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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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教育実習生が来ました。〜ただのヤキモチです〜


「ねぇ。うちのクラスに教育実習生くるらしいよ。」


黒賀がポッキーを口にくわえながら九十九の席へやってきた。そして箱を突き出される。

少し驚き黒賀の顔を見ると、それより先に隣にいた津々見が手を出して食べ出した。


「男?女?」

「さぁ、そこまでは知らないけど。」


2人はそのまま普通に話し出したが、黒賀からさらにポッキーの箱を突き出される。


九十九は少しだけ緊張しながら、でもそれ以上に嬉しい気持ちでその箱から1本だけポッキーを取り出し「ありがとう」と言った。いつも通りの顔で言ったつもりだがつい頬を緩ませてしまうのは仕方ない。

こんな友達同士がするような行為は久しぶりだった。


「あぁ。山下くんの言ってた猫のやつコレね。少しわかる気がする。うんうん。」


黒賀がブツブツと何かを言っていたがそこはよく聞こえなかった。


「黒賀、それどこからの情報?」


ぬっと九十九の後ろから現れた山下が九十九の首に腕をからませるように抱きついてきた。


「職員室の近くで先生たちが話してるのをたまたま聞いたの。職員室の横の花壇は私がお世話してんだよね。毎日♬」


わぁお!さっすがぁ!

と、そこにいるメンバーが少しだけ遠い目をする。


「上原先生はだいぶ拒否してたけど教頭から強く言われてたから断るのは無理だろうね。」

「上原って教頭に嫌われてんじゃねぇ?面倒事とかよく押し付けられてんじゃん。ほら転校生とか。」

「俺か。」


土間が近づき、山下を九十九から離しながら言って来た。その言葉に津々見が呟く。


「あ、私もか。」

「ま、そだな。」


それに対して九十九も声を出すと、土間がアッサリと頷いた。


「九十九を面倒扱いしないで。」

「いっそ、今メンドーなのはお前だ。」


山下のツッコミに土間がツッコむ。


「いつ頃かは聞いてねーのか?」

「んー。テストも終わったし、そろそろなんじゃん?具体的な日付は聞いてないよ。話の雰囲気からして多分そんなに遠くない日と思うけど。」

「九十九は大丈夫?」


山下の言葉に九十九は少しだけ考えて「うん。」と頷く。


(周りにいるメンバーが頼りになり過ぎる。)


そう素直に思ってしまった。


何からでも絶対に守ってくれる山下。

文句を言いながらも何だかんだ手を貸してくれる土間。

不器用に気にかけてくれる津々見。

情報を誠意を持って、でもナチュラルに教えてくれる黒賀。

個性の強いメンバーをなだめてくれる鈴木。

時々、背中を押してくれる丸山。


このクラスには九十九の気持ちを強くさせてくれるメンバーだらけだ。


(でも守られてばかりじゃダメ。自分がしっかりしないと。)


そう思うもこのメンバーと一緒にいることがとても楽しいので仕方ない。


「ふふ、」

「……九十九?」

「こんな個性的な人が多いクラスだと実習生の先生は逆に驚くし大変だよね。」

「いや、オメーもだいぶ個性的だからな?つーかいっそ、お前が筆頭だ。」


土間の言葉に九十九は驚きポカンと口を開ける。


(え、私この中の筆頭ですか!心外です!)


「……まぁそうだな。」

「ってか私はかなり普通だよね。」

「いや、職員室の盗聴を習慣にしてるやつは普通じゃねぇよ。」

「そういう土間だっていじめっ子代表じゃん!厨二病金メダリスト!」

「うるせーよ。黙れ忘れろ。」

「大丈夫だよ。九十九が個性的なのは可愛いくて仕方ないだけだから。」

「お前が1番ヤバいんだよ!ヤバい方の個性ナンバー1だ!」

「……まぁまぁみんな落ち着いて。」


一気にワイワイと言い合いが始まり、それまで黙って聞いていた鈴木がみんなをなだめだす。


それを見て九十九はこらえきれず「あはは!」と声を出して笑った。

それを見たメンバーは数秒間、言葉を失いポカンとした後にくしゃりと、はにかむように笑った。




それから1週間ほどして、本当に教育実習生がやってきた。

朝のHRの時間に紹介される。


「今日から3週間、実習として授業に加わる芽上先生だ。」

「はじめまして。植物の『芽』と『上』で『めがみ』と読みます。芽上美冴子です。よろしくお願いします。」


黒板に文字を書き、落ち着いた雰囲気の女性が挨拶をしてくる。


ショートヘアにパンツスタイルだがボーイッシュには見えず、逆に首や腰の細さが女性らしさを際立たせていてスッキリと品の良さが現れている。

大人っぽくキレイで、アーモンド型の目がとても印象的だ。


(わ、キレイな人だなぁ。)


