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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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お休みは自問自答の時間。


土日は後悔と反省と言い訳が、ずっと頭の中を占めていた。勉強に集中しようとするも、フとした時に彼の声が脳裏に響く。


「……ごめんね。九十九。ごめん。」


「……っ」


思い出したくない、と九十九は頭を振る。


大体、彼は何に対して謝っているんだろう。

だって悪いことは何もしていない。

九十九が泣きそうになってたから?

その方が早くその場を収拾できたから?


ああ。違う。

自分が悪いことは自覚しているのに、どうしても彼のせいにしようとしてしまう。

自分で自分を庇うなんて格好悪すぎる。


九十九は繰り返し繰り返し、悶々としながら自問自答する。


大体、劣等感や焦燥感など誰に対しても持っている。可愛くて自信たっぷりな芹川にも。厨二病だけどクラスに自分の価値を示そうとする土間にも。自分には出来ないことをしているほとんどの人に九十九は「いいな。キラキラしてるな。」と思う。

でも、彼だけにあのようにあからさまな対応をしてしまったのは何故だろう。


九十九の欲しい物を全部持ってるから?

…いやいや。いっそ清々しいくらい手の届かない次元にいる人に、そんなことをしてどうする。

…まぁしたんだけど……


じゃー何で彼に八つ当たりをしてしまったんだろう。

…質問がウザかったから!…喋りたくなかったから!…ちょっと困ればいいと思ったから!


その問題の答えだけはザクザク出てくる。


(…困ればいい………ん?…………困るのか?あの彼が?…私の言動で?)


だって、彼は九十九の欲しい物を全て持っている。社交性も、対応力も、探究心も、知識も、優れた頭脳も、優れた運動神経も、あと、綺麗な顔も。


(あれ。あの人、完璧なの?…………いやいや、この前、不器用な人だと思ったばかりじゃない。)


そうだ。確かに、彼は九十九に対してすごく不器用だ。

なぜかはわからない。

九十九が一応、彼女という立場だからなのかもしれない。それとも、こんな根暗で面倒臭い女に会うのが初めてなのかもしれない。


それでも色んなことを話掛かけてくるし、気を遣ってくれているし、何より九十九の言動に一喜一憂する。

一喜一憂は少し盛りすぎだろうか。でも、卵焼きを食べただけで喜ぶ姿や、先日の喧嘩(?)でも、彼が情けなさそうな表情をしているのは確認している。


そう。彼は九十九の言動に困るのだ。


それを、知っているから「困ればいい。」なんて思うんだ。


あ、そうか。彼は九十九といる時は、『別次元のハイスペック男子』ではなく『表情豊かな同級生男子』でいてくれたからだ。


だから、あの日、彼が本当は自分よりずっとずっと高い次元にいることを認識してしまい劣等感を感じてしまったんだ。


なんて情けない。

彼は元々、ハイスペックだ。

九十九に合わせてレベルを下げて付き合ってくれていただけなのに、九十九は「日頃、あんなバカっぽいのに本当はハイスペックなんて生意気なのよ!」という感じの八つ当たりをした訳だ。


(………穴。どこかに入れる穴ありませんか。)



しかしだ。

自分の言動の理由はわかった。それはいい。

それより問題は月曜日の朝、山下にどんな顔で向き合えばいいかだ。


今まで考え抜いた結果、自分のことが少しわかった。しかし、山下に対してやってしまったことは結果として最初からわかっていた八つ当たりだ。


多分、何も言わず普通どおりでいても彼は変わらない対応をしてくれるのだろう。

いっそ、彼から再度 謝罪されるのではないだろうか。そうして、こちらが頷けば、喧嘩(?)は彼のせいにして解決だって出来る気がする。


(いやいや。最低か。私。)


九十九には、理想の自分がいる。

社交的で対応力があって、自分の意見をハッキリ言え、間違ったことは素直に謝り、次の糧に出来るカッコイイ女だ。

今は、理想の1番遠くに自分はいる。


理想の女性になりたいな、と思うだけではなれないのだ。

なろうと努力しないといけない。近づきたいと。


多分、男の絶滅を祈っている九十九にはなれない理想だ。

でも、彼だけは。

九十九の憧憬する全てを持つ彼の近くにいる時だけは、少し背を伸ばした自分でいたいと思う。


情けない姿なんか見せてたまるか。

いつか。いや多分、無理だろうが。

彼の横に並んでも「何あの女。不釣り合い。」なんて言われない女になってやる。


そう、九十九は休みの2日間を使い、久しぶりに自分の中にある前向きな自分を見つけ出していた。

まだ、そんな自分がいてくれたのかとホッとし、まだまだ前に進めることができることに気付き嬉しくなった。


明日から凛と生きていこう。


そう、強く心に言い聞かせ眠りについた。








目が覚めた。

勝負の日だ。

いや、勝負するのは卑屈な自分とだけど。


少し早めに起きて、髪を入念にブローした。

黒くて胸元まである髪をまっすぐサラサラになるようにアイロンを掛けていく。

仕上がりに満足したら、好きな香りのオイルを少しだけ髪に付ける。

その後、色付きのリップを唇に塗った。少しだけ色白な顔が華やいだ様な気がする。


それが終わったら制服に壁掛けでも使用できるアイロンを掛けて行く。


そして、それを身につけると、いつもと同じ時間になっていた。

姿見で自分の全身を確認する。

(うん。いつもの私だ。)

基本、何も変わっていない姿が映っている。

でも昨日よりよっぽど凛とした姿だ。


部屋を出て、両親にいつもの挨拶をすると、2人共とても驚いていた。


「今日はどこか出かけるのか?」

「?…学校だけど?」


「そうか…」といい、何か言いたげな父だか、最後には「いつも可愛いが、今日は特に可愛いと思う。」と言ってくれた。


父に溺愛されている自覚はあるが、年頃の娘にそんな言葉を告げることは勇気がいるだろう。

嬉しさがこみ上げてきて、九十九は満面の笑みを浮かべて「ありがとう。」と返事をした。


母もその様子を微笑ましく眺めた後、九十九の近くに寄り「本当に可愛い。」と言ってくれる。


2人にそう言われると勇気が湧いてくる。


女の武装はおしゃれだ。

おしゃれと言えるほどではないが、九十九にとっての精一杯の背伸びだ。


だって、彼女にとっての戦いがあと10分後にせまっているのだから。






読んでいただきありがとうございます。

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