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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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教育実習生が来ました。〜と、まぁそれは置いといてキスのお話〜


芽上は上原を指導員としているが、実習として付く先生は日によって違うらしい。

1週間は色々な先生の元で授業の見学や手伝いをしているようだ。

なので九十九たちのクラスにも時々しか現れなかった。


移動教室のときに「ねぇ芽上先生、今日は一緒にご飯食べようよ!」と他クラスの女子が芽上に話しかける姿が見えた。


「へぇ結構、女子とも仲良くやってんだな。」

「うん。サバサバした性格が男女共に人気らしいよ。キレイだしね。あ、でも変な噂もあるかな。」


一緒に移動していた土間と黒賀の会話の内容が気になり、つい耳をたててしまった。


「なんか、山下くんの情報を聞きたいから…とか、昔の話を聞きたい…とか、あるみたいだね。」

「情報収集かよ。女こえー。」

「好きな人のことを知りたいのは男も女も同じでしょ?目の前にその情報があるのに聞かないなんてもったいないじゃない!」

「いや、おめーのネタ集めと乙女心を一緒にすんな。まったく同調できねーわ。」


そんな2人の会話を聞いた九十九はチラリと山下の方を見ると、すぐに目線に気づいた山下に微笑まれる。


「ねぇ九十九。今度の平日のお休みは俺んちでデートしようよ。夕方には送ってくから。」

「う、………。」


すぐに「うん」と頷こうとした瞬間にふと以前のデートを思い出し体が固まった。


たしかその時に同じことを提案され、もっとイチャイチャベタベタしたいと言っていた。それから山下のアパートに連れられ、キス責めで死にかけた。


あれを再び体験するのか。

今回は日が暮れる前までと時間制限が曖昧だし、多分30分以上いることになるだろう。「もうダメです。それ以上は心臓止まりそうです。」と訴えて山下が止まるのか。

つい九十九は口をキュッと結び考えてしまう。


「………九十九?」


多分、他の人にはいつも通りの彼の優しい笑顔に見えるのだろうが、九十九には圧を込めた黒に近い笑顔に見える。


絶対、逃がさないから、と。




ことの発端は例のヤキモチの後だ。


男女別の体育のときにニヤニヤした黒賀が話しかけてきた。


「やっばいね。山下くんの色気。よく九十九さんは平気だね。私だったら腰が抜けてしまうわ。」

「え?」


突然の内容に九十九は首を傾げた。


「『凛花が好き』」

「っ!!!!!!!!!」


その一言で彼女が何を言ってるのか瞬時に理解した九十九は顔を真っ赤にさせた。


「いやー、だって山下くんに拉致されたから心配になって様子を見に行ったんだよね。ケンカしてないかなとか思って…でもまさかあんなラブシーンを見るなんて思ってもいなかったけど。」

「…っ!…っ!」


顔が尋常ではない熱を持っている。今、非接触型体温計で熱を測ると40℃近くあるのではないか。


「何となく山下くんって正義感みたいなのが強くて九十九さんと付き合ってるのかなぁって少し思ってたの。九十九さんってつい気になって近くで手を貸したくなる何かがあるでしょ?」


黒賀の言葉に半分は納得し半分は頭を傾げる。


たしかに以前、山下が九十九に告白してきた理由を考えていたときにそんなことを考えたこともある。

1ヶ月、九十九と罰ゲームをしてきた中で九十九をほっとけないと思ったのかもしれないと。


彼からの強烈な溺愛ぶりに今はそんな気持ちは持っていないが、そう思われても仕方がないほど2人が不釣り合いに見える人は多いだろう。


「でもこの前のラブラブな場面を見せられたら、そんな気持ちなくなった。山下くんは真っ直ぐに九十九さんを好きなんだなぁって思ったよ。」

「…………。」


黒賀の言葉が嬉しいのもあるが、やはりあの場面を見られていた事実の方が恥ずかしい。


「でもあれだよね。あの顔と言葉と色気は犯罪級だよね。」

「…っ!…そうなの!」


こんなこと誰にも言えなかった九十九は少しだけ涙が出そうになった。

山下くんの色気がツライの!キスをどう回避すればいい?など誰に相談できるのか。

それこそそんな話を山下くんのファンに聞かれたら刺されるかもしれない。


「でもね。まだあれはいい方でね。色気がまだレベル3くらいなの。この前レベル5を体験したときはもう三途の川に片足突っ込んでたくらいの気持ちだったよ!」

「……っぷ!あはは!九十九さん面白すぎ!」

「面白くないの。死活問題なの!」

「レベル5かぁ〜。体験はしたくないけど遠くからどんなものか見てみたい気はするなぁ。でも気をつけてた方がいいかもね。あのラブシーンを結構な人が見ていたよ?」

「え、」


黒賀の一言で九十九は真っ白になり固まる。


「空き教室っていってもカーテンされてるわけじゃないし、移動教室の途中に通るとこだし。」

「……結構なひ、と?」

「私以外に3人くらいかな。あまりにも山下くんがすごい色気を発してたから、つい足を止めて固まってたよ?他のクラスの男子2人と女子1人。」

「………見……。」

「九十九さんは見えない方を向いてたもんね。だけど山下くんは気づいてたと思うよ?一瞬、目線が九十九さんから窓の方に向いてたし。」


九十九はサァーと顔色を悪くした。


「……な、なぜ……」

「え?…牽制じゃないの?九十九さんのこと誰も手を出さないように。…だから私も山下くんは九十九さんのこと本気なんだなぁと感じたんだし。」


九十九は頭を抱えた。

なんてことだ!と。

他人にラブシーンを見られていた羞恥。

それを知っていたのに無視してラブシーンを続けていた山下への怒り。

それが九十九に手を出さないようにするための牽制だったという想像への困惑。

今のところ九十九の頭を数値で表すと4対5対1だ。

圧倒的に羞恥と怒りが渦巻いていた。


(私のための牽制なんていらないし!山下くんが牽制してくれなくても誰も私なんかに手を出そうとなんかしないし!それより!見られてた!キスシーン!あのとき私は何か変なこと言ってなかったかな?言ってる!絶対言ってる!砂吐くようなこと言ってる!)