九十九は素直にそう思った。

実習生だというのに凛とした彼女の雰囲気は九十九が憧れる理想の大人のイメージに近い。

少し前までは人と話すことも人の目を見ることも出来なかった自分が諦めていた理想の自分だ。


そんな憧憬の気持ちを抱いた瞬間、


「美冴?」


と、クラスに彼の声が響いた。

つい、クラス全員が声の元、山下の方を向いた。


「え!勇也?」


驚いた山下と実習生の芽上が目を合わせ、目を丸くしている。その様子をクラス全体が驚きの眼差しで見た。


「山下と知り合いですか?芽上先生。」

「え、あ、はい。父の教え子なんです。父は中学の教師をしてるので。」

「あぁ。そうなんですね。」

「わぁ!懐かしい!本当にこの学校に来れたんだ!すごいじゃん!」

「……おい。」


上原から山下に目線を戻し、つい砕けた言葉を発した芽上に山下がそう反応する。

その言葉に少しざわついていたクラスが静かになった。


山下が「おい。」なんて言葉を使うのを初めて聞いたからだ。

彼は基本、丁寧で穏和な言葉が多い。土間や津々見に対しては少し荒いしキツ目の口調だが、それでも言葉自体は変わらない。

時々、本当に怒ったときなど、彼には似合わない乱暴な言葉づかいになることがあるが、今回の「おい。」はそれに近い。しかし怒っているときより口調は柔らかだ。


「あ、ごめん。……上原先生すみません。」


山下の言葉で我に返った芽上は表情をピリッと引き締め上原に向き直した。


「まぁ知り合いなんだろうが今回は実習生として来てるので線引きはしっかりして下さいね。山下も悪いが頼むな。」

「はい。」


山下がニコリと筋肉だけで笑ったのがわかった。


九十九は心がソワっとしたが、深い深呼吸をして気持ちを落ち着かせ気にしていないそぶりをした。


九十九は山下の昔のことをあまり知らない。

聞けば答えてくれるとは思うが、あまり深く聞いたことがなかった。

今まで彼は他人に自分のことを聞かれても、いつも曖昧に流していたので、あまり話したくないのだろうと思っていた。だから九十九もあえて聞いていなかった。


彼と話をする中で少しだけ知っていることはある。


彼に両親はいないこと。6つ年上の姉がいて、すでに結婚していて姪っ子がいるということ。

半年前まで施設にいて、そこから出るために転校してきたこと。

バイトで生活費を稼いでいること。

自分の誕生日は特別な思いがないこと。


まだ細かいことはいくつもあるが、誕生日の日に「誕生日は年を増える普通の日」と言った彼に、昔の話は聞きづらかった。


誰にでも言いたくないことはある。九十九自身、あの事件のことやその後イジメられていたことを話したいなど思わない。


それに今の山下が好きだから昔のことなどどうでもよかった。

彼が話したかったら話せばいいし、知られたくないと思えば隠していて全然かまわない。


もちろん彼の全部を知っていたいという気持ちもあるが、それはただの自己満足だし、独占欲だ。

でも、好きだからこそ好きな人に知られたくないことだってあるはずだ。

その気持ちが理解できるので九十九から山下に昔のことを聞くことはなかった。



しかし今、心がソワソワとするのは目の前のキレイな女性が山下の過去を知っているとわかったからだ。


自分の知らない山下を知っている彼女。

それが無性に不安を煽る。


(…ダメ。これはただのヤキモチだ。独占欲だ。)


息をゆっくり吸ってゆっくり吐く。

落ち着け、落ち着け、と繰り返し思うも、先ほどの山下の「美冴?」という言葉が耳に張り付いたようにリプレイされている。


(あぁ、私はやっぱり弱いなぁ…)


さっきまで「大丈夫。」と言った自信が嘘のように霧散されている。

山下に関わるちょっとしたことですぐに不安になるなんて情けない。


チラリと彼の方を見ると、山下とパチリと目が合った。

彼はなぜか少し心配そうな、申し訳なさそうな表情をしており、それが九十九の不安をさらに煽った。つい目をそらしてしまう。


(あ、やっちゃった。つい目をそらしてしまった。)


そろりと目線を山下に戻せば、ショックを受けたように頭を抱えているのが見えた。


(わーー!ごめん!違うの!ごめんね!)


いつもはすぐに終わるはずのHRが長く感じるのは仕方のないことだった。




読んでいただきありがとうございます。


実習生来ました。

私の中、高校には実習生って来なかったのでどんなかんじなのか分からず書いてます。

あ、でも逆に実習生として行ったことはあるかな。出来ればタイムマシンで戻ってやり直したい。今ならもっとちゃんと出来る。

って当たり前か。笑


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