老人とイタチ
突然、がさがさっと何かを踏み分けるような音がした。音のする方を見ると、山吹色の体毛を持つ動物が竹林から飛び出してきた。
見れば、体長30センチほどのイタチである。
イタチは、竹林から広場の中程までゆっくりと歩み寄ると、つぶらな瞳で老人を見つめた。
「なんだ?このきゅうりが欲しいのかい?」
老人は、食い掛けのきゅうりをイタチの方に差し出してみた。
しかし、イタチはきゅうりには興味がないらしく、しばらく老人を見つめてから、元の竹林に戻って行ってしまった。
老人は疲れた体に鞭打って立ち上がると、イタチを追いかけて竹林に分け入ることにした。
先ほどのカラスと同様に、何か自分を案内するかの様に思えたからだ。
イタチを追って、竹林を進んで行く老人。人が通ることもないからか、蜘蛛の巣が張っている箇所もあり、杖で払いながら進む。
10分ほど歩いただろうか、いつしか竹林を抜け、開けた場所に出ていた。
雑草の生い茂る草原のような場所で、草原の先にはそそり立つ崖が見える。崖にはぽっかりとした穴が開いており、洞窟の入り口のように見える。
老人はイタチを見失ってしまった。草原に潜んでいるのか、はたまた、洞窟の中に入っていったのかも知れない。
洞窟の入り口は縦横1メートルぐらい。入口から中を覗くと、中は真っ暗で、照らすものが無ければ進むことは困難だろうと思われた。
どうしようかと、老人は洞窟の入り口近くに腰を降ろして、これからのことを考えた。日も落ちてきて、辺りは薄暗くなっている。今日は最悪、野宿になるかもしれない。
何の気なしにズボンのポケットをまさぐっていたら、手に感触があり、取り出してみるとマッチ箱だった。先日、近所の喫茶店で貰った店名入りのマッチ箱だ。
これで暖でも取ろうかと考えて、すぐにばかばかしくなって止めた。マッチ売りの少女じゃあるまいし、暖まる前にすぐに消えてしまうだろう。
腹も減ってきたので、買い物袋から食べかけのきゅうりとトマトを取り出して食べる。塩でもあればなぁと愚痴りつつも、きゅうりは喉の渇きを潤してくれるし、トマトの酸味が疲れた脳と体に活力を与えてくれた。
食事を終えて、空になった買い物袋を折りたたんでズボンのポケットに突っ込むと、杖を使って、よっこらしょっと立ち上がる。
草原と竹林を眺め、来た道を戻ろうかと考えるも、せっかく昇った階段のことを思い出した。戻るにしたって、一度、この洞窟を調べてからの方が良いだろう。
喫茶店のマッチ箱を確認してみると、全部で10本のマッチ棒が入っていた。これを使えば、洞窟の中を照らすことができそうだ。
老人は意を決して、洞窟の中に入ることにした。




