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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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教育実習生が来ました。〜芽上の心情〜

芽上先生からの目線。


「美冴?」


そんな声を聞いて芽上はその場が実習先であることを一瞬だけ忘れた。


「え!勇也?」


そこには懐かしい顔があった。

いや、あの頃よりだいぶ成長して見えるので、懐かしい面影があった、と言った方が正確なのかもしれない。


すっごい男前になってる。


芽上の率直な意見はそれだった。

初めて会った時の印象とは違いすぎる。

口が悪く、図々しく、人との距離を縮めようとしない、まるで野犬のようなイメージを彼に持っていた。

しかし、今の彼はどうだろう。

整った顔立ちに、品の良い仕草、品の良い言葉・笑顔、昔の彼とは結びつかない。


「……おい。」と呼ばれだが、昔に比べたらだいぶ柔らかい口調だし、その後の「はい。」という彼の口から初めて聞いた返事に衝撃をうけた。


あまりにも違いすぎる!


途中で自分を叱咤し、実習モードに切り替えたが、ふとしたときに山下の衝撃を思い出してしまっていた。




彼に初めて会ったのは1年以上前のことだ。


大学が春休みになり、バイトの合間をぬって実家へ帰省した。しかし、そこには見知らぬ男の子がわが家のような態度で居座っていた。


「お前だれ?」

「いや、あんたが誰よ。」


多分それが初めての会話だ。


彼は父が持っていたクラスの生徒のようで勉強を教えるためにうちに来ていると言っていた。

もう卒業して高校も決まっているのになぜ勉強が必要なのか聞いてみると「施設から出てーんだ。姉ちゃん家の近くの学校に転校するためだよ。」とアッサリと教えてくれた。父は微妙な顔をしていたが内容が内容なだけに仕方ない。

どこの高校かと聞くと偏差値のえらい高い学校だった。


いや、無理でしょ。


そう思ったが中学を卒業をしても勉強を続ける彼に言うことは出来なかった。


それにしても彼は変な子だった。

勉強は真面目に黙々とするけど口や態度が悪い。

「うるせぇ」「あっち行ってろ」「おいテメー」

そんな言葉は言ったことも言われたこともなかった。ある意味、初体験だ。

ついそんな彼に「はぁ?あんたねー!」と言い返してしまっていたのを今になっては大人気なかったと思う。彼はあの頃、思春期だ。もっと良い対応をするべきだった。


そして彼は必ず一歩離れたところにいた。

人の家に上がり込んでいるくせに、どこか手が届かない、そんな雰囲気を常に出していた。

母が彼の分までご飯を作っていても「いらね」と言って食べたことはない。コンビニで買ってきた物をダイニングとは離れたところで無表情で摂っていたのが印象的だった。


そんな彼がまさか本当にこの学校に転校できているなんて思いもしなかった。しかも、驚くほどイケメンになって!


