表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
103/167

土間の贖罪。〜ゲームの理由〜


花宮たちとはケンカ別れのようになってしまい、そのまま会ってはいない。

顔を合わせづらい気持ちもあるし、無性にあの2人に腹が立つ気持ちもあるし、何より自分の非を認めたくない気持ちもあった。

あの駅には塾のたびに降りるが、なるべく用を素早くすませ早く立ち去るようにしていた。

もちろんあのコーヒー店には立ち寄っていない。


勉強が大詰めで必死な日々を過ごすことに土間は少しだけほっとしていた。


余計なことを考えたくない。


そうやってあの事件について逃げるように勉強に打ち込んでいた。



そして春になった。

無事に志望校に合格することが出来た。


その頃にはあの事件のことを少しだけ忘れかけており、心に余裕が出来ていた。


しかし、そんな気持ちを叩きのめされたような気持ちになったのは入学式の次の日、学校生活初日だった。

クラスで自己紹介をした時だった。


「………九十九凛花です。」


ボソリと小さく言った女子の一言に心臓がバクンとなった。


九十九凛花?………それってあの?…いやいやいや、違う!絶対違うに決まっている!あのとき見た動画の女子と違いすぎる。多分、同姓同名の別人だ。そうに決まっている!


土間は自分にそう言い聞かせ、嫌な音でなっている心臓を落ち着かせようと深呼吸をした。


今、目に映っている彼女はとにかく陰湿で根暗な印象だ。前髪も頬まで伸ばしており、話しかけるな、近寄るなと言わんばかりのオーラを放っている。


彼女を見たクラスメイトが眉をひそめ「何あの子」と話している。その中に「中学の時に色々あった子だから。」と言う声が聞こえた。


土間は頭を抱えた。


やっばりあの子なんだ。

花宮があの時に言っていた。

半年間、登校拒否していて復学したらブスになっていた。と。

つまりあの事件のせいであの子はああなったということだ。

あの画像ではとてもハキハキと自分の意思を伝えていた。あの子がだ。


ギュウと心臓が痛くなる。


あの時、自分が花宮を止めていれば彼女は『ヤマト』に襲われなかったのか。そうすれば彼女はあの動画の時のようなままだったのか。そして本当はここでしっかりとした声で挨拶していたのか。

自分が。自分のせいで。

いやいやいや。そんな訳がない。

大体、自分たちは初対面だ。俺が何をした。俺に何ができた。そうだろ。悪いのは俺じゃない。


そう土間は考えた瞬間にハッと気がついた。


それは花宮が言っていたことと同じだ。と。


「………サイテーだな。」


あのとき自分が放った言葉が自分を突き刺した。

グツグツした感情が湧き出てどうしようもできないほど焦燥感がつのる。


土間はその後の記憶が曖昧になるほど頭を抱えたまま、高校生活初日を終えた。





あれから数ヶ月が経った。

しかし、土間は九十九と1言も会話をしないまま過ごしていた。

もともと、九十九自体が言葉を発しないし、人と距離を置いているので仕方がないのもあった。

と、まぁそれは言い訳だ。


何かしなければ。でも何を?

それに九十九とは初対面だ。俺が九十九を知っていてもあっちは俺を知らない。

大体、少しでも近付くと顔をしかめ迷惑そうな顔をする。こうして距離を置いてやった方が九十九にとってはいいのでは………。


土間の考えることは毎回この繰り返しだった。

前にも後ろにも進まずズルズル時間だけが過ぎて行った。



そんな日のことだ。


「げー。明日、英単テストじゃん。土間ちょっと英単帳貸してくれ!」

「バカかよ。テメー返す気ねーだろ。」

「バレたかー。なんか、こう、やる気出ることねーの?ゲーム的な。」

「大人しく勉強しろ。」


そう言った瞬間、土間はふと考えた。


あいつ、ゲームとか賭けごととか大っ嫌いなはずだよな。怒ったらあの時みたいに喋れるようになるんじゃねぇ?少しは前みたいになるんじゃねぇ?


落ち着いてよく考えたら馬鹿な案だと気付いていたかもしれない。しかし、その時の土間はそれしか思いつかなかった。

何ヶ月も悩み、少し心が荒んでいたからなのかもしれない。

それに土間は、事件以前の九十九の姿はあの怒っている動画しか知らなかったのも大きかった。



「じゃーこれからゲームしようぜ。負けた奴は九十九に告白な!」



土間はそう言ってみた。突然、名前を出された九十九は唖然と固まっているのが見えた。


怒れ。九十九。怒れよ。


ジッと見ていると我に返った彼女は顔をしかめた後にフイと興味がなさ気に顔を晒した。


それを見た土間は「くそ、ダメか。」と心の中で舌打ちをした。


「ははは!ヒデーな土間!まじウケるわ!」

「明日、英単テストに最下位のやつが九十九に告白っつーこと?俺、少しやる気でたかも。」

「あはは!おめーもヒデーよ!」


そんな風に笑うクラスの男子に曖昧に頷きながら、土間は次のことを考えていた。


告白くらいじゃー怒んねーか。

じゃーどうやったら怒る?


志望校に必死の思いで入ったのに、まさかこんな事を考える日々になるとは思いもよらなかった。

しかし、土間が少しでも学校生活を平穏に過ごすためにはそれらは必要なことだった。



「ゲームなんだけどさ。こうしようぜ。これから1ヶ月間に色んなゲームやって総合得点が最下位のやつは九十九と1ヶ月間付き合うこと!!」


教室に大きな声でそう言う。


あの「九十九に告白」から考えに考えたゲーム内容だ。

男嫌いの九十九なら絶対に嫌なはずだ。


怒れ、それか嫌だと言え!!


