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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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勉強会をしよう!



「なぁ!ここってどういう意味だよ。」

「どれ?…あぁ…そのmakeはS+V+Mだから第1文型になるの。だから『進む』って意味だよ。」

「あぁ。そうか。じゃーこれは?」

「えっと、それはね。」

「つ、九十九も俺も!これは?これ!」

「うるせぇ!テメーは本当はわかってんだろ!九十九の気を引くためだけに邪魔すんじゃねー!!早くバイト行け!」

「や、何言ってんの。九十九を置いてバイトなんか行かないから!」

「じゃー大人しく待ってろ!」


土間の怒鳴り声にくしゃりと顔をしかめた山下が九十九に訴えるような瞳を向けてくる。


(山下くん。ごめんだけど、早く終わらせるために少し黙ってて!)


九十九は表情でそれを伝え、土間に向き直した。




事の発端は昼休みの終わり。

旧校舎裏から帰ってきた九十九に土間が話しかけてきたことから始まった。


「お前、今日は暇か。」

「…?……特に用はないけど?」


土間からそんなことを初めて聞かれて驚き、ついサラリと答えてしまった。


「なら放課後1時間だけ勉強会するぞ。」

「はぁ!?ちょっと待って!土間、何を勝手に決めてんの!?俺バイトあるし!!」


九十九も土間の発言に驚きはしたが、先に文句を言ったのは山下だった。


「……そうか。なら俺が九十九を送ってくから、お前バイト行ってきていいぞ。」

「は!?はぁああぁ!?なに言ってんの!そんなの絶対ダメだし!それは俺の仕事だし!」

「うるせーな。俺も罰ゲームで散々こいつを家まで送ってんだよ。別に誰が送ったって変わんねーよ。」

「変わるよ!九十九を家まで送るのは彼氏の仕事だから!俺の仕事だから!」

「んな法律ねーよ。」

「大体!土間は何でそんなこと突然言ってくるの!?」

「あ?1週間後にテストあるからに決まってんじゃん。俺は今回のテストでちゃんといい点だして親に文句言われず学校生活を好きに楽しむって決めたんだよ。」

「土間はいつも好き勝手にしてんじゃん!」

「うるせーよ。」


言い合いを区切るように土間が山下から九十九に視線を移す。


「お前どうすんの?」


九十九は少しだけ目を丸くした。


そういえば土間から意見を求められたのは初めてかもしれない。彼は基本、九十九に対して命令口調だ。

「お前◯◯しろ。」や「◯◯するぞ。」と今まで散々言われ続けてきた。

そんな彼からのお誘いについ九十九は「楽しそうだな。」と思ってしまった。

少し前なら土間の誘いを楽しそうと思えるなど考えられないことだ。


しかし、そもそも九十九は授業よりだいぶ進んだところをすでに自習している。基本的にテスト勉強などは範囲をザッと見直す程度で大丈夫なので、勉強会などはあまり必要ない。

それに九十九が何かをしようとすると必ず誰かを巻き込む。親は心配するし、山下はバイトもある。


なので九十九は答えられず、チラリと山下を見てしまった。それに気づいた山下が少し驚いた顔をし、小さくため息をついた。


「………九十九、やりたいの?……」


少しだけ肩を落とす彼に申し訳なく「うん!したい!」とは言えない。

彼が嫌なら断っていいことだから。


「…いいよ。ただし1時間だけね。それ以上は日も暮れるし、恵美子さん心配するから。」

「…ありがとう。」


彼の優しさが嬉しくてフワリと笑うと。それを見た山下が「へへ、」頬を緩めた。

そんな光景も見慣れたのか土間も周りの人も平然としている。


「俺も参加しようかな。」

「ばっか、津々見。お前は最初から強制参加だ。この前の小テストすげー点とってただろ。」

「うわー。何でバレてんの?」

「クシャクシャにして机に入れてただろ?机の下に落ちてたぞ。色々バカだと思った。」

「シンラツ〜〜!!……あ、じゃー鈴木も参加な。」

「え!あ、うん、いいけど。九十九さんいいの?」


鈴木の言葉に九十九は食い気味に頷く。山下と土間と津々見が揃うとあまりいいことが起こらない。鈴木がいてくれるととても安心だ。

しかし、そんな九十九の横で山下が少し嫌そうな顔をしたのを九十九以外が気づき、そのまま気づかないフリをした。


「はいはいはーい!じゃー私も参加ねー!」


突然、黒賀が大きな声で輪の中に入ってきた。


あの黒板の落書き事件以来、黒賀は九十九によく話しかけてくるようになった。もちろん新聞のネタ探しのようなことも含めてだが、男女わかれた授業などは丸山や黒賀と一緒にいることが多い。


あの事件のせいか、彼女は話しの事柄について自分の考えを喋り、九十九の意見も聞いてくる。「この前こんな事件があって、私はこう思ったんだ。九十九さんはどう思う?」と。