人間は変わるものだ…。


しみじみ思った。




「ねぇ芽上先生、今日は一緒にご飯食べようよ!」


そんな風に女子生徒から誘われた。

先日も少し派手な女の子グループから誘われて色々聞かれたが今日は大人しめな子たちだ。

芽上はニコリと笑って「うん。いいよ。」と答えた。


「ねぇ!先生は山下くんと知り合いなんでしょ?山下くんってどんな子だったの?」


今日の子たちも先日の女の子たちと同じようなことを聞いてきた。


「んー、ちょー生意気な子だったよ!」

「えー!想像できない!だって山下くんって大人っぽくて誰にでも優しくて笑顔が素敵で勉強できてスポーツできて、とにかく完っ璧で、王子さまみたいなイメージだもん。」

「え?いま誰のこと言った?」

「だから山下くんのことだってばー!」


あはは!と笑い合った。


「本当に山下くんはこの学校の女子ほとんどの憧れで、私たちみたいに地味な女子は顔を見れただけで今日は良い日だって思うくらいなんだよ!」

「へー。そうなんだ!」


芽上はまるで自分の身内が褒められているような感覚になり少しだけ鼻が高く感じた。


「半年でうちの学校の美人集団がことごとく振られて、じゃーもういっそ誰なら付き合うんだってみんな思ってたんだよね!」

「うわー。そうなの?」

「まさか、九十九さんを選ぶなんて誰も思わなかったなー。」

「……え!!あいつ彼女いるの!?」


芽上は今まで気分良く話を聞いていたのに突如として驚愕に固まる。


「うん。この学校一有名なカップルだよ。とにかく当時は全校女子の驚きと悲しみと憎しみがマックスだったよねー。」

「私も家で泣いたー。」

「ねー。」


そんな目の前の女子たちの会話は耳に届かず、唖然としたまま動けなかった。


だってあの時の山下は人と一歩離れた態度を崩さなかったし、何より女性が好きではないような気がしてたから。


以前、外での山下を見たことがある。

街で女の子と一緒におり、すぐに彼女だと思った。

さすがに声はかけられず逃げるようにその場を後にしたが、その時の会話を聞いてしまった。


「ねぇ今日は泊まりくる?」

「今日はいい。」

「えー。寂しいよ。じゃーせめて夜まで一緒にいようよ。」

「用がある。…触んな。」

「あー。もうケチ!じゃーキスだけして。」

「……。」

「本当にケチだね。キスどんだけ嫌いなの?」


可愛らしく文句を言う彼女の存在をないもののような態度をしていた。


その時に初めて気づいた。

父には親しげに話すが母や自分に対して目さえあまり合わせてこないことを。

彼は施設にいると言っていた。もしかして母親、もしくは女性の親族にひどいことをされたのかもしれない。そんな風にそのとき思っていた。



「……先生?」


芽上はハッと我に返った。


「ゴメンね。あまりに驚いて。その子はどんな子なの?かわいい?」

「う〜ん。最近、可愛くなったよ。」

「最近?」

「うん。前は幽霊みたいに暗かったから。でも今は山下くんの愛情で幸せいっぱいって感じに可愛くなったかな。まぁ話したこともないからわかんないけど。」

「愛情ねぇ…」


正直、あの彼が人に愛情を注げるなんて想像できない。

もしかして彼はこの学校に転校して、この学校に合わせたキャラクターを演じているのかもしれない。

才徳兼備、品行方正、眉目秀麗、そんなイメージを周りから持たれるようにワザと行動しているなら彼の人気が納得できる。


そう思うとなんだか彼が可哀想に思えてくる。


多分、彼の素は1年前の口や態度の悪いあの姿だろう。なのにそれを表に一切出さず周りに合わせたキャラクターで過ごさなければいけないなんてどんなにツライだろう。

彼にホッと休める時間はあるのだろうか。

この学校の生徒は男女共に彼の表面しか知らない。彼は完璧な王子さまなんかじゃないのに。

彼と付き合っているという九十九さんという子はそういうことを知っているのだろうか。

いや、知るわけがない。

彼はそういうことを徹底して隠すのが上手だ。

そんな人が、本当は女性が苦手な彼の側にいるなんて、想像しただけでモヤモヤする。


彼は彼のことをよく理解してしている人と一緒にいるべきだ。


芽上はその後、ご飯を誘ってくれた女子生徒たちとすぐに別れた。


それから少しずつ今の彼のことや九十九さんのことを聞いて回る。もちろん会話の中に織り込むように、気づかれないようにだ。


「勇也がベタ惚れしている」「時々ケンカをして山下くんが謝っていた」「手を繋いでいつも登校している」「九十九さんに対して女子からの嫌がらせがあったが山下の対応で今はだいぶなくなった」などなど…


芽上は昔の彼のことを思い浮かべ、2人のやりとりに違和感を覚えていた。


2人が仲が良いと聞けば彼が無理をしているのではと思い、2人がケンカをして彼が謝ったと聞けば彼を可哀想に思った。


すると、帰りのHR前に女の子が2人、あまり人気のない廊下で会話をしていた。相談をしていて、片方がそれに答えているようだが内容はあまり聞こえなかった。

声をかけてみるとそれは九十九だった。


彼女は自分に対し不安そうな顔をしていた。


あぁ…彼の昔の知り合いだって知って私の存在に嫉妬してるのかな?


そうすぐに思った。

しかし、何もない自分の存在に不安になるくらいだ。彼女は弱い人間なのだろう。だったら彼の負担はどれほど大きいのか。


芽上は彼の心配がさらに大きく感じた。


自分がどうにかして彼を助けてあげたい。

だって本当の彼を知っているのは自分しかいないのだから。


そう思って仕方がなかった。


読んでいただきありがとうございます。


すごく嫌な子でも、どんなヒドイ人であっても人生の主役で、その人にはその人の考えがあって行動しています。

とは言っても途中から書く気が失せてくるのは彼女の性格が自分と合わないからなのかな(-_-)


投稿遅くなってすみません。

イチャイチャ書きたいな。

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