土間は必死だった。

最初は勢いで言ったことだったが、さすがにここまでくると自分が馬鹿な行為をしているとわかっている。

多分、彼女を傷つけていることも。

でも止められない。

何かを彼女にしなければ、彼女はこのまま誰とも関わらないまま高校生活を終えるのだろう。

嫌われてもいい。最悪な男だと思われてもいい。

どんな感情だっていい。彼女の心が少しでも揺れればいい。

そう思った。


するとその願いが届いたように、九十九は自分に初めて近寄ってきた。

ワナワナと怒りを宿した表情で。


よし!言ってこい。

「そんなこと嫌だ」と。「絶対しない!」と。

言え!怒れ!


どのくらい九十九と目を合わせていただろう。

長い髪に隠れている目だがそれでも九十九の感情が揺れていることがわかる。


しかし、その後すぐに彼女がフルリと体を震わせた。怯えるように。

そしてそのまま顔を背け行ってしまった。


「……………。」


土間は唖然と九十九が去って行った扉を見ていた。

いけると思ったのにダメだった。


その土間の後ろで男子が「いや、脅すなよ!土間!すげー怖がってたじゃん!」と言っていた。

どうやら期待が大きくなり力み過ぎたようで、ひどく怖い顔をしていたらしい。

土間は頭を抱えた。


「それよりゲームって何すんだよ。」

「つーか九十九と付き合うってどうすんの?」

「…………あ?……あぁ。ゲーム内容は考えとくよ。」

「お前に有利なゲームばっか選ぶなよ。」

「選ばねーよ。」


だって今回の最下位は俺がするんだから。


もし、前回同様に九十九が怒らなかった場合は自分が罰ゲームをする気でいた。付き合う1ヶ月間で九十九を怒らせられれば成功だし、こんなゲームに笑いながら参加するメンバーに任せるわけにはいかないとも思っていた。


「九十九は…そうだな………送り迎えだな。」

「…はぁ?送り迎え?」

「え?何?お前、もしかして、あの九十九に何かしようと考えてたのか?」

「は、はぁ!?んなわけねーじゃん!あんな幽霊みたいな女、頼まれても手なんか出さねーよ!」

「だよな。」


牽制もした。

これはもしものためだ。もしも1ヶ月の罰ゲーム期間が過ぎてもダメだった場合の保険だ。

さすがに2回連続で罰ゲームをするわけにはいかない。その時のためだ。

しかし、そんなに悠長にするつもりはない。早く怒らせて早く解放されたかった。

まぁそう思っているのは九十九も同じだろうが。


そうして、1ヶ月のイカサマゲームを終えて、予定通り九十九の罰ゲーム恋人になった。


1ヶ月あれば余裕だと思った。

すぐに怒らせられる、と。

嫌な言葉をいっぱい吐いた。雑用を押し付けたりもした。それなのに彼女は無表情のままだった。


それに彼女は男に従順なフリをして意外と自分勝手な部分もある。

時間を決めていても好きな時間に登校しようとするし、ゲートに土間がいてもいなくても気にした風もなく歩調を変えずに進む。

何度か必死に学校前まで追いかけたことがあった。

帰りも「少し待ってろ。」と言って待ってたことなどない。その時も必死に追いかけてた。


振り回すつもりが振り回されてる。


そんな風に感じながらもどうにか彼女を怒らせることに頑張ったが、最初の罰ゲームでは無理だった。


彼女をゲートに送り届ける。

ゲート前でいつものようにペコリと頭を下げる九十九にため息が出た。


「九十九、今日で最後だから別れの言葉を言え。」

「……………?」


なぜその時、そんな風に言ったのかわからない。でも多分ゲームはこれからも続き、次の罰ゲームの相手は自分ではない。そんなときにこのまま、いつものように終わらせるのはなんだか気にくわなかった。


罰ゲームに無理矢理、参加させているのは自分たちだ。でもこの意外と自分勝手で本当は心の中で文句ばっか言ってそうな女に何か言わせてやりたかった。


「…そうだな。…『お前みたいなつまんない男、役不足だ。自分を磨いて出直してこい。さようなら。』……そう言えよ。」


罰ゲームに無理矢理、参加させたのは自分たち。でも、最後は九十九にこっぴどく振られる。

それがいいと、そう思った。


彼女は怪訝な顔をして何度か口をパクパクさせていたが、諦めたのか小さな声で言ってきた。


「あなたみたいなつまんない男、役不足よ。自分を磨いて出直してきて。さようなら。」


あまりにもお似合いの言葉だ。

九十九にも。俺にも。そう思った。


土間はフッと笑いがこみ上げた。


そういえば彼女の言葉を聞くのはいつ以来だろう。それにこんな長文は初めてな気がする。


こんな必死になった日々を送ったのに進んだのがたったこれだけだ。

それでも少しだけ土間はスッキリしていた。


仕方ねぇ。次は絶対に怒らせてやる。


そう心に誓いながら。





読んでいただきありがとうございます。


土間くんはどこまでも不器用で優しい子です。

何だかんだで九十九が土間に怒らなかった理由は彼が九十九の顔を読み過ぎて一歩引いてしまうところがあったからです。

ここで山下くんほど人の表情を読まず図々しく攻めることができたら未来は違っていたかもしれませんね。


最近、投稿が遅くてすみません。

最近めっちゃ忙しくて!涙

頑張りまーす!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