2話
やっぱ新作は序盤書きやすいですね。
友人が小説始めました。見てあげてください。
あと比護くん。
投稿遅れたことに関してはオニイサンユルサナイヨ。
作者名:比護 隆太
作品名:ハイスクール×マギア
「さ、て……」
あの後、父がいる書庫に赴き、軽く世間話をした後に、ようやく一人の時間が訪れた。
現在俺がいるのはエミリーの自室。
まあ広い。
俺の、生前の俺の家のリビング並みに広い。
そんなんだから、ベッドなんて俺の部屋くらい、いやいっそ俺の部屋よりデカイ。
――なんでこんなにでかいんだ。巨人じゃあるまいし……。
まあいい。今やることは情報の整理だ。
まず、エミリーとしての情報。
エミリー・ブランド。今日で八歳の少女。公爵家の一人娘。
銀髪碧眼の、まあかなり美少女だ。
……異世界の貴族ってなんでこうも美形で産まれるんだ。顔面偏差値絶対高い。
髪の長さは腰ほど、それを普段はポニーテールにしている。
性格は甘えん坊で活発。使用人達の目をかいくぐり、屋敷の中でかくれんぼをするのが趣味。
好きなモノはパンケーキ。嫌いな物は毛虫。
許嫁がいる。
上記に関してはそのお相手とまだ会えてないのでこれしかわからない。
エミリーとしての情報はまあこんなとこだろう。
次はこの世界。
スキル、魔物、魔法、エルフ、ドワーフ、ケモ耳、いっっっっっっさい無し。
ごく普通の世界だ。
……ごく普通の世界って何だ。異世界小説読みすぎて、普通がどの範囲かわからない。
まあ、地球のようなものだろう。
かといって地球かと問われれば、違う。
エミリーが歴史書を読みあさってみた時期があったようだが、少なくとも俺が聞いたこともないような神話とか国の名前があったり。
まあ、正直つまらないと思った。
異世界転生。
生前飽きるほど読んだジャンルがまさに再現されたのだ。
まあ、普通は思うよね。
『よっしゃ! チート使って俺TUEEEEEEしてやろ!』と。
俺もしたかったよ。すさまじい威力の魔法撃って、格下に『お前と俺では元々の力量が違うのだ』とか言いたかったよ。
まさか、TS転生だったばかりか、魔法すらないとか。
神様俺に厳しい。
次、なんで今“俺”の意識が戻った?
転生系は赤子の時から生前の意識があったような気がしたが。
……いや、おかしいなこれ。なんで赤子の時から自由思考できんねん。
おかしいだろ。だったらこの世の赤子皆前世の記憶持ってて、母と父がイチャイチャしてるの見て『ケッ! お前等絶対弟か妹作る気でいるだろう!』とか思ってんのか?
怖いわ。普通に。赤ちゃんに対してこれからどんな顔で抱けばいいんだよ。
まあ、かく言う俺はいきなり前世の記憶が蘇った。
……という訳ではない。
実は“俺”としての記憶は、一年前から微妙に戻りつつあったのだ。
そのたびエミリーは『こんなことあったかなー?』と思ったのだ。
そしてそれを繰り返し、羽上琉生が戻ってきた。
だが、エミリー・ブランドが消えた訳では無い。
そう。俺はエミリー・ブランドであり、私は羽上琉生だ。
二人の人格が混じっていて、気を抜けば一人称が私に戻りそうだし、口調も柔らかくなりそうだ。
それから、嗜好も女性のままだ。
つまり、恋愛対象は女より男、である。
………………。
「地獄……っ!」
少なくとも羽上琉生がいるわけだから、男性を恋愛対象として見るのはこう、きつい。
女性として男性と結婚したいと思っているエミリー。そして、男と結婚なんて死んでもごめんでござる! という羽上琉生。
男と結婚することに忌避感を抱きながら、結婚という二文字にあこがれを抱く。
つまるところ、俺はとんでもなく半端者だった。
いや、いっそあのまま羽上琉生は死んだ方がよかったのかもしれない。
エミリーに取り付いた亡霊。エミリーの幸せを壊そうとする悪魔。
今の“俺”はそんな人物だ。
――それに。
俺の心は、酷い虚無感に襲われている。
俺は死に、エミリーとして転生した。
……なら佳奈は?
佳奈も転生したのか?
この世界にいるのか?
そもそも、佳奈は本当に死んだのか?
どちらにしろ、もう会えない可能性の方がずっと高い。
「――ぅ、ぅうぇ…………」
放課後、稲森と別れたあとに、内緒で二人で下校した。
恋人つなぎをして、照れくさくって、笑い合った。
明日、化学の小テストの問題を、佳奈の家で教えると約束した。
子供を助けようとする佳奈の優しさが愛おしかった。
降りかかる鉄骨から、佳奈を助けたかった。
「……うぅぅ………」
初めて佳奈と会った日を思い出す。
小学一年生の頃、入学した時、隣が彼女だった。
最初は話そうともしなかった。それはきっと彼女も同じだっただろう。
佳奈が俺の冗談で笑ってくれた日を思い出す。
その笑顔を見たとき、嬉しかった。
何故か、その笑顔はひどく美しく見えた。
二月に、佳奈からバレンタインのチョコをもらった。
その時、恋と言うモノを知った。
気づけば、彼女を目で追っていた。
「ひぐ、ぅあぁぁあ……」
中学一年の冬。
佳奈が、俺のことが好きだと言ってくれた。
俺も好きだと言った。
それでも、まだ告白する勇気は無かった。
中学二年の秋。
佳奈に改めて告白した。
佳奈は満面の笑みで、ハグしてくれた。
体そのものが心臓になったのではと思うくらい、ドキッとした。
中学三年の夏。
何度目かのデートで、互いにプレゼントを贈った。
俺はネックレスを、佳奈からは手編みの靴下をもらった。
靴下に穴を開けないように、体育のある日には履かないことにした。
高校一年の春。
同じ学校に進めたことを喜び合った。
俺の部屋で、合格祝いの、ちょっとしたパーティーをした。
その時初めて、キスをした。
互いに顔真っ赤で、いつ顔を離したらいいのかわからなくて、しばらく唇をあわせたままだった。
恥ずかしくてはやく口を離したかった。嬉しくてずっとしていたいと思った。
「ふぐ――。ぅうあぁあぁああ――…………」
互いに奥手だったから、キスはその一回のみ。
情けない。
どうせ死ぬんだったら、あの時襲っておけばよかった。
二年間付き合っていたのに、童貞のまま死亡。
なんだ。結局俺は、異世界主人公とそう変わらないじゃないか。
十五歳、童貞、彼女あり。
新しいジャンルだな。あんま面白くなさそうだけど。
佳奈との逢瀬を思い出す。
初デートは、失敗したけど楽しかった。
喧嘩は一回もしたことがなかった。
毎晩電話して、休日には十時間話したこともあった。
幸せだった。
幸せなんだ。
佳奈が隣に居る世界が好きだった。
いない
もういない
あえない
こえが
きけない
プツリッ
「ああぁあぁああぁあああああああアアアアアアアアあアァあぁぁあ‼ ひっ、ひっぐ。ぃあああああああああああああぁあああああああ‼
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」
ああ
どうか
夢なら覚めてくれ
夢のままでいたくない
そんな✖✖の想いは。
泡沫のように揺蕩うのみだった。
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