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7話

剣盾やりたいなぁ

 思わぬ言葉に吹き出してしまい、唾が思いっきりビリーにかかってしまった。

 

「あ、ご、ごめんなさい! 今拭きます……!」

「……いや、いい」


 ビリーは額に微かに青筋を立てているが、一つ大きく息を吐いたら落ち着いたようだ。

 申し訳無いとは思うが、正直私の反応は許されても良いと思う。

 初対面。そう、初対面だ。

 初対面の相手にいきなり求婚されて驚かない人がいるだろうか普通。

 いいやいない。そう断言できる。

 まさかこれは、一目惚れ、というやつなのか?

 マジか……。こんなこと実際に起きる物なんだな。

 私が佳奈と初めて会ったときはそういう気持ちを抱かなかった気がする。

 むしろにらみ合ってた気がする。

 それがいつの間にか恋人にまで発展したのだから、恋愛とはかくも不可思議だ。

 ビリーの表情を見る限り、私に好いた惚れたという感情は窺えない。

 なら何故。

 

「あ、あの、さっきのお話なんですが、私にはすでに許嫁がいるので、その……」


 まださっきの興奮が抜けきっておらず、言葉が途中途中で突っかかってしまう。

 まあ、例えアルテッドがいなかったとしても、この申し出は受けなかっただろうが。

 だが正直に言って、あまり不快感は無い。

 見た目だけなら美少年。そんな子に求婚されたとなれば、嫌な気もしない……。

 ……いや、アウトじゃねこれ?

 これ、内情を知るものからすれば『TS転生した男子高校生15歳(+エミリーの年齢8歳=精神年齢23歳)がショタに求婚されて喜んでいる』と取れるだろう。まあ実際その通りなんだが。

 アウトだなこれ。事案待ったなし。大炎上不可避。

 だめだ、私気持ち悪すぎでは?

 一旦脳を落ち着けよう。

 私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女。

 よし、自己暗示完了。

 私は8歳の女の子だ。異論は認めん。

 

「ならその許嫁とは袂をきって俺の元に来れば良いだろう」


 再び核弾頭級の発言投下。

 なんでこいつ清々しい顔でとんでもないことさらっと言えるんだ!

 チラッとアルテッドの顔を横目にすると、アルテッドはどうすればいいのかわからずにおろおろとしていた。

 アルテッドからの助けは期待できそうに無い。ならばこの状況、私一人でなんとか切り抜けねばならないようだ。

 

「そ、そう言われましても……。私の一存ではそのような重大ごとを決めれないというか……」

「なら、今日の夜にでもお前の父にでもかけあってみてくれ。お前が結婚するのはバートリー家の長男らしいな。聞けば、そいつはついこの間まで病床に伏せていたと聞くが、そいつがもう病にかからないと断言できるか? 出来ないだろう? ならば、ブランド家に利益が見込めるのは我が一族だ」


 う……。まずい、何一つ反論できない。

 アルテッド自身の話はともかく、家に利益が出るという話なら間違いなくロンド家の方が上だ。

 ど、どうすればいいのだ。ここで感情的に何か言っても全て論破されるだろうし、かといって頷くことも出来ない。

 選択肢を、選択肢を増やすのだエミリー・ブランド!

 Yes or No

 頷くか逃げるか。

 ……よし、逃げよう。

 今すぐここから逃げるのが賢明だ。

 

「父上から、嫁ぐならブランド家が良いと言われてな。俺は家の格式を上げるのが一番だと思っていたが、思ったよりお前が美しかった。だから求婚した、と言えば納得してくれるか?」

「⁉ ぁ、ぁぅ、ぅぅぅぅ……」


 あ~ヤバいヤバいヤバい。

 このままでは堕とされてしまう。

 頬が紅潮するのを止められない。

 私チョロすぎでは? いや、この男、羞恥心もブレーキも無しにズンズン進んでくるからこちらが後退する暇が無いのだ。

 ヒィン。マズイ。なにがマズイのかよくわからないが、とにかくマズイ。

 一刻も早くここから逃げなければ……!


