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5話

軽いスランプ状態。このままじゃまずい……。

「私達はあっちで話しているから、二人は子供部屋で遊んでいなさい」

「解りました、お父様」


 父は、バートリー当主を応接室に招き入れ、私とお婿さんを子供部屋まで送ってくれた。

 パタン、と戸が閉められる。

 改めて、彼の顔を観察する。

 さっきは距離があったから完全に全体図を捉え切れたわけじゃないが、やはり少年というよりは少女という出立ちだ。

 触れたら散ってしまいそうな儚さが、その少年から感じられた。

 銃弾一発くらいなら耐えられるんじゃないか、という私とは違う美しさだった。

 その少年も、私を見ている。

 その瞳の奥には、明らかに私に対する警戒心が宿っていた。

 恐らく、私も同じ目をしているだろう。

 まあ、そりゃお互い別に好きな人がいればこうなるだろうな……。


「……お名前は?」

「アルテッド・バートリー……」

「そう。私はエミリー・ブランド。エミリーでいいよ」


 先に痺れを切らしたのは私だったが、もう会話が途切れた。

 まずいな。このままでは、結婚したとして、すぐに仲違いしそうな気がするぞ。

 玩具で遊んでくれないかとも思ったが、どうやら玩具には興味がないらしい。

 なんとかしなければ。だがどうやって?

 ウンウンと悩んでいると、今度はアルテッドが口を開いた。


「……好きな御本とか、ある?」

「え……。えっと、『イルフィスボーラ竜皇帝の軍略』……」


 口に出した瞬間、しくじったと思った。

 この本は、ボーラという神代の時に存在した帝国の皇帝が、神々を相手取った歴史書を小説にした物だ。

 なのだが、本書にはかなり残虐なシーンや、過度な性的虐待が含まれていたりするので、子供には絶対に受けない本となっているのだ。

 私とほぼ同年齢に見えるが、まさか知っていたりはしないよな?

 もし知ってたら、更に関係が悪化すること間違い無しだ。

 なんとか誤魔化さなければ……。

 そう思ってたら、アルテッドは少し驚いた顔から、嬉しそうな顔になった。

 それはそう。ラノベオタが共通の話題を見つけたときにするような表情で――


「ホント⁉ 僕もその本大好きなんだ! でも、こんな生々しい本読んでる同年齢の子がいるわけないと思ってたけど……まさか知ってる人がいるなんて!」

「えマジで知ってるの? あのカルフラ補佐官が殺されてた描写とかめっちゃよくない?」

「わかる! 設定的に絶対生き残るって思ってたのに、死んだのは読んでてビックリした!」

「それな! 実際に起きた事なんだから死んだとしても可笑しくないんだけど、あんな重要なキャラが死んだのは意外だった! 案の定次の章で重要な役だったことがわかったし……。あとフルフ神の討伐シーン! あれは読んでる手が止まんなかった!」

「うんうん! 僕、ホントはああいう本は好きじゃ無いんだけど、あれは伏線がいっぱいあったから、全然気になんなかったし」

「あー、やっぱそうだよね。じゃあさじゃあさ! 『フランテルの花』は?」

「あ、好き! 恋愛系で一番好きかもしれない!」

「だよね! あれはホント傑作! 途中主人公とヒロインの関係が泥沼化したときは萎えたんだけど、告白シーンのアレ! 私じゃあんな台詞思いつかない! それから――」


 

 …………………。


 ………………。


 ……………。



 数時間が経過した。

 それから私達は、限界オタクのままに延々と自分の推しについて話し合った。そりゃもう早口で。

 もはや最初の険悪な雰囲気はとうに消え去ってしまい、今ではオタク談義が出来る親友みたいな物になっていた。

 ヤバい、オタク談義をするの八年ぶりくらいだから、ついつい熱くなってしまった。

 アルテッドの目も、好意的なものになっている。

 次は何を話そうか。

 そう頭の中で考えて、つい。

 口にしてしまった。


「好きな人、いるんでしょ?」


 アルテッドは、一瞬驚いた表情になり、困ったように苦笑した。


「うん。僕は、別に好きな人がいるんだ。でも、多分もう会えないと思う」


 ああ。私と君は、どこまでも似ているね。

 佳奈のこと、きっぱりと忘れられてたら、君と結婚するのも、悪くないと思ってたけど。

 やっぱり、忘れられないよ。


「私も。おそろいだね」


 もっと、別な方法で君と出会いたかったよ。

 そうしたら、多分互いに幸せだった。

 




 △▼△▼△▼





「それでは、私達はここで」

「ええ。またいらしてください」


 夕時ごろ、バートリー当主とアルテッドが帰り支度を済ませ、玄関で父とバートリー当主が話をしていた。

 私も、父の隣でボンヤリとその話を聞いていると、アルテッドが私の肩をつついてきた。


「なに?」

「エミリーも、学院に行くの?」

「うん、行くよ。私も八歳になったからね」


 学院とは、まあいわゆる学校だ。

 国が建設費や土地代を負担して、学問を学ぶ場だ。

 八歳になった少年少女が通うのだが、実際に通うのはほとんどが貴族の子だ。

 理由は簡単で、お金がすごいかかるから。

 入学費だけでも馬鹿にならないのに、そこから教科書代、教育費、もろもろを平民に払えるわけが無かった。

 例外は、大商人の家系。

 大商人ともなると、公爵家には劣るが、男爵家くらいの財産がある。

 だから、必ずしも貴族だけが通うものでは無いのだが、正直いない可能性の方が高い。

 まあ、私にはあまり関係は無いが。


「入学儀式は来週だったよね?」

「そうだよ。もし同じクラスになったら、ヨロシクね」

「うん、よろしく」




 そう言って、アルテッドは帰って行った。

 小さくなっていく馬車を眺めながら、私はふと思う。


 アルテッドが佳奈だったらよかったのに、と。

 だが、佳奈は恋愛系が大好きで、あんな殺伐とした本は好きじゃなかった。

 結局、私の独りよがりだ。

 私は自室に戻り、『フランテルの花』を最初から読み直した。


カレカノを書くときは髭男のPretnderを聞きながら作業してます。


ブックマーク、ポイントよろしくお願いします。

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