんな風に話し掛けられた。


「ほら、昨日HRで先生言ってたじゃん。今日、競技を決めるって。」


確かに言ってた。と九十九は頷く。


「俺、あんまりそうゆうの参加したことないんだよなぁ。クラスマッチってこんな時期だっけ?」


「うちの学校、体育祭が秋だからかな。」


と、山下の疑問に答える。

すると、山下が驚愕の表情のまま止まった。


(今度は…何?)


すると、また山下の頬がジワジワと赤くなる。


「うわぁ、九十九が流れるように返事を返してくれたぁ〜。」


あ、そういえば。と九十九も自分の言動を思い返す。

あまりにも山下がナチュラルに話し掛けるから、家族に対して話すように返事を返してしまった。


何とも濃い3日間(土日合わせると5日)で山下に慣れてしまったのかもしれない。


しかし、そもそも九十九が人と関わらないようにしていたのは、人間不信だからだ。

男は絶滅を願うほど嫌いだが、女も不幸を願うくらいには嫌いだ。

あの事件の時、意味もわからず裏切られたことを忘れられない。


その点、山下には変な信頼がある。

男なんか…とか。何考えてんだ…とかは頻繁に思うが、根本的なところで『まぁ彼は悪いことはしないだろう。』という気持ちがどこかにあるのだ。

彼と罰ゲームカップルになってたった3日。いや、土日もひどく悩まされたので5日。こんな短時間で九十九が信頼できた人は、あの事件以来いない。というか、あの事件以来 誰かを信用したのは初めてと言っていいのかもしれない。


そう思うとやはり彼は九十九が望んで止まないものを持っているのだろう。


そんなことを、山下の発言で自覚する。


なんだかすごく気恥ずかしい。それに私はそんなにチョロくないぞ!という意地も出てくる。何より山下の前で凛とした女を演じなければならない為、「え?私はいつも通りですが何か?」という顔で山下を見返す。


「…ううん。何でもない……………。」


山下も踏み込まず流してくれたようだ。しかし、次第にゆるゆると顔の筋肉が緩みだした。イケメンとしてそれ以上、緩めちゃいかんと思う。


「…これからは色んな行事もちゃんと出た方がいいよな。うん。楽しみ。」


そう言う山下に、まぁ私達の罰ゲームカップルの期間にある行事ってクラスマッチくらいしかないけどね。と思うも、素直に九十九は頷くだけにした。






お昼になった。


いただきますのすぐ後に「卵焼きちょうだい。」と山下が言ってきたので弁当を差し出した。

今日は少し自信作だ。

山下は卵焼きをパクッと食べると、いつもの大声は出さず「はぁ。アゴ出汁……」と言った。


(すごい!すごい!わかりますか。流石ですね!)


九十九は興奮気味に頷いた。

昨日、母が夕飯で使ったアゴ出汁を分けてもらい、だし巻き卵を作った。出汁が際立つように塩少なめだ。初めて作ったので配分が難しくて1度は失敗してしまった。そして出汁の量から、失敗は許されない2度目でこの渾身の出来だ。


おいしい!って言葉は出なかったけど、まぁまぁ満足のいく山下の表情が見れたので良しとした。




5限が終わり、次はLHRだ。

3日後にあるクラスマッチの競技を決める。

サッカー、バスケ、バレー、卓球に分かれ、各競技の総合得点で順位が決まる。

ついでに総合1位のクラスは学食のタダ券(3回分)とノート(1冊)らしい。

さらについでに、各競技の1位チームは冷たいジュースを担任が奢ってくれるらしい。


「じゃー競技決めるから男子は前に集合。女子は後ろー!」


と、委員長に言われ、ゾロゾロと集まりだす。

九十九は席がちょうどいい場所だった為、自分の席に座ったままでいた。他の女子は立ってる子もいれば、空いている男子の席に座る子もいる。そんな中、山下の席争奪戦を始め、しばらくして芹川が勝利した。


「えーっと、まず希望とりまーす。サッカー希望の人ー。」

副委員長がサクサクと進行していく。そんな中、芹川から話しかけられる。


「ねぇ。九十九さん。一緒にバスケしない?」


「…………。」


(えーと。……これは何のフラグですか?…試合中ハブられるとか?…仲良く見せかけ見えないとこでいじめられるとか?…あ、あれかな。同じチームだと山下くんがちょくちょく来るかも!…ラブイベント発生!…的な?……まぁ、兎に角、イヤです。)


高速で首を振り拒否する。


「じゃーバレーしたい人ー。」


副委員長の声にクラスの女子、丸山さんが手を挙げる。それを確認し、九十九もバッと手を挙げた。

丸山は短髪、身長172cmでガッチリめの身体つきをしている。一見、柔道部員のようだが彼女はバレー部だ。

そんな彼女が競技でバレーを選んだということはこの競技はガチで頑張らなければいけないということだ。

そんな中に根暗で細くて声すらほぼ出さない九十九が参加してきた。

しかし、九十九は実は負けず嫌いだ。

日頃は人間不信で色々 諦めることが多いが、今回はなぜかやってやろう!という気になっていた。

頑張って負けたのならそれでいいが、ダラダラと適当に試合をして「あーん。やっぱりすぐ負けちゃったー。」というのだけはしたくない、と思ってた。


(久しぶりに頑張ってみよう。)


そう思って顔を上げると丸山さんと目が合ったので、頑張ろう!と頷く。


すると彼女はプハッと吹き出すように向日葵のような笑顔を見せてくれた。




読んでいただきありがとうございます。

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