「バートリー家は公爵家ではあるが、民のために金を使いすぎて、常に赤字らしいからな。そんな馬鹿の家に嫁いでもなんら利益がない。自分の家のためにも賢明な選択をするんだな」


 ビリーは相変わらず冷たい表情のまま、淡々と告げてくる。

 ただ、その言い方が何故か酷くかんに障った。

 バートリー家の行いは平民には賞賛されるだろう。だが、貴族としては半分正解で半分間違いとも言える。

 それでも、確かに善と言える行いをしている人達に対して、その言いぐさは許せなかった。

 私は机を少し強めに叩き、ビリーを睨みながら立ち上がった。


「私の友達の家を、そんな風に言わないでください!」


 視線の高さが同じくらいになり、ビリーの顔がより見えるようになった。

 ビリーは少し驚いた様な顔をしており、少し身を引いている。

 周りの生徒も、私が急に大きな声を出したせいで、クラス中の視線が私に集中してきた。

 

「…………」


 つい勢い任せで言ってしまったが、これは公爵家の娘としては少々はしたない行為だったのではと思い、再び羞恥で顔が熱くなり、背中に冷やさせが大量に発生するのを感じた。


「あ、あの……。え、と……。し、失礼します!」


 私は周りの好奇の視線に耐えきれなくなり、未だ私の周りを囲んでいた生徒を押しのけるようにして出入り口へとかけていった。

 そこで、先程からまったく位置が変わってないアルテッドを見つけ、私は「ちょっと来て!」と言いながらアルテッドの袖を引っ張り、教室を後にした。





 △▼△▼△▼





「え、エミリー? 大丈夫?」


 だだっ広い中庭に出て、誰にも見つからないように適当に薔薇園を抜けて、大きな木の木陰に私達は腰を下ろしていた。

 あいにく、今日は入学儀式しか行事が無く、あのまま下校の流れだったので、抜け出しても問題は無いのだ。

 木の幹を背に、私は膝を丸め顔を見られないように蹲っていた。

 それをアルテッドが心配してくれているのだが、無理矢理連れてきた手前、何とも言えない空気がこの場に流れている。

 

「あの、さっきは僕の代わりに怒ってくれて、ありがとう。ホントは僕が怒んなきゃいけなかったんだけど、エミリーが言ってくれたからちょっとスカッとしたよ」

「うん……」


 声が強張って、簡単な相づちしか打てなかった。

 今の自分の感情がわからない。

 羞恥、怒り、後悔、困惑。

 色々な感情がせめぎ合って必死に出口を探している。

 こういうとき、どうすれば良いだろう。

 琉生ならこういうとき、好きな音楽を聴いたり、気晴らしにゲームで弱い敵を倒しまくるとか、そうやって発散させてきた。

 でも、エミリーになって、それをしたら大丈夫になるのかと言われれば、無理と答えるだろう。

 ならば、エミリーの発散方法は何かというと、


「……頭撫でて」

「え?」

「……私がいいって言うまで、頭撫でて」


 アルテッドは意表を突かれた様な表情を作ったが、すぐに親しみに満ちた微少を浮かべてくれた。


「なんだ、エミリーにも可愛いとこあるじゃん」

「……私って可愛くないの?」

「ううん。可愛いよ。今まで見てきた女の子の中で一番」


 そう言って、アルテッドは優しく私の頭をなで始めてくれた。

 髪をグシャグシャにしないように、そっとなでてくれてる。

 目を瞑り、息を吐く。

 それだけで、いっぱいいっぱいだった感情が、溶けていくのを感じた。

 

「……ありがとね。エミリー」

「……ん。どういたしまして」


 私達はそれからしばらくこのままだった。

 

 好きじゃ無い。

 互いに好きな人が別にいる。

 でも、まあ。






 異性として見るぶんには、良いかもしれない。

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