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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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学校にたどり着かない。

初めて、小説を書きます。

本当に下手くそです。



バシッ!


殴られた頬の激痛に声が出ず、ただただ息を止めて歯を食いしばることしかできない。


そんな彼女を見下ろしている男達は大声で笑っている。

「ひでー!ヤマト!」

「そうだよ。女の子を殴ってはいけません!」

「あははは!」


そんな声が遠くから聞こえる。

まるで観てもいないテレビの音のような、脳に届かない声。



「なあ、お前マジで話、聞いてんの?」


その声だけは、彼の声だけは、耳元で囁かれたように脳に届く。

なぜだろう。彼はマスクをしており、声もけして張り上げているわけではない。

しかし、彼女の耳に、脳に、届く。


恐怖で吐く息が震える。

いや、全身が震えている。


彼の手が伸びてくる。

それを目にした彼女の心臓はひときわ大きな音をたてた。






「………っ!」







声が出ない叫びをあげ、目が覚める。


自分の部屋の天井。

自分の部屋の机。棚。壁に掛けてある制服。


目だけを動かし今の場所を確認した彼女は、止めていた息をゆっくり吐き出す。


ドクドクと大きな音で鳴る心臓は、今の状況を理解し、少しずつ落ち着きだした。


(………またあの夢を見てしまった。昨日の夜、悶々としながら寝たせいだ……)


ゆっくり体を起こす。


本日、とても嫌な行事がある事を思い出し、動きが緩慢になる。


(……学校休みたい…)


その言葉を何十回、心の中で呟いただろう。


(…いやいや、今日行かなくても、明日に伸びるだけ。伸びたら伸びた分ヒドくなる。)


そう、言い聞かせるのも同じ数だけ。


そうして同じ言葉を繰り返し続け、何千回となった頃、やっと学校にたどり着いた。


綱渡りをしているかのような感覚で、というか歩幅で、校門を抜け校舎へと続く道を進む。


視界には目を隠すように伸ばした前髪と自分の足元しか映さない。




「おはよう。九十九さん」




別の世界にいた心が、現実の世界に戻るような感覚がした。顔を上げてしまったのは反射に近い。


前髪の間から、爽やかに微笑む青年と目が合う。


(……げ。)


ゆっくり頷くことで目をそらし、朝の挨拶の変わりとする。

彼はその反応だけで満足したのか、フ、と微笑んだように空気を和らげる。


横に並んだ彼の側を離れたい為、緩慢だった歩行をさらにゆっくりすると、少し距離が開きホッとする。


「おはよー山下くん!」


彼女の、九十九の後ろから高い声がし、そのまま存在が見えないかのように、女の子が九十九を追い越す。


「おはよう。」


彼は、先程見せていた微笑みで女の子に答える。


「ねぇ、昨日ドラマ見た?」

「バイト。バイト。」


九十九は目の前の青春ドラマのような光景に目を細め、そして逸らし、再度、盗み見るように彼に視線をやる。


彼の名前は、山下 勇也。

半年前、高校1年の終わりに転校してきた。


つり目がちの目は優しい笑顔のおかげか、キツイ印象がまったくない。むしろ人を惹きつける魅力を持つ。鼻梁がスッと通っており、その下の唇は薄く、いつも微笑んでいる印象だ。

背は180㎝くらいか、平均身長の女子はいつも彼の顔を覗き込むように見上げている。

細身ながらも均等の取れた体は、制服が彼のものだけ特注で作ったかのように見せる。

癖のある明るめの髪がフワフワと風で揺れ、彼の爽やかさを際立たせる。


要はイケメンだ。


転校当初はクラスの女子が、いや、ほぼ全女子生徒が浮き足立った。2クラス離れていた九十九も、彼の噂を聞かない日はなかった。

「かっこいい」「優しい」「声かけてみた」「あの子が告白したらしい」「バイトしてるって。行ってみたい」

いつもより高くなった声を弾ませ、キャーキャーと騒ぐ女子を横目に、このまま彼とは一言も交わさず卒業を迎えることを祈った。


そんな彼は活発で壁を作らない性格なのか、自分のクラス以外の人ともよく話し、友達を作る。

九十九のクラスにもしょっ中、顔を見せ、男女関わりなく話をし笑っている様子が見られた。

そんな時、九十九は決まって、寝たフリか、本を読むフリ、トイレに立つなどし、存在に気づかれないようにした。


彼のようなタイプは面倒くさい。

根暗な自分に同情して、声をかけてきたり、仲間に入れようとしてきたりする偽善タイプに違いない。と、九十九は判断していた。


2年になり、同じクラスになった九十九に、ほぼ毎日笑顔で挨拶をしてくる彼に対し、あながち間違えた判断ではないと感じていた。


(…本当にやめてほしい。)


他の生徒に次々と挨拶をされ、笑顔で応える彼から目を逸らし、そう深く祈る。


(…どんなに爽やかで優し気でも、所詮、男は男。女なんか下僕くらいにか思ってない。良くてペット。最終的に思い通りにならないなら暴言、暴力を振るうんだ。)


2年前から九十九の男性に対する評価は変わらない。


(男は絶滅しろ。)


ついに、動けなくなった足元を凝視した。



「よう。つくもぉ〜!」



今、1番聞きたくない声が、自分のすぐ近くから聞こえて、九十九は体をビクリと震わせる。


「ちゃんと逃げず来てエライじゃん。HR始まる前に発表するからよ。早く行くぞ。」


ニヤニヤと九十九の顔を覗き込むように見てくる彼は、同じクラスの土間 矢彦だ。


体がゾワゾワと身の毛がよだち、すぐさま九十九は土間から距離を取る。

その姿に土間はス、と冷たく一瞥をして去って行く。



(……男、絶滅しろおぉおぉぉー!)


九十九の祈りは誰にも届かない。


読んでくださってありがとうございます。

あまり進展もせずすいません。

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