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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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土間の贖罪。〜許しの言葉〜



「土間!今回はゲームどうすんだよ。」

「…あ?……そうだな…」


土間は言葉を詰まらせた。


あれから何度もゲームを行った。

しかし、結果は惨敗だ。九十九を怒らせることなど1度も出来ていない。


ただ少しだけ。本当に嫌なときは無表情な彼女がわかりやすく顔をしかめるようになったくらいだ。

たったそれだけ。それでもそれは土間が頑張った成果だった。

そんな状況のまま2年生になった。


九十九とまた同じクラスになった。そしてゲームに参加していた数人の男子も。

だから冒頭のような言葉が出てもおかしくはなかった。しかし土間は少しだけ疲れていた。


あぁもう1ヶ月たったのか。早ぇ。次はどうするか。誰を相手にするか。俺はもう2回しているから無理だ。杉田のことはすげぇ嫌っていたな。コイツもなしだ。あとは……ああ!めんどくせぇ!誰か適任はいねぇーのかよ!


イライラしていた。

全然、怒らない九十九、馬鹿なクラスメイトへの馬鹿な返し、女子の侮蔑の視線、親の小言、成績の低下…

全部が土間を焦らせていた。そして全部、上手くできていないことに気づいていた。

イライラがさらに募る。


そんなときに女子の高い猫なで声が聞こえてきた。少しだけ勘に触る声だ。


「ねぇ。勇也。今度、勉強教えてよ。わたし数学が苦手なの。図書館とかに行ってさ!」

「俺もそんな得意じゃないよ。それにバイトもあるから。」

「えー。じゃー学校で教えてよ。」

「それなら俺よりもっと勉強できる人に聞いた方がいいよ。教え方も下手くそだし。」


イケメンが美少女のあからさまな誘いをあからさまに断っている光景に土間は眉が動いた。


そいつは少し前に転校してきた男だ。

あまりにもイケメンで女子がこぞって色めき立った。顔も良ければ、運動神経もいい、それに加えて頭もいいときた。

これはあれだ。神に愛され過ぎた男だ。

あまりにも次元が違うイケメンぶりに嫉妬する気持ちすらわかない。

そんな男と2年で同じクラスになってしまった。

美人、美少女が多いクラスなのに残念ながら全員が彼に夢中だ。

いや、夢中でない女子なら1人だけいるのだけれど。


そのとき、土間はハッと気がついた。


コイツでいいんじゃね?と。


山下の噂なら知っている。

男女関係なく人当たりが良くて、いつでも笑顔で、人の悪口や文句を言わないような男だと。

たしかに同じクラスになって彼を見ていても、大人っぽく落ち着いていて誰にでも優しい、そんな印象だ。

もし、九十九から無視されようとも置いてかれようとも彼なら余裕の微笑みで流してくれるのでは…と思った。


なので彼が1人になったときに早速ゲームに誘ってみた。ゲームの内容と罰ゲームについて大まかに話しをする。

するといつも笑顔の彼がめずらしく一瞬だけ無表情になった。しかし、そのあと少し考えるそぶりをした。

そして、


「うん、いいよ。参加しようかな。」


そう言ったのだった。


それから1ヶ月、山下は気持ちのいいほどゲームに負け続けた。小テストの点数でも、体育の授業で点数を競ったときも、細々したゲームの全てに。


いっそ、こいつ大丈夫なのか?と不安になってしまうのは仕方がないことだった。


しかし、不安などすぐに吹き飛んでしまった。


こいつ、マジすげぇ!!


罰ゲームが始まった初日から九十九をイライラとさせ、かと思えばすぐに仲良くなった。九十九が少しずつ喋るようになって表情が格段に豊かになった。そして、彼女をついに怒らせた。

半年以上かけ土間が必死にやってきたことを彼は2週間やそこらでヒョイヒョイと超えてきたのだ。


しかし、そのことにも驚いていたが、それより驚かされたのは山下自身に対してだ。


こいつ、別人じゃないよな?


