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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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土間の贖罪。〜あの日のこと〜

土間くんのお話。


「ふふ、」


控えめな笑い声が耳に入る。

土間はその声につられて目を向けた。


そこには九十九と山下が近い距離で微笑み合っており、その周辺は誰もが足を踏み入れたくないほど空気が生ぬるい。


「ちっ!あいつらまたベタベタしやがって…!」


九十九が笑っていることをいいことに山下が遠慮なく彼女の腰を抱き徐々に引き寄せている。

土間はその光景を見て、2人を引き離しに行こうとしたが、めずらしく九十九がクスクスと笑っているのでそんな気が削げた。


最近、このクラスの女子は2人のことを諦めた節がある。2人が少しベタベタしてようとヤキモチを妬くというより、呆れた顔をよくしている。


なら少しはいいか…と土間はため息をつきつつ2人から目を晒すと、めずらしい人物と目が合った。


芹川 莉子

学年一の美少女だ。


「……………何?」


美少女に見られているなんてテンションが上がってもいいようなのにそんな気には全くなれなかった。

彼女の瞳に侮蔑の色が見えたからだ。


「……土間はさ。そのままでいいの?」

「………あ?」

「…好きなんじゃないの?」

「はぁ?何を?」

「九十九さんのこと。」

「………………。」


あまりにも突拍子もない言葉に土間は開いた口がふさがらないまま固まった。

しかし、ジワリジワリと芹川の言葉が頭の中に染み込み、自分の中でストンと落ち着いた。


あぁ、なるほどな。女は勘が鋭いな。と。




『九十九 凛花』の名前をはじめて聞いたのは中学3年になって少ししたくらいだった。


あの頃は志望校に行くために必死で勉強をしている時期で、寝ていない時間はずっと参考書とにらみ合っていた。


その日は塾がない日で、駅前のコーヒーのチェーン店で授業で習ったことの復習と明日の予習をしている時だった。


数人の団体客が入ってきて大きな声で話しており、そのおかげで集中力がプツリと切れた。


うるせーな、と思い顔を上げるとそこには見知った顔があった。


「………花宮…?」

「……あ?………あーー!土間じゃん!すげー懐かしいんだけど!!」


土間の呟いた声に華やかな顔つきの男が振り向き、パッと顔を輝かせた。


「マジ、矢彦じゃん!俺のことも覚えてるか?」

「うぉ!呉前じゃん!変わったなぁ!何?お前らまだつるんでんのかよ!」

「バーカ。俺らはそのままだっつーの。俺らを置いてった裏切り者だけハブってんだよ!」

「俺のことかよ!あはは!」


花宮と呉前は小学生時代に時々、遊んでいた幼馴染だ。土間の家は親が教育にうるさく、当時でも遊びより勉強をしなさい、とよく言われていた。そんな土間をこの2人は無理矢理、外へ連れ出してくれていた。