彼女の考え方は九十九と違い面白い。「なるほど。そんな風に考えるんだ。」と思うし、その意見を九十九に同調させようという気がないので、九十九の意見も言いやすい。

山下とも意外と仲良くなっており、他の女子相手の能面スマイル顔や王子さま言葉ではなく、土間たちと同じような表情、話し方で接している。


そんなメンバーが集まり、静かに勉強などできるわけがない。HR後の九十九の席の周りはワイワイと勉強会とは思えないほど賑わっていた。


「九十九さん!ここは?これがわかんない!」

「黒賀。何でテメーだけ数学なんだよ。英語やってんだろが。」

「だって英語より数学の方がヤバイんだもん!」

「ばーか。数学は明日だ。今日は英語と古文だ。」

「え!!ちょっと!明日も勉強会するってこと?聞いてないし勝手に決めないでよ!」

「うるせーな。テストまでするに決まってんだろ。テメー暇なら黒賀に数学教えてろ!」

「教えるけど!ってか、土間の英語も俺が教えるよ!だから九十九に…」

「はぁ!?お前なんかに教えてもらいたくねーよ。イラつくだけだ。」

「なんだよそれ!」

「あ!?顔良くて運動できて頭がいいとか何なの?お前ケンカ売ってんの?俺に勉強教えたかったらどれか一つでも普通レベルに落としてから来い!」

「あーーーー!!もううるさい!!勉強に集中して!!」


九十九の大きな声に山下と土間がやっと静かになり勉強を再開しだした。




「ねぇ黒賀は『花宮』って男のこと知ってる?」


山下が黒賀に数学の解き方を教え、彼女が問題を解いている時に小さな声で聞いてみた。


それは以前から気になっていた男の名前だ。

あの日、九十九と2回目のデートの時に会ったカップルの男の方で、九十九が怖がっていた相手だ。


「『花宮』って、九十九さんの中学の同級生の?」

「ああ。多分そう。どんな奴か知ってる?」

「……まぁ……あれからも情報集めてたから少しは……。あの事件の日に九十九さんと街に出てた男の子みたいだね。」

「ふ〜ん。やっぱりそうなんだ。」

「顔がいいから女子に人気があったけど、男子からはすごく嫌われてたよ。どの子も同じようなこと言ってた。あの日、九十九さんに嘘ついて街に連れ出した張本人だって。それなのに九十九さんがやっと学校に来るようになったら『ブス』だの『地に堕ちた』だのすごく酷いことを毎日のように本人に言っていたって。」

「………そう……じゃーカズナって子は?」

「…カズナって子は九十九さんのこと『皆に優しいフリして友達の好きな男の子を奪っていくような女だった』って言った子だよ。でもそれもその子が言い回ってたことだし、九十九さんをいじめてた中心人物だったみたい。」

「………やっぱり……」


黒賀は悔しそうに唇を噛む。


以前、周りからチヤホヤされるままに書いた自分のネタが全部、嘘だった。

あの黒板事件後に再度、情報を集めるうちにそれがわかったとき自分が犯した暴力に恐怖した。

暴力とは身体に対する直接的な攻撃のことだけを言うわけではない。精神に対する攻撃もそれはもちろん暴力だ。

それは自分が九十九にやったことそのものだ。

そう黒賀は気づいた。


自分のすることにもっと責任を持たなければならない。自分のしたことで人が動くことがある。人が傷つくことがある。奢りではない、もしかしてその可能性があるのなら、いや、その可能性があることを考えて行動するべきだとそう思った。

自分に落ち込む権利はない。

ただこれからの態度で示すしかない。

そう黒賀は誓っていた。


「それも人の話だから、絶対ではないの。だから100%信じないで。」


黒賀は山下にそう付け加えた。


「一応、九十九さんにも聞いてみたけど、いつも苦笑して話してくれない。…だから、……ごめん。」


あんな嘘を堂々と書いたくせに、『真実』は確信がないから書けない。

そんなこと山下からみれば不満があるだろう。そう思い、ついポロリと謝罪の言葉がこぼれた。


「ううん。別にいいよ。俺も九十九にはいつもかわされてるから。」

「…それで、そんなこと聞いてどうすんの?」


山下の九十九に対する激情ぶりは我が身をもってよく知っている。まさか…と思い山下に問うてみたが、彼が柔らかく微笑んだことに少しだけホッとした。


「そうだな、…ひとまず、生きてる方が辛い、と思うまで全てを壊してやりたいかな。」

「やめて下さい。」


全然、大丈夫ではなかった。


「ダメだからね。本人からの証言もなく勝手なことしたら。」

「でも九十九から喋ることはないだろうし、それにこの前そいつらに会ったとき九十九に対してひどい言葉を平気で発しててすげぇムカついた。カズナって女も『これで勝ったなんて思うな』みたいなこと九十九に言ってたし。」

「あー。まぁ九十九さんがモテてたのは事実でその男の子を好きな人もいただろうから、あながち全てが嘘とは言い切れないけど、まぁ悔しかったんだろうね。」

「何?それは九十九のせいになるって言うの?」

「う〜ん。でも九十九さんって……男の子を集める力……みたいなの…あるくない?」


チラリと黒賀は目線を九十九の方へ移す。

そこには土間、津々見、鈴木が九十九を囲っている。これで山下が輪に入ると逆ハーレムのようだ。


「……っ!…ある!」

「そうなんだよね。本人はいたって普通、いや、いっそあまりコミュニケーションが得意でないのにね。…天然タラシとでもいうのか…」

「わかる!すげーわかる!手を伸ばせば引っかかれるとわかっているのについ触ってしまいたくなる猫みたいな!そんで時々、引っかかれずに擦り寄られたりして!そしたらもう引き返せなくなる感覚!!」


あぁ…あなたはそうやってどハマりしてしまったんだね。と黒賀が少し遠い目をした。


「それにこの前さ!ちょっと聞いてよ!」


山下が九十九に対する愚痴を言い出した。内容は98%が惚気だが。


黒賀はそれをうんうんと頷き、右耳から左耳へ流しながら「数学は明日だな。」と今日の勉強を諦めたのだった。




読んでいただきありがとうございます。


最近、仕事が忙し過ぎて投稿できずすみません。

ぼちぼち頑張ります。

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