そう思っても仕方がない。

ヘラヘラと九十九に話しかける姿や九十九とケンカをしたときの落ち込み方が尋常ではない。

大人っぽく落ち着いていて…と思っていたはずなのだが今現在、そう思うことは欠片もない。


そんな2人は罰ゲームの最終日近くになると本物の恋人同士のように残りの時間を大切に過ごようになった。お互いがお互いを大事に思っているのが見てわかる。

そんな2人を土間は少し眩しく思えた。



そして、その日は突然きた。


「土間くん。」

「あ?………は?」


初めて九十九から名前を呼ばれた。あまりにもあっさりと呼ばれたので反応すら出来なかった。

そして、


「私、もう罰ゲームしない。」


はっきりとした口調でそう言われた。

九十九にまっすぐ目と目を合わせられながら。


その言葉が頭に入ってくるまで本当に時間がかかった。

そして言葉を理解した瞬間、ブワリと感情が溢れてきた。鼻の奥がツンとしたので慌ててその場から逃げ出した。

廊下を途中から走って、少し離れた空き教室に慌てて入り、扉をピシャリと閉めた瞬間にポロリと涙がこぼれた。


「………は!……あいつ、やっと言いやがった!やっと!…っ!やっと!……言わせてやったぞ!……はは!………っ…っ!」


涙が溢れて嗚咽しか出ない。


「………っ…っ……遅ぇよ……」


九十九にゲームを強制参加させるようになってから半年以上。しかし、土間がそのことで悩みだしたのはあの日、花宮に九十九が襲われたと聞いたときからだ。1年半以上たつ。


何か楽しいことをしていてもどこか心から楽しめない、道を歩いていても誰かに侮蔑の目で見られているような気がしていた。

「俺は何もしてない」と自分を庇う一方で「俺のせいだ」と責める自分が常にいた。


とてもつらかった。


誰にも言えず、誰にも頼れず、ひたすら葛藤していた日々だった。

灰色の世界で独りぼっちのような気がしていた。


でもやっと言わせることが出来た。

やっとだ。


九十九が「罰ゲームをしない」と言ったとはいえ、彼女が事件前のように戻れてたのかといえば、多分それは「否」だろう。


でも、彼女の言葉が「もういいよ。」と言っているように聞こえた。

もちろんそんなのは土間の都合のいい妄想だと思う。

でも、少しは自分を許してもいいのでは。

そう心から初めて思うことができた。


土間は涙が溢れるまま泣き続けたのだった。




あれから2カ月近く経った。

最初は山下がグイグイと押し気味だったが、今ではとても均等のとれた2人に見える。


まぁただ見慣れただけなのかもしれないが。


「土間?」

「あ?何だよ。」

「だから、いいの?って聞いてんだよ。」


芹川が責めるように土間を睨む。


「はぁ?俺があいつを好きなわけねーじゃん。目ぇ腐ってんのかよ。」


はっ!と鼻で笑い、その場から離れる。


まぁこんな強がりなんて勘のいい女にはバレているんだろう。でも2人の邪魔をするつもりもないのでワザワザ肯定する意味などない。


いつから?と聞かれても答えられないだろう。

でも、多分。今までの自分の行動や考え方を振り返れば、あのときからだと思える。


俺はあの動画を見せられたときに一目惚れしてたんだろうな。と。



チラリと見ると幸せそうに笑い合っている2人が見えた。

よかった、とそう思える。



「ねぇ九十九。次のデートはどこ行こうか。九十九が行ったことのないとこがいいな。」

「行ったことがないとこ?」

「うん。九十九の初めてを全て見たい。」

「ふふ、何それ。山下くんとなら初めての場所じゃなくても初めて行ったみたいに楽しいよ。」

「へへ、」


あ、やっぱりイラッとするかも。止めに入ろう。


そう思い土間が2人を引き離そうと近づく。


「でも、九十九の初めては全部欲しい。楽しいこともつらいことも全部。ほら、俺は九十九の初めての彼氏だから。」

「………………………え?」


山下の発言に九十九は長い沈黙のあとに首を傾げた。


「………………………え!!」


九十九の反応に山下が驚愕の顔をする。


山下が初めての彼氏ではないのか!?と、土間も驚き固まってしまった。


「…………私の初めての彼氏は土間くんだけど。」


さらに九十九が驚異の発言をし、山下はサーッと顔色を悪くする。土間はさらに固まった。


「そ、そ、それは罰ゲームの話しでしょ?ちゃんとした初めての恋人は俺でしょ?」

「あ、うん。そうだね。ちゃんとした恋人は山下くんだね。」


九十九の発言に山下がホッとする。


「でも、ほら。気の合う友達同士がお試しで付き合ってみるっていうことってあるでしょ?でもやっぱり違うなって別れたりするカップル。じゃーその人のことを元彼としてカウントするかしないかといえば、カウントするでしょ?罰ゲームはどうかなって思うけど、1カ月間って結構長いし、毎回やりおえた!と思っていたから、やっぱりカウントするかなぁって思うの。うん。だからやっぱり私の初めての彼氏は土間くんだなって思う!」


九十九の斜め上の考え方に山下が反論すら出来ずに大きく口を開けて固まっている。


「……ぷ!!」


山下のあまりにも残念なアホ面に土間が耐えられず笑ってしまった。


「……ど、土間ぁ!」


怒気を孕んだ眼差しにさらに笑いがこみ上げる。


「…は!…悪いな!九十九の初めてをもらってしまって。まぁあとの残りはお前にやるから。」

「土間ぁ!!!!!」


山下に首を絞められながら前後に揺さぶられる。


「なんてことをしてくれたんだ!初めては返ってこないのに!!」

「あっはっはっはっは!!」



土間は約1年半ぶりに心から笑った。




読んでいただきありがとうございます。


結構ながくなったねー。土間くんの話。

実は土間くんは最初だけ登場する嫌な男キャラでした。でも突然、彼が頭の中で自由に動き出したのがこのお話です。

「え!何!土間くんいい子じゃん!」と一気に気に入り、それから彼がどんどん物語の中で活躍するようになりました。


私的には九十九は山下くんより土間くんの方が相性がいいと思ってます。土間くんは九十九の表情や気持ちを読むのが得意すぎて先回りして守りすぎるので九十九の成長は亀のように遅くなりますが、広い世界で生きるだけが幸せとも思わないので狭い世界で土間くんと仲良く暮らすのもありかなって思ったりもします。

皆さん的にはなしですか?


まぁ結果として山下くんより土間くんの方が好きなタイプなだけです。笑

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