カカカッとさらに顔が赤くなった。


九十九の言葉や反応も山下だからいいと思ってしていることで、他人には聞かれたり見られたくない姿だ。

それに九十九の会話も笑顔も最近ではよく見せるようになったが、それは山下や鈴木など仲間に対してであって、その他の人には変わらない反応のままだ。

皆がいないときは無表情、無口なのだが、ただ学校にいる間は誰かしら近くにいてくれるので表情豊かにしていられるだけだ。


今まで特に表情を他人に見られないように過ごしてきた九十九にとって、それはとても恥ずかしくて嫌悪することだった。


なのでその後の昼休みで山下に「学校ではキスはしません。」と宣言してしまったのは仕方ないことだ。

食後に山下から横抱きにされ、顔を近づけてこられたときにそう言うと、彼は笑顔の状態で固まった。


「え?なぜ?」


その言葉に感情は少しもこもっていない。


「この前の空き教室でのキス、見られてた。……山下くん知ってたでしょ?知っててキスしたんでしょ?」

「うん。でも九十九の可愛い顔は見られないようにしてたよ?」


彼のキョトンとした顔が憎たらしい。


「そういう問題じゃーないの。キスしてた行為を見られていたのが嫌なの。」

「何で?恋人ならキスしたっておかしくないでしょ?別に堂々とクラスの真ん中でしてたわけじゃないし、たまたま見られてただけだよ?」

「たまたまでも見られたくない。」

「じゃー人がいないとこならいいってこと?ここなら誰も来ないし、いいんでしょ?」

「ダメ。もしかして誰かが通るかもしれないし。ここがいいなら、他もいいって結局どこでもキスしてきそうだから。学校じゃしない。」


山下の顔がみるみる恐怖に怯えるような表情に変わっていく。


「じ、じゃーどこならいいってこと?学校来る前?九十九を家に届けたとき?」

「や、登下校とか近所の人に見られるのは…」

「じゃーどこ?いつならいいの?どこなら?」


食い気味に山下が言ってくるのに対して、九十九も困惑する。そういえばキスできる理想の場所なんてあまりない。


「……えっと………デートで?」

「え、………俺を殺す気?」


2人がしたデートはまだ2回。それも1ヶ月ほど間をあけてだ。おうちデートはそれより頻繁にしているが、山下のバイトを休ませるのが目的なので基本は週に1日だけだ。

それにおうちデートでは両親がいるのでキスはできない。

だから山下がそんなふうに言ってくるのも無理はなかった。


「…えっと、でも今までもしてなかったし、」

「絶対ムリ!」

「学校は勉強するとこだし、」

「絶対ムリ!!」

「人に見られるなんて嫌だし、」

「絶対ムリ!!!」


山下が「絶対譲るものか!」と目をそらさずムッとした表情で見てくる。


「九十九は俺とキスするの嫌い?」

「え、嫌いでは……ない、けど、」

「じゃーなんでそんなに拒否するの!?俺ばっか九十九を好きみたい。俺ばっか九十九を求めてるみたい。」

「そ、そんなことないよ。私も山下くんが好きだよ。」


そういうと少しだけ山下が嬉しそうにする。


「じゃーキスしてもいい?」

「いや、それとこれとは違うから。」

「違わないし!何がダメなの?俺にはよくわからない。」

「だって、……人に見られるなんて嫌だ。」

「じゃーもう絶対人に見られないようにするし。」

「……恥ずかしいし。」

「誰にも見られてないから恥ずかしくないでしょ?」

「…ドキドキしすぎて心臓止まりそうだし。」

「俺だってドキドキしてるし。」

「…息できなくて苦しいし。」

「慣れたら苦しくなくなるよ。」

「…………。」

「九十九?」


九十九の体を寄せて、顔を覗き込もうとしていた山下を手のひらで押して、彼の腕の中から出る。


「つ、九十九?」

「保留にする。」

「…え?」

「ちょっと考慮するのでキスの件は保留にします。」

「え、保留って……結果が出るまでキスはできないってこと?」

「はい。そうです。」


山下は不満を口にしようとするが、九十九の顔から怒りがにじみ出ていることに気づき、口を閉ざす。


「つ、九十九。どうしたの?何に怒ってるの?」

「別に。怒ってないよ。」

「いやいや、怒ってるから。ちゃんと教えて。」

「……怒ってない。ただ山下くんはキスが上手だなぁって思ったけど…そっか、いっぱい慣れてるんだね!」

「っ!!!!」


山下の顔がピシリと固まる。その表情に九十九は心が冷えていくのがわかる。


「キスの件は保留です。」

「……………はい。」




と、そんなこんなが2日前のことだ。


そんな彼からのデートのお誘い。

これはもはや生存をかけたデートといってもいいのでは。


「………九十九?」


悪魔と化した、いやいっそ鬼と化した彼にこれ以外の言葉があるだろうか。


「……………はい。」


読んでいただきありがとうございます。


キスをしないと死ぬ男 と キスをされると死ぬかもしれない女のお話。


って違ーーーう!!

そんな話を書きたいんじゃないよ!途中でどんどん2人がバカな…変な方に進んで行ったので話がだいぶそれてしまったよ!

もうタイトル関係ないよ!

あぅ。軌道修正しなければ…

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