馬鹿な話やイタズラ、些細なことが楽しかった。2人のことを「本当にアホだな。」と思う反面、自分にはないキラキラした物を持っており、眩しい気持ちで彼らを見ていた。


小学校を卒業し、土間は親の仕事の関係で引っ越してしまい同じ中学には通えなかった。

今、思えばそんなに離れた距離ではない。

しかし、あの頃はとても遠くに感じていた距離だ。


「しっかし、まだ勉強してんだな。どこの高校行くんだよ。」

「うちの親がうるせーの知ってんだろ。入ってしまえば楽だし、今だけの辛抱だよ。」

「お前の親ってだいぶヤバイもんな。だからこんなダッセー格好してんのかよ。」

「うるせーよ。お前らみたいな格好したら帰った瞬間に勘当だわ。」


花宮や呉前は髪を染め芸能人のような髪型にセットしているし、制服をオシャレに着崩している。

もともと顔がいいのでそれらがよく似合っていた。「こいつらやっぱアホっぽいな。」と思うが、やはりキラキラして見えた。その感覚がひどく懐かしい。


「あ、そうだ!土間、お前ゲームに参加しねーか?」

「…ゲーム?」

「そ!俺が学年一モテる女を落とせるか落とさないか。仲間で賭けてんだよ。」

「はっ!馬鹿やってんなぁ!しねーよ。次いつ会うかもわかんねーのに。」

「つまんねー奴だな。まぁ見てみろよ。こいつなんだけどさ。」


そう言って花宮がケータイを取り出し、動画を流しだした。それは彼らの中学校で撮った映像のようだ。



黒髪の女子が呉前に向かって怒っている映像だった。


『何でそんなこと言うの!?誰が何してようが呉前くん達には関係ないし、そんなこと言われる筋合いないでしょ!?』

『だってキモイじゃん。』

『キモくない!呉前くんの感性だけで喋らないで!』



「…………………。」

「こいつが対象者の『九十九 凛花』つーの。俺が落とせたらおもしろくねぇ?」

「いや、これ盗撮かよ。気持ち悪りぃ!」

「別にのぞきとかじゃねーし大丈夫だろ。な、参加しろよ。1口1000円な。」

「いや、しねーよ。つーかこの女が学年一?俺、こういう気の強い女は無理だわ。」

「バーカ。性格なんてどうでもいいんだよ。ようは俺が学年一モテる女を落とせるか落とさないか、つー話だ。土間はどう思う?いけると思うだろう?」

「はいはい。じゃー落とせないに1口。」

「はぁ!?お前、俺のことなめてんのか?」


そんな会話に呉前が声を出して笑っていた。


「つーか矢彦!こいつ、こんなこと言って自信があんまなくてさ、クラスの男子にセッティング頼み込んでやがんの。」

「はぁ?別にそういうのじゃねーし。」

「いや、そーだろ。九十九と同じ係のやつに嘘のイベント仕掛けて街でデートをできるように話してんじゃん。マジにやり方が汚ねぇ!あははは!」


あまりにも低レベルな2人のやり取りに土間は頭が重くなる。


「お前らはいいよなぁ。俺も馬鹿してぇ。」

「人生楽しまなきゃ終わりだぞ。土間。」

「じゃー俺の人生すでに終わってんな。」


3人で声を出して笑った。

久しぶりに肩の力が抜けた日だった。


まさかこんな些細な会話にこれから悩まされるなんて思いもしていなかった。




あれから半年が過ぎた頃、いよいよ受験に向けてのラストスパートというように土間は勉強をしていた。

その日は学校が終わった後に塾へ行き、電車で家まで帰ろうとすると、ふと以前よく通っていたコーヒーのチェーン店が目に付いた。


甘いもん飲みてぇ……


最近、こんを詰め過ぎたようで少しだけボンヤリとする。体が引き寄せられるように店に入った。


「あれ!土間じゃん!」

「は?………花宮。呉前。」


2人は受験生とは思えないほどチャラチャラとした格好でそこにいた。いや、そう思ってしまうのは少しだけ彼らの自由さが羨ましいのだと思う。


「は!すんげー疲れてるし。大丈夫かよ。」

「あー。最近ちょっとこんを詰め過ぎた。今日は早く寝て回復させるよ。」

「マジ終わってんなー。」


くっくっと花宮が笑った。


「つーか。半年ぶりかよ。なかなか会わねーな!」

「あー。塾だけにこの駅きてるからなぁ。お前らはこんな時間まで何してんだよ。」

「ナンパ?」

「はぁ?勉強しろよ。受験生だろーが。」

「彼女もいないんじゃー勉強なんてやる気もでねぇじゃん。」

「いや、お前はいつでもやる気ねーだろ。」


3人で声を出して笑ったあと、ふと半年前のことがよぎった。


「…あ、……そういえばアレどうなった?……あのゲーム。学年一の女っていう…。」

「あぁ。あれな。その女がどん底に堕ちちまって中止になった。」

「…………………は?」


花宮は大袈裟に肩をすくめるが、土間は言葉の意味がわからず怪訝な顔をした。


「その女さ、例の『ヤマト』に襲われたんだよ。そっから半年くらい登校拒否してて最近になって復学したんだけどさ、クソブスになってんの!ないわー。アレと恋人はないわぁー。」

「……『ヤマト』って…あの?…」

「そう!あの『ヤマト』。俺もはじめて会ったけど意外と背は低めだったよ。でもオーラがヤベェ!マジ体がジュンとした。」


土間は怪訝な顔のまま口をポカンと開けてしまった。


『ヤマト』という名前は聞いた事がある。

ここ最近、この辺りに出没する中学生だ。

とにかく素行が悪く、会ったら逃げろと学校の先生すら言ってくるほどだ。

土間の中学の生徒も数人が被害にあっており、痛々しい怪我をしている生徒もいる。誰もがその時の話をあまりしたがらない。


そんな中で土間はふと花宮の言葉に引っかかた。


「お前も会ったって、もしかしてその子が襲われた時に一緒にいたのか?」

「ほら、矢彦。前に言ってたじゃん。セッティングデートの日だよ。」

「…はぁ?…お前…その女を騙して街に連れ出したのに…何で一緒に逃げなかったんだよ。」


土間は自分の中で何かがグツグツとこみ上げてきて、気分が悪くなってきていた。

そのせいなのか口から出てくる言葉がキツく響く。


「いや、あいつら完璧に九十九を捕まえてたし、2人で逃げれるような状況じゃなかったし、逃げなきゃ俺が殺されてんじゃん。」

「………だからって………っ!」


それ以上の言葉が出なかった。


「土間だってあの場にいたら絶対、逃げてたし。てか、俺が悪いんじゃないだろ?悪いのは『ヤマト』だし。」


そうだ。悪いのは『ヤマト』だ。

でも、死に物狂いで2人で暴れたらその場から逃げれていたのではないのか。

いや、その前に、その日花宮がその子を街に誘わなければ、襲われることはなかったのではないのか。

そもそも馬鹿なゲームをはじめたのが悪いのではないのか。


たしかに、悪いのは『ヤマト』だ。

でも、本当に花宮に非はないのか。


自分は悪くないと言い切り、彼女を誹謗する花宮に土間の心がサッと冷めるのがわかる。

今まで彼の何がキラキラして見えていたのかわからなくなった。


「………サイテーだな。」


そう呟いた土間に花宮が眉をひそめた。


「その場にいない奴は何とでも言えるよな。大体ゲームの話をしてる時、お前もゲラゲラ笑ってたじゃん。人のことどうこう言えんのかよ。」


そう言われた土間は言葉を詰まらせた。


たしかにそうだ、と。


自分はあの時、ゲームを軽く捉えていた。

「またバカをやってんなぁ」と。

あの時に強く止めておけばもしかしてそんな事件は起きなかったのではないか。

花宮たちの話を軽く流してしまったのは自分の非ではないのか。

花宮の非を問うのならば自分の非も問わなければならないのではないか。


土間は背中に冷たいものが流れるのだった。




読んでいただきありがとうございます。


実は本当は鈴木さまのお話を書く予定でした。

でも鈴木さまが全く動いてくれず、諦めて土間くんへチェンジです!

本当は全部の話が完結してから書く予定だった話ですが仕方ないです。

ってか土間くんの名前すら覚えてなくて読み返しました。